第165話 爆弾処理
10月11日 午後11時。
赤坂のJIA事務所で二階堂と向かい合っている。G63に積んである爆弾が爆発するまでに12時間あるので、どこに仕掛けるかを話し合う。
ソウル特別市鐘路区(しょうろく)の『青瓦台』とソウル市特別区瑞草区(ずいそうく)にある、韓国の諜報組織である『国家情報院』、釜山の海軍基地。候補は沢山出る。日本の韓国大使館にも一つ返したいが、4個が同時に爆発するので難しい。都市部で一般人を巻き添えにするのも忍びないという事になり軍艦を狙う事になった。NSAからの情報をCIA経由で来るのを待つ。1時間後、衛星写真と共にデータが届いた。釜山港周辺にイージス艦を含む6隻の軍艦が認められた。明日の朝10時にも再度届くことになった。
松濤の家に帰る。娘達は起きていた。俺の部屋に来て、一緒に風呂に入り俺のベッドで寝る。今日は特別だ。
10月12日 朝8時に目が覚める。娘達を自分の寝室に追い出しリビングに降りる。パオをケージから出して一緒に庭に出る。庭の隅に走って行き、植え込みにオシッコを掛ける。いつも同じ場所にしているのだろう。その部分の植え込みだけが茶色に枯れかかっている。フリスビーでしばらく遊んでいると幸恵が声を掛けて来る。朝食をしっかりと食べる。
午前10時。飛行服を持って、爆弾を積んだままのG63でJIAの事務所に行く。すぐにCIAからの情報が入って来る。釜山港近くの軍艦の動きは殆どない。東京から西に約1400キロだ。荷物を抱えて行くので余裕をもって行く。ケースを2個ずつに縛り、両手で持って行けるようにして飛び上がる。高度5000メートルで休みなしで飛ぶ。10時50分、韓国沿岸部が見えて来る。ケースを片手に抱えてGPSをチェックする。少し南下だ。高度を1000メートルまで下げる。5分程で衛星写真の地形が見つかり、軍艦が見えた。左腕のオメガを見る。10時58分だ。更に高度を500メートル程に下げてケースを4つにばらして落とした。4隻の軍艦へと念力で導く。ケースの一つが甲板で弾んだ瞬間に爆発した。他の3つも後を追うように爆発する。高度を1000メートルに上げて様子を見守る。2隻はイージズ装備の船だ。沈まなくてもレーダー装備は使い物にならないだろう。炎上していてよく見えないので飽きて来た。
ここからだと那覇まで1000キロしかない。美香に会いに行こう。
15分後に那覇漁港の売店の裏に着地した。 飛行服の上を脱いで売店に入る。美香は観光客にお釣りを渡している所だった。
「美香・・・元気か?」
「トオルさん! 久しぶり!」
抱き着いて来る。
「また、お腹空いてる?」
「腹ペコだ」
昼休みになり88ステーキに行き、1ポンドステーキを腹に収める。
「お父さん、漁の調子はどうだ?」
「調子いい。前の倍以上の水揚げ」
「良かったな。オバアの家に行ってていいか?」
「私も2時に上がる。せっかく来てくれたんだもん。ね、それまで待ってて。1時間」
漁港をぶらぶらと歩いた。魚の生臭さが匂うが気にならない。漁港の臭いだ。漁協のクレーンに体長4メートル程のサメがぶら下がっている。近寄って見ると大迫力だ。
2時少し前に売店に戻り美香の仕事ぶりを眺める。客は昼を過ぎると少なくなると前も言っていた。店の前を掃除している。俺を見て『見るな』という仕草で笑っている。
買い物をしてオバアの家に戻ったのは3時過ぎだった。庭で二階堂に電話する。
「ボス。又沖縄に居るんですか?」
「明日には帰るから」
「韓国の方ですが、2隻が沈没で2隻が大破です」
「分かった。帰ったら誘拐の首謀者にもお灸を据えないとな。調べておいてくれ」
「もう2人に絞り込まれていますから、明日にはどちらか分かると思います」
「分かった。朝9時には帰るけど、治療を入れるんなら午後からにしてほしいな」
電話を切るとオバアが後ろに立っていた。俺に抱き着く。俺もオバアの肩を抱いた。
「オバア・・・元気か?」
何か言うが分からない。まあ、いいか。
ビールを1本飲んで縁側で転がる。猫が寄って来て俺の足で遊んでいる。
美香が隣に座ってスイカを食べる。沖縄はまだ夏だ。美香が言う。
「オバアが何食べたいかって聞いてた」
「ゴーヤチャンプルとラフテー」
美香はラフテー用の3枚肉(皮・アブラ・肉の3層になっている豚肉)を買うと言って出て行った。俺はそのまま猫と昼寝した。
美香に起こされる。目の前の空がオレンジ色になっている。
居間のテーブルではオヤジが俺を見て笑っている。テーブルには料理と泡盛。
オヤジと飲んだ。泡盛の水割り。沖縄ではグラスでちょこちょこ水割りなんて作らない。大き目のピッチャーに泡盛をドボドボとボトルの半分くらい入れ、氷と水を入れて完成だ。
ピッチャーで2杯、ボトル1本が空いてオヤジも俺もいい気分だ。オバアはいつも通りにサンシンを弾いて歌ってくれている。オヤジはグラスを空にすると『寝る』と言って自分の寝室に入って行った。俺はオバアの歌に酔いながら、自分のグラスの8分目まで残っている水割りを少しずつ飲んだ。グラスが空になり、オバアに礼を言った。
深夜、美香が布団に入って来て静かに抱き合う。ひんやりとした肌が気持ちいい。
10月13日 朝7時に起こされ朝食を食べる。美香の仕事時間に合わせて俺も東京に帰る。8時半に庭に着地してパオと少し遊びシャワーを浴びる。
9時に階下に降りてダイニングで2度目の朝食を食べる。二階堂が来て一緒にコーヒーを飲んだ。応接間に移ると二階堂が一枚の写真をテーブルに載せた。昨日ハダカで拘束してやった男だった。
「金明博。国家情報院の日本での責任者と見られています。この男が誘拐の首謀者です」
「こいつに会ってるよ。大使館から出る前に裸にして見世物にしてやった。こいつが日本での責任者ね・・・ちょっと懲らしめるか」
「今、大使館を見張ってます。出てきたらすぐに連絡が有ります」
「よし。総連の時と同じ第一海堡に連れてくか」
「いいですね。覆面は車に入ってるので持って行きます」
10時過ぎに電話が掛かって来た。対象が車でお出かけだ。二階堂を背負って飛ぶ。JIAのスタッフが対象者を尾行しながら位置を二階堂に伝えて来る。みずほ銀行南麻布支店に到着したとの知らせだ。横の通路を登った場所がコインパーキングになっている。そこに停めた白のメルセデスEクラスが対象の車だ。上空500メートルから対象の車を発見した。JIAのスタッフには監視を終わらせて帰らせる。
5分程で金明博が銀行から出て車の後部座席に乗り込む。表の道路への坂を下りて行く時に車の前に着地した。俺達は覆面を被っている。止まった車から運転手を引きずり出し、二階堂が金の隣りに座った。手には銃を持っている。俺は車を持ち上げて下に入り飛び上がった。高度を上げ南に向かう。第一海堡にはすぐに着いた。車を下ろすと二階堂と金が降りて来る。二階堂が金に言う。
「銀行に行ってこれだけしか金を持って無いのか?」
二階堂が金のバッグから100万円の束を5つ出す。金の財布、免許証入れなどを全部出させる。韓国での住所も分かった。全部を金のバッグに入れる。俺が言う。
「お前の日本の住所も韓国の住所も分かった。今後、日本人に手を出したらお前の家族全員を殺す・・・お前ハダカになれ」
念力で動きを止め、裸にしていろいろなポーズを付けさせて写真を撮り念力を解く。
「お前が言う事を聞かなかったらこの写真をばらまく。韓国のサイトに流しても面白いな」
金は自分の服を取ろうとしたが軽く殴る。
「いいんだよ、裸のままで。誰かが来たら助けて貰え。車で寝られるだろ」
二階堂が言う。
「車、勿体ないですね。こいつには。新型のE250ですよ」
「欲しいのか?」
「出来れば」
俺が金に言う。
「お前にはこの車は勿体ないって。貰って行くから野宿しろ」
金に袋を被せ目隠しをした。二階堂が金の服を手に持って車に乗る。車の下に入り、持ち上げて飛び上がる。海上に出た所で金の服が落ちて行く。二階堂が車の窓から捨てたのだ。窓を開けているようだ。
「おい! 何処に行く?」
「戸田のガレージにお願いします」
埼玉県戸田市のガレージに着いたのは午前11時だった。二階堂が連絡してガレージの屋根を開けておいたので、人目をそれ程気にせずに着地出来た。
車から出したカバンの中身を見る。500万円と財布には10万円少々。身分証明書がいくつか。日本と韓国の免許証。二階堂は車を自分の名義で登録するように指示していた。色も変えると言う。久々に会ったエンジニア達が挨拶に来る。一緒に『あたご』に乗った顔もいた。510万円の臨時収入が有ったので、JIAガレージの全員、22人を連れて焼肉を食べに行った。490万円が残り、二階堂が190万円、俺が300万円で分けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます