第161話 NPA

10月7日 朝8時半から来客が有ると言われて8時に起きる。朝食が終わってすぐに5人が来た。小児病院を退院した子供達の親だった。代表の5人が挨拶に来たのだった。

気持ちだと言って封筒を差し出したが受け取らなかった。手土産のケーキだけを貰った。


 9時から患者が来た。今日も午前6人、午後6人を診る。大勢の子供達を診て身体が治療に慣れてきているので人数を増やした。12人の内、外国人が7人だった。

 寄付の合計が17億5000万円になった。クエートからの患者が1人いたのだ。昨日の王子の知り合いだろう。51億3000万円が集まっている。

 夕食を終えて午後10時に二楷堂と久々の銀座に繰り出す。アンが怒ったような顔で俺を迎える。

「もう、私のこと忘れちゃったのかと思ってた・・・」

「忙しすぎた」

「その割にちょっと陽に焼けてない?」

「アンに会って照れてるだけだよ」

「私もピンク色になりたいからピンクいい?」

 ベルエポックのピンクが出て来る。二階堂お気に入りの麻美も席に付いている。4人で乾杯する。NPOの話をすると麻美が『そういうのが有ったら私も奨学金欲しかったな』と言う。奨学金の返済の為に水商売に入ったらしい。

 更にシャンパンを1本空けて響の17年も新たに入れた。12時の閉店になり70万円を払ってアンと店を出る。久々の帝国ホテルだ。着物を脱ぐアンを見ていると緊張するほど興奮する。一緒に風呂に入り、ベッドでゆっくりと愛し合う。

 アンに新しい着物代と言って200万円を渡した。金庫にはまだ22億4900万円が入っている。

 

 10月8日 仕事が有るので8時にホテルを出た。アンも一緒に出てそれぞれにタクシーで帰る。

今日も朝から治療だ。午前6人、午後7人。6億5000万円の寄付だ。奨学金の支出が有るが合計で57億7000万円。昼の休憩後に二楷堂から土地を買えたと報告が有った。土地代20億円と諸経費で21億円になったと言う。残置物の撤去に金が掛かるようだ。残金が36億7000万円だ。60人の優秀な学生を援助できればと、夢が広がる。


午後の治療後、NPOのスタッフ全員と南千住の土地を見に行く。G63を神原が運転し、俺がE63S、二階堂がJIAのアルファードで全員を乗せて行く。総勢15人だ。取得した土地に全員で立った。二階堂が、ここに60人の貧しいが優秀な学生を集めて援助する『ナカモト寮』が出来ると全員に説明した。NPOの事務所の一部もここに移動する。場所を確認した後で、すぐ前に有る『ララ・テラス』に入っている焼肉屋『おもに亭』で全員で焼肉を食べた。俺もビールを飲んだので帰りはスタッフに運転させる。

殆どのスタッフを途中で降ろして午後9時に松濤の家に着いた。二階堂と車庫の奥のNPOのオフィスで向かい合って言う。

「アフリカにちょっと手伝いに行きたいんだが」

「もう、決めてるんですね」

「そういう事だ。1週間くらいで戻って来るから東京の国境なき医師団の事務局長に連絡しておいてくれ」

「分かりました。チケットはNPOで取りましょうか?」

「自分で払うけど、例の東洋旅行社に頼むよ」

 二階堂が難しい顔をしてスマホを見ている。

「ボス。セブにゲリラです。多分NPAです。今、セブの西側の山中に何人かの人質を取って逃げ込んいます」

「詳しく何処だか分かるか?」

「トランス・セントラル・ハイウェイから逸れた山の中の様です」

「その道を真っすぐ行くとバランバンだぞ!」

「イザベルさんのいる所ですか?」

「そうだ・・・人質の人数と国籍は分からないのか?」

「待って下さい・・・・韓国人が4人と日本人が4人。フィリピン人が2人のようです。フィリピン人はITパークで働くエンジニアのカップルで他の8人は学生です」

 山をセブシティと反対側に下ればバランバンだ。街に出る手前には孤児院もある。

 イザベルに電話して、ゲリラの事を伝える。外出を控えろと言い、孤児院の子供達を事務所か家に避難させろと言った。役場に寝泊まりしている大工達にも警戒させる。

「俺、セブに行くけど、何か分かったらすぐに連絡くれ」

「分かりました。やはりアフリカは当分無理ですね」


 15分後に庭から飛び立った。午後9時半だ。高度12000メートルで全力で飛ぶ。30分後に高度を下げると太平洋側のフィリピンの一部が見える。サマール島だ。あと300キロでセブに着く。10分後に庭に着地する。プチが吠えて出て来る。俺だと分かると尻尾を振って誤魔化す。ハイラックスで出掛けようとしていたイザベルに状況を聞く。30分前に孤児院に電話して非難の用意を指示したが、5分前に再度電話をかけると繋がらないと言う。

 嫌な予感は当たる。山から西側に降りて来ると街に出る前に孤児院の建物が目に入る。その先にガイサノが有る。占拠するのにセキュリティーの甘い孤児院の建物は都合がいいのだ。ガイサノの駐車場までハイラックスでイザベルと行く。イザベルはグローブボックスからグロック17を出して弾倉を確認する。合法的に買った銃だ。俺は助手席から降りて孤児院の建物に走る。孤児院の入り口の門は閉められているが、いつもと気配が違う。壁沿いに照明の無い辺りで飛び上がって建物内を透視する。沢山の子供達が狭い一部屋に押し込まれている。建物の入り口内側にライフルの2人。院長とスタッフが縛られて床に転がされている。建物の中央部のテーブルに戦闘装備の8人。キッチン部分に2人。建物の外には門の内側に隠れている2人。塀の内側に他に4人。全部で18人。建物の裏に隠すように止めた車が4台。2台はピックアップトラックだ。建築中の建物に縛られた10人の人質が見える。

 塀の内側を歩いている4人を門から見えなくなった時に光の玉で倒す。門にいた2人が人の倒れる音を聞いて奥に走る。光の玉で塀に叩きつける。

 建物に近づき再度透視する。奥から12歳になる女の子2人が連れ出され、服を脱がされようとしている。キッチンの2人の心臓を念力で締め付ける。倒れる音を聞きつけて部屋の中の4人がキッチンに入って来る。光の玉で倒す。あと6人。部屋の中から仲間を呼ぶ声がする。返事が無いと分かると、キッチンに向かって銃を乱射してくる。板の壁を軽く貫いた弾丸が何発か身体に当たる。銃声が止まった瞬間に部屋に入り5人を殴り倒す。女の子を抱えていた残りの1人がボスと見ていた。腕を捩じり上げる。何やら喚くが分からない。窓の外に光が見える。車が入って来た。イザベルのハイラックスだ。部屋にイザベルが銃を構えて走り込んで来る。状況を見て終わった事を察し、院長とスタッフの縄を解く。一時、奥の子供達がいる部屋に2人と連れ出された子供2人を避難させる。

 イザベルが男に尋問する。俺が腕を押さえている。イザベルの質問に答えないと俺が指を1本ずつ折っていった。聞きたい事を全部聞くまでに4本の指と片腕を折った。イザベルは男を外に連れ出し、連中のライフルで頭を打ちぬいた。表情を変えずに部屋に戻り警察に連絡する。俺にはイザベルの横顔から怒りが感じられる。他の男達を調べる。外の見回りをしていた男1人だけが息をしていた。室内で殴った5人は即死状態の様だった。建築中の建物に行き、縛られていた人質を解放する。

5分後に最初の警察車両が恐る恐る入って来る。その後は10数台の警察車両が到着して大混乱になった。テレビカメラが来た時には俺達は現場を離れていた。

バランバンの市長が張り切って現場を仕切った。

自宅に戻る車の中でイザベルが『おかえりなさい』と俺に言った。

家に帰ってテレビニュースを見ながらビールを飲む。市長の横で顔見知りの警察官がインタビューに答えている。

テロリスト17名が死亡。1名が重症と言っていた。


孤児院にも防犯カメラと通報のシステムを入れようとイザベルと話した。

アフリカの事を話すと『あなたは世界中を助けたいの?』と言われた・・・無理だな。


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