第158話 遼寧撃沈
9月29日
朝7時に目が覚める。パオが外に出たいと騒ぐので庭に出した。一緒になって少し遊ぶ。しばらくすると幸恵が2階のリビングに上がって来て、庭の俺に声を掛ける。朝食はご飯と肉をリクエストした。
ポークソテーとご飯で満腹になる。
8時半に二楷堂から電話が来る。尖閣諸島周辺に中国・遼寧船団が居座っているようだ。全部で6隻。一気に片づけて直接セブに行ってしまおう。
二階堂に数日間は治療の予約を取らないように言う。
9時に自宅の庭から飛び立つ。30分掛からずに沖縄本島上空だ。ほぼ真西に向かう。高度1000メートルを維持する。すぐに尖閣諸島が見えて来る。GPSの地図を見るまでも無かった。魚釣島の南東側に遼寧と思われる大きな空母が見える。その周りに5隻の船。高度を下げて見る。
高度500メートルで斜め下に遼寧を見る。船首部分がジャンプ台の様に持ち上がっている。あんなにデカくて24機しか搭載できないのかと不思議になる。しかし、中国軍にとって艦載機を失うのは痛手だろう。
甲板では離陸の準備は出来ていないようなので護衛艦から攻撃する。ほぼ3キロ以内にまとまっているので簡単だ。真上に位置取り、次々に光の玉を撃ちこむ。5隻は炎上する船も有れば、開けられた穴から水を噴き出している船も有る。最後に遼寧の真上から、真ん中に光の玉を撃ちこむ。直径3メートル程の穴が開いた。水柱が高く上がる。噴水の様だ。しばらく様子を眺める。船首部分は完全に沈んでいるが船尾はかろうじて浮いている。船尾に光の玉をもう1発撃つ。爆発して炎上しながら沈んでいった。
フィリピンに行こう。進路を南にとって飛んだ。
高度を12000メートルまで上げて飛ぶ、15分で高度を下げると、すぐにセブが見えて来る。飛行服を脱ぎながら自宅の裏庭に着地だ。10時過ぎになっている。
姉がヨタヨタと歩く俺を見つける。
「腹減った」
流石に飛ぶだけでなく大きな光の玉を7発も撃つと腹が減る。
母屋のダイニングテーブルに突っ伏していると姉が鳥の唐揚げを持ってきてくれる。冷蔵庫のビールで鳥の唐揚げを流し込む。徐々に元気が戻って来る。2階に上がりエアコンを付けて昼まで眠る。
12時にイザベルに起こされる。ダイニングテーブルに魚のシニガンが用意されている。オヤジと兄弟と共に食べる。
食後は事務所に連れて行かれた。イザベルの説明では、学校入学前に日本で言う幼稚園も義務教育化されており、それもナカモト・スクールで面倒を見て貰えないかと役所から頼まれていると言う。13年間の学校だ。教室が2つ増えるだけだと言うと
『何でも簡単に言うあなたが好き』
と言われて抱き着かれた。
幼稚園と6年までの教室は大きめに作り、総工費は29ミリオンになる。
他のイザベルの懸案事項は2つあり、1つは子供がいる貧しい家庭への援助の件だった。父親がいても仕事にありつけず収入の無い家もあり、援助は母子家庭だけでいいものかを考えていると言う。
もう一つは奨学金の申請に来る学生の面談で、本気で勉強をしたいと言う学生と、奨学金を受け取って逃げてしまう計画の学生の判別の難しさだった。
父親が働ける家には学校建設の工事の助手の仕事をさせればいい。半年間、助手をやれば知識も多少は身に着くし、なまけ癖も治る。日給150ペソでも米が4キロ買えるのだから大きい。 奨学金の面接は俺に立ち会わせろと言った。
面談はほぼ毎日午後3時からで今日も2人の学生が来ると言う。
時間が有るので外に出た。
フラフラ歩いていると『マノン!』と呼ばれる。ピーナツ売りの少女が俺を見つけて歩いて来る。今日もピーナツを入れた蓋つきのポリバケツと小さな販売用の紙袋を持っている。
「オジサン。今日はビール飲んでないの?」
「毎日昼間から飲んでる訳じゃない・・・たまには飲まない」
笑っている。
「ちゃんと仕事しなきゃダメだよ」
「そうだな。仕事しなきゃな。兄弟は学校行ってるか?」
「行ってるよ。新しい靴を履いてるから馬鹿にされない・・・ありがとう」
「お前は、今日は学校はどうした?」
「今日は朝から昼で終わりだよ」
女の子は左手でTシャツを握りながら話している。
「何で、そこ握ってる?」
「穴が開いてるの・・・恥ずかしいから」
「そうか、古くなると穴開いちゃうもんな。オジサンもTシャツ買いたいんだけど、連れてってくれるか?」
手を引かれて市場から一本通りを渡ると洋服屋があった。店頭のワゴンにTシャツが山積みになっている。10ペソとワゴンに書いてある。女の子が言う。
「このワゴンのが10ペソで向こうのハンガーに掛かってるのが20ペソから50ペソ」
「安いな・・・」
「ここ、ウカイウカイだよ。全部中古だから安いよ」
「新品がいいなぁ」
「オジサン、仕事無いのに生意気だね・・・しょうがないな。付いて来て」
ピーナツのバケツを持った少女に付いて行く。市場に戻り野菜売り場の反対側に向かっていく。服や日用雑貨を売っている場所だ。
少女が指をさす。
「この辺がシャツやパンツ売ってるところ」
「オジサンに似合うの選んでくれないか」
「何色が好きなの?」
「任せるよ」
ピーナツのバケツを預けられた。少女はハンガーに掛かっているシャツを選んでいる。
「オジサン、サイズはラージでいいよね?」
頷く。しばらく待つと少女は数枚のシャツを手にして来て俺の身体に当ててみる。
「これか。これだな」
白と紫のシャツだ。白のシャツは胸にペンギンの絵が描いてあり、紫のシャツには子犬のプリントだ。
「両方買って行くよ。お前も選べよ。自分のと弟と妹の。お母さんにもだな。俺がプレゼントするから、4枚選べ」
女の子は唖然として動きが止まった。
「早く選べ!」
俺が声を掛けると笑顔でTシャツのハンガーの中に消えて行った。暇なのでバケツを開けて、中に入っている小分けにされているピーナツの袋を3つ取りだした。バケツに蓋をして上に座る。丁度いい椅子だ。食べ出すと止まらない。更に3つを取り出して食べ終わる頃に少女がTシャツを4枚持って出て来た。俺を見て言う。
「ピーナツ食べてる・・・」
「6個食べた。後で金は払うから」
「いいよ・・・Tシャツ買ってくれるし」
「ダメだ。商売は商売だ」
自分の分と少女の分の6枚で650ペソを払って来た。ペンギンのシャツだけが150ペソだった。
少女にピーナツ代を60ペソ払うと40ペソのお釣りをくれた。
「オジサン、仕事してないのにお金持ちなの?」
「本当はちょっとだけ仕事してるんだ。このすぐ近くで」
「市場で働いてるの?・・・まさかね」
「遊びに来るか?冷たい飲み物があるぞ」
「・・・・行く」
俺の後をピーナツのバケツとTシャツが入ったビニール袋を持った少女が付いてくる。
事務所のドアを開けて中に入る。少女も恐る恐る中に入る。
「ドア閉めろよ」
少女がドアを閉じて事務所の中を見渡す。手の空いているスタッフが俺達を見る。
日曜日でも休みではない。休みは交代で取る事になっている。
妹が歩いて来る。
「トールさん・・・この子は?」
「俺のガールフレンドだ」
俺がみんなに叫ぶ
「ミリエンダ(オヤツ)の時間が近いぞ。ピーナツ欲しい人は手を上げろ。1つ10ペソだよ」
女の子が俺の横で小さくなる。スタッフの一人が少女の元に来る。
「一つ頂戴」
少女がバケツを開けてピーナツの袋を一つ渡し、10ペソを受け取り礼を言う。
他のスタッフも近づいて来る。『2つ頂戴』『俺も2つ』・・・・・
イザベルが奥から出て来る。
妹がイザベルに言う。
「ガールフレンドなんだって」
イザベルが笑顔で少女を見て言う。『私にも2つ頂戴』
スタッフ全員がピーナツを買った。少女を奥に連れて行き、ソファーに座らせた。冷蔵庫からコーラを出してグラスに注いで渡した。少女は目を見開いてゆっくりとコーラを飲んだ。
少女にイザベルを紹介する。
「彼女が俺のワイフだよ」
イザベルが微笑んで少女と握手して言う。
「初めまして、トールのワイフのイザベルです。私の主人を取らないでね」
少女はイザベルを数秒見つめて言う。
「私はリン。大丈夫、あなたには勝てそうにないから・・・」
「良かった。あなたがライバルにならなくて」
少女が俺を見て言う。
「トールっていう名前なの?美人の奥さんがいるんだから、ちゃんと仕事しなきゃダメだよ」
全員に笑われた。
少女はピーナツのバケツとTシャツが入った袋を持って出て行った。
3時からの面談が始まった。俺とイザベルが並んで座り、向かいに2人の奨学金の申請者が座る。男性2人だ。イザベルが質問をし、申請者が答える。20分程の面談で2人は出て行った。数日中に結果を知らせるのだと言う。1人の申請者の頭の後ろに黒い影が見えた。イザベルに俺の意見として一人は不合格と伝える。根拠は家に帰ってから伝える。
午後5時になって事務所を出て家に帰った。
嘘が見える話をした。イザベルはすぐに信じてくれた。冗談めかして言う。
「あなたに嘘をつけなくなっちゃうね・・・困ったな」
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