第155話 NPAの襲撃

9月26日

 午後1時。学校建設予定地に立っている。セブシティのゼネコンから社長とエンジニアが来ている。

 伝えてあった教室の数を元にエンジニアが書いて来た簡単な見取り図を見ながら建築場所の打ち合わせをする。


 概算の見積もりで26ミリオン。2600万ペソという事だ。役人との話とほぼ一致する。学校の敷地を囲う、約600メートルの壁を高さ2メートルで作ると別に1ミリオン程が掛かると言われるが仕方ない。生徒の安全のためだ。

 社長の携帯に電話が掛かってくる。話をしている社長の声が次第に大きくなり、顔色が変わって来る。ビサヤ語で話しているので内容は俺には分からない。イザベルが俺に言う。

「社長の会社の社員がゲリラに拉致されたみたい」

 電話が終わり、社長はセブに戻らなくてはと言う。イザベルが言う。

「落ち着いて。私達がお手伝いできるかもしれないです。詳しく聞かせて」

 社長は肩で息をしながら状況を話した。 

セブ島の東側にあるボホール島とパングラオ島に掛かっている橋の補修工事に出ていた社員3人が、1時間前にゲリラに連れて行かれた。作業員の話によるとゲリラは約10人で全員がライフルを持ち、顔を隠していたと言う事だ。

 再び社長に電話が掛かる。短いやり取りで電話を切り、イザベルに言う。

「身代金の要求が来た・・・50ミリオンだ。今日の夕方5時までに用意しろと言ってる」

 5000万ペソの要求。イザベルが聞く。

「相手は?」

「NPA(ニュー・ピープルズ・アーミー。アジアで最も古くから活動しているゲリラ組織の一つ)だ」

 俺が拉致された場所を詳しく聞く。2つの島を繋ぐ2本の橋の内の一つ、『ボージャ橋』だと言う。グーグルマップで確認する。確かに2つの橋が有り、東側がボージャ橋だ。

 社長が言う。

「3人の内の1人は家の長男なんだ・・・金はどうでもいいから救い出したい」

 イザベルに言う。

「ちょっと行って来るよ」

「お腹は、食べたばかりだから大丈夫ね」

「ここから100キロも無いし、平気だ」

 イザベルが社長に言う。

「セブの事務所で待機して、連絡が有ったら身代金はすぐに払うと伝えて下さい」

 2人は車に乗り込みセブに帰って行った。イザベルに社長の携帯の番号を教えてもらう。

 周りを確認して、イザベルにキスして飛び立った。

 南に向かう。高度1500メートルで下を確認しながら飛ぶ。距離は約90キロだ。すぐにセブ海峡を過ぎてボホール島が見えて来る。ボホール島上空を高度1000メートルで飛ぶ。大きな街が見える。『タグビララン』の街だ。その先に島、パングラオ島だ。

 2本の橋が見える。ボージャ橋は東側だと言っていた。高度を下げ、パングラオ側の茂みの中に着地する。橋に出ると数人の作業員と警察が見える。近寄って行くと、橋の上、道路上に黄色いヘルメットとバインダーが落ちている。警官が写真を撮っている。更に近寄ると、警官に止められる。あれが社員の持ち物だろう。

 着地した方に戻って飛び上がる。高度を上げながら橋の上のヘルメットに意識を集中する。赤い破線が見えて来た。破線はボホール側に伸び、東へ向かっている。高度300メートルから破線をトレースする。15キロ程道なりに進み、大きな河口を過ぎて内陸に向かっている。このまま真っすぐに行くと『チョコレートヒルズ』という絶景の観光地だ。イザベルと遊びに行きたいと話していたのを思い出す。

 内陸に10キロ程進み、破線は左へと脇道に逸れている。川沿いに出るとバナナの葉を屋根に葺いた小屋があり、その中へと破線が続いている。車が2台。周りには民家も無い。

 小屋の入り口に銃を持った4人。1台の車の中にも4人。迷彩服を着ている。小屋の中を透視する。作業服の3人が縛られて床に寝かされている。周りに4人。2人が銃を持っている。

小屋の前の4人が良く見える位置まで高度を下げる。約100メートル。光の玉を連続して撃ち4人を倒す。銃を持った4人が降りてこようとしている車を大きめの光の玉で爆破し、小屋の前に降り立つ。小屋から銃を持った2人が飛び出て来たので殴りつけて倒す。小屋に飛び込むと迷彩服の2人が凍り付くように立っている。1人の持っている拳銃が人質から俺に向きを変える。構わずに近寄って行くと俺を撃った。腹に当たったようだ。念力で動きを止めて2人を見る。2人ともアラブ系の顔で、驚いた事に1人は女だった。彫の深い美人だ。

 人質の3人は手足を縛られ頭には黒い袋を被せられてもがいている。

 迷彩服の男を近くに有った縄で縛り、女の服を全部脱がせて床に寝させる。オッパイは小さいが綺麗な身体だ。俺も下半身裸になり犯す。途中で念力を解いてみると、足をバタつかせ、俺に噛みつこうとするので再度念力で動きを止める。アラブ系の女は初めてだった。

 裸のままの女を縛り上げる。

 拘束されていた3人を外に連れ出して頭に被せられていた袋を取り、縄を解く。1人は中国人の顔だ。社長の息子だろう。周りに倒れている迷彩服の男達や、燃えている車を見て、怯えた顔で俺を見る。英語で言う。

「俺はゲリラじゃないよ。助けに来たんだ。あの車で帰ってくれ。道路に出て右に行けば海沿いに出る。この場所を警察に教えてやってくれ」

 3人は言葉が出ない。操り人形のようにぎくしゃくしながら車に乗り込み走って行った。

 突然銃声がして弾丸が尻に当たる。気を抜いていたから少しだけ痛い。以前にも空中で尻を打たれたことを思い出す。いつも尻だ・・・・振り返るとアラブ男が銃を持って小屋の前に立っている。縄が解けてしまったか。念力で心臓を締め付けると、アラブ男は銃を落とし地面に膝を着く。そのまま前のめりに倒れた。

 小屋に入ってみるとアラブ女が縛られたままで、もがいている。俺を見てわめいているが何を言っているのか分からない。腕組みして女を見下ろす。裸で縛られているのが、やたらセクシーだ。見ているとジュニアが再び反応してくる。女をうつ伏せにさせ腰を持ち上げて後ろから犯す。背中側で縛っている両手で俺の腹を叩くが刺激になるだけで痛くもない。十分に楽しんだ。

 女の縄を解いてやる。俺を睨みながら服を身に着ける。服を着終わった時に再度念力で動きを止めて縄で縛る。小屋を出て行こうとする俺の後ろで女の声が聞こえた。

「インシャラー」

 見ると、口から血を流している。舌を噛み切ったのか。

 遠くからヘリコプターの音が聞こえて来る。フィリピン政府軍が来るのか。後は任せた。

 低空飛行でその場を離れる。チョコレートヒルズの景色を楽しんでセブに向かって飛ぶ。


 バランバンの自宅に着地したのは午後4時になっていた。シャワーを浴びて女の臭いを消し去る。着ていたパンツや短パンは洗濯中の桶に突っ込んだ。イザベルに電話して家に帰っている事を告げた。

 ビールを持って庭に出る。少し大きくなったプチがじゃれて来る。甘噛みしてくるが歯が尖っているので痛い。『ノー』と言って口に手を入れて舌を押さえる。噛むことも出来ずにジタバタと暴れる。お姉さんが切ったマンゴーを持ってきてくれる。ビールとは合わないがマンゴーも旨い。プチにマンゴーを差し出すと、臭いを嗅いで『フンッ』と言い走り去って行った。


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