第150話 第一海堡から犬達へ

9月12日

午前10時に二楷堂が来る。明日の朝鮮総連の件だ。日本海で取引が潰されたのを知られているだろうから、警戒が厳重になっているのが予想されると言う。

 関係無いと一言で片づける。河野がセブに行きたがっていたと言うと二階堂も行きたいと言う。予定を合わせて一緒に来ればいい。

 河野の話をしていると本人から電話が有った。沖縄に持って行く漁船の話だ。船底を掃除して塗料を塗り直し、エンジンの簡単な整備もした方がいいようだ。冷却水を取り入れるインペラを交換したりと、そこそこの金が掛かる。沖縄までの輸送料金も入れて200万円だと言うので全部を頼む。

 二階堂に船の修理代の事などを話し、200万円を預ける。


 昼飯はみんなでステーキだ。神原夫婦の分も含め6枚のステーキ肉を幸恵に買って来させていた。5万円を預けていたのが、ほぼ丁度だった。

 ダイニングテーブルに着いた綾香とマキの間にパオがお座りして待っている。2人は、自分の500グラムのステーキから、小さく切った肉をパオに与えては喜んでいた。パオは殆ど噛まずに飲み込んでしまう。マキは『ちゃんと噛んで』と言うが、それは無理だ。

 二階堂がパオを見て言う。『贅沢な犬ですね』

 幸恵が言う。

「パオは本当に恵まれていますね。捨て犬や、多頭飼育で面倒を見切れなくなった人の犬を保護しているNPOが全国に沢山有って、私も少額ですけど寄付しました」

 俺が聞く。

「保護した犬はどうするんだ?」

「新たな飼い主を探して譲ったりしているようです。去勢手術にもお金が掛かりますから、どこも金銭的に大変みたいです。もし宜しかったらテレビでやっていたのを録画してありますからご覧になりますか?」


 食後、1階の神原夫妻の部屋に全員で行き、保護犬の番組を見た。

 数十頭の犬を面倒見ている施設や、多頭飼育崩壊の現場、保健所へ連れ込まれる犬を引き取る様子も映し出された。殆どの団体が寄付によって成り立っているが、どこも十分な寄付金を集められずに、手伝っているスタッフも安い給料か無給のボランティアによって支えられているようだ。

 幸恵に言う。

「幸恵さん。こういう団体で、幸恵さんが助けたいと思うところを、いくつかピックアップして貰えませんか?俺も寄付しますから」

「分かりました。調べておきます」

 幸恵は嬉しそうに返事した。綾香とマキも笑顔になる。パオは興味無さそうに寝ていた。


 午後4時。和室で二階堂に韓国の状況を聞く。竹島には宿舎も出来上がり、海上自衛隊の隊員20人が民間人を装って滞在している。韓国内では反日運動が一般には分からないように政府主導で行われている。相手にする価値も無いと言った。北朝鮮は中国へ完全に歩み寄り、中国人民軍が目立たないように北朝鮮内に入って来ているようだ。

 アメリカのように口出し、手出しをしていたのではキリが無い。日本と自分に直接の被害が無い限りは動かないと決める。明日の朝鮮総連への襲撃は、日本に毒を撒いた罰として行う。


 午後5時。二階堂に頼んで呼んでもらった故買屋が来る。バランバンの韓国人から頂いたダイヤの指輪3個を見せる。1200万円を置いて行った。3個の内の1個が、予想外にいい物だったようだ。二階堂に200万円を渡すと喜んでポケットに入れる。


 午後6時半。俺、二階堂、アン、アンの店の麻美の4人で帝国ホテルの『なだ万』で懐石料理と日本酒の『萬壽』を楽しむ。帝国ホテルまでは神原がG63で俺達を送った。二階堂が乗って来たクラウンは松濤の車庫に置いて来た。

 午後8時になり銀座八番館のアンの店『夢路』に4人で入る。まずはシャンパンで乾杯だ。アンが、『久しぶりなんだから今日はピンク』と言い、ベル・エポックのピンクを開ける。他の店の女の子6人も加わって、10人での乾杯だ。

 ほどなく連絡をしてあった海自の河野が合流する。日本海での覚醒剤取引を潰したお祝いだ。クリュグのピンクで2回目の乾杯をする。河野が言う。

「例の漁船ですが、15日には作業が終わって、18日には那覇に到着できる予定です」

「有難うございます。喜ぶだろうな・・・」

「誰なんですか・・・その漁師って言うのは」

 簡単に美香のオヤジの事を話す。アンが横で聞いているので美香の事は伏せて、台風の時に船を上げる作業を手伝って知り合ったと言った。オバアの歌が最高だと言うと、河野はその場に行って聞きたいと言う。漁船が那覇に到着する18日に那覇に来ればいいと言った。俺も合流すると言うと、何とか仕事に託けて行くようにすると言う。二階堂も行きたがるので河野と一緒に来ればいいと言った。

 二階堂と河野は11時に店を出て行った。二階堂は明日、タクシーで松濤まで来ることになった。

 12時になり会計を済ませる。響の新しいボトルも入れたので70万円を支払う。


アンと帝国ホテルへ移動し、ルームサービスのサラダとステーキサンドイッチを食べる。

 店の話をする。トランプ大統領が来店したのが噂になり、政財界からだけでなく、多方面から客が増えたと言う。そう言えば今日も9時過ぎからは満員で、有名な整形外科医がアンと2ショットの写真を撮っていた。派遣のホステスを3人呼んでいたそうだ。

「繁盛して良かったな」

「ありがとう」

「ベッドまで付き合うなよ」

「それだけは絶対に無い。こう見えても義理堅いんだから。今の私があるのはトオルのお蔭だって、ちゃんと分かってる・・・何日か前なんか与党の議員さんが来て、自分の女にならないかって口説かれたんだけど、私の恋人はお店ですからって断ったの」

 アンを疑っている訳では無いが、言っている事を信じるのが幸せだ。2人で風呂に入り、外が薄明るくなるまで愛し合った。


 9月13日。二階堂からの電話で起きる。11時になっていた。二階堂は松濤の家に車を取りに行ったところだった。赤坂のJIAの事務所で待ち合わせる。昼飯はアンとホテル内の寿司屋『なか田』でコースメニューの潮騒を注文する。刺身、握り、焼き物、酢の物、デザート等のコースで2万円だ。アンが残した分も俺が食べる。昼食後は、それぞれタクシーに乗って別れた。


 午後1時半に赤坂に着く。事務所でコーヒーを1杯飲んで二階堂の運転するクラウンで出掛ける。靖国神社裏手の法政大学の駐車場に車を入れる。

 午後2時になり、通りに出て総連ビルに向かって2人でゆっくりと歩く。逓信病院の壁にもたれて携帯を見ている振りをする。総連ビルを出て来る装甲車が目に入る。俺達の方に向かってくる。10メートルまで近づいた時に二楷堂が携帯を見ながら通りを横断しようとする。クラクションを鳴らしながら、二階堂の寸前で装甲車が止まった。俺は装甲車の下に潜り込み、少し持ち上げる。上から二階堂の声、

『オーケイ』

 二階堂が装甲車の上に乗ったのだ。

 高度を上げながら南に向かって飛ぶ。二階堂に声を掛ける。

『落ちるなよ!』

 高度2000メートルで10分弱飛ぶと、東京湾の入り口にあたる富津岬の1キロ程沖合に第一海堡が見えて来る。明治時代に要塞として砲台や兵舎が作られたが、今では撤去するにも金が掛かる為にそのままになっている。無人島だ。

 兵舎の名残の壁の陰に装甲車を降ろす。二階堂が装甲車の屋根から飛び降りる。俺も二階堂も全頭マスクを被って顔を隠している。運転席と助手席の2人は警棒を持って構える。念力で装甲車を10メートルほど持ち上げで落とす。後部に乗っている警備員もダメージを受けただろう。

 運転席のドアと助手席のドアを光の玉を加減して溶接した。後部ドアを破壊する。中で3人の男達が床にダウンしている。俺が中に入り8個のジュラルミンケースを外にいる二階堂に渡す。帆布製の大きなバッグ3個に手を伸ばした時に足から痺れが走る。警備員の1人が倒れたまま、スタンガンになっている警棒を俺の脚に当てている。警棒を取り上げて、寝ている3人を痺れさせる。

 ジュラルミンケース8個とバッグ3個にはそれぞれ名札が付いており、総連からの物は4個だった。他の4個も韓国か中国系の場所から集めた物だろう。ケースの鍵を破壊して開ける。総連からの量が一番多い。3個の大きな帆布製バッグに全ての札束を詰め込む。それぞれが40キロ以上の重さになる。全て無言で作業する。車内に有った、受領証の控えも持って行く。

 バッグに付いているショルダーベルトを、たすき掛けにした二階堂をおぶって飛び上がる。俺の両手にもバッグをぶら下げている。

 高度3000メートルで7分後に松濤の家に到着する。午後3時前だ。1時間以内で勝負がついた。

 俺の寝室に3個の大きなバッグを運び込み、ドアの鍵を掛ける。

 二階堂と総連ビルに、E63Sを俺が運転して向かう。法政大学の駐車場で二階堂のクラウンの隣りにE63Sを停める。二階堂を残し、バックパックを持って逓信病院の屋上に上がり、総連ビルの様子を見る。現金を運び出した後だからか、油断しきっている。

 マスクを被り空いている窓から8階のフロアに飛び込む。念力で全員の動きを止める。一番偉そうにデスクに座っていた男の念力を解く。前の責任者らしき奴は覚醒剤で逮捕されたのだろう。太ったところだけは同じだが違う男だ。

「集金があっただろう。受領証を渡せ」

「誰だ・・・そんな物は無い」

 輸送車に控えが有ったのだから嘘だ。手首を取って中指を折った。悲鳴を上げながら机の引き出しを開け、受領証を俺に渡す。襟首を掴んで金庫室に引っ張っていく。金庫を開けさせる。中には2000万円分の札束と1キロの金のインゴットが8個。バックパックに入れる。覚醒剤は無かった。

 男を殴りつけて金庫室から出る。俺が窓から飛び込んで来た瞬間の、全員が驚いたままの状態で止まっている。1人の事務員が可愛い。20代前半と見た。机に手を着いて立ち上がった状態だ。服を全部脱がせて机に置く。オッパイはBカップ位で可愛い。尻から足のラインがいい。やる事はひとつだ。

 金庫室で殴りつけた男をオフィスの真ん中に寝かせて、女のパンティを頭に被せる。周りにいた数人の女のパンティも脱がせて、男の手に持たせた。 窓の外に出て横に移動してから念力を解放した。悲鳴と罵声が聞こえて来る。 

 法政大学駐車場のE63Sに戻る。二階堂に合図を送り松濤の家に2台で戻った。

 寝室で、2人掛かりで金を数える。13億5000万円。2人で笑い転げる。総連の分だけで7億円以上になっている筈だ。総連の金庫の分も入れると13億7000万円だ。

 故買屋が来たので、応接間に8キロの金を持って行く。3760万円を置いて行った。寝室にその金を持って行く。14億760万円。二階堂に顎をしゃくると760万円と1億の山を引き寄せて聞く。

「いいですか?」

「当然だよ。お前の情報で出来た仕事だからな」

 金庫の中身が22億6500万円になった。大型に替えた金庫の中が一杯になる。扉が閉まらない。仕方ないので2億6500万円を小型のスーツケースに移した。金庫の中は20億円丁度だ。

 応接間でビールで乾杯する。幸恵がツマミに蒲鉾を持ってきて、一枚の紙を俺に渡す。

「昨日おっしゃっていた犬関係のNPOです。ここに、これはと思う所を8件書き出してあります。寄付の振込先も有りますが、出来れば実際に行って見た方がいいのですけど、全部遠いので大変ですね」

「有難う。近々行って見るよ。幸恵さんが調べて、寄付が必要だという所だよね。取りあえず振り込みで寄付しておいて」

 寝室に戻りスーツケースから800万円を取り、リビングで待っていた幸恵に渡す。

「100万ずつ、週明けにでも振り込んでおいて」

「100万円も・・・名義は中本さんでいいですか?」

「いいよ。ウチは団体名なんか無いからね」

 幸恵は自分の事の様に礼を言った。

パオが一声吠える。こいつも礼を言っているのか?

 

 第一海堡で朝鮮人と中国人から奪った金が犬達を救う。


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