第149話 瀬取り潰し

9月9日 

朝7時。朝飯を美香とオバアの3人で食べる。オヤジは早くから漁に出ている。

 美香の出勤に会わせて俺は東京に帰る。8時半に松濤の庭に着陸。パオが全力で走ってくる。飛びつくパオを受け止めた反動で後ろに倒れた。パオの好きなように顔を嘗めさせる。これも愛情表現だ。

 パオの朝ご飯を持って出てきた幸恵と挨拶を交わして家に入る。寝室で部屋着に着替えて、2度目の朝飯を食べてソファーに座りテレビを見る。


 午前10時。応接間で二階堂と向き合う。日本海での北朝鮮の『瀬取り』を押さえるのは、保安庁とではなく、海上自衛隊と一緒に行動することになった。レーダーの性能に優れるイージス艦になったわけだ。今回も『あたご』に待機し、怪しい船を探知したら飛び立って行くと言う事だ。報酬は実質2日間、船内で待機して3000万円だ。これは金の問題では無いので気にしない。臨時収入が入る可能性も有る。

 総連の方では、覚醒剤絡みの金は毎月、第二金曜日にも総連ビルに集められ、午後2時に中国工商銀行が集めに来るようだ。前回と同じだ。現金輸送車は完全な装甲車になっているのが前回との違いだ。

 二階堂が俺を急かす。これから日本海に行くと言うのだ。寝室に戻り、ステルス飛行服とGPS等、必要な物をバッグに入れる。普段着からスーツに着替えている時に娘達が入って来る。

 寝起きの顔で抱き着いて来て綾香が言う。

「また、どこか行くの?」

「日本海に悪党退治だ。英会話は楽しいか?」

「うん。楽しい。帰ってきたら、お風呂一緒に入ろうね・・・」

 マキが言う。

「外に女作ったらダメだよ・・・こんないい女が2人もいるんだから」

 2人のオッパイを触ってから部屋を出て、二階堂の車に乗り、市ヶ谷に向かう。

 いつものボストンバッグの中に大きな帆布製のバッグを畳んで入れておく。何か獲物が有った時に持ち帰る為だ。

 防衛省の食堂で昼飯を食べ、ヘリに乗り込む。同時に海自幕僚長の河野も乗り込む。

「河野さんも行くんですか?」

「中本さんが行くとなると面白そうですからね」

「在日米軍引き上げで忙しいんじゃないですか?」

「海将の北村がしっかりしてるんで大丈夫です。正直言って、いますぐ艦船や航空機を増やさなくても、韓国や中国、北朝鮮も今の日本には簡単に手は出せないですよ。こっちには宇宙人がついてますからね」

 二階堂と笑う。俺も笑うしかない。MCH-101ヘリが爆音を立てて離陸する。


 午後4時。イージス護衛艦『あたご』のブリッジで艦長の小城から海域の説明を受ける。舞鶴を出港して北西約350キロの地点で網を張ると言う。北朝鮮との中間地点だ。レーダーに怪しい船が映ったら俺の出番と言う訳だ。瀬取りで海に投下した覚せい剤を確認しても拿捕する必要も無いと言う。撃沈だ。現物は確保できれば持って帰って欲しいと言われる。


 短パンTシャツに着替えて、当てがわれた船室で休む。3時間もすると腹が減って来る。

 食堂に出て行って夕食を食べる。今日はマーボー豆腐と餃子だ。かつ丼競争で1位になった隊員が俺のテーブルに来て敬礼をする。

「お久しぶりです!」

「おう。元気そうだな。この前の賞金50万円は何に遣った?」

「仲間に焼肉を奢らされて5万円遣って、あとはお袋と彼女にプレゼントを買いました。有難うございました」

「二人とも喜んだだろ・・・でもな、怪我しないで無事に船から降りるのが一番の孝行だからな」

「はい!気を付けます」

 河野が歩いて来た。早食いの隊員は河野に敬礼して去って行く。

「ヤッパリ、中本さん、ここでしたね」

「この食堂の方が活気があっていいんですよ。将校用は肌に合わないって言うか・・・」

「そうですか・・・実は、セブから帰って来てから、中本さんの家の人達や暮らしが頭から離れなくってね。オヤジさんのバンカーボートも良かったですね」

「時間が出来たら、ゆっくり遊びに来てください。好きなだけ居て貰って構わないですよ」

「是非、お願いします」

 突然スピーカーから放送が流れる。

「至急、至急。中本さん、ブリッジへお願いします。繰り返します・・・」

 河野とブリッジに掛け上がる。艦長の小城がレーダーのモニター前に立っている。

 小城が言う。

「このまま北西に150キロの地点に小型船が3隻です。漁場では無いので不審船です。同船舶と同じ位置からGPS発信機の信号が出ています」

 二階堂がGPS受信機を渡してくれる。船室に戻り飛行服に着替えて甲板から飛び立つ。『あたご』は北朝鮮との中間地点まで航行を続ける。

 甲板を飛び立って、高度3000メートルで5分飛行し、GPS受信機を確認するとシグナルは近い。50メートルに高度を下げる。ブイに結び着けてある赤いライトの点滅を発見する。海面に降りブイを引っ張ると一辺が60センチ位のプラスチックの箱が浮き上がる。発信機がブイに結び付けて有る。

 箱に集中すると、赤い破線が海面に伸びているのが見える。北西に向かっている。箱を投下して帰る船か。高度100メートルに上昇し、赤い破線を追う。2分も掛からずに10トンクラスの漁船を見つける。漁船の真上に移動し高度を下げる。甲板にいた船員が俺の姿を確認し船内から銃を取り出し、撃ち始める。

 光の玉で撃沈。ブイの場所に戻る。上空500メートルから監視する。10分程待つと南東方向から来た漁船が真っすぐにブイに近づき、拾い上げる。『光栄丸』と船体に書いてある。日本からの船だ。漁船の甲板に降り立った。銃を手にした男が韓国語で何か叫び撃ってくる。光の玉で黙らせる。

 日本語で俺が言う。

「全員出てこい。日本語分かるだろ」

 出て来た連中4人が全員銃を持っている。面倒になった。光の玉で全員を始末して海に落とす。船を沈めるかどうか迷ったので、ブイに着いていた箱だけを持って行く。GPS発信機は船に残るので回収も撃沈も簡単だ。


 あたごに箱を持って戻る。中身は約40キロの覚せい剤だった。『あたご』は北西に進んでいる。GPSを残した船の方向だ。 約2時間に覚醒剤を拾い上げた『光栄丸』を発見した。

 船内を調べて、河野が『どうするか』と小城と話している。俺が河野に聞く。

「あれ、貰ってもいいのかな?」

「どうするんですか?」

「沖縄で知り合いの漁師が欲しがるかも・・・」

「いいですよ。舞鶴まで取りに来てくれれば。沈んだ事にしますから」

 簡単に言われた。午後10時。衛星電話で美香に掛ける。

「トオルだけど。突然だけど、オヤジさん船要らないかな。19トンの漁船でエンジンはしっかりしてるらしい。舞鶴まで取りに来られればタダで手に入るよ」

 美香はオヤジと話している。オヤジが電話に出る。船の詳しい事を聞きたいと言うので、船検証を持っている隊員に説明して貰った。オヤジは是非欲しいと言う事だ。那覇まで廻船業者に持って行ってもらう事になり電話を切る。隊員2人が船に乗り移って舞鶴まで操船する。

 フルノ製のレーダー、魚探等、装備は新しい物で、エンジンは信頼性の有るヤンマーディーゼルの約600馬力が2基積まれていると言う。新艇で買うとエンジン込みで2500万円以下では買えない船らしい。


 食堂で夜食を食べる。俺の為にかつ丼を用意してくれた。二階堂と話をしているとブリッジから呼ばれる。『あたご』は目的の位置に到着し、停船している。

 小城の説明でレーダーのモニターを見る。『あたご』から北に40キロの地点で出会うように北西からと、反対の南東から1隻ずつの船が近づいている。合流地点と見られる場所に俺のGPSマップにマークして貰う。急いで部屋に戻り着替え、甲板から飛び立つ。

 高度500メートルで北へ。すぐに右下に船の影が見える。日本から合流地点に向かう船だ。航行灯を消している。船の上空500メートルをキープして追尾する。しばらくして航行灯が点く。船の行く先からも航行灯が近づいてくる。速度が遅くなり2隻の船が接舷する。高度を100メートルに下げて監視する。朝鮮半島側から来た船から包みが渡される。包みを開けて中を確認している。日本側から来た船の甲板に中型のスーツケースが用意される。今だ。半島側から来た船を光の玉で爆破する。船の残骸が辺りに飛び散る。日本側から来た船の甲板で4人の男達が走り回っている。船内からは銃を持った2人が出て来る。全員を光の玉で始末する。

 甲板に降り立つ。包みの中は大量の覚せい剤。スーツケースの中には札束だ。両方とも持って帰ろう。船をどうするか・・・前回の漁船よりもボロい。光の玉を真下に向かって撃つ。甲板から船底まで穴が開き、噴水の様に海水が噴き出す。荷物を両手に持って飛び上がる。船はすぐに沈むだろう。『あたご』に向かって飛ぶ。両手に荷物を持っているのでゆっくりと飛行する。15分後に『あたご』に着艦。ブリッジに上がる前に、自分の部屋にスーツケースを投げ込んで鍵を掛ける。

覚醒剤の包みをブリッジに持って上がる。今度の包みは大きい。1キロの袋に分けられた物が100個。100キロの覚せい剤だ。末端価格で30億円だと二階堂が言う。

 自分の船室に戻りケースを開けてみる。中には札束が200個。2億円だ。


その後しばらくは何も無かった。船室で熟睡する。ドアをノックされ4時に起こされる。

『瀬取り』だ。船2隻を爆破して覚醒剤50キロを持ち帰る。乗船から、ほぼ丸2日後の9月11日、午後3時までに、更に3件の取引を潰し、170キロの覚せい剤を押収した。合計で360キロの覚醒剤だ。俺が頂いた金は1億円が追加され合計で3億円になった。午後10時に舞鶴の港に着く。丸2日間船に乗っていると、陸に上がってからも身体が揺れている。

 市ヶ谷までヘリで戻り、松濤の自宅に戻ったのは深夜0時だった。パオがケージの中で尻尾を振っている。

 金庫を開けて、持って帰った3億円を仕舞う。金庫の中には9億5900万円と35000ドル。口座も確認する。207億7600万円だ。

 娘達の部屋を覗くとゲームをしていた。俺に気がつき抱き着いてくる。

 俺の部屋の風呂に3人で入った。相変わらずのポジション。3人が一方向に向かって座る。俺の後ろに綾香。前にマキ。背中に当たる綾香のオッパイが気持ちいい。俺の手はマキのオッパイへ。

 俺達は英会話学校の話をしている。イギリス人の男性教師がカッコいいのだが、近づいて話した時に口臭が酷く、なるべく近寄らないで授業を受けているのだと言う。アメリカ人の30代の女性教師はペンを噛む癖が有り、その内にペンを食べてしまうと言って笑う。マキが俺に聞く。

「日本海の仕事で、いくら貰ったの?」

「たくさん」

 綾香が聞く。

「また100万円?」

「まあね」

 2人が叫ぶ『スゴーイ!明日はステーキだね』

 ステーキくらい、いつだって食えるっていうの。まあ、いいか。




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