第148話 新たな能力

9月7日

 朝7時にイザベルに起こされる。リビングで寝ていた4人の少女達はダイニングテーブルで朝食を食べていた。

 9時過ぎになるが、オヤジが漁から帰り、魚の販売が終わったら送って行くと言ったが、バランバンの街からの2人は待ちきれないのだろう。トライシクルで帰って行った。エラと対岸のネグロスからの子、イザベルと俺で浜に行く。大漁では無いが、オヤジは笑っている。そこそこなんだろう。イザベルが手際よく魚を売り捌き、全員で家に戻る。4人でバランバンの孤児院へ行く。院長とエラが抱き合って泣いている。エラは孤児院で働くことが決まった。子供達も次々に『アテ(お姉さん』と言い、エラに抱き着く。

 残るはバランバンの対岸、ネグロス島サンカルロスからの子だ。飛んで行こうと思っていたが、港に小型のスピードボートが有ったのを思い出す。3人で港に行く。ヤマハ製の17フィートのボートが有った。

 イザベルがオーナーを聞き出して交渉する。片道約30キロ弱だ。40分も有れば着く。忙しいと言うのでボートを借りる事にした。燃料代は別で3000ペソだ。燃料代は2000ペソ位は掛かると言うが遊べるので気にしない。保証金で1万ペソ置いて行ってくれと言われる。食べ物と飲み物を積み込んで出発だ。50馬力の船外機なので、それほどスピードが出ないが風が気持ちいい。操船は簡単だ。前進か後進かを選択し、スッロットルを倒す。行きたい方にステアリングを切る。それだけだ。

 港を出てビールを片手に操船する。行き先は目視できるので不安が無い。セブとネグロスの間はタニョン海峡と言われて、時として流れが速いが、今は落ち着いている。予定通り40分程でサンカルロスの港に到着する。女の子は何度も礼を言いながらトライシクルに乗って行った。バランバンに戻りながら考える・・・ボートを欲しい。

 イザベルにボートを欲しいと言った。答えは・・・ダメ。ほんの1時間ちょっと走っただけで2000ペソ近くのガソリンを遣うなど、もっての外だと言われてしまった。オヤジのボートでいいか。

 夜になり、エラに聞いていた韓国人がやっているレストランに1人で行ってみる。午後9時閉店だ。閉店間際に店に入る。韓国人の店員にもう終わりだと言われるがオーナーに会いたいと言った。出て来た男は50代前半か。念力で心臓をわしづかみみする。床に膝を着き喘ぐ・・・耳元で言う。

「女の子をだましてシティに送ると儲かるのか?」

 店員が様子を見て殴りかかって来る。光の玉で弾き飛ばした。壁に全身を打ちつけて倒れる。男がそれを見て震えだす。

「このまま心臓を止めるか?・・・」

「助けてくれ・・・何でもやる。金なら奥の金庫にある」

念力を解放し金庫に案内させる。途中で殴りかかって来たので右腕を折る。大きな金庫を開ける。中には1000ペソの束が12個。ダイヤの指輪が3個。全部頂く。心臓を再び締め付ける。男の顔が見る間に白くなってくる。1分程で解放するが、もう戻ってこない。金庫を閉じて店に出る。店内で倒れている店員の脈を診るが止まっていた。

 家に帰りイザベルに札束を12個渡す。

「悪党韓国人から貰って来た。これで孤児院の建物を増築しよう」

 イザベルは俺に抱き着いて来た。韓国人をどうしたかは聞かない。流石、俺の妻。


9月8日

自宅を作った時と同じ建築士を連れて孤児院へ行く。院長の希望を聞き、今までの建物は教室や食堂として使い、寝室になる建物を立てる事にした。2階建てで子供達の部屋が男女2つずつ。職員の寝室も一つ作る。そこにエラも寝る事になる。シャワー室も男女別に2か所。一度に4人がシャワーを使えるようする。水圧がそれほど強くないと言うので、敷地内にヤグラを建てて水タンクを上に置き、ボンプで水を送り上げるようにする。これで同時に4人がシャワーを浴びても十分な水が出ると言う。

 費用は建築士の概算で180万ペソだ。その内の人件費は兄弟や親戚に行くようになる。ゴーサインだ。建築士は図面を4・5日で作ると言うので、簡単な見取り図だけでも今日中に見たいと言った。

180万ペソの建築費の内、120万ペソは悪徳韓国人の金庫から出る。奴らが地獄に落ちていても蜘蛛の糸が舞い降りるかも知れない。まあ、ガンバレ。

市場の近くの店でリエンポ(豚の厚切りスライス・バーベキュー)を大量に買って孤児院に持って行く。野菜炒めとご飯を孤児院で用意して貰った。子供達全員と庭で食べる。見ると、セブシティから連れ帰ったエラは泣きながら食べている。俺と目が合うと立ち上がり、俺の方に歩いてくる。背中から抱き着いてきた。

「トールさん。本当にありがとう。ここでみんなの為に頑張るね」

「おう、ガンバレ。俺とイザベルも協力するからな」

隣りのイザベルもエラの肩に手を置く。


午後4時。自宅の庭でビール片手に子犬のプチと遊んでいた俺に、建築士が見取り図を見せに来る。なかなか立派な家になりそうだ。電気工事士の学校に行っている兄と弟も加わって細かい話をする。学校は一日4時間しかないので、十分に大工として働ける。叔父さんと息子も一緒に働く。

 午後5時過ぎ。イザベルと家族に別れを告げて、裏庭から沖縄に向かって飛び立つ。

 30分後、オバアの家の庭に着陸する。飛行服を脱いで、玄関でオバアに声を掛ける。台所から出て来たオバアは何か言いながら抱き着いてくる。歩くのが遅くなっている。

 ビールを一本貰い、縁側に座って飲む。美香が市場から帰って来る。仕事の後で買い物に行っていたようだ。俺を見つけ、軽自動車から飛び出すように降りてきて俺に抱き着く。

 オヤジは漁協の集まりで帰りが遅くなるらしい。俺と美香とオバアの3人でテーブルを囲む。俺の横には猫が座っている。焼き魚とゴーヤの漬物、モズクのみそ汁。沖縄の味。

 食事が終わってシャワーを浴びる。居間には泡盛が用意されている。つまみはカリカリに揚げた、塩味の小魚フライ。これも旨い。美香の表情があまり冴えないので聞くと、オバアの腰の具合が良くないらしい。そう言えばオバアの姿が夕食の後見えない。自分の部屋で寝ているらしい。オバアの部屋に美香と行ってみる。オバアは横向きになって寝ていたが、俺の姿を見て起き上がる。俺が言う。

「オバア、腰痛いのか? ちょっと俺に見せてみろ」

オバアがうつ伏せになる。痩せた腰を軽く押してみる。気持ちのいい箇所と痛い箇所があるようだ。痛いという場所に手を当てると冷気が掌に伝わって来る。手に神経を集中して冷気を消し去るように追い出す。5分程で冷気を感じなくなった。

「オバア・・・体勢を変えて見て」

オバアが布団の上で座る。背筋を伸ばす。そして立ち上がって腰をひねり何か言う。

 美香が俺に通訳する。

「トオルさん。オバアの腰、痛くないって・・・治ったって」

 オバアは部屋の中を歩き回っている。動きが早くなった。良かった。美香が不思議そうに俺とオバアを見ている。

「オバアに何したの?」

「見てただろ。手を当てたんだ。治療する事を手当てって言うだろ」

 美香が俺の背中に抱き着く。玄関で音がする。オヤジが帰って来たようだ。俺達も居間に出る。美香がオヤジに言う。

「オバアの腰が治った。トオルさんが治してくれた・・・」

 歩き回るオバアを見て、オヤジが口を開けた。


 オヤジが漁の話をする。このところ調子がいいようだ。魚探の使い方にも慣れて、効率よく魚が獲れ、無駄に走る事が無いので燃料代が節約できると言う。


サンシンとオバアの歌声が心地いい。

時々、美香も一緒に歌う。

 美香の人差し指にバンドエイドを見つける。魚を捌いている時に切ってしまったらしい。

バンドエイドを取ってみると確かに切り傷がある。結構深い傷だ。傷の有る人差し指を俺の手で包み、美香の顔を見る。意識を手に集中する。美香の指を握った手が暖かくなってくる。握った手から何かが立ち上って飛んでいく。美香の目を見つめる。3分位、そのままでいただろうか。手を開き、美香の指を見る。傷が無くなっていた。美香が俺の顔を見つめる。

「トオルさん・・・あなたは神様?」


 ただのスケベだったんだけど・・。


 夜半過ぎに美香が俺の布団に入ってきた。裸になった美香を月明かりで見る。青白く照らされた身体は壊れてしまいそうに綺麗だ。ゆっくりと、壊してしまわないように抱いた。



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