第143話 イラン攻撃

8月31日。午前11時。松濤の家に帰ると娘二人とパオが駆け寄ってくる。綾香とマキは明日から英会話でベルリッツに通う。神原が送って行く事になっている。帰りは表参道から渋谷まで歩いて帰って来たいそうだ。

 昼食は幸恵のロールキャベツだ。タップリと挽肉が入っていて旨い。神原夫婦は、すっかり松濤の暮らしに慣れている。

 午後1時、二階堂が来る。イランの打ち合わせだ。NSAからの衛星写真を50枚以上持って来る。どれもペルシャ湾沿岸部だ。都合がいい。俺が持っている衛星携帯の端末のマップに今現在のミサイル配置場所をマークする。

 話は米軍が引き上げた後の日本の軍備の話になる。ミサイル護衛艦『かが』の建造費が1200億円だったが、今現在、同等以上の物を作ると1500億円が掛かる。排水量19500トン、全長248メートルで『いずも』と同等の規模で空母としての運用が可能だ。艦の規模は小さいが、イージズ護衛艦の『あたご』7750トンは2002年当時で1500億円が掛かっているが、これはコンピューター関係の値下がりの為、今では1400億円程度で建造できると言う。

 今現在で空母に転用できる『かが』と『いずも』の2隻は改修して転用する。費用は800億円。イージス装備のミサイル護衛艦を2隻建造で2800億円。現在のイージス艦全ての改修等で1000億円。船舶関係だけで4600億円。搭載ミサイル等が400億円。艦載機は、ヘリの平均コストが、ヘルファイア等の戦闘装備も入れて1機60億円で20機で1200億円。主力戦闘機となるF35は垂直離着陸が可能なB型で、三菱重工の工場での組み立てで1機当たり100億円弱。水平離着陸のみのF35Aでは85億までコストが下がる。F15に関しては既にアメリカ側に注文済みなので計算外だと言う。

 日本国内に2か所建設予定のイージスアショアは、北朝鮮の核施設を破壊後に中止になっている。これで迎撃ミサイルのテストも入れると約5000億円が節約になる。

 船舶関係の5000億円と艦載機のヘリ20機の1200億円。移動式地上ミサイル設備の1000億円の総額7200億円を掛けても実質2200億円の追加で済む。その他、地上施設の改築や隊員の増加に寄る出費を800億円。その中には在日米軍が撤退した後の施設の改修も含まれる。総額で3000億円の追加出費で済むのだ。今まで米軍に掛かっていた年間3000億円で済んでしまう。F35の組み立てや造船、ヘリの製造に関わる三菱重工に支払う金額も見直しを迫れば50億円以上は経費を節減できると言う。天下り役員の顔を立てる事など無い。消費税を上げて国防費に転用する等不要なのだ。少なくとも俺の能力が有るうちは。


 あっと言う間に夕飯の時間になってしまった。二階堂も一緒に焼き魚を食べる。さんまの塩焼きだ。俺のリクエストで幸恵が買って来ていた。大根おろしをタップリと載せて、アジポンをかけて食べる。日本の味だ。娘達は肉の方が好きなのは分かっているが、たまには焼き魚もいいだろう。

 幸恵が言うには神原が庭で、七輪で焼いたらしい。旨い筈だ。

 気が付くと8時になっていた。今回、空港へは自分のE63Sで行く積りだったが、飛んで行く事にした。急がなくても15分も有れば着く。1万ドルと荷物を入れたボストンバッグを持ち、シルクのシャツにブリオーニのスーツだ。20分を掛けて成田までゆっくりと飛んだ。

 エミレーツのファーストクラスは驚くほどに豪華だ。ほぼ完全な個室に、専属とも思えるCAのケアだ。11時間弱で到着してしまうのが惜しいようなフライトだった。

 9月1日、早朝の午前4時に、ドバイのアール・マクトゥーム空港を出ると、迎えのBMWの5シリーズが来ていた。空港を出ると完全な砂漠の中に伸びる道だ。10分も走るとビル群の明かりが見えて来る。昔は砂漠の中のオアシスと言えば緑だっただろうが、ここは金に飽かせて奇抜なデザインの高層ビルが立ち並ぶ。

 ハイウェイを15分程走り海沿いの道に出る。左側に俺が予約した『ブルジュ・アル・アラブ』が見えて来る。ホテルの為に作られた様な島に立っている。

 ホテルに一歩入って、とんでもない吹き抜けに驚く。30階位までの吹き抜けではないだろうか。52階の部屋に案内されると広さに又、驚く。1階がリビングで上階がベッドルームになっている。窓の外を見ると、眼下に扇形に作られたプライベートビーチがある。部屋を中国人のボーイが案内する。広さは200平米以上だと言う事だ。バスルームにはジャグジーも付いている。この階、専用のバトラーがおり、24時間、電話一本ですぐに駆けつけると言う。

 昼からイランへの攻撃を始めるので少し寝ようと思っていたが、こんなホテルで1人ですぐに寝るのもバカらしいので、取りあえずバトラーを呼んでみる。

 5分後にバトラーが来た。女を呼べないかと聞くと、人種と予算を聞かれる。どんな人種でもいると言うのだ。試しに1000ドルで黒人を呼んでくれと言うとニカッと笑うが動かない。チップか・・・チップは女が来たら払うと言うと部屋の電話でどこかに掛けている。30分待ってくれと言って出て行った。朝5時でも部屋に来る女がいるのだ。

 冷蔵庫のビールを飲んで待つ。30分も掛からずにバトラーが女を連れて来た。タイトミニのワンピースに身を包んだ女の身長は、ヒールを脱げば多分俺と同じくらい。ビヨンセを想像させるような女だ。黒人だが、それ程黒くない。美人だ。髪の毛はロングで黒い。バトラーに100ドルを渡して下がらせる。女の細い腰に手を廻すと俺に抱き着き、見下ろして言う。『先に払って』いくらだと聞くと1000ドルだと言う。先に500ドルで帰る時に500ドルだと言い、500ドルを渡した。

 ジャグジーに一緒に入る。泡を浮かべてお互いの身体をまさぐるように洗う。俺をジャグジーの淵に座らせ、サービスが始まる。上手い。俺の反応を見ながら攻め方を変えて来る。ベッドに移動して俺が主導権を取る。弾力のある身体はウエストが細く、尻は盛り上がったいい形だ。東洋人にありがちな扁平な尻とは全く違う。

 1時間を掛けて楽しんだ。

 女はベッドでグッタリとしている。褐色の肌に光る汗が綺麗だ。肌のキメの細かさに感心する。シャワーを浴びた後で女を起こす。俺にキスをしてバスルームに歩いて行った。身支度を整えた女が部屋から出て行く時に残りの金とタクシー代だと言って100ドルを渡すと抱き着いてくる。時間が有ったら呼んでくれと言って、名前と電話番号だけの簡単な名刺を置いていった。


 窓の外が明るくなっている。時計を見ると午前8時だ。バトラーに朝食のレストランを予約をしてもらう。アジア料理の『JUNSUI』がお勧めだと言われた。ビュッフェで好きな物を好きなだけ食べられる。

 レストランに着くと何故か違和感が有る。周りを見渡すと、中国人観光客だらけだ。9割が中国人という雰囲気だ。ビュッフェと言っても雰囲気は高級レストランなのに、彼らの格好は、かなりラフだ。ジャージの上下や短パンTシャツのオヤジまでいる。もちろん話し声はデカイ。気を取り直して食べる。寿司、鉄板焼き、蕎麦、インドネシアで出て来るピーナツ風味の焼き鳥やミゴレンと呼ばれる焼きそば。

 腹は膨れた。味は悪くないが旨くは無い。ビュッフェなのに120ドル。流石に高い。

 ビールを1本飲み、部屋で10時まで休む。広すぎるリビングルームに一人でいても暇なだけだ。ベランダから飛び立つ。上空1万メートルまで上がり、北北東に向かって飛ぶ。200キロも進むとペルシャ湾対岸のイランが見えて来る。ほんの5分だ。

『バンダレ・アッバース』の街だ。ここを起点に左右に300キロで、沿岸部600キロのミサイルを攻撃する。高度1500メートルで、取りあえず右に流す。海岸線は南に向きを変え、オマーン湾となる。海岸から2キロ内陸を飛び帰りは内陸へ更に2キロ入る。起点の街に戻るまでに移動型ミサイル車両を12台とミサイル基地2か所を爆破した。バンダレ・アッバースを過ぎて西方向へ飛ぶ。ペルシャ湾奥へと進む。カタールの対岸にあたるジャムの街までに7台のミサイル車両と小規模なミサイル基地を1箇所爆破する。攻撃時には500メートルまで高度を下げていたので、ミサイル基地では対空砲火にあうが、砲弾が500メートルの上空まで達する時には速度が落ちているので避けるのも簡単だ。

 ジャムの街から引き返す。内陸に1キロ移動する。後ろから嫌な気配。振り向くとミサイルが俺に向かってきている。横に逃げるが追って来る。サイドワインダーが2機だ。光の玉で爆破する。更に4基のサイドワインダーが迫って来る。爆破しながら高度を1万メートルまで上げる。イラン・イスラム共和国空軍のマークを付けたF4ファントムⅡが3機追いかけて来る。3機とも光の玉の餌食だ。

 頭にきた。テヘランのチャバハル空軍基地まで行ってやろう。ここからなら800キロも無い。12000メートルに高度を上げて飛ぶ。15分でテヘラン郊外の基地上空に着く。高度500メートルから駐機している約50の戦闘機を爆破する。更にハンガーと管制塔を破壊する。スクランブル発進してくる機は、離陸直後に爆破した。

 高度を上げてペルシャ湾側に戻り、探索を続ける。向こうから攻撃してくれると対象を見つけやすい。バンダレ・アッバースまでにミサイル車両5台を爆破した。

 ドバイに戻る。疲れ切ってホテルの部屋に帰る。ルームサービスで1ポンドのステーキを注文する。350ドルで最高の肉を提供できると言われる。ライスも付けてくれと言ってソファーに横になる。約3000キロを飛行した。途中でカロリーメイトで燃料補給したが間に合っていない。立っているのも辛い。30分後にやっと食事にありつけた。午後2時になっていた。


トランプ大統領から電話が掛かって来る。

「トール。派手にやったな。最高だ」

「あんたの望みだろ、ドナルド」

「トールを敵には出来ないな・・・10ミリオンは送金済みだから確認してくれ」

「調印式は大丈夫だな?」

「心配ない。9月2日の日本時間で午後8時からになったよ。トールも来るだろ」

「8時なら間に合うと思う。今はペルシャ湾だから帰るのにも時間が掛かるんだ」

 電話を切ってテレビを点ける。CNNでは早くも俺がやった事がニュースになっている。米軍側は攻撃を否定している。二階堂からの電話だ。

「凄い事をやりましたね。イスラエルが防御態勢を固めています・・・それと調印式は2日の午後8時からになりました。ボスも出席出来ますか?」

「それは聞いてるよ。トランプさんから。飛行機が定刻に着けば6時位には行けるよ」

「それでは細かい事は帰国後に官邸で話せますね。ドバイはどうですか?」

「建物は奇妙なのが沢山建ってるけど、歴史の無い街だからかな・・・面白くないな。ホテルは客も従業員も中国人ばっかりだし」

「そうですか。遊び過ぎないようにお願いしますよ」

電話を切った。冷蔵庫からビールを取り出して飲む。バトラーを呼ぶ。今朝のバトラーとは違う奴だ。白人の女を1000ドルで呼んでくれと頼む。チップは女が来たら払うと言った。30分後に来た女は小柄なルーマニア人だった。学生の様な服装だ。青い目で可愛い。バトラーに100ドル渡した。

 サービスは夕べの黒人の方が良かったが、可愛いので許す。

 午後7時までタップリと可愛がり、ホテルの地中海レストランに一緒に行く。ウェイターお勧めの料理を、ルーマニア人の彼女は喜んで食べていたが余り旨くない。結局、俺はステーキを注文した。総額620ドル。なんでも高い。食事が終わって彼女を解放した。1000ドルを渡している。


 時間は午後8時半だ。ベッドルームへ行くのも面倒なので広いリビングのソファーで横になる。1時間ほどウトウトするとドアをノックされる。

 ドアを開けると夕べのバトラーがニコニコして立っている。私服だ。マッサージは要らないかと聞く。彼の後ろに東南アジア系の女が立っている。彼女がマッサージをする訳か。30歳前後のまあまあの美人。聞けばフィリピン人だと言う。90分100ドル。まあ、いいか。バトラーに20ドルのチップを渡し、女を部屋に入れる。150センチ位の小柄で痩せ型。ベッドルームに行き、パンツ一枚でうつ伏せに寝る。足から揉み始めるが上手い。フィリピンでは『テスダ』と言う教育システムが有り、無料、又は格安で各種の職業訓練を受けられる。そこでマッサージを習って。卒業後ダヴァオのマッサージ屋で働いていたらしい。しかし、給料は日給50ペソ(約110円)で、客からのチップが主な収入だったと言う。そこにドバイでのメイドの求人が有り4か月前にフィリピンからドバイに働きに来た。メイドの給料は月に1500ドル位でフィリピンとは比べ物にならない程いいと言うが、外に出ると物価が何でも驚くほど高い。ファーストフードでも1000円以下で食べられる店は珍しい。それで、メイドの仕事が休みの日にはマッサージのアルバイトをしていると言う。90分で100ドル。100ドルと言えばフィリピンペソで約5000ペソになる。90分でフィリピンでの半月分の稼ぎになる訳だ。

 身体を揉まれている内にジュニアがムズムズしてくる。起き上がり彼女をベッドに寝かせる。彼女が俺に言う。『あと100ドル』


 1時間後、ベッドで抱き合ったまま、荒い息を鎮めていた。女はシャワーを浴びて200ドルを持って笑顔で出て行った。

 午後11時だ。ジャグジーに湯を溜めてビール片手にゆっくりと浸かる。

 深夜の0時30分にホテルをチェックアウトする。冷蔵庫の飲み物代等の550ドルを払って終わりだ。ホテルのBMWで空港へ向かう。


 空港ラウンジで財布を見ると、持ってきた1万ドルが5000ドルになっている。5000ドルを遣ったか・・・殆ど女だった。

 エミレーツのファーストクラス担当のイギリス人CAと仲良くなり電話番号を教えてもらう。26歳の美人だった。飛行機は定刻より早く17時15分に成田に着陸した。

 飛ぶのも面倒だったので成田エクスプレスで上野まで行く。午後6時には上野駅に着き、タクシーで首相官邸に向かう。タクシーの中で口座を確認した。ジョンの名前で10億6000万円が入金されていた。残高総額は約207億700万円になっている。

 

 アンに電話する。株の事を聞くと。三菱重工とIHIの株を買っていた。


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