第136話 朝鮮総連ビル
8月23日 朝10時。二階堂が松濤の自宅に来る。1時間前に電話で起こされていた。
誕生パーティーの受付で集められたお祝い金、約2300万円を持ってきた。お祝いをくれた人のリストと金額を一覧にして書き出してある。それとは別に約3800万円をテーブルに置く。徳永と松本のキャッシュカードで引き出した金だと言う。昨日と今朝も引き出していたらしい。いくつかの口座は残高がゼロになったと言う。徳永の6つの口座の残高は合わせて約600万円。松本の3つの口座は約20万円だ。2人には口座に手を付けるなと言っていたのを守っているようだ。6100万円のテーブルの金の内、1100万円を二階堂が自分に引き寄せる。俺が聞く。
「それでいいのか?」
「明日も徳永の口座から残りの600万円を私が頂きますから」
二階堂が笑う。今日も朝から5000万円が入って来た。
「ボス・・・今日は朝鮮総連に乗り込みましょう」
「靖国神社の裏手のビルか?」
「そうです。形としては競売されても、拉致被害者の件があったので、日本政府は連中が居座り続けるのを黙認してきたビルです」
「あそこを襲って何をする?」
「毎月第四金曜日に、まとまった金が中国工商銀行から北朝鮮に送られる仕組みになっています。今日が第四金曜日で、午後2時に中国工商銀行が集金に来ます」
「8月分の上りを俺達が頂くって訳か」
午後1時。俺達は朝鮮総連の向かいの東京逓信病院の屋上にいる。向かいの総連ビルを透視する。8階の役員室の奥が金庫室だ。金庫の前にテーブルが有り、4人の女性が金を数えている。そばで見ている太った男が1人。役員室の窓から飛び込めば金庫室はすぐだ。
タイミングを待つ。中の4人の女性が数え終わり札束を並べ終わった時を狙う。
地上の入り口の門には警備の警察官が4人いる。素早く静かに動かなくてはならない。1時15分。中の女性たちが札を数え終わったようだ。空の大型バックパックを背負った二階堂を抱えて飛び上がる。高度500メートルまで上昇し移動する。総連ビルの真上から8階の役員室の窓の前に降下する。窓を念力で開け、二階堂を室内に下し、自分も中に入る。左側の突き当りのドアが金庫室への入り口だ。
鍵の掛かっていないドアを開け、中の5人の動きを念力で止める。テーブルに札束が積み上げられている。この8割がパチンコ屋からの金だと言う。1000万円の山が83個。8億3000万円。バックパックに金を詰める。6億円でバックパックは一杯だ。近くにあったジュラルミンケースに残りの2億3000万円を入れる。男のジャケットのポケットを探り財布を見つける。中にあった40万円を頂いて自分のポケットに捻じ込む。空けられている金庫室に入った。中は2メートル程の奥行きの立派な金庫だ。左側は引き出しが並び反対側は棚だ。引き出しを開けるが書類ばかりだ。右の棚の小さな黒いケースを開ける。中にはダイヤモンドが20数個。別の重いアタッシュケースを開けると1キロの金のインゴットが20個。もう一つのアタッシュケースには100グラム程に分けて包まれた白い粉が30個。覚醒剤だ。ダイヤと金塊を2億3000万円を入れたジュラルミンケースに移す。覚醒剤を金庫から持ち出し、1つの包みに穴を開け、男の頭から白い粉を振りかけた。口にもごく少量入れる。他の包みを男のポケットに入れ、残りはテーブルに並べた。
二階堂が電話する。警察ではない。厚生省の麻薬取締官と話が出来ていた。もし、覚醒剤が出てきたら連絡をすると。
正式な裁判所からの令状も取ってあるはずだ。
役員室の窓から二階堂が下を見る。俺は、念力で止められている4人の女性全員を裸にしていた。一番若そうな美人が、立ったままテーブルに手を着いているポーズだ。見ている内にジュニアが元気になって来る。役員室から二階堂の声がする。『マトリが来ましたよ』
仕方ないので女は諦め、窓のそばにジュラルミンケースを運ぶ。数台の車が門の前に着き、警備の警察官に令状を見せている。警察官と共に建物に入って来る。二階堂を窓枠に座らせ、いつでも飛び出せる態勢で待つ。廊下に足音が聞こえて来る。二階堂を背負い窓の外に出て横に移動し、空中で静止して隠れながら部屋の中を見る。廊下側のドアに手が掛かった音がする。10人以上の捜査員が部屋に踏み込んで来た。同時に念力を解く。奥の金庫室に捜査員達が入って行く。女の悲鳴と捜査員の怒号が聞こえる。
近くの法政大学に着地し、駐車場に停めてある黒のクラウンに戻る。60キロ以上のバックパックと40キロを超えるジュラルミンケースをトランクに入れる。車に乗り込み2人で大笑いする。二階堂を車に残し、道路に出る。少し待つと遠くからイカツイ車が走って来る。中国工商の現金輸送車だ。総連ビルの100メートル手前で念力で車を停める。車の後ろに回りドアロックを小さな光の玉で破壊し、ドアを開ける。中の警備員が2人が中国語で叫ぶ。光の玉で気絶させる。車の中には大きなジュラルミンケース2個と、帆布製の袋が3つ。全部をどうにか抱えて飛び上がり、すぐ近くの法政大学の駐車所に停めたクラウンに戻る。トランクが一杯になった。
松濤の家に戻る。応接間に奪った全てを運び込む。現金輸送車からの2個のケースには2億円ずつ。帆布製のバックには使い古しの各紙幣が合計で3億8000万円。
合計で16億1000万円とダイヤ23個、金20キロ。現金輸送車のケースの金も新札ではない。どこからか集めてきた金だろう。ビールで乾杯していると故買屋が来た。金20キロとダイヤ23個を14400万円で引き取って行く。17億5400万円がテーブルの上に再度置かれる。小山の様だ。二階堂は5400万円を自分の方に引き寄せた。家の金庫にはもう入らない。午後3時を過ぎていたが、取引銀行に電話をしてみると、4時までに行けば受け付けると言われる。再び二階堂と17億円をクラウンのトランクに入れて日本橋に向かった。
口座の残高が196億5000万円になった。その内50億円が定期預金になっている。
午後4時。浅草に向かわせる。浅草ビューホテルの向かい側のステーキ屋『松波』で肉を食べる。いろいろ注文して3万円だ。食後、二階堂を吉原に連れて行く。男なのだから嫌いな訳は無い。高級ソープ120分10万円。食事代もソープ代も総連ビルの男の財布から貰った40万円から出た。
午後8時。銀座『夢路』に行く。アンと女の子5人が一緒に座る。2人の女の子は同伴で、9時までに出勤だと言う。二階堂と再び乾杯。ベル・エポックのピンクが旨い。最近、やっとシャンパンの味が分かるようになっていた。銀座に通い始めた頃は、キャバクラの1万円のスパークリングも銀座の20万円のピンクシャンパンも同じだった。
9時前に同伴の2人の女の子が出勤してくる。一緒だった客は陸上自衛隊の田村だった。『やあやあ』と挨拶し、俺達のテーブルのシャンパンボトルに目を移し『景気良さそうですな』と言い、U字型の席の、俺達の反対側に座る。麦焼酎の『吉四六』を水割りで飲み始める。ハウスボトルの焼酎は『黒霧島』で、別に金を払わなくても飲めるが、見栄で安いボトルを入れているようだ。アンが俺に耳打ちする。
「同伴して来た子の1人が田村さんのお気に入りなの。一生懸命口説いてるみたい」
「店でも持たせてやればいいのにな・・・」
アンが俺の腕をつねった。声をおとしてアンが言う。
「今日ね、朝鮮総連のビルで、麻薬で大勢が逮捕されたのは知ってますか?」
二階堂が答える。
「北朝鮮は国を挙げて覚醒剤を作ってるからね。外国に売れば大金になるから。大勢が逮捕か・・・」
二階堂は俺を見て『ニヤッ』と笑う。『めでたい!シャンパンもう一本』と俺が叫ぶ。
田村がジロリを俺達を見た。
俺達のテーブルにドンペリ・ピンクが運ばれてくる。
10時半に60万円を支払い店を出た。タクシーで家に帰る。二階堂はJIAのスタッフが迎えに来て、車を運転して帰ったようだ。
家に入ると娘達が抱き着いてくる。パオも俺の足にまとわりつく。2人が俺にキスした後でパオが俺の顔を舐める。同じ事をしたいようだ。
3人で風呂に入る。至福の時間。身体を触りながら半分眠っていると綾香が言う。
「オジサン・・・英語勉強したい。いい学校知らない?」
ユカを思い出す。近くのベルリッツに行かせればいいか。渋谷の近くにもある筈だ。
家でゴロゴロしているだけでは良くない。
風呂から上がってネットで調べると表参道にベルリッツを見つけた。明日行って来いと娘達に言う。隔日で学校に通い、他の日は自分で勉強すればいい。
テレビを点けると朝鮮総連ビルが映っている。今日は一日このニュースだった事だろう。
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