第132話 使用人

8月18日 お盆の最終日だ。

午前10時。庭でパオと遊んでいると、マキが俺のスマホを持って出て来る。電話だ。木陰に入り電話に出る。相手は海上自衛隊特殊部隊SBUの加島だ。遊びに行っていいかと聞く。引っ越した事を知らなかったので新しい住所を教えた。午後に来ると言ったが、昼飯に誘い、12時に来る事になった。小田と長谷川も一緒らしい。

 東急デパートに娘達とステーキ肉を買いに行く。A5神戸牛サーロイン。100グラム2200円。500グラムで7枚切ってもらう。77000円。その他の買い物も入れて9万円だ。

 花屋に寄り、アンの店『夢路』に胡蝶蘭を送るように頼む。10万円で5本の胡蝶蘭が入ると言うのでそれにした。

家に帰りビールを飲んでいると加島達が到着する。ガレージに加島のレヴォーグを入れる。G63とE63Sを見てため息をついている。

 家に入って3人共歓声を上げる。長谷川が『玄関が俺の部屋全部より広い』と言って笑わせる。1階から3階まで自由に見させる。更に庭に出て小田が言う『庭園ですか?』走って来たパオが逃げる長谷川に飛びつく。

 長谷川は犬が苦手の様で逃げ回る。パオは遊んでくれていると思い尻尾を振り追いかける。大笑いだ。綾香が俺達を呼ぶ。昼飯だ。

 全員大満足のステーキだった。3人の来客の満足げな顔を見て、肉を焼いた綾香とマキが嬉しそうだ。パオには500グラムの半分を生のまま与えた。食べ終わって満足したのかリビングの隅で寝ている。


 彼らの帰り際にガレージで、来週、銀座に招待すると言った。火曜日に約束して別れる。

 午後5時。二階堂が使用人に推薦する夫婦を連れて来た。応接間で話す。 

 JIAの若いエージェントの両親だった。神原康二、50歳。幸恵、46歳。神原は俺と同じで小さな商社に勤めていたが倒産し、タクシーの運転手をしている。幸恵はスーパーでパートで働いている。住まいは埼玉の朝霞市で賃貸のマンションだ。同じ朝霞市に一戸建ての家を買いローンを払っていたが会社の倒産で支払いが出来なくなり手放したと言う。真面目そうな二人で、一目で気に入った。

 息子の上司の紹介とあれば一生懸命働いてくれるだろう。夫の康二は家の周りと庭の手入れ、車と車庫の掃除。妻の幸恵は料理を含めた家事全般を受け持つ。朝10時から夜7時までの勤務で夫婦の給料が50万円。交通費は別途支給という条件で面接に来ていたが、俺から一つ提案する。

「通いでもいいんだけど、もし良ければ住み込みでもいいですよ。1階を全く使っていないから。今は部屋が一つしか無いけど、スペースは十分に有るから使いやすいように改装してもいいし。何より、俺が留守にすることが多いから、その時に娘達だけだと心配だから・・・時間外に頼み事する事もあるだろうけど、そこは我慢して貰って。神原さんも家賃は浮くし、通勤に時間取られないでしょ」

 神原夫婦の顔が輝く。1階に案内する。8畳の部屋はダイニングとして使える。大きくは無いがキッチンも有る。他に一部屋が有れば十分だと言うが、荷物も有るだろうから、10畳くらいの部屋を2部屋作ればいいと言った。それでも1階の半分のスペースで済んでしまう。1階には通用口のドアも有るので、出入りの為に2階に上がる事も無い。幸恵は乗り気だが夫の康二が言う

「本当に有難いのですが、改装費が掛かりそうなので・・・」

「それは私の方で払うんで心配しないで。光熱費もウチで払います。その代わり必要な時は運転手もして貰えますか?時間は不規則ですが、たまにだけです」

「もちろんです。喜んで」

 決まった。あさって、引っ越して来て貰う。1階の改装が終わるまでは8畳一間で過ごしてもらい、荷物は広い倉庫代わりの場所や2階の使っていない寝室における。明日は8月20日なので給料は20日締めの25日払いと決めた。妻の幸恵が大の犬好きなのも助かった。パオは幸恵に会って3分でお腹を見せた。彼女は美人だった。

 夫婦に娘達を紹介した。他人の子と分かって驚いたが訳を話すと感激した。一緒に風呂に入る事はもちろん言えない。

 夜7時になり神原夫妻が帰る前に二楷堂を含めた6人で出前の寿司を食べた。一人前5000円の特上寿司を9人前取る。夫婦は感激して食べていた。お茶は綾香が緊張して煎れた。


 夫婦が帰って行く。二階堂が改まる。仕事の話だ。埼京線の十条駅周辺の朝鮮人を仕切っている男が対象者だ。十条駅近くに焼肉屋と赤羽にパチンコ屋をやっている男だ。住まいは十条の焼肉屋ビルの3階。1階と2階の半分が焼肉屋だ。2階の半分は事務所になっている。覚醒剤の疑いが掛かっている。対象者は45歳。痩せ型で目つきの悪い男だ。行動は明日起こすことにする。


 パオの爪を切り、シャンプーする。始めは嫌がって暴れたが、その内諦めて大人しくなる。俺の身体も毛だらけになったので、ぬるま湯を足しながら風呂に入る。パオの身体を拭き終わった娘達も入って来た。マキのオッパイもずいぶん大きくなった気がする。

 3人で浴槽に浸かりながらパオの話をする。

 パオは身体が乾くまでは大型犬用のケージに入れられている。出せと吠える声がする。


8月19日。午後1時。二階堂が俺を迎えに来る。白のクラウン。都内で一番目立たない車。帝京大学病院そばのコインパーキングに入れ、歩いて対象者の焼肉屋へ行く。念の為、二階堂には防弾ベストを着てこさせた。 

 建物の前に立ち透視。2階の事務所に対象者を見つける。他に男が2人と女が1人。3階は無人だ。銃が事務所の机の引き出しに1丁。

焼肉屋に入る。客が2人。従業員にオーナーに会いに来たと告げると表情が変わる。

「ナニ、ケイサツ?」

片言の日本語。店の奥の階段に向かって歩くと後ろから掴みかかって来る。腹にパンチ。

厨房から女の子がビールジョッキを持って出て来る。ジョッキを取り一口飲んで返す。

「ナニ アナタ ダメヨ」

これも片言。さらに厨房から包丁を持った男が突っ込んで来る。顔にパンチ。歯が飛ぶ。

女は震えている。客は逃げて行った。

2階へと階段を上がる。事務所の鉄のドアの前に立つ。光の玉を撃つ。厚いドアの様だ。破壊できない。二階堂を後ろに下がらせ、大き目の光の玉を放つ。ドアが部屋の中に飛んで行く。部屋に入ると、ドアの下敷きになって伸びている男が1人。襲いかかって来る男の顔を殴って対象者に近寄る。目が泳いでいる。手がゆっくりと引き出しの銃に伸びる。男の口に軽くパンチ。歯が飛び、後ろに倒れる。

 引き出しから銃を出し。二階堂に渡す。コルト・ガバメント45口径。いい銃を持っている。部屋にいた女が逃げようとしていたので捕まえる。二階堂が倒れている対象者に銃を突き付けて言う。

「クスリはどこだ?」

「何の事だか分からねえ・・・」

 俺が捕まえた女が韓国語で喚く。煩いので服を引きちぎった。下着もはぎ取る。女に聞く。

「お前いくつだ?」

「アンタ カンケイナイ ワタシノ オトコ アナタ コロス」

 まともでは無いが、Kポップのアイドルみたいないい女だ。

見事なオッパイをわし掴みにする・・・感触が変だ。整形か。

 二階堂が俺を見る。

「何してるんですか!」

「これも仕事・・・早く聞き出せよ」

二階堂が銃を男の口の中に突っ込み脅している。俺も対象者に近寄る。

「お前が俺の事を殺すって・・・怖いな。薬はどこだ?」

右手の中指を折った。我慢強い。左手を取り、小指から順番に折っていく。3本目の中指を折った時に、やっと観念し、壁に隠した金庫を開ける。白い粉の包みが4個。1個100グラムか。1万円の束が12個。1キロの金のインゴットが5個。全部押収だ。二階堂がバッグに押収品を入れる。突然俺の首回りが痺れる。振り返ると裸の女が俺にスタンガンを押し付けている。首を回しながら振り返る。数歩下がった女がスタンガンを俺に投げつける。俺が握った左胸がつぶれている。

「おねえちゃん、オッパイ修理した方がいいよ」

「オマエ ゼタイ コロス」

鈍い音。女の胸に小さな赤いマーク。倒れる女。二階堂を見ると手に消音機の付いたグロックを持っている。

「面倒くさいですよ。こういう女は」

「確かに面倒だな。俺達、強盗みたいだな」

 薬莢を拾いながら二階堂が言う。

「いいんですよ。こいつらも強盗以上の事をしてるから」

対象者を連れて外に出ると、この前と同じバンが停まっている。男を荷台に乗せると、バンにいた2人は2階の女の遺体をバッグに入れて運び出し、荷台に乗せて走り去った。押収した覚せい剤だけを渡した。


 渋谷・松濤の家に帰る。パオと娘達は庭で遊んでいる。応接間で押収品をテーブルに並べてビールで乾杯する。1200万円とインゴット5個。


 故買屋が来た。インゴット5個を2350万円で引き取って行った。いい商売だ。100万円は浮くだろう。改めて1200万円と2350万円をテーブルに置く。3550万円。目配せすると、二階堂は黙って550万円を引き寄せて自分のバッグに仕舞った。しみじみと言う。

「本当に悪い奴らは金を持ってますね」

「どんどん痛めつけて日本社会に還元しよう」

 2人で笑った。残る3000万円を金庫に仕舞う。金庫の金が33300万円になった。

 玄関のチャイムが鳴り、出て見るとピザの配達だった。綾香が走って来て言う。

「オジサン達が帰って来た時に頼んだの。ちょうどいいオヤツでしょ」

大きなピザが2枚だ。5700円だと言うので6000円渡して釣りはチップだ。


4人でピザを食べた。ビールによく合う。

 

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