第131話 渋谷・道玄坂
8月17日午後6時
二階堂が来る。留守番をねぎらうが彼は深刻な顔で言う。15日の終戦記念日に阿部首相が靖国神社に公式参拝した事に対して韓国政府から非難の声が上がっていた。毎年のことだが、その後でインタビューを受けていた陸上自衛隊、田村の言葉が韓国政府に火をつけた。
『国の為に戦った英霊を一国の代表が参るのは当然の事だ。何が悪い。もし日本が戦争に勝っていたら、戦争犯罪人として東京裁判で有罪にされた全ての人は、戦争の英雄だ。マッカーサーを始めとする、戦争の英雄たちは全員戦争犯罪人だ。韓国は今でも日本の統治が続き、2010年には統治100周年記念が行われていた筈だ』
これにはアメリカも怒っていたがアメリカ政府は反応を見せない。韓国政府は違う。
『戦時中の侵略行為に対しての反省が無い』
と何度も繰り返された言葉を言う。
対する田村は
『そもそも戦争というのは侵略の為だったのは明白。韓国に歴史書は無いのか。それに第二次世界大戦に日本が負けた相手は連合国のアメリカであって韓国ではない。アメリカと旧ソビエトによって半分に分けられた国が非難できるのは敗戦国である日本だけか。アメリカやロシアを非難してみろ』
田村に何が有ったのかは知らないが言いたい放題だったと二階堂は言う。俺が言う。
「思ってても口に出さない方がいい事は有るからね」
「今。民間レベルで韓国でも日本人の排斥運動が始まって来ています。前回の北朝鮮攻撃の後で、韓国に戻った日本人や日本企業も出て行けと」
「グローバル化なんて言葉がここ30年叫ばれてるけど、結局、国が有る程度裕福になると、単一民族の方が平和で暮らしやすいんだな。イギリスがユーロを抜けるってのも分かるよ。日本からも韓国人を追い出せばいいじゃないか。日本人が韓国に対して必要な物はキムチくらいのモンだろ」
「ボスは何でも簡単に片づけますね」
「嫌なモノは我慢する事無いだろ。国交断絶すればいいんだよ。韓国にだけ鎖国」
娘達がキッチンで焼肉の用意をしている。アイランドキッチンの真ん中にロースターを置き、周りに椅子を置いて食べるのだ。真上に大きな換気扇があるので煙がこもらない。
肉は近くの東急百貨店の地下で買って来た。A5神戸牛カルビ、100グラム2000円を2キロ買って来ていた。4人で完食した。サンチュに包んで食べる神戸牛もいける。
足元にまとわりついてくるシェパードの『パオ』には生のままの肉をやると興奮状態で食べた。
食事が終わり、俺と二階堂はリビングのソファーにビールを持って移動した。
二階堂が改まって話す。日本国内で悪影響のある韓国人を帰国させる計画だ。自費で帰国させ、以後の日本への入国は認めない。対象の韓国人を捕まえる『コリアンGメン』の一員として俺に働いて欲しいと言う。俺に廻って来るのは捕獲が難しい対象だけになり、報酬は基本的に1人につき100万円。金額を言う時に二楷堂の声が小さくなる。
「いいよ。報酬は安いけど、日本からゴミを掃き出すと思えば楽しめる」
二階堂は安堵の表情で持ってきたブリーフケースからファイルを取り出して俺に見せる。
捕獲対象のデータだ。渋谷の焼肉屋のオーナーで覚醒剤取引と売春に関与していると見られているが、尻尾を掴めない。55歳の肥満体。自宅は焼肉屋と同じ道玄坂のビルの最上階。10階だ。表立って法に触れる事をしていないので、超法規的処置で帰国させる。
楽しそうだ。二階堂が聞いてくる。
「どうですか?焼肉屋も利益を上げているようですが、完全な韓国マフィアのボスですね」
「今日は焼肉食べた後だし、売春の方で調べて見るか」
「すぐに始めるんですか?」
「旨いものはすぐに食う。楽しい事はすぐに始める・・・」
パソコンを持ってきて、渋谷界隈の出張ヘルスやデートクラブのサイトを見つけ、一般回線の電話番号を10件ピックアップしてメモする。携帯の番号だけの所が多く、時間が掛かった。
二階堂にメモを渡し電話番号の住所を調べさせる。蛇の道は蛇。30分で全ての住所が分かった。10件の内、4件が同じ住所だ。道玄坂の貸しマンションの一室。賃貸人は日本人だが、マンションのオーナーを調べると韓国人。対象者の妻だ。本来なら、対象者が悪人で有る事を確かめてから行動に移りたいが二階堂を信じる。
俺の中でも対象者は悪人であると決定していた。会った事は無いが・・・それでいいのだ。
焼肉屋が閉店する午後11時までを2人でテレビを見て過ごした。娘達はゲーム部屋だ。
11時になり二階堂と出掛ける。2人とも黒のスーツにサングラス。歩いても10分も掛からない。店のドアには閉店の札が掛かり、店内には片づけに動く数人が見える。ドアの横に通路が有り、奥にエレベーターが有る。階数表示は9階までだ。9階と10階を自宅で使っているのか。
9階のボタンを押す。2階から8階までは賃貸マンションの様だ。エレベーターを9階で降りると、正面に一戸建ての様な木製の立派なドアが有る。ロックを念力で外しドアを開ける。玄関ホール横に階段が有る。奥にはリビング。誰もいない。玄関ホールに戻り階段を上がる。かすかに声が聞こえる。女性の声・・・複数。
声のする方に歩く。ロックされたドア。念力で開ける。部屋の真ん中にキングサイズのベッドが置かれ、真ん中のパンツ一枚の対象者が起き上がり俺達を見る。周りには裸の女が4人。
声を掛ける。
「おいデブ。何やってるんだ?」
「誰だ・・お前らは」
「正義の味方だよ。何をやってると聞いてるんだ」
女達は手近な物で身体を隠している。
「これは・・・講習なんだ」
女達に日本人かと聞くと頷くので部屋から出て行かせた。走って逃げていく。男に言う。
「帰るぞ、韓国に」
階段を上がる複数の足音が聞こえて来る。部屋になだれ込む5人の男達。手には清瀧刀の様な刃物。男が叫ぶ『殺せ!』5人が刃物を振り上げたまま光の玉で壁まで飛んで行く。
二階堂が聞く。
「クスリは何処だ?」
「そんな物は知らない」
俺が男の左手を取った。中指を折る・・・悲鳴。俺が言う。
「あと9本あるから、何本目で答えるかな」
薬指も折る。
「・・・分かった。金庫だ。金庫の中だ」
男は壁のクローゼットを開き、中の金庫を開ける。振り返った男の手には銃。予想通り。
俺に向かって撃つ。2発、3発。煩いので銃を取り上げて右手の人差し指も折る。
金庫の中には100グラムずつ分けられた覚せい剤が5個。1万円札の束が20個入っていた。全部を金庫の横に有ったショルダーバッグに入れる。金庫の中の引き出しを開けると、1カラット程のダイヤモンドが10数個。ダイヤが散りばめられた金張りのロレックスが2個並んでいる。それも頂く。
男に服を着させてエレベーターに乗る。道路に出て二階堂が呼んだバンに男を乗せる。バンにはJIAのスタッフが2人乗っていた。仮の収容所に連れて行く。千葉県富里市にJIAの訓練施設が有り、収容所もあるらしい。押収した覚せい剤500グラムも渡す。
二階堂と松濤の家に帰った。深夜12時。応接間のテーブルに押収品を並べる。ビールで乾杯だ。娘達はゲームをしている。
深夜1時になり、二階堂が呼んだ故買屋が来る。ダイヤモンドを一つずつ慎重に見てノートに何かを記入していく。ロレックスは手に取り裏を見て終わりだ。ダイヤが12個で3800万円。ロレックスが2個で150万円。合計3950万円を現金で置いて行った。金庫から持ってきた2000万円と合わせて5950万円だ。二階堂にいくら欲しいか聞く。
「950万円・・・いいですか?」
欲のない奴だ。1000万足して1950万円を二階堂の方に押しやる。
「有難うございます。報酬の100万円は月曜に入金されますので」
と言う事は4100万円の収入か。悪くない。深夜2時になり二階堂は帰って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます