第123話 北朝鮮・救出作戦
7月18日 午前11時。
ホテルをチェックアウトする。部屋代からレストランやルームサービスまで、全部支払い済みだった。市長が払ってくれていた。二階堂に電話で礼を言わせる。
飛行機では食事後、睡眠薬を飲んで、ひたすら寝た。成田到着は、ほぼ定刻通りの7月19日16時50分だった。一日、損した気がする。
成田空港の駐車場でジェーンの後に付いて歩いて行く。3日前に停めた場所と違う。クラウンのトランク部分が凹んでいたのが修理されている。やるな、JIA。
後ろの席に座り、そのまま寝てしまう。睡眠薬が抜けきっていない。
二階堂に起こされる。周りを見ると首相官邸だった。
3人で会議室に入る。安倍総理、菅官房長官、陸・海・空の自衛隊各幕僚長が座っている。壁際には自衛隊、各幕僚長の付き人とSPが立っている。空けられていた3つの椅子に座る。安倍総理が俺達に言う。
「ご苦労様でした。トランプ大統領から感謝の電話を受けています」
軽く頭を下げる。目の前にペットボトルの水が置かれる。手に取って半分ほど飲む。アルコールの後は、やたらに喉が渇く。
官房長官か言う。
「早速なんですが、朝鮮半島が危機に陥ろうとしています。金正恩とムンジェイン大統領の話し合いがまとまらず、北朝鮮が韓国に攻め入るのが時間の問題となっています。すでに平壌とその近くの港には中国船が多数入り、武器の供給を始めており、休戦ラインの38度線に向けて南下を始めようとしています。米軍は、中国の力を借りた北の軍が38度線に到達する前に叩く準備をしています」
河野海上自衛隊幕僚長が質問する。
「38度線の北側は、どんな様子ですか」
「38度線付近は開城の工業地区となっていますので、それ程の人口ではありません。その周辺は農村地帯です」
「周辺に農民は多数いるわけですね」
「多数と言っても都市部ほどの数ではないので・・・」
航空幕僚長の丸茂が言う。
「空からピンポイントでの攻撃は可能ですが、民間人を巻き込むのは避けられないでしょう。中国の考えと同じで、民間人を盾にするでしょうから」
陸上幕僚長の田村が言う。
「そうは言っても、この時代、陸上でドンパチ打ち合い出来る軍隊は米軍でも無いですよ。特殊部隊だって人数が限られてる。空爆での民間人の被害は仕方ない」
安倍総理が言う。
「とにかく、自衛隊からの先制攻撃はしません。向こうからの日本への攻撃を待って、米軍に協力して攻撃に参加します」
田村が言う。
「それは、日本本土へのミサイルの発射が確認されないと自衛隊は動かないと言う事ですか?」
「基本的にそういう事です」
JIAのスタッフが駆け込んで来る。二階堂に何か伝える。二階堂が言う。
「明日、20日10時に米軍の攻撃が開始されます!北の大隊が平壌とソウルの中間地点を通過したのち、38度線の約10キロ手前での攻撃の予定です」
官房長官がスクリーンに地図を映し出し、攻撃場所をポイントする。地図を見てショックを受けた。慰安婦像を破壊する前に寄った北朝鮮の農村部が攻撃の場所になっている。
あばら家に住む母子に見られながら食べた雑炊を思い出す。唐突に立ち上がってしまった。
「特殊部隊と攻撃前に乗り込まさせて下さい」
全員の顔が俺を見る。
「民間人を助けられた方がいいでしょう」
二階堂が助け舟を出す。
「北朝鮮の民間人を自衛隊が救出したとなれば、世界的な評価も上がります」
官房長官が総理に耳打ちしている。『攻撃部隊でない救出部隊に、北からの攻撃が加えられれば、立派な防衛として攻撃に参加できます』
総理が言う。
「時間的には間に合いますか?」
田村が付き人を呼んで何か聞いている。咳払いの後で言う。
「習志野空挺は、すぐに動くことは動けますが、距離が約2000キロあります。C-1輸送機でも片道で燃料が尽きてしまう」
空自の丸茂が言う。
「ウチのC-2なら往復してもお釣りが来ます。速度も速いし特殊部隊の装備でも60人は楽に乗れる。」
海自の河野が言う。
「習志野空挺とウチのSBUの隊員を空自のC-2に乗せて救出地点にパラシュート降下。その後MCH-101で救出はどうですか?確かC-2の巡航速度は時速890キロ。離陸後2時間で降下に入れますね」
丸茂が言う。
「ウチの方は問題ない」
安倍総理が言う。
「作戦が終了するまでは口外無用。秘密厳守です」
自衛隊3幕僚長とJIAの二階堂で打ち合わせが始まった。最終的に翌朝5時に厚木基地からの出発となる。習志野空挺とSBUは、精鋭25人ずつを出す事で話がまとまる。
会議が終わったのは午後10時半になっていた。
その2時間後、海上自衛隊最大の護衛艦『かが』は瀬戸内海の呉基地を出港し、日本海へと向かっていた。救出用の大型ヘリ『MCH-101』5機が数時間後に着艦の予定だ。
防衛省正門まで歩き、タクシーを拾い、銀座へ向かう。少しだけでもアンに会いたい。
午後11時。アンとシャンパンで乾杯し、腹が減っていたので寿司の出前を取る。
店が終わって、アンと本郷のマンションに行き、アンの部屋で慌ただしく愛し合う。シャワーを浴びると2時半になっている。アンは何かを察しているのだろう。俺の身支度を手伝いながら電話でタクシーを呼んでくれる。
「無理しないで、ちゃんと戻って来てね・・・」
アンの目を見る・・・抱きしめる。何も言わずに出て来た。
深夜3時、自宅に戻る。静かだ。娘達を起こさないようにクローゼットを開け、ステルス飛行服をバッグに入れ、他の飛行服をバッグから出す。シルクのシャツと下着を着替える。財布に入っている約8000ドルを金庫に入れ、100万円を財布に入れる。
ベッドの横に立ち、娘達を見る。愛おしい・・・2人にキスして寝室を出た。
4時には市ヶ谷の防衛省に戻らなくてはならない。慌てていると何かを忘れる。落ち着くには・・・冷蔵庫からビールを出した。プルトップを開け半分ほどを一気に飲む。スニーカーだ。下駄箱から黒のアシックスを出してバッグに入れる。部屋を見渡す。思いのほか片付いている。テーブルの上に5万円の入った封筒を置いた。
マンションを出て、待たせておいたタクシーに乗る。運転手には1万円を渡してあった。防衛省に戻るのにも1万円を払うと言っておいたのだ。
午前4時丁度に防衛省に到着する。
MCH-101に、陸自の田村と習志野空挺の25人。二階堂とジェーン。そして俺が乗り込む。特殊部隊の装備品も有るので満員だ。隣に座った二階堂に聞く。
「河野さんは?」
「厚木でSBUの隊員をまとめています」
「きみも行くのか?」
「済みません、自分は行きません。ジェーンが中本さんの通訳で同行します」
二階堂の向こう側のジェーンに大声で言う。
「ジェーン!忙しくて大変だな!」
「中本さんこそ・・・」
二階堂に聞く。
「報酬は?」
どうでも良かったが聞いた。
「決まってません。帰ってから総理と相談します」
厚木基地にはすぐに着いた。SBUの25人と河野がハンガーの中で待機している。
俺達がヘリから降りると河野がハンガーから出て来る。
「25名、準備完了です」
河野に続いて出て来た25人が整列する。見覚えのある3つの顔がある。
加島、小田、長谷川。長谷川の前に歩いて行く。
「もう、大丈夫なのか?」
「はい! 医者は2か月かかると言ってましたが、1ヶ月で復帰しました!」
「良かったな」
「はい!ありがとうございます!また、中本さんと作戦に参加できるのを誇りに思います!」
習志野空挺の隊員が俺達を見ている。田村が隊員を整列させ言う。
「気を抜くな。どこから攻撃があるかわからん。敵だと分かったら躊躇せずに撃て」
河野がSBUの隊員に言う。
「戦場からの民間人の救出作戦だ。救出の為に命を落とすな!無事に帰ってこい」
空自のC-2搭乗員3名が、空自幕僚長の丸茂によって全員に紹介される。3名に降下までの命を預ける全隊員が敬礼する。C-2搭乗員が言う。
「C-2の格納庫内の電光掲示板に『降下』の表示が出ている間に降下して下さい。英語で『WAIT』が出たら待ちます。旋回して再度位置を調整したら『降下』の表示が出ます。25名ずつ2回に分けての降下になると思います」
隊員がC-2に乗り込み降下口と装置の確認をし。格納庫の両側に設けられたベンチに座る。ジェーンが見慣れない服に着替えて来る。太って見えるので可愛い。二階堂が言う。
「これもステルス塗料を塗りつけた防弾仕様の服なんです。胴回りはライフルで至近距離から撃たれても貫通しません」
これを着て、俺にしがみついて飛び降りる訳か。どこか他に飛んで行きたい。俺も急いで着替えに行く。必要な物をポケットに入れる。
俺とジェーンが最後にC-2に乗り込んだ。コックピットに近い席に案内される。
予定通り午前5時にC-2が離陸し、北朝鮮に向かう。隊員たちの緊張が伝わって来る。
俺は、持ってきていたオニギリを食べ始めた。ジェーンに「食べるか?」と聞いたが無視された。
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