第121話 コリアンタウン

CIAのセーフハウスで、被弾した二階堂の身体をジェーンが調べている。胸の左側に当たっており、肋骨にヒビが入っているかも知れないと言う。大きく息をしたり、笑うと痛いらしい。 

 俺のシルクのシャツは、マシンガンの弾を数10発受けてズタズタになっていた。CIAのスタッフがTシャツをくれた。デカイが仕方ない。

 二楷堂とジェーンが乗り付けたレンタカーのカムリを紅竜房の前に置いたままだった。CIAが俺達をホテルまで送ってくれる途中で紅竜房の前を通って見る事にした。

 俺が助手席、二階堂とジェーンが後部座席に座る。日系人のCIAスタッフが運転席に座り、日産のローグ(日本名エクストレイル)を走らせる。20分程で紅竜房の前を通り過ぎるがカムリは無かった。鍵を付けたままだったので盗まれたかも知れない。レンタカー屋に盗難届を出せばいいだろう。フルカバーの保険に入っている。


ビバリウィルシャーの俺のスイート。3人でソファーに座りビールで乾杯する。ジェーンに子供達の今後の事を聞く。

「中国から連れてこられた子供達は中国大使館へ連れて行かれます。韓国語を喋ってたのは北朝鮮から中国への脱北の子供で、韓国大使館が引き受ける事になるそうです」

「あの子供達の臓器を売る積りだったのか?・・・やつらは」

 二楷堂が答える。

「臓器だけではなく、角膜や皮膚までが取引の対象になります。車が解体されるように各パーツが売られるようです・・・子供1人当たりで、30万ドルから100万ドル以上の売り上げになるそうです。同じタイミングで各臓器を必要としている人が居れば、売り上げが大きくなるわけです」

 子供が手術台で腹を開けられているのを想像してしまった・・・。

「許せないな・・・子供を安く買って来て、金持ちに切り刻んで売る・・・パーツ?ふざけるなよ。買う奴も買う奴だよ。違法に手に入れたのを分かってるんだろ?」

 二楷堂が言う。

「顧客は主にアメリカ人ですが、中東系、中国人、それに日本人もいるそうです」

 言葉が出ない。

「コリアンマフィアも同じ事をやってるのか?」

 二楷堂が答える。

「いいえ、こっちはドラッグです」

「近いのか?」

「ここから見ると、チャイナタウンの手前右側にコリアンタウンと呼ばれている所があります。ウィルシェアセンターと呼ばれている辺りなんですが、リトルバングラディシュですとか、いろいろな国のレストランが入り乱れている所の中に、韓国系が集まっている場所のビルのひとつです」

「そこもレストラン?」

「連中が経営しているレストランも別に有りますが、ボスはビルの事務所内です」

「明日の昼間に様子を見に行こう」


2人を部屋に返した。ベッドで横になる。地下室に閉じ込められていた子供達の怯えた顔が頭に浮かぶ。貧困の中で親に手放された子供もいるのだろう。彼らが中国の親元に帰ったとしても、どんな未来が待っているのだろう。北朝鮮の子供は家族で脱北し、取りあえず中国に逃げたと思われる。その後、どうして・・・・。


冷蔵庫からバーボンの小瓶を取り出して飲む。明日はコリアンか。


7月17日。

朝8時にジェーンに電話で起こされ、朝食を食べに行こうと言われる。

3人でロビーで落ち合いレストランへ行く。朝からフォーマルな雰囲気だ。中には短パンの白人もいるが、短パンTシャツの東洋人は舐められるのが分かっているので、朝からシルクのシャツを着ていた。

 クラブハウス・サンドウィッチ。ヴォリュームが凄いが味は帝国ホテルの足元にも及ばない。

 食事が終わり部屋に戻り、水着に着替えてプールサイドに行く。

 二階堂にコリアンの事務所の様子を聞かされる。CIAからの情報だ。CIAは逮捕する気が無い。逮捕してもキリが無い。これは超法規的処置としての大統領からの依頼だ。

 事務所にはボスを含めて通常8人の韓国人がいる。ボスは30代半ばの痩せ型。写真を見せられる。目が細く、韓国映画の悪役にピッタリだ。一緒に映っているボディガードの大男が2人。レスラーの様な雰囲気だ。キャデラックのエスカレードが愛用の車。中国人マフィアと同じだ。ぶつけられた時に、デカく重い車が勝つのを分かっている。防弾仕様と言う事だ。


 周りを見渡すと水着の女が目に付く。昨日の白人ジジイが女達とプールでじゃれ合っている。ジェーンを見る。黒のワンピースの水着がセクシーだ。わき腹の部分が大きく空いている。フランス人と日本人のハーフだったかな・・・アメリカ娘に負けずに足が長い。二階堂がいなければ、ジェーンにプールで抱き着いて遊べるのに。

 ウェイターがビールを運んできた。二階堂とジェーンはコーラ。ジェーンが俺に言う。

「1本だけにして下さい」

「大瓶が有ればいいんだけどな・・・」

 ジェーンに無視される。二階堂が笑う。肋骨の辺りをつついてやる。大げさに痛がるのでプールに放り込む。俺もジェーンに背中を押されてプールに落ちる・・・寸前にジェーンの手を握って一緒に落ちた。二階堂が背を向けて、ゆっくりとプールサイドに上がって行く。ジェーンを振り向かせ抱きしめ、キスをする。手はジェーンの尻を掴んでいた。すぐにジェーンに肩を押されて離れる。俺達もプールサイドに上がる。プールサイドで昼まで日光浴だ。


昼食を外で食べようと二階堂が言う。旨いハンバーガー屋が有るらしい。

別のレンタカーを借りサンタモニカ・ブルバードをハリウッド方向に走る。ホンダCR-V。二階堂が運転している。俺は助手席でジェーンは後ろだ。『シェイク・シャック』。日本にも支店を出しているらしいバーガー屋だ。平屋建ての明るい建物だ。シャックバーガーのダブルを注文する。バーガー1個で8ドル以上取るだけあってデカくて旨い。ギザギザのフレンチフライも旨い。コーラもデカイ。アメリカ人が肥満に悩む訳だ。


サンタモニカ・ブルバードからウェスタンアベニューを右に曲がり南下する。少し走ると韓国語の看板が増えて来る。『オークウッド』の街で、ここを過ぎるとウィルシェアセンターで韓国人街だ。

 目指すビルの全体を見られる場所に車を停める。4階建ての雑居ビルだ。ビルの前が駐車場になっている。1階は倉庫で2階3階はアパートの様だ。4階が事務所。

 4階を透視する・・・中は2部屋で入口側の部屋にソファーセットと事務机。奥の小さめの部屋にもソファーセットと大きな机。奥がボスの部屋の様だ。手前の部屋には男が4人。全員銃を持っている。奥の部屋は無人だ。

 前の駐車場にメルセデスの旧型Sクラスが停まる。男が2人降り、4階にエレベーターで上がって行く。韓国人。事務所に入り、立ち話しの後で何かを受け取っている。エレベーターで降りて来る。この2人も銃を持っている。車に乗り走り出す。二階堂に言う。

「あの車を追え。ドラッグの配達だと思うが、何か感じる」

 二楷堂が車を走らせる。ダウンタウンに向かっている。メルセデスがセブンス・ストリートの雑居ビルの前で止まる。マック10を持ちCR-Vから降りてメルセデスに走る。メルセデスのドアが開く。念力・・・ドアを閉める。メルセデスの後部ドアから乗り込みマック10を突きつける。2人の男が凍り付く。

「銃を渡せ、ゆっくりだ」

 男達が銃を出す。2丁共ベレッタだ。

「さっき受け取った物を出せ」

 助手席の男が言う。

「何の事だ」

 マック10の引き金を瞬間引く。5発の弾がシートを突き抜けて助手席の男に当たる。2発が貫通しダッシュボードに食い込む。残りの3発はシートの中の固いもので弾頭が変形した後で男の身体に入り、ダメージを大きくしたようだ。貫通せずに体内に留まる。

 運転席の男が震えながらタバコの箱を渡す。ラッキーストライクの箱。箱を開けるとラップされた白い粉。

「これを届けにここに来たのか?」

 頷く男。

「届けに行こう。案内しろ」

男と一緒にメルセデスから降り、雑居ビルに向かう。CR-Vを見て手招きする。2人が走って来る。二階堂はマック10を持っている。ジェーンに俺が持っているマック10を渡す。男は震える足取りで階段を上がる。1フロアに2部屋の小さなビルだ。ジェーンが韓国語で男に言う。

「普段通りにしなさい。死にたくなければ」

3階。男が階段を上がってすぐの右側のドアをノックする。中から韓国語で何か言ってくる。男が答える。ドアが開いた。男を中に突き飛ばし部屋に入る。

マック10を構えたジェーンと二階堂も続く。中には3人の男。

ジェーンが韓国語で言う。

「こっちに出てきて・・・床にうつ伏せに寝て・・・足を広げて」

連れて来た男にも同じ姿勢で床に寝させる。奥に見えるドア。透視・・・子供が1人。

「ジェーン。奥の部屋に子供がいる」

 鍵が掛かっている。

 ジェーンが床の男達に言う。

「開けて」

 1人の男が起き上がりドアを開ける。白人の子供。怯えている。ジェーンが呼びかける。

「怖がらないで。助けに来たの」

 ジェーンに子供が走り寄り抱き着く。俺がドアを開けた男に聞く。

「誘拐か?・・・どこの子供だ」

「・・・市長の・・・市長の子供だ」

 二階堂が尋問する。彼らは俺達のターゲットである韓国人ボスの手下で、誘拐ビジネスを主として、ドラッグの売人への卸業もやっている。市長の子供を昨日誘拐し、今日の夜に身代金を受け取る予定だったようだ。

 二階堂がCIAに電話する。10分後に白のフォード・エクスプローラーが2台止まるのが窓から見える。4人の普段着の男が降り、1人は、助手席に俺が撃った男が座っているメルセデスに乗ってどこかに消える。3人がビルに入るって来る。

CIAの男達だ。子供を保護し、4人の韓国人を連れて行く。

 もし、ボスが彼らに連絡がつかないと分かったら、警戒する事だろう。仕事を早く済まさなくては。

 CR-Vに乗り、コリアンタウンのビルが見える場所に戻る。

 午後3時。待つ・・・喉が渇いた。

 来た・・・黒のエスカレードが走って来る。俺はCR―Vを降り、ビルに向かって歩く。ビルまで30メートル。エスカレードがビルの前に止まる。後部座席から男が降りる。30代の悪役顔。間違い無い。俺から20メートル。両手に気を集中する。男が俺を見る。目が合った。光の玉を放つ・・・爆発。ボスと車から降りた2人のレスラーもどきのボディガードがエスカレードと共に消える。数秒後、変形したエスカレードが地面に落ちてきた。

 マシンガンの銃声。俺の周りに着弾する。見上げると、ビルの2・3・4階の窓が全部開けられ、銃を持った男達が発砲している。アパート部分も全部韓国マフィアだ。話が早い。気を込めた光の玉をビルの2階部分に放つ・・・ビルが崩壊した。仕事が終わった。

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