第120話 中国人マフィア

チャイニーズレストラン『紅竜房』

2階の小さな個室をジェーンに予約させていた。


店の前の駐車場にありふれたトヨタ・カムリを止める。レンタカーだ。

ポットに入ったジャスミンティーと前菜。クラゲもピータンも好きじゃない。小籠包が出て来る。熱々の小籠包をレンゲに乗せて食べる。溢れ出て来るスープを味わう・・・旨い。

海老餃子。プリプリの海老の食感がいい。チンジャオロースのピーマンもシャキシャキだ。魚フライの甘酢あんかけ・・・上海ライスに乗せて食べる。旨い。フカヒレのスープは1人分に一枚のフカヒレが丸ごと入り、さらに細く刻んだ、異なった色のヒレが味わいを深くしている。

 デザートの杏仁豆腐が出てくる前にトイレだと言って個室を出た。トイレは通路の突き当りだ。トイレの帰りに、間違えた振りをして片っ端からドアを開ける。8部屋の内5部屋は中国人では無かった。個室は満室になっていた。3階に上がる階段らしき所は鉄のドアで隠されている。上を向き、透視してみる。下からでは良く分からない。10数人の人間がいるのは分かった。デザートを食べ、清算して出て来る。1400ドル。確かに旨いが高い。金持ちが多いのだろう。


店を出て、車であたりを一周し、紅竜房を通りの反対側から透視する。3階には12人。銃を持っているのが5人。ロッカーにライフルかショットガンが2丁と銃が4・5丁。

1人だけ、離れて座っている。大きな机。細身の小さな身体にメガネ。ボスだろう。誰かを指差して指図しているように見える。2階にも銃が3丁。一番奥にあったスタッフルームだ。1階にも銃が2丁。これは厨房だ。普通のレストランにも銃くらいは有るが、その数が普通ではない。屋上に目を移す。階段室の横でタバコを吸いながら座っている男もショットガンを持っている。

 何かが足に響いてくる。叫びが響いてくる。正面の紅竜房を見つめる・・・地下。地下があるのか。

透視・・・集中する。徐々に動くものが見えて来る。コンクリートで囲まれた部屋。2つに分けられている。10人前後の人が両方の部屋で動く。子供だ。アメリカに売られてきた子供達・・・俺の考えは決まった。

待とう。出て来るのを待つ。今は9時半。CIAの報告だと、ボスは11時には店を出て自宅に帰ると言う。

仕事が終わったら飲める、ビールの事だけを考えて耐えた。


午後11時丁度。キャデラックのSUV『エスカレード』が店の前に止まる。誰かが後ろの席に乗る。小さな身体にメガネ。ボスに違いない。前の席の2人は銃を持っている。

カムリをスタートさせる。エスカレードはハリウッド方面に向かっている。間違いない。自宅に向かっている。二階堂にエスカレードを抜かさせる。慎重に、少し飛ばしている車と見える位で。サンタモニカ・ブルバードに出てウェストハリウッドでカムリが前になる。確実にターゲットは自宅に帰る。二階堂にエスカレードに抜かされないように運転させる。ロデオ・ドライブに出るすぐ手前のビバリー・ガーデンズ・パークの前で急ブレーキを踏んで車を停める。ぶつかる寸前でエスカレードが止まった。俺がカムリから降りる。後ろに向かって歩き、エスカレードに向かって手を上げ、カムリの下を覗き込む振りをしながらエスカレードに近づく。

エスカレードの車体に手を掛け持ち上げる。素早く下に潜りこみ飛び上がった。ドアを開ける気配がするが既に50メートルの高さだ。飛び降りる事も出来ない。ターゲットの自宅の上に到達する。高度を300メートルまで上げる。建物の真ん中を狙って落とした。フロント部分から建物に激突した。煙が上がり、少し間が空いて炎が上がる。


俺がカムリから降りた後は、チャイナタウンの紅竜房に戻るように二階堂には言ってある。先回りして、紅竜房の上空で様子を見る。3分後、店の動きが慌ただしくなる。何台もの車が来て男達を乗せて行く。残っているのは1階と2階のレストランのスタッフだけか。屋上の男もいなくなっている。

ビルの横に着地し、正面から店に入る。案内係に『今日は終わりです』と言われる。

構わずに中に踏み込むと、もう一人の男が出て来る。銃を後ろに隠している。

「終わりだって言ってるだろう」

 俺の胸を押す。

「地下で食事したいんだけど」

男は銃を抜く。38口径のリボルバー。銃口に小指を入れた。男は無意識に引き金を引く。銃口が炸裂し男は右手に火傷する。静かに男に言う。

「地下へ連れて行け」

 何やら中国語で叫ぶ。

厨房から銃を持った男。光の玉を受けて後ろに飛んで行く。

 銃声に驚いた客が続々と逃げ出す。二階から銃を持った男。念力で持ち上げ1階の床に叩きつける。客が先を争って逃げていく。

 床に倒れている男の髪の毛を掴んで顔を持ち上げて言った。

「地下に連れて行け」

「俺は知らない・・・」

耳をもぎ取る。悲鳴・・・。もぎ取った耳を見せる。本当は臓器を取り出してやりたい。

「両方とも要らないか?」

「分かった・・・そっちだ」

厨房の奥に鉄の小さなドアが有る。男は棚の上から鍵を取りドアを開ける。

階下へと階段が続いている。二階堂とジェーンが厨房に入って来る。防弾ベストを着ている。二階堂が倒れている男から銃を取る。

「降りろ・・・何人いるんだ?」

「10人と11人・・・男が10人、女が11人」

男の背中を押す。階段を降りる。降りきったところにも鉄のドア。鍵を使って開ける。

部屋は真ん中が通路で両側に部屋が有り、男女が分けられて閉じ込められている。通路に向かっている部屋の正面は鉄格子。全員、子供だ。大きい子でも14歳位か。

ドアの内側の壁に鍵が二つ掛かっていた。ジェーンが鍵を取り、左右の部屋の鉄格子を開ける。子供達を部屋から出す。耳をもぎ取った男を部屋に蹴って入れる。銃声・・・二階堂が男の頭を打ちぬいていた。まあ、いいか。

 俺が先頭になり階段を上がる。

厨房へのドアを出る。銃声。マシンガンだ。身体に受ける弾丸で微振動の様に揺れる。避けると後ろにいる二階堂に弾が当たってしまう。2秒ほどで止まった。調理台の向こう側に男が2人。撃ち尽くした弾倉を替えようとしている。光の玉。後ろの壁まで飛んで行く男達。

 二階堂に合図し、男達の撃っていたマシンガン、通称『マック10』を2丁と弾倉を拾わせる。ジェーンに1丁を渡す。子度たちとジェーンを厨房に残し、二階堂と外に出る。マシンガンの男達が乗って来た車だろう。サバーバンがエンジンを掛けたままで止まっている。二階堂がジェーンを呼ぶ。子供達を連れたジェーンが建物から出て来る。サバーバンに詰め込む。荷台まで満員になる。21人の子供を乗せきる寸前に銃声。二階堂が倒れる。道路の反対側に古いリンカーン・タウンカー。その陰から撃っている。タウンカーを念力で押す。車体が後ろの建物の壁に激突して止まる。狙撃者は圧し潰されただろう。ジェーンは二階堂の様子を見ている。防弾ベストの上に被弾したようだ。息が苦しそうだが立ち上がり助手席に座る。俺も二階堂の隣りに座る。狭いが仕方ない。ジェーンに運転させる。二階堂が電話をしている。電話を切った後、道案内をする。

 後ろから銃声。

 窓を開けて飛び降り、道路に立つ。2台のフォード・エクスプローラーが迫って来る。両手に意識を集中する。光の玉を放つ。2台の車がその場で爆発した。

 飛び上がり、ジェーンが運転するサバーバンを見つける。屋根に飛び降りた。フロントガラスの前に顔を出し、親指を立てる。

 ジェーンが窓を開けて叫ぶ。

「前が見えない!どいて!」

 済みません。大人しく屋根に乗ってます。


 15分は走っただろう。住宅街の一角で止まる。二階堂が電話する。すぐにスーツ姿の男が二人出て来た。二階堂が抑えた声で早口で説明する。もう1人のスーツ男は、車の屋根の上でアグラをかいて座っている俺を指差す。ジェーンが俺の事を説明する。理解したようだ。俺を見る顔つきが違った。

 子供達21人と俺達3人は家の中に案内される。CIAのセーフハウスだとジェーンが言う。子供達に安心するようにジェーンが中国語で話している。理解できない子も数人いる。韓国語に切り替える。子供達の顔に笑いが戻った。


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