第115話 イーグルス

7月12日 午後10時半。

亀有警察を出てタクシーに乗る。大久保に向かう。ユカを襲った仲間の車が登録されている住所だ。途中で浅草のマンションに寄り、銃と弾倉を取って来る。

大久保通りは、明治通りの交差点から総武線の大久保駅までの間、韓流ブームからのタレントグッズの店や韓国料理屋、韓国食材店等が立ち並ぶコリアンタウンの一つだ。裏通りに入ると中国人、ベトナム人、タイ人。又、イスラム横丁等もある。好きな人は好きなんだろう。男の住所は大久保2丁目。住民登録されている人の3分の1以上が外国人という所だ。実際に住んでいる人の半分以上は日本人ではないだろう。住所登録せずに不法滞在をしている人の数は数えようが無い。6畳と4畳半の古いアパートに5人や6人は当たり前で、中には、2段ベッドを複数置いて10人以上で住み着いていた例もある。

タクシーを明治通りで降りる。大久保通りに入り、右側の住所表示に気を配りながら歩く。目指す男のアパートは10分程で見つかった。比較的新しいアパートで建物から見て2部屋は有りそうだ。2DKという所か。アパートから200メートル程離れた駐車場に黒のセルシオも見つける。

ジェーンの携帯に電話する。通訳が必要なので大久保まで来て欲しいと頼んだ。

30分後、ジェーンが明治通りと大久保通りの交差点に現れた。

「悪いな。急に頼んで」

「いいの。もう仕事は終わってたから」

「この前、俺の知り合いが死んだのは知ってるか?」

「二階堂から聞いてる。残念だったですね」

「実は、その復讐なんだ。このままだと、俺の周りの人間が、又、被害に合うかもしれない」

「相手は韓国人?」

「そうなんだ。彼らが仲間同士で言ってる事を通訳して欲しい。こっちの言ってる事と違う指示を仲間に出されても分からないから」

「任せて」


俺達は大久保のアパートに近寄る。透視・・・中には男3人と女1人。

玄関に廻る。チャイムを鳴らす。中から返事が有る。

ジェーンに言ってもらう。

「お届け物です」

無防備にドアを開ける男、崔。

すぐに俺が中に踏み込んだ。腹を1発殴る。部屋の中の2人にも腹に1発ずつ。女にも1発。崔以外、気を失なわせる。女も含めて全員韓国人だ。

崔に言う。

「昨日の駐車場・・・覚えてるよな」

唾を吐く崔。口を殴る。前歯が3本無くなった。

「奥歯まで無くすか?」

「分かった・・・待ってくれ。何をすればいいんだ」

「ここにいる2人も昨日一緒だったな」

崔が頷く。

「あと10人か。残りの10人をここに全員呼べ。今すぐ電話しろ」

「全員今すぐは無理だ」

「金になるって言えば来るだろ・・・電話しろ」

崔が携帯を手にする。余計なことを言うと、この場で殺すと、ジェーンに韓国語で言って貰う。

「この人は危ない人なの。あなた達を殺させたくない。言う事を聞いて、全員呼んで」

青い目で流暢な韓国語を喋るジェーンに驚いたようだ。転がっていた2人が起き上がったのでもう一度殴る。


1時間後、全員を部屋で縛り上げる。昨日の13人の男と1人の女。余計な韓国男も2人付いて来たが、見た目に同類だ。全員で16人がガムテープで縛られ蠢いている。男達の内、8人が手首に同じ入れ墨をしている。

1人の入れ墨男の口に張ったガムテープをはがす。男は口で呼吸が出来るようになり荒い息をする。男に聞く。

「お前らにボスはいるのか?」

周りの仲間に虚勢を張り、ツバを吐く。顔を殴った。歯と血が飛び散る。隣の男の顔に血が掛かる。殴った男は気を失った。隣の男を喋れるようにする。

「・・・いるのか?」

「お前は殺される・・・」

顔を殴る。少し強めに。頬骨が陥没し動かなくなる。痙攣している。次の男。

「お前もこうなりたいか?」

「・・・いる。ボスはいる・・・何でも喋るから止めてくれ」

「お前らは韓国ヤクザなのか?」

「・・・・」

ジェーンが言う。

「手首の入れ墨を見て。鳥でしょ。イーグルなの。多分ソウルの『イーグルス組』ね」

「韓国人がイーグルスだ?・・・ホテルカリフォルニア歌えるのか?」

男に聞く。

「ボスは大久保にいるのか?」

「ボスはソウルにいる。俺達は日本で金を稼いで送る為に来てる」

「日本でのボスは誰だ?」

男が顔を背ける。顔の真ん中を殴る。鼻が陥没する。次の男だ。ガムテープを剥がす。手を伸ばしただけで怯える。

「日本でのボスはどこにいる?」

「事務所・・・職安通りの事務所にいます」

「刺青の無い奴はなんだ?」

「見習いです」

「お前らは、どうやって金を稼いでる? 仕事は何だ?」

「レストランや韓国の食べ物を売って・・」

軽く頬を叩く。

「それは表向きだろうが・・・」

「・・・飲み屋とクスリと女です」

「ぼったくりバーに、シャブと売春か?」

男が頷く。

小さなバッグから銃を取りだす。サイレンサーを捻じ込む。スライドを引き薬室に弾を装填する。確か10発入っていた筈だ。目の前の男以外、顔が陥没している以外の13人の頭を、端から撃ちぬいて行く。途中で弾倉を交換する。発見した警察が、暴力団同士の抗争と見てくれればいいが。目の前の男が泣いている。

「名前は?」

「金・・・日本では金山」

「カネヤマ君、立って。事務所に案内してくれ」


新宿職安通り。ドン・キホーテの近くの古い雑居ビルだ。4人乗ればイッパイの小さなエレベーターが有る。蛍光灯が点いたり消えたりを繰り返す。事務所は3階だ。階段で上がる。鉄製のドア。真ん中に『いらっしゃいませ』と書いてある、薄汚れたプラスチックのプレート。金山がドアを開ける。ジェーンにボス以外は撃てと言ってある。

シンプルな40平米程の事務所。正面奥の右寄りに大きなデスクと左寄りに4人用応接セット。手前には3人掛けの長椅子に3方を囲まれた応接セット。部屋の真ん中に事務机が向かい合わせに4台。

奥の応接セットに2人の女と一緒に座っている男・・・多分ボス。

手前の応接セットに男が4人。事務机に2人。

ジェーンが機械的に男達を撃つ。ボスらしき男以外の6人が床に倒れる。金山に聞く。

「あいつがボスか?」

奥の男を指差す。金山が頷く。金山の背中をジェーンの方に押す。ジェーンが金山の頭を打ちぬく。さらに倒れている男達の頭に1発ずつ打ち込む。

ボスがソファーで震えている。欲しい物は全部やると喚く。金庫を開けさせる。1万円札の束が7個。ジェーンに渡す。机に置いてあったコンビニ袋に札束を入れる。

「昨日、15人もの男達に俺を襲わせたよな・・・」

「あ・・・あんただったのか」

「知ってるって事だな」

ジェーンから銃を受け取り、ボスの頭に1発打ち込んだ。スライドが下がったままになる。丁度、弾が無くなった。別の弾倉に替える。2人の女に聞く。

「いつ、韓国から来た?」

泣きながら答える。

「私達、日本人です・・・」

「身分証明書見せろ」

1人は免許証、1人は保険証を見せた。ジェーンに俺のスマホで、身分証明と本人の写真を撮らせる。

「君たちの住所と名前は分かった・・・今日は何か見たか?」

「・・・見てないです。何も見てないです」

「帰っていいよ」

2人の女は走り出て行く。まだ20歳前後だろう。

 目の前のボスの懐を探る。

財布。中には50万円程の現金と韓国の免許証。写真が大小2枚付いている免許証だ。文字は読めないが住所と名前だろう。財布ごと自分のポケットに入れる。

ジェーンを促し外に出ようとした時に2人の男が入って来る。見た目に韓国人。頭に1発ずつ。手が汚れるのが嫌だった。


ジェーンと職安通りに出る。何も言わずに抱きしめてキスした。ジェーンは抵抗しない。顔を離して言う。

「私で気がまぎれるかしら・・・」

気を紛らわす・・・そんな気は無かった。でもヤケになっていたのは事実だ。

「悪かった・・・でも、明日には落ち着いてるよ。来週はアメリカだな」

「はい・・・」

「邪魔者が付いてくるみたいだけど」

「二階堂はJIAイチの切れ者ですよ」

「切れ者なんか要らないからジェーンと2人が良かったな」

腰を抱く。

「調子が出てきましたね」

「ロスのホテルは2部屋でいいよ。二階堂だけ別」

笑うジェーン。700万円を入れた袋を俺に差し出す。押し戻して言う。

「これが今日のギャラでいい?」

一瞬、息を飲みこむジェーン。

「又ですね。有難うございます」

それぞれ、タクシーを拾い別れた。俺は浅草のマンションに戻る。

ユカの骨壺をダイニングテーブルに置いて話しかける。

「あいつら、全部いなくなったよ・・・明日はお墓を見に行くよ。眺めがいいらしい」

骨壺を抱きしめる。冷たい。

「お前は永遠に俺だけの者だからな・・・」


浅草のマンションを後にした。自宅に帰る。


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