第105話 南沙諸島開戦

銀座のアンがベル・エポックを持って軍艦の食堂を、水兵の間を歩いてくる奇妙な夢を見る。

 起きると5時半だ。食堂に行き、朝飯を食べる。目玉焼き、カリカリのベーコン。パンケーキにコーヒー。ハンバーガーを追加で作ってもらう。

 6時になりブリッジに上がる。エルニドから西に200キロの地点だ。すぐに南沙の海域に入る。キャプテンが諦め顔で俺に言う。

「フィリピン海軍が土壇場で作戦参加を拒否しました。ドゥテルテ大統領は中国に付くかアメリカに付くか、成り行きを見ようと言う事ですね。まあ、後の事を考えると、その方がこっちにも都合がいいでしょうけど。浅はかなビジネスマンだ」

「いつ頃、中国側は行動に出ますか?」

「こっちは30分後に、向こうの主張する海域に入って旋回行動を取ります。中国からの警告はあえて無視し、近海をグルグル回って挑発します。向こうからミサイルの一発でも飛んで来れば戦闘開始です」

「旋回行動を始めたら私は出発した方がいいかな・・・」

「お願いします。一発が確認できたら攻撃に移って下さい」

「分かりました。レーダー施設の破壊と聞いているけど、滑走路にもダメージを与えときますか?」

「有りがたい! 出来ればお願いします」

 30分後か・・・部屋に戻って着替える。ステルス飛行服。カロリーメイトを含めた装備品をポケットに入れる。ベッドに座ってひと休みしているとイザベルが来た。

「トール・・・気を付けてね。対空砲や対空ミサイルも、かなりの数が有るみたいだから」

「大丈夫。これが終わったら、マニラで一日一緒にいられるか?」

「・・・いいわ。約束する。私もトールと一緒に酔っぱらってみたい」

 耳が痛い。イザベルを抱きしめてキスする。船が傾く。旋回行動の開始だ。

「んじゃ、そろそろ行くよ」

イザベルが甲板まで俺を送る。もう一度キスして飛び立つ。

 

 メインのレーダー基地3か所の場所は頭に入っている。近くから破壊するのがいいだろう。高度1000メートルから下を見る。イージス装備の3隻の米海軍ミサイル護衛艦が円を描いて回り始めている。船首の赤いラインがハッキリ見える。

 中国が領有権を主張する、一番近くの島まで僅か2キロだ。1周を回り終え、旋回2周目の半分まで来た時に中国側のミサイル発射が目に入る。ミスチーフ礁の方からだ。目で追う・・・米軍の迎撃で爆破される。俺の出番だ。

 一番近いレーダーまで30キロ。高度は1000メートルを維持して全速力で飛ぶ。この高度ではマッハ1を超える位が限界だが、2分も掛からずに第1のレーダーの真上だ。上空500メートルから、光の玉でピンポイントでレーダー施設を破壊。近くの施設には気象台と称して民間人と言われている研究者を置いている。人民の盾だ。攻撃を受けた時に、民間人を殺したと言って相手を非難できる。なるべくそのような施設には被害を与えないように攻撃する。ついでに、3000メートル級の滑走路に300メートルおきに大きな穴を開けてやる。戦闘機の離着陸が不可能になる。

他の2つの大きなレーダー施設と滑走路にも同様の攻撃をする。船へと帰る時に、滑走路付近に見える中国軍戦闘機J―8,J―10,J―20等、目に入った機体を爆破する。輸送機のY-8や5000トンクラスのミサイル艦も目につき爆破した。戦闘機を格納していそうなハンガーにも光の玉を撃ちこむ。

爆破した機体を数えていたが、50を超えた後に、ミサイル発射直後の潜水艦を見つけ、ミサイルと共に爆破したのをきっかけに数が分からなくなった。

 南沙諸島の中国軍施設全てに米軍のミサイルと砲弾が撃ち込まれる。巨大な灯台も崩れ落ちた。民間施設の様な建物も姿を消していた。米軍のF15戦闘機が編隊を組んで飛来し、ピンポイントでミサイルを撃ち込んでいく。上空1000メートルでそれを眺める。その時、予想しなかった方向からの対空砲火を眼下の米軍F15が受ける。尾翼付近から炎と煙を出しながら墜落していく。F15を追った。脱出すればよいが、脱出出来ずに墜落すれば確実に死ぬ。海面が迫って来る。あと300メートルという高度で機首が下を向いた。機体の斜め下側を飛び、脱出を待つ。あと50メートル・・・もう無理だ。機体の下に入り押しとどめる。海面から5メートルの位置で停止させてゆっくり着水させる。尾翼付近の炎が消えた。キャノピーを覗くと、コックピットの2人が驚き、手を振る。

透明のキャノピーを外してやる。無線で救助を呼んでいる。ヘリがすぐに来るらしい。飛び上がり、対空砲火の位置を探る。砲弾が俺の尻に当たる。痛い・・・20ミリの砲弾か。

本当に痛い。無防備だったので痛い。後ろを見ると、すぐ近くの海岸線の岩に扮したトーチカの様な所から撃っている。トーチカの屋根を突き破り中に降り立った。1丁の機銃と4人の男。男達を殴りつけ、外に放り出す。走って逃げて行く男達の尻を、光の玉で、死なない程度に撃つ。飛び上がり、転げまわりながら逃げて行く。

「アイヤー!」

痛いだろう、バカめ。

突然、逃げて行く彼らの先にミサイルが着弾し爆発する。彼らの姿は消えていた。

 上昇して広い範囲を眺める。その時、一つの基地に次々に米軍のミサイルが飛んで行くのが見える。全て、ほぼ同じ場所に着弾する。島の形が無くなって来る。15分後、島が無くなった。旧式ミサイルの使用完了か。新しいのを買う為に各国政府からの金が使われ、アメリカの軍需産業が儲かると・・・。


南沙での戦闘が開始されてすぐ、第7艦隊と海上自衛隊は、東シナ海と南シナ海に、中国との間に国境線を引くように20km間隔で艦船を展開する位置に移動していた。

南沙諸島の中国軍基地が壊滅したのを受けてフィリピン海軍も出て来る。


南沙の東側から攻撃をしていた3隻の艦隊に戻った。ふらふらになり、食堂に直行する。有難い。ゴハンが有る。特大のステーキを焼いてもらい、ご飯と食べる。身体に力が戻って来る。コーラを飲んで一息つくと、誰かが知らせたのだろう、キャプテンが来た。

俺の前に立ち、いきなり握手してくる。

「あなたは凄い!滑走路を破壊してくれたお蔭で、敵の航空機は一機も離陸できなかった。敵は全滅だ。こっちの被害はF15が1機だけだ。しかもその乗員2人を救ってくれた・・・アリガトウ」

 食堂に50人程が集まっている。みんなが俺を見て拍手している。照れる。尻には穴が開いているので恥ずかしくて立ち上がれない。救助したF15の2人が食堂に入って来る。俺を見て抱き着いてくる。立ち上がるしかない。

「もう終わりかと思いました。あなたは私の命を救った・・・」

2人に抱き着かれる。周りから大きな拍手。F15のナビゲーターが言う。

「俺達を助けてくれた後、撃たれなかったですか?・・・撃たれた様に見えたけど」

「見てたか・・・痛かったよ」

開き直って飛行服の尻に開いた穴を見せた。小さな穴だが周りが焦げている。

全員で大笑いする。キャプテンが聞く。

「怪我は?」

「俺の尻はスチールで出来てるから大丈夫」

再び大笑いだ。

伝令がキャプテンに来る。中国からの停戦の申し入れだ。全員が沸き立つ。


南沙諸島はフィリピンの領土と認め、周辺の海域の漁業権と資源開発権は、勿論フィリピンへ。海底油田及びガス田開発はエクソンモービルが20年の無条件独占契約をフィリピン政府と結んだ。中国は南沙周辺の自然資源にも手を出せなくなった。無条件独占とは、エクソンモービルが開発に手を出さなくてもフィリピン側は文句が言えない。但し、フィリピンの財政からすれば莫大な契約金が入る。アメリカには、これ以上石油を市場に出さないと言う選択肢もある。供給過多になればアメリカ国内で産出される油も値段が安くなるのだ。

 日本にしてみれば南沙諸島海域の船舶の航行が中国に脅かされなくなったメリットが有る。又。今回のアメリカとの作戦が自衛隊との共同作戦であった為に尖閣諸島問題への抑止にもなった。

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