第102話 ステルスおじさん

7月5日 午前1時

 ユカの所から自宅に帰る。タクシーの運転が下手で酔ってしまいそうだった。

 娘達はゲームをしていたが、俺が帰ると玄関まで出て来る。いつもの抱擁。玄関に立ったまま、オッパイとお尻の感触を楽しむ。

 部屋着に着替えてソファーに座り、誰にともなく叫ぶ。

「おーい。ビール持ってきてくれ」

 マキが冷蔵庫から缶ビールを一本持って来る。

「サンキュー」

 マキが腰に手を当てて俺を見ている。

「オジサン!何にも感じないの?」

 よく見ると新しい服の様だ。綾香も新しい服を着て出て来る。今までのギャル系の服と違って落ち着いている。

「いいな。お前たちもそういう服を着ると、いい女風に見えるぞ」

 綾香が口をとがらせる。

「いい女風ってなによ。フウって。いい女でしょ?」

 2人でポーズを取る。

「ん・・・いい女だ。キミタチは俺の女か?」

「ヤッダー・・・オジサン」

 ヤッパリ俺はただのオジサンだよな・・・

 綾香が言う。

「決まってるじゃない。私達オジサンの女・・・オンナだよ」

 両腕を広げると娘達が飛び込んで来る。代わるがわる俺とキスをする。

「明日から、又、仕事で出かける。2泊か3泊で帰れると思うから」

2人が俺を見つめる・・・抱き着いてくる。抱き着いたまま綾香が聞く。

「さえ子とゆうか、覚えてる?」

「覚えてるよ。お母さんの所に帰っただろ」

「2人を泊めていい?」

「何かあったのか?」

「お母さんが、また、男作って、邪魔にされてるんだって」

「いいけど、あんまり騒ぐなよ」

喜ぶ2人。買い物の金を5万円渡した。ゲーム部屋に戻って行く。

 寝室に入り、ステルス飛行服を着てみる。フィット感は前の飛行服の方が上だったが、生地のせいか、TDKのステルス塗料のせいなのか、シッカリとした安心感が有る。ポケットも前と同じにできている。完全にレーダーに反応しない訳では無いが、航空機よりは格段に小さいので、見つかる可能性は低いと言っていた。飛んでみよう。カロリーメイトをポケットに入れ、ベランダから飛び立つ。

 一気に高度を1万メートルまで上げる。左腕のオメガを確認し、北に向かう。音速を一気に超える。視界が紫色に変化する。更にスピードを上げる。前方1キロくらい先に民間航空機が見える。1秒と少しで抜き去る。眼下に広がる景色は暗い。山なのだろう。明かりが見えてくる。陸地の終わりか。高度を下げる。オメガを見ると16分経っている。地形から見ると青森の津軽半島だ。直線距離で約800km。計算する。時速約3000キロ!マッハ2.5だ。1万メートルで16分間全速力で飛んでも苦しくない。20分は楽に行けそうだ。最高速で1000km飛べる計算になる。高度1000メートルでゆっくりと流しながらカロリーメイトを食べる。更に北上する。眼下に広がるのは北海道。少し進路を東に取る。最北端の稚内だ。さらに少し北上。北方領土。サハリンが見える。ここからだと東京まで1300キロはあるだろう。再度1万メートルまで上昇。オメガ確認。南へと飛ぶ。遥か下に見える北海道、あっと言う間に過ぎる。下北半島。山、山、山、街の光。仙台か。太平洋沿岸に沿って、さらに飛ぶ。海岸線が左に曲がっている。海沿いに行けば銚子だ。南西に進路を変える。東京湾だ。高度を下げながら時計を見る。24分。計算・・・時速で3200km。マッハ2.6以上。流石に24分間低酸素だと身体がダルイ。ふらふらと飛びながら自宅のベランダへたどり着く。

 寝室で着替える。飛行服を点検するが異常は無い。空腹。

 冷蔵庫を開ける。ケーキの箱を見つける。開けて見ると旨そうなプリンとロールケーキが2つずつ。1つずつを食べてベッドに入る。娘達が入って来たのに気が付いたが、そのまま寝た。相手をする力が残っていなかった。


7月5日 金曜日

6時に起きる。シャワーを浴びてコーヒーを飲むと6時半だ。運転する気が起きないので日本交通に電話。タクシーを呼ぶ。10分で来ると言う。助かった。仕事道具を入れたボストンバッグを持ち財布を確認する。105万円と3600ドル。十分だ。買ったばかりのブリオーニのスーツとシルクのシャツ。

マンションのエントランスには運転手が待っていた。ゆうべの運転手と違って。落ち着いた運転で助かった。成田空港第2ターミナルの一番手前側で降りる。7時50分。

フィリピン航空のチェックインカウンターには、大荷物をカートに乗せた人が長い行列を作っている。ビジネスクラスの列は4人。列の手前で二階堂が待っていた。笑顔で言う。

「おはようございます、ボス」

「早速ボスと呼ばれたか」

「いいスーツですね」

「ありがとう。買ったばかりで、フィリピンに着て行くのはもったいないけど、何かあったら着る事もできないからね」

「中本さんに何かが有る訳無いですよ」

「神のみぞ知るだよ」


ビジネスクラスのラウンジで朝食を食べる。クロワッサンのサンドウィッチが旨い。

二階堂も俺と一緒に食事だ。食べながら小声で話す。

「米海軍のミサイル護衛艦が3隻、今晩12時にフィリピン・パワラン島北部に位置するコロン島から南沙に向けて出港します。コロン島にはマニラのアメリカ大使館から、22時にヘリで移動してもらいます。コロンまでは1時間です」

「アメリカ大使館はマニラ湾沿いのロハスブルバードに有ったよね」

「そうです。大使館までは私が同行します。それから、これは大事な事ですが、米軍の艦船には全艦の船首部分に、上空から見て分かるように赤のラインを入れています」

「助かるよ。もしもの時にどっちか分からないと攻撃できないからね・・・大使館に行くまでは何してる?10時間近くあるよ」

遊びに行きたい・・・とは言い出しにくい。

「一応、ダイヤモンホテルに部屋を取ってあります」

「ゆっくり休憩できるって事だ」

少しは遊べるって事だ・・・・


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