第100話 女達
7月4日 木曜日
午前10時。帝国ホテルからタクシーでアンを本郷の部屋に送り、浅草のマンションに向かう。タクシーの中からユカに電話する。早く来てくれと涙声で喜ぶ。
ユカを抱いた。18歳の華奢な身体。オタワの女子大生を思い出す。女によって全く違う。どちらがいいかと言う問題では無い。人種も関係ない。女ごとに異なる味わいだ。還暦近くなって、やっと女の味わいが分かったような気がする。
スパゲティを食べる。ダイニングテーブルの端に英会話教室のパンフレットを見つける。
「これ、どうしたの?」
「英語、勉強したいの・・・パンフレット送ってもらったんだ。そんなに高くないから、トオルに貰ってるお金で大丈夫」
よく聞く駅前留学や通信教育のパンフレット。
「本気で勉強するなら、ちゃんとした学校に行けばいいよ。金は俺が出すから心配するな。ビジネスマンはベルリッツに行ってるって良く聞くな」
ユカがスマホで調べる。
「上野にあるみたい」
「近くていいじゃないか。話だけでも聞いてみればいいよ」
タクシーを拾い、ユカとベルリッツに向かう。上野駅からすぐの昭和通り沿い。自分のボストンバッグも持っていく。用事が済んだら自宅に帰りたい。
40分の授業一回で6000円。ユカが高いと驚く。一日2回の授業を受けて、12000円。隔日で受けて月に15日間。20万円位のものだ。受講を決めて出て来る。明日からスタートだ。
改めてユカの服を見ると・・・派手、と言うより安っぽい。洋服を買おうと言い、上野を歩く。ユカはアメ横のカジュアルな洋服屋が好みのようだが、お嬢様風の服も着せて見たい。中央通りでタクシーを拾い日本橋に向かう。日本橋三越で降りる。
婦人服売り場。40代後半に見える男性店員を捕まえる。ユカを指差して言う。
「この子に服を揃えたいんだけど、全身をコーディネイトして、靴も含めて何通りか選んでもらえないかな」
「畏まりました。3階に専門のフロアが有りますのでご案内いたします」
連れて行かれたのは『パーソナルショッピングデスク』という場所。スタッフが専属のスタイリストとなり、ファッションを提案してくれると言う。20代後半と思わしき女性が担当になる。ユカに聞く。
「どのような雰囲気がお好きですか?」
俺が答える。
「カジュアルな雰囲気でも品の有る物を3通り。それから高級レストランのディナーに合うような物も2通り。全部、靴も含めて選んで欲しい」
「畏まりました。ご予算の方は・・・」
いくらと言えばいいのか分からない。担当の斜め後ろにいる、俺達を案内した男性店員も俺の答えを聞きたいようだ。
「200万位あれば大丈夫かな?」
「畏まりました。十分です。雰囲気の合うバッグも選べると思います」
ユカが俺の顔を見て目を見開いている。何も言えないユカに言う。
「お前が選ぶとハデハデだからな。相談に乗って貰え」
後ろにいた男性店員に言う。
「自分の服も買いたいんだけど」
売り場に案内される。選んだのはイタリア製のスーツ『ブリオーニ』と『キートン』。
キートンは遊び服っぽいダブルの物を選んだ。シルクのシャツも3枚買う。全部で約200万円。カードで支払う。ユカの元に戻るが、時間が掛かりそうだ。男性店員が俺の買った服を持って付いてきている。服は預けたまま、銀行に現金を引き出しに行く。俺が使っている銀行が裏に有る。
通帳が無いとカードでは100万円までしか引き出せないと銀行の案内係に言われる。免許証とパスポートを渡す。
「300万円引き出したいんだけど、これで俺の口座を確認してきて。それで、たかだか300万を引き出せないって言うんなら全額、他の銀行に移すから」
案内係は驚き、奥に入って行く。3分後、50代の男が案内係と一緒に小走りでやって来る。
「中本様、ご来店有難うございます。本日はご出金と言う事で、今すぐに用意いたします・・・どうぞこちらに」
男について行くと、応接室だ。女子行員がお茶を持って来る。銀行でお茶を出されるのは初めてだ。男が俺に名刺を渡す。課長。80億円以上ある預金の一部でも定期預金にしてくれと言う事だ。仕方ないので50億円を1年の定期にしてやった。通常0.1%の金利を大口定期なので0.5%にするらしい。年間で税抜き2000万円の金利が付くと言う。
トレーに乗せた300万円を持って女子店員が来た。紙袋を貰い300万円を入れる。定期預金獲得に成功した課長が封筒を寄越す。
「当行からの気持ちばかりのお礼です」
その場で中を見る。温泉ホテルグループの宿泊券。関東周辺の何ヶ所かにあるホテルのペア宿泊券が2枚。食べ放題の食事が付いた安いホテル。誰かにやろう。
三越に戻る。ユカと担当は売り場に行っているとの事で、10分程、出されたコーヒーを飲んで待つ。始めの男性が来て、外商との契約の説明をするが、銀座三越の弓香を思い出し、何かの拍子で俺の身元がバレるのも困ると思い、外商は断った。
ユカが戻って来る。笑顔だ。俺を見つけて駆け寄って来る。
「スッゴイ素敵なの。選んでくれるのを合わせて着るとモデルみたい。まだ、買ってないのに靴まで履いて全身を見れるの・・・凄い」
「よかったな。俺は時間がないから、ユックリ楽しんで選んでな。コレ、300万入ってるから。服の金と今月の生活費や授業料」
後半の部分は声を潜めて言い、金の入った袋を渡した。ユカは人目を気にせず俺に抱き着く。
ユカを残して三越を出た。タクシーを拾い自宅に向かう。
エレベーターの中。綾香とマキの事を考える。心臓が早く強く鼓動する。娘達に会うのに何故・・・ゆうべはアンと、今日はユカと寝た。
娘達に後ろめたいのか?・・・自分に聞く。『そうだ』と答えるもう一人の俺。
ドアを開ける。俺に気が付いて走って来る娘達。ノーブラのTシャツ。抱き着き押し付けられるオッパイ。2人を抱きかかえた俺の両手は、それぞれの尻を掴む。15歳の尻。マキの尻には硬さが残っている。
床に落としていた2着のスーツをクローゼットに仕舞う。
綾香が言う。
「スーツ買ったの?」
「うん。買い物してから帰って来たんだ」
2人が言う。
「いいなぁ・・・」
「又、服が欲しいのか?」
2人で頷く。
「じゃあ、ちょっと休んだら買い物に行くか」
飛び上がる2人が抱き着いてきてベッドに3人で転がる。
『ピンポーン』
マンションのエントランスからのチャイム。2人が一斉に俺から離れ、寝室から出て行く。
ピザの出前だ。ため息ひとつ・・・いい生活だ。
3人でピザを食べているところで電話。二階堂だ。
「中本さん、まだ明日のチケットは取って無いですよね」
「これから取るところですが」
忘れていた。
「1時間後位にお邪魔していいですか?チケットも持っていきます。朝便のフィリピン航空です。朝8時までに成田に行って頂ければ大丈夫です。ファーストの設定が無いのでビジネスクラスになりますが」
「いいですよ。それじゃ後ほど。待ってます」
娘達が俺を見ている。
「聞いての通り、仕事の打ち合わせで人が来るんだ。買い物には2人で行ってくれるか?」
綾香が言う。
「その方がいい。オジサン、待ってるの嫌でしょ?私達もゆっくり見たいし」
「いくら欲しい?」
綾香が両手を広げて俺の顔を見る。10・・・片手だけにする、5。マキを見る。片手を広げる、5。5万ずつ欲しいのか。景気よく10万円ずつ渡す。大喜びだ。
2人のファッションショーが始まる。何を着て行くかも大事なのだ。行き先は渋谷らしい。
意外と落ち着いた服に決まったようだ。あまり派手な服だと中学生に間違われるので嫌だと言う。娘達が賑やかに出かけて行く。午後4時。9時までには帰れと言っておいた。
財布の中は10万円だけになっている。寝室の金庫を開け、100万円を補充する。金庫の残金は28200万円と5万ドル。口座には定期も入れて84億9500万円が確認できた。財布のドル紙幣3600ドルは、そのまま入れておく。
ボストンバックから水色の飛行服を出す。背中に穴が開いているので新しい物を入れる。
明日の準備が終わったところでチャイム・・・二階堂が来た。
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