第94話 ウクライナ美女

6月27日木曜日

昼。娘達に起こされる。ダイニングテーブルでパンケーキを食べているとマキが笑いながらスマホを見せる。口を開けて寝ている俺の写真。綾香も同じような写真を見せる。2人でケラケラ笑う。怒る気にもならない。

今日は2人に銃の撃ち方を教えようと思っている。食事が終わり、銃をテーブルの上に置く。綾香が俺に聞く。

「本物?」

「本物だ。俺の仕事が普通じゃないのは分かってるよな」

2人とも頷く。

「もしも、やばい事が有ったらコレを使って、自分の身の安全を守って欲しい」

マキが言う。

「でも、もし相手が死んじゃったらどうするの?」

「殺して、誰からか文句が出る様な奴は襲ってこない」

2人は銃を見つめている。


娘達に基本的な銃の扱い方を教える。部屋の中で空撃ちまでを練習し、射撃練習の為にユカと行った、富士の樹海を目指す。的紙を忘れない。

中央高速をG63で走る。午後1時。日暮れまでには時間が有るので、昨日のようには飛ばさない。制限速度プラス10キロに速度を合わせて、あとは車任せで走る。ユカに説明したような銃の事を走りながら話す。

河口湖料金所を出て、横町バイパス沿いの郷土料理屋で『ほうとう定食』を食べる。娘達は、平べったいウドンだと言い面白がる。

昨日と同じ場所に車を停める。午後3時半。樹海に入ると、上が木で塞がれるので薄暗くなる。30分程歩く。昨日の場所は見つからない。適当な場所で立ち止まり、持ってきた的を木に張り付ける。弾倉に5発弾を込めて綾香に渡す。教えた通りに弾倉をグリップに挿入する。スライドを引く。人差し指は引き金には掛けない。的を狙い撃つ。弾は的を大きく外れる。一気に引き金を引かずに、絞り込むように引き金を引けとアドバイス。

撃つ・・・命中。的の左端に当たる。残りの3発も的に当たっている。距離は5メートル。十分だ。銃をマキに渡す。弾倉を抜き、5発の弾を装填する。弾倉を挿入。スライドは下がったままなので、ノッチを押すとスライドが戻り、撃てる状態になる。マキも5発撃つ。射撃の筋はマキの方がいいようだ。2人の顔は意外と冷静だ。


午後7時。築地すしざんまい。3人で寿司を食べる。娘達は相変わらず大トロが好きだ。俺には大トロは脂がきつすぎる。会計22000円。

部屋に娘達を送り、俺は仕事だと言い着替える。金庫から1000万円を持ち出す。ジュリアで銀座へ。午後9時。

アンは忙しそうだ。2組の自分の客が来ていると俺のテーブルに来て言う。後で来ると言い、俺は店を出る。並木通りを歩くと客引きが寄って来る。『外人美女のキャバクラ』。当然行ってみる。ロシア人と東欧系の美女ばかり。どうやってこれだけの女を集めたのかが気になる。俺が選んだのはウクライナ人の小柄な子。真っ白な肌に青い目が気に入った。超ミニのスカートから出ている足がいい。ドリンクやつまみを好きなだけ注文させる。片言の日本語を喋る。

「昼間、デートするか?」

「コレデ、イイデス」

 指を5本立てる。

実にストレート。電話番号を教えてくれた。

11時だ。アンの所に戻ろう。会計、48000円。女にチップと言い1万円渡した。ハグとキス。

アンの客は帰っていた。隣に座ったアンが、俺の頬をオシボリで拭く。

「どこ行ってたの?」

「フラフラしてた」

「フラフラしてるとキスマークが付いちゃうの?」

手で拭っただけだった。失敗。

「そういう事も有るかもしれない」

「まったく・・・どこの店に行ってたの?白状しなさい」

「外人キャバクラ。安い店だよ。ただの暇つぶし」

「知ってる。その店。花椿通りのでしょ。可愛い子沢山いたでしょう」

「アンには勝てない。お前以上の女はいないから」

アンが首を少しかしげて言う。

「証拠見せて」

アンにキスする。

「それだけ?」

持っているバッグを開けて見せる。札束が10個。

アンがキスを俺に返す。シャンパンだ。いつものベル・エポック。

沖縄で泡盛を飲んだからだろうか、焼酎を飲みたくなる。芋焼酎『魔王』を注文する。

水割りで飲む。旨い。たまにはコレもいい。ボトルキープだ。

12時。アンと店を出る。会計は18万円。


帝国ホテルの部屋。ソファーの前のテーブルに置いた100万円の束が10個。

俺の背中に抱き着いて札束を見るアン。

「いい着物を買うんだな」

「うん。ありがとう。聞いていい?・・・トオルの仕事は何なのかな・・・」

「何だろうね」

「だって、自衛隊のお偉いさんとも知り合いだし・・・不思議。ヤクザじゃないのは分かってるけど」

「正義の味方」

「結局。そうなるんだよね」

背中のアンを引き寄せて膝の上で抱く。うっすらといい匂い。化粧品の微かな臭い。銀座の女は香水を付けない。客が臭いを持ち帰って、問題になるのが分かっているからだ。香水を付けるのは安い飲み屋だけだ。

ルームサービスのステーキサンドとサラダ。炭酸入りのペリエ。


寝たのは明け方の4時近かった。

夢にウクライナの女が出て来る。青い目が怪しく笑った。




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