第91話 アメリカへの嫌がらせ
6月25日
正午、12時に那覇空港でチェックインを終えて、売店へ。
娘達はチョコレートちんすこうが気に入ったようで3箱買った。俺が買ったのは海ぶどうと、泡盛1本。
ファーストクラスの機内での軽食は綺麗にディスプレイされており、娘達は写真だ。
定刻の10分遅れで羽田に到着する。駐車場に止めたG63で自宅に帰る。
午後5時だ。日米地位協定『改正』の、アメリカからの回答期限まで1時間。もし、NOと言われたらどうするかを考える。
二階堂から電話。
「アメリカからの打診ですが、もし、日米地位協定を中本さんの言うように変えたら農産物と自動車の関税を・・・」
「待って下さい。俺がしたのは取引きではなく要求です。アメリカの取引きを飲む事はありませんよ。突っぱねて下さい」
「もし、向こうの回答がNOだった場合・・・中本さんは何をしますか?」
「それは、こっちが聞きたいんだけど、二階堂さん、何かいいアイデアはありますかね?」
「・・・そうですね。私が考えると政府対政府みたいな考えしか浮かんできません。最初は、単純に向こうが困るようなイタズラ位がいいのではないでしょうか?」
「イタズラね・・・考えておきます」
電話を切った。時間が過ぎて行く。娘達はゲームだ。
6時5分前。電話が掛かって来る。ジョンだ。
「遅くなりました。検討した結果ですが、米軍関係者の犯罪と確定した場合には、日本での裁判に応じ、犯人を引き渡しますが、警察の基地内での捜査権については無理です」
「分かった。答えはNOと言う事だな」
「待って下さい。大使館と同じと考えて貰えばいいんです。敷地内は国外と」
「家族合わせて4万人以上も抱える大使館とは凄いね。広大な敷地に柵を張り巡らせて。駐在している国の民をレイプする大使館員なんて聞いた事無いね」
「それは考えかた次第で・・・」
「YESと言えるようになったら電話を欲しい」
電話を切った。
娘達と寿司を食べに行った。いつもの築地すしざんまい。
食後、G63で東京湾を眺めに行って自宅に帰る。
部屋で一休み。多摩地方の地図を見る。福生市『横田基地』。
基地の南側の五日市街道から、東側のフェンスを北側まで切り取ったら面白いと思う。いいイタズラだ。
午後8時。黒い飛行服を着て、ベランダから飛び立つ。横田基地が東京の西の外れだと言っても直線距離で60キロも無い。5分も掛からずに横田基地上空に到着する。基地の南側の五日市街道上空50メートルで観察する。下に見える金網の向こう側はアメリカだと? ふざけるなと言いたい。
地上に降りる。直線のフェンスを一気に焼き切るようにフェンスと平行に光の玉を放つ。幅1メートル位の穴が、長くフェンス全体に開く。場所を変え、直線の部分に合計5km位に渡って穴を空けた。振り返るとノラ猫が入って行くのが見える。
簡単なイタズラだが、基地では大騒ぎになるだろう。
自宅に帰る。出掛けてから1時間も経っていない。娘達は俺が出かけた事にも気づいていない。着替えて、娘達に仕事だと言い出かける。財布には、金庫に入っていた帯封の掛かっていない70万円を入れてきたので、全部で100万円は入っている筈だ。
駐車場に降りる。ジュリアに乗り込みエンジンをスタートさせる。オイルが回るまで3秒待ってアクセルを軽くふかす。相変わらずの男っぽい音だ。
浅草のユカのマンションに行く。コインパーキングに車を入れて電話する。
「何やってる?」
「なんにも、いまどこ?・・・」
「すぐ近く」
「ホント? 早く来て!」
エレベーターから降りると、ユカが部屋のドアを開けて待っている。部屋着の黒のスパッツとピンクのTシャツ。18歳らしい雰囲気だ。歩きながらユカの顔を見る。出会った頃より若々しくなっている。セーラー服を着せれば高校生と言っても誰も疑わない。
部屋に入り、ドアとロックを後ろ手で締める。ユカは夢中でキスしてくる。
ダイニングテーブルに落ち着く。ユカが冷凍庫からバニラアイスの小さなカップを出してくる。スプーンですくい、俺の口に運ぶ。自分の口にも。2人で分け合って食べて又、キス。バニラ味のキスだ。
「ソファー、買った方がいいな」
「この椅子で十分だけど。テレビもここで見られるし、それ以外はベッドで横になってるから・・・日に焼けたね」
「うん。沖縄で仕事してたから」
ユカに『チョコレートちんすこう』を買ってくれば良かったと後悔する。
「いいなぁ、沖縄」
「南の島に遊びに行きたいか?」
「行きたーい。凄く」
「よし、近々行こうな」
ユカが抱き着く。ポケットのスマホが震える。二階堂。
「横田基地・・・・中本さんですね?」
「・・・」
「大騒ぎですよ。野良犬や野良猫だけじゃなく、ホームレスや基地反対派まで入り込んで、全面的に離着陸中止です。」
「いいですね」
「良くないです! その分、厚木にシワ寄せが来てます」
「そこまで考えなかった。悪かったね」
電話を切る。考えが浅かった。日本に影響が無いように、アメリカに直接の脅威を与えなくては。取りあえず大使館の国旗でも燃やしに行くか。ユカに30分で戻って来ると言い外に出る。黒っぽいスーツなので、目立たないだろう。コンビニで100円ライターを買ってポケットに入れる。裏通りから飛び立つ。
確か赤坂、アークヒルズの近く・・・・有った。アメリカ大使館。道路側に星条旗が見える。入口に門番が2人。気づかれないように旗の高度に。ポケットからライターを出し、着火。なかなか火が移らない。一度大使館から離れてコンビニへ。ジッポーライターのオイルを買って、再び大使館へ。オイルを旗に十分に垂らして着火。盛大に燃える。すぐに上昇。門番が気づき大騒ぎしている。ユカの元に帰ろう。
何気なく部屋に戻る。ユカは風呂の準備をしていた。
一緒にふろに入り、ベッドへ。沖縄でフィリピン人の女を抱いたのを思い出す。寂しげな美人だった。18歳と言っていたが、もっと若いかも知れない。目の前のユカは幸せそうだ。俺の背中を強く抱く。
6月26日 午前1時
又、二階堂から電話。ベッドの上で話す。
「今度は大使館ですか?」
「いちいち確認しないで下さいよ・・・・反応は?」
「特にアメリカからは何も」
「徐々にやりますよ。日本が戦争に負けたからって、70年以上も経ってるのに、アメリカに舐められたままってのが気に入りませんからね」
「軍への直接攻撃は控えて下さい」
「分かりました」
電話を切る。ユカが俺を見ている。
「トオル・・・なんかすごい事やってるの?」
「楽しい事だ。ユカといるのも楽しいよ」
ユカを抱く。細い体に腕を廻す。力を入れるとバラバラに折れてしまいそうだ。
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