第89話 日米地位協定
夕食。国際通りまで歩いて出る。娘達は沖縄料理を食べたいと言う。すぐ目の前に『居酒屋わらゆい』民謡ライブと書いてある。沖縄の雰囲気が味わえると思い入る。
店内は明るい雰囲気。なんとテーブル上のタッチパネルの端末でオーダー出来るようになっている。娘達には『シークァーサージュース』俺は『オリオン生』。食べ物は『ゴーヤチャンプル(ニガウリや豆腐、野菜などを混ぜた炒め物)』『ラフテー(豚の角煮)』『グルクンのから揚げ』『モズクのから揚げ』『刺身盛り合わせ』等、気になるものは全部注文する。ビールから泡盛に代わる頃に民謡ライブが始まる。静かな曲は心に染み入る。アップテンポな曲では、客も混じって踊りだす。沖縄ミュージシャンで有名な『喜納昌吉』が歌っていた『花』を聞いていると不思議と涙が出てきてしまう。
泡盛のボトルが空になり店を出る。午後10時近い。娘達も満腹だ。明日は東京に帰るのでお土産を見たいといい、国際通り沿いの、まだ開いている店で買い物をする。俺は、店の外にしゃがみ、買い物をしている娘達を見ている。お尻が見えそうなショートパンツから伸びた長い足が綺麗だ。後で触ろう・・・なんて考える。しゃがんでいても、船に乗っているように身体が揺れて気持ちいい。
買い物が終わり娘達とホテルへと歩く。俺が先頭をフラフラ歩く。国際通りから曲がって数十メートル歩いた時に娘達の悲鳴。振り返ると娘達が男達にワゴン車に押し込まれようとしている。俺はワゴン車に駆け寄る・・・パンチをもらう。後ろにひっくり返った。殴ったのは若い白人。マキが車に押し込まれる。大きな悲鳴。綾香が抵抗して殴られる。俺は起き上がり再度ワゴン車へ行く。少しは酔いが覚めてきた。
近くに居た商店主や客が駆けつけ、力を貸してくれる。さっき俺を殴った男が俺を再び殴るが、今度は倒れない。男の腹にパンチを一発。助けに来てくれた人達がマキをワゴン車から降ろしている。車の中でマキを押さえつけていた男が出て来る。こいつも若い白人。腹にパンチ。ダウンしている2人。もう1人は周りの人たちに押さえつけられている。
運転手が逃げようとするが、運転席から引きずり出す。腹にパンチ。顔は跡が目立つので殴らない。ワゴン車の後部座席下に落ちていたガムテープを使い、倒れている3人の白人を動けないようにする。両手両足をグルグル巻きだ。
5分後パトカー到着。次々と5台のパトカーが来た。救急車も来る。
俺は警察官に状況を説明する。娘達は恐怖のあまり震えている。マキの左腕から血が出ている。車に引きずり込まれた時に受けた傷だ。綾香は顔を殴られ唇から血が出ている。俺の唇も切れている。他の警察官が周りの人の証言を取っている。4人の白人が手錠を掛けられパトカーに分乗した時、米軍基地のMPの車が3台来る。俺と娘達は救急車の後部に座った状態で手当てされながらMPが着くのを見ていた。MPと来ていた警官の一番上の人間だろうか、話し合っている。徐々に怒鳴り声になり、他のMPがマシンガン、M16を構える。
まるで誘拐するようにパトカーに入れられていた白人4人を連れ出す。周りのヤジ馬からブーイングが起こる。
MP達はヤジ馬を意識的に見ずに行動している。やっている事に後ろめたさを感じている証拠だ。4人が連れ去られた。ワゴン車はMPの1人が運転していく。ヤジ馬の何人もがスマホでビデオを撮っている。
50代に見える警察官が俺に近寄る。申し訳なさそうな顔で言う。
「日米地位協定ってのが有りまして・・・あいつらは、それを盾にして・・・」
「何だそれ?」
「アメリカ軍に関係する者が犯罪を犯しても、基本的に日本の裁判所で裁けないんです。取り調べも難しい・・・」
「だからレイプとか、曳き逃げだとか多いのか。でもコレは現行犯じゃないか」
「そうなんですが、さっきはご覧の様に銃の力で・・・後は基地に中に逃げ込まれたら手が出せないんで。軍の方に引き渡しを要請しますが」
頭にきた。娘達の保護を警察に頼んで俺は走る。目の前の希望ヶ丘公園に入り、人目が無いのを確認して飛び立つ。
多分、北だと検討を付け、58号線上をゆっくりと飛ぶ。3台のMPの車は簡単に見つかった。大きく『MP』と、ご丁寧に車体の屋根に書いてある。後ろにワゴン車。1列で走っている。普天間基地か・・・行き先を考えるが基地に入るとやはり面倒だ。
後続車が居ないのを確認して、先頭のMP車両のエンジンに光の玉を落とす。急ブレーキが掛かった為に後ろの3台が次々に追突する。MPの隊員達が車から出て、銃を構える。9人だ。高度を下げながら全員の銃に光の玉を撃ち破壊する。銃の保持の仕方によって腕が無くなった奴もいるだろうが、相手全員がレイプ犯に見えている俺には気にならない。地上に降りた俺に素手で殴りかかって来る奴ら、全員を叩きのめし、MPの車に放り込む。娘達を襲った4人を車から出し、ワゴン車に乗せ、走らせる。俺と2人は2列目に座り、1人は3列目に座らせる。1人は運転だ。抵抗したが圧倒的な力の差を見せつけると大人しく従う。
連中の歳は、22・24・25・29歳。全員白人。25歳が運転。
今まで何回誘拐やレイプをしたかと、俺の横に居る24歳の奴に聞く。初めてだと言ったが、パンチで前歯を全部折ると、前に3回やっていると言う。同じ仲間とだ。口から血を流しながら泣く。3列目の29歳の奴が言う。
「俺達アメリカ人兵士にこんな事をして、お前は一生刑務所だ」
顔を突き出してくるのでパンチ。前歯が飛ぶ。気を失った。
58号線から、サンパーク通りの交差点を左折させ、車を停めさせる。運転手の25歳を後部座席に移動させ、意識の有る3人をベルト等を使って縛り上げる。俺が運転席に座る。海の方向に走る。人気の無い道だ。2キロ程で海沿いを走る道に出る。左に曲がって少し行くと道路は海上を走る。スピードを上げる。古いハイエースなので遅い。やっと100キロだ。左に急ハンドルを切る。左側の防護壁を乗り越え海へとジャンプする・・・同時に俺はドアを開けて飛び出す。
水面を見下ろす。ハイエースの後ろ半分が水面上に見える。全部が沈んだのを確認してホテル近くまで飛び、希望が丘公園に着地する。公園の水道で手に着いた血を洗い流す。
ホテルのロビーに娘達と警官数名がいた。
訴えを出すか、出さないか。出すのなら警察署に行って、事情聴取のあと正式に告訴する。
出さないのなら、このまま泣き寝入りとなる。
相手は多分、全員死んでしまっているだろうし、どうでも良かったが、何もしないのも怪しまれるので告訴すると言った。娘達に同意を求めると、相手が謝ってくれればいいと言う。もう、謝る事も出来ないが。
結局、警察署には行かずに、ホテルのロビーでの話で終わった。警察が米軍の方に問い合わせるとの事だ。謝罪で済むのなら向こうも謝罪を受け入れるだろうと言う事だ。沢山の証人もいるし、米軍側も、事をうやむやには出来ないだろう。
部屋に戻る。両側に娘達を抱えてソファーに座る。肩を抱いてやる。2人とも俺の胸に顔を埋めて大人しい。怖かったんだろう。
綾香が顔を上げる。俺に聞く。
「オジサン・・・もう、やっつけた?」
やっぱり知ってたか。
「まあね。悪い奴はやっつけないとな」
マキも顔を上げ、娘達は笑う。
娘達は冷蔵庫から出したジュースとチョコレートちんすこう。俺はビールとピーナッツで飲み直しだ。明日は東京に帰る。
日米地位協定、糞くらえ!
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