第87話 ハイアット那覇

6月22日

那覇に向かう飛行機。やっぱりファーストクラスにして良かった。僅か2時間半の飛行だが、他人と肩を付け合うのが嫌だ。ファーストクラスのシートなら自分の空間を持てる。


那覇空港からは『ゆいレール』に乗り牧志駅で降りる。タクシーでも良かったのだが、『ゆいレール』に乗って見たかったのだ。牧志駅からホテルまでは500メートル程だったので歩く。駅を出てすぐの国際通りを左に入る。『南西観光ホテル』の前を通り過ぎ『八重山牛』なんていう看板を見て歩く。お土産屋が多いが、国際通りの端に位置するここでは、近くのホテルに滞在している人目当てだろう。ファミリーマートが右にある交差点を左。後は真っすぐに行けばホテルだと、グーグルマップを見ているマキが言う。

暑い。もう梅雨明けのようだ。タクシーにすれば良かったと後悔し始めた時にホテルに着いた。

エントランスからして豪華な雰囲気だ。フロントに行き、名前を告げるとクラブフロアに案内される。いい部屋を予約すると、違う場所でのチェックイン・アウトが出来る。

部屋の場所を教えられ、鍵を渡される。丁寧な言葉遣いなのだが、何か違う。他のハイアットで感じられる『ホスピタリティ』が十分でない。

部屋は56平米と言う事で、スイートとしては狭いが十分だ。雰囲気は良く作られている。

娘達は早速プールだ。プールサイドには座り心地の良いチェアーが並べて有り、中国人観光客の煩さを気にしなければ、オリオンビールを快適に飲める。オリオンビールは軽い。沖縄滞在中は、水代わりに飲むことが決定だ。沖縄は陽が長い。午後7時になっても、まだ明るい。東京よりもだいぶ西に位置するのに時差が無いので当たり前だが。その分、朝が遅い。

部屋に一度戻る。シャワーを浴びて夕食だ。

ホテルのレストランでと思っていたが、綾香が観光案内で見つけた『88ステーキ』に行きたいと言う。ロビーに降りてホテルのスタッフに聞くと、国際通りを左に行けばすぐだと言うので歩く。


日本人が想像するアメリカをデザインした内装。雰囲気はいい。

娘達はテンダーロインの400グラム。俺はTボーンステーキ500グラムだ。石垣牛の炙り寿司やガーリックシュリンプフライも注文する。

Tボーンステーキは、なかなか旨い。普段食べている、とろける様な肉とは違い、噛みしめて肉の味が出て来る旨さだ。合計で約22000円。毎晩ここに来そうな気がする。


ホテルまで歩く。綾香がお土産屋で『ちんすこう』の試食品を食べ、欲しいと言う。チョコレートでコーティングしてある、ちんすこうを1箱買ってホテルに戻る。


午後9時。プールサイドでビールでもと行ってみたら、この時間になっても中国人が大騒ぎだ。走り回り、飛び込み、やりたい放題の子供達。親はチェアーで知らん顔。

諦めてバーで飲む。娘達は部屋で、今日撮った写真をフェイスブックにアップするのに夢中だ。1人なのでカウンターに座る。

バーテンが聞く。

「なにに致しましょう」

「タンカレーをロックで」

「ナンバー・テンで宜しいですか?」

「いいね。ダブルで」

タンカレー・・・ジンだ。たまに飲みたくなる。

2口目を飲んだ時に、席を1つ空けて座っていた50代の男が話しかけて来る。

「東京からですか?」

沖縄弁。嬉しくなる。『とうきょうからですか』の『と』と最後の『か』が強調される。

標準語だと『から』と最後の『か』が強調されるのが普通だ。

「そうです。ヤマトンチュです」

「私はウチナンチュ」

2人で笑う。

ヤマトンチュは沖縄以外の日本の人間で、ウチナンチュは沖縄本島の人間だ。ちなみに宮古島の人間はミヤコンチュとなる。

彼はハイヤーの運転手で、ハイアットホテルに客を送って、仕事が終わったところだった。

8人組の中国人で、8時間のチャーターだったと言う。彼らが車から降りた後は大変らしい。チャーターされたハイエースには、車内で食べたお菓子のくずや、いたるところにゴミが放置されていると言う。車内にゴミ箱が2つ置いてあるのにお構いなしだとグチを言う。会社で持っている車を聞くと、セダンが殆どだが、アルファードも有ると言う。明日の予定を聞くと彼は空いている。アルファードの空きを電話で聞いてもらうと、運よく空いていた。朝9時から8時間で予約した。ドライバーが予約を取ると1000円から2000円のバックが有るらしい。喜ぶ彼は名刺を寄越した。『新城明』シンジョウさん。琉球時代は『アラグスク』と呼んだだろう。彼が飲んでいたコーラ代も払ってやり、明日の朝、9時にロビーで待ち合わせした。


部屋に戻ると娘達はソファーに寝転がりスマホだ。テーブルには買ってきたチョコレートちんすこうの箱が置いてある。沢山入っていた筈だが、既に半分が無くなっている。凄い食欲だ。明日は朝9時から観光に行くぞと言うと『ジンベイザメ』を見たいと言う。


3人並んで大人しく寝る。娘達はプールでさんざん遊んだので疲れたのだろう。

俺はジンの酔いが廻って、いい気分で眠れそうだ。


6月23日 日曜日

7時に起きてレストランで食事する。目の前で好みのオムレツを焼いてくれるのを娘達は喜び、若いコックと写真を撮っている。眉毛が濃く、少しホリの深い沖縄顔の青年だ。ジジイの俺はは笑ってるけど、少し妬いてます。


9時。約束通り新城さんが迎えに来る。

どこに行きますか、と尋ねる彼に、娘達が声を合わせて『美ら海水族館!』という。

新城さんには、綾香を娘、マキをその友達だと紹介する。

那覇のインターチェンジから高速に乗り、快適に走る。俺は2列目の左側、綾香は俺の隣りに来たり、3列目のマキの横に行ったりして楽しんでいる。

高速を降り、海を左に見ながら一般道を走る。途中の景色のいい所で何度か止まって写真撮影だ。

11時、水族館到着。歩く、歩く、歩く。とにかく広い。ジンベエサメの水槽の前に立ち、3人で口を開けて見とれてしまう。

その他にもいろいろ見どころは有ったが、外の公園が気持ち良かった。海と花をバックに写真、写真。なんでこんなに写真なんだ。

1時には海洋公園にも飽きてしまい、車に戻る。腹が減っている。

海沿いの道を戻る。レストランを探しながら走るがなかなか見つからない。瀬底島を右に見て過ぎ、名護の街に入りA&Wを見つける。東京では見ないハンバーガーショップだが、沖縄ではマクドナルドより好まれている。4人でハンバーガーとクルクル丸まったカーリーフライ(ポテト)を食べて店を出る。走り出してすぐにブルーシールアイスの店を見つけ、また止まる。運転手の新城さんはニコヤカに応じる。酒好きな顔だがアイスクリームを買ってくると喜んで食べる。


ひたすら海ぞいを走り、綺麗な景色があると止まって写真撮影。真栄田岬では崖の上で撮影をし、海まで降りるといい階段を下る。ダイバーが重そうにタンクを背負って階段を登って行く。 残波岬で景色を眺めた後、国道58号線に戻り那覇方面に走る。左側には米軍基地が広がる。 北谷のアメリカンビレッジに娘達は興奮し、走り回る。俺と新城さんはスターバックスで一休みだ。


ホテルに帰ったのは5時少し前だった。新城さんのアルファードのハイヤー料金は36000円だったので、チップ込みで4万円を渡す。真っ黒な顔が笑う。昨日の中国人はチップどころか、飲み物一本渡さず、しまいにはハイヤー料金を値切ったと言う。


コンンシェルジュに行き、明日クルーザーをチャーター出来ないかと聞く。

慶良間まで行ける船をリクエストする。コンシェルジュが電話する。

3件目で、空いているクルーザーが有った。50フィートの大型でダイビング用の船だがそれでいいかという。小さいよりはいい。体験ダイビングも出来ると言うので娘達に聞くと『やりたい』と叫ぶ。

コンシェルジュと電話を替わり、体験ダイビング2人と、俺は普通のファンダイビングを申し込む。ダイビングのカードは昔に取っていた。今回は念のためにカードを持ってきて良かった。別のコースでなく娘達と一緒に潜ればいいと伝える。

クルーザーの一日チャーターが8万円。体験ダイビングが一人12000円。俺のダイビングが1ダイブで器材込みで10000円。昼食が弁当だと一人1000円でバーベキューは3人で9000円からだと言うので2万円分用意してくれと頼む。消費税込みで、端数はサービスして144000円だった。俺達3人のサイズを伝える。ウェットスーツが多少ゆるくても水温が高いので心配ない。朝、8時に迎えに来ると言う。


娘達は部屋で着替えるとプールだ。沖縄本島のビーチはお気に召さないらしく、泳ぐのはプールがいいと言う。明日は綺麗な海を見せてやれる。


今日は珍しく中国人がいない。日本人カップルが一組と家族連れが一組だ。子供が、はしゃいでいたが、中国人のように、大人まで大声で騒ぐことが無いので、比較的静かで落ち着ける。ビールが旨い・・・と思っていると、30分もしない内に騒音が近寄って来る。嫌な予感。中国人ファミリーが3組。団体旅行なのだろうか。総勢で13人。まるで300人が騒いでいるような騒音。引き上げよう。プールの向かい側を見ると、他の日本人も引き上げだ。施設が綺麗なだけにもったいない。中国人を隔離しないと、日本人がくつろげる場所は部屋しかない。


午後9時。ゆうべと同じ『88ステーキ』だ。

沖縄サミットで各国首脳に提供した石垣、黒毛和牛のフィレステーキを3人で注文する。

150グラムで12000円する高級ステーキだ。150グラムでは足りないので、ロブスターのオーブン焼きを3匹注文する。会計は約65000円。

娘達は『マルエツ・プチ』の肉より美味しかったと喜ぶ。ロブスターは味付けは良かったが、焼き過ぎなのか、身が固かった。


明日、慶良間諸島で着る水着を出してくる娘達。お揃いで、黒とシルバーの色違いのワンピースが、素晴らしくセクシーだ。全体がメッシュ生地で上下の3箇所の肝心な部分だけ透けない布地になっている。次にハイレグTバックのビキニ。これは蛍光色で綾香がオレンジでマキがグリーンだ。綾香のオッパイは殆ど露出している。小さな三角の布地では足りない。お気に入りの音楽がテレビから流れ、ビキニを着た2人が俺の前で踊りだす。


2人の動きが止まり、俺から離れる。どうしたんだ・・・何故やめる・・・音楽が終わっていた。



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