第83話 かつ丼、中本杯
北朝鮮にはミサイル基地も核開発施設も無くなった。竹島では20隻の韓国艇を撃沈した。
疲れた・・・精神的に重い。船室のベッドに横になっていても仕方ない。
乗組員にSBU隊員の船室を聞き、加島の部屋を訪ねた。4人部屋には2人の隊員が居た。俺が入ると立ち上がり敬礼する。ひとつのベッドには、私物らしき物が置いてある。上には認識票が置かれている。
「加島は?」
「ここには戻っておられません。多分格納庫か、甲板だと思います」
礼を言って出て来る。甲板に出る。煙突を斜めに置いた様な円筒型のミサイル発射装置の下に座っている。日本が開発し配備した、敵艦に向けて使うミサイルでSSM-1Bとも呼ばれている。
加島はボーっとして海を見ていた。横に座る。加島が俺を見る。
「隊員を守れなかったです・・・」
「お前らは警備員か兵士か・・・どっちだ?」
「分かってます。SBUに転属になってからは、特に・・・」
加島が立ち上がる。俺の方を見て言う。直立不動だ。
「自分はSBU隊員として職務を全うしました!しかし、2人の部下を失ったのは悔やまれます!」
涙を流している。
「お前みたいなのが隊長じゃなかったら、あと5人は死んでたかも知れないな・・・腕は大丈夫か?」
「弾は抜けていましたので大丈夫です」
「他の撃たれた4人は?」
「命に係わる事は無いようです。応急手当は済んでいますので、あとは舞鶴に帰ってからです」
「腹へってないか?」
「そう言えば・・・減ってます」
「よし。俺用のかつ丼を食おう・・・食えるか?大盛りメシに、かつ2枚のせ」
「楽勝です!早食いでも中本さんに負けません!」
「言ったな。勝負だ!」
食堂に医務室から出られない2人を除いた18人のSBU隊員と乗組員多数が集まった。
早食いに自身の有るSBU隊員5人と、『あたご』の乗組員9人と俺の前に、大盛りかつ丼が並べられている。全員が180センチを超える筋肉マンだ。
『中本杯早食い競争』と名付けられた。15人の参加者は参加料¥1500円を食堂に払っての参加だ。しかし勝者には俺からの賞金が出る。
1等50万円。2等20万円。3等10万円。4等5万円。5等3万円。
全部の賞金を払うと、今の俺の財布には殆ど残らない。まあ、いいか。
SBU隊員の中には加島と彼の部下2人が入っている。1人は足を撃たれての参加だ。
お祭り騒ぎを認めてくれた艦長の小坂の掛け声で競技がスタートした。
早い・・・みんな早い。乗組員の1人と加島の部下がトップを走る。開始から3分後にはドンブリの中身半分が消えている。加島は4番手という感じだ。俺は最下位に近い。3番手だった乗組員が咳きこんで、カツが口から飛び出す。そのままだと失格になるので慌ててカツを拾い上げて口に戻す。周りは大笑いだ。本物の修羅場から生還したばかりのSBU隊員たちは涙を流して笑う。順位はそのままに乗組員が一番初めにドンブリを空にする。砲手だと言う。2番手は加島の部下。加島は3番手で、カツを拾ってまで食べた乗組員が4番。以下、5番手にも乗組員が入る。俺は笑ってしまい、最下位で終わった。
全員が綺麗に食べ終える。ポケットに入れていた財布から賞金を配る。
足を撃たれて参加したSBU隊員が叫ぶ。
「完食賞はないんですか!」
加島が頭を叩く。財布を覗いて紙幣を数える。1万円札が9枚残っている。賞金をもらえなかったのが9人・・・全員に完食賞として1万円ずつを渡す。大盛り上がりだ。
艦長の小坂や河野、二階堂も拍手をしている。
『あたご』が舞鶴に到着したのは午後9時だった。
下船するときに艦長の小坂が俺に言う。
「乗組員にまで気を使って頂いて有難うございました」
握手のグリップが強かった。メガネの奥の目が優しく笑っていた。
河野、二階堂とJIAの通信員、俺の4人がヘリに乗り込む。来た時と同じMCH-101だ。来る時のトラブルはインジェクターの電気回路の不調だったと言う。
加島は、他の隊員と共に、用意したスクーバ器材と水中スクーターを積み込んで別のヘリで東京に戻るらしい。
深夜2時。市ヶ谷を出て、浅草のユカに電話する。寝ていたようだが俺からの電話に喜ぶ。
20分で浅草のマンションに着く。
シャワーを浴び、抱き合う。裸のまま眠る。
6月20日 木曜日
煮物のいい匂いで目が覚める。寝室を出て見ると、エプロンをしたユカがキッチンに立っている。若奥様という雰囲気だ。俺に気づき、抱き合いキスをする。
「良く寝てたね・・・12時だよ」
「そうか・・・昼飯だな。何作ったの?」
「肉ジャガ・・・好き?」
「いいねぇ。大好きだよ。ユカと同じ位」
ゆかの腰に手を廻して持ち上げてよろける。冷蔵庫にぶつかって止まり、倒れずにすんだ。
「無理しないで・・・パパ」
朝から情けない。『あたご』でかつ丼を食べてから何も口にしていなかった。
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