第81話MCH-101ヘリコプター 

2270馬力のエンジン3基を積む、MCH-101ヘリコプターの轟音。

加島が横に座る。大声で話すが他には聞こえない。

「また、ご一緒出来て嬉しいです!」

「車、買ったか?G」

「だめでした。嫁に反対されて・・・来年、息子が高校に上がるんで、それどころじゃ無いって言われて。結局、スバルのレヴォーグです。残りは定期預金にされちゃいました。」

「堅実な嫁さんでいいじゃないか」

加島は頭を掻く。河野が俺を挟んで加島の反対側に座る。加島の顔を見て言う。

「加島・・・だったな」

加島が背筋を伸ばして『ハッ』と返事をする。顔を寄せて河野が話す。

「SBUの隊員達20人が竹島に行って2日経つ。今日からお前が部下と一緒に滞在だが、今までの2日間とは状況が変わって来るぞ!」

「ハッ。心得ております。どうなっても部下を無事に連れ帰るのが自分の任務です」

「北の時と違って、中本さんがお前達のお守をしてくれる訳じゃないからな。砲撃が始まったら男島の穴に隠れるのを忘れるな」


竹島と言うのは、2つの小さな島の総称で、西側の大き目な男島と、東側の小さな女島で成り立つ。大きさは2島合わせて東京ドーム5つ分だ。

 男島には小さな洞窟状の窪みが有り、この二日間でそこを掘り進め、防空壕の役目を果たすようになった。しかし、ミサイルの直撃を受けたら無事かどうかは分からない。

 最悪の状況まで考え、水中からの脱出の準備も行われた。隊員の人数分の潜水装置だ。10Lのタンクを2本並列に付けたダブルタンクのスクーバ器材と水中スクーターだ。水中スクーターはグリップを手で保持しながらスロットルを開けて前進する保持型だが、ダイバー2人を引いて水中を時速10キロで100分進むことが出来るように特殊バッテリーに替えられていた。

 水深20メートルで100分間水中にいても、水中に慣れた隊員達はエア切れになる心配は無い。但し、その場合、海面への直浮上は出来ないので、浅い水深に上がって留まり、身体に溜まった窒素を排出する必要がある。


二階堂も俺の方に来る。加島が席を譲った。二階堂が俺に言う。

「韓国の戦艦は一隻これでお願いします」

指を1本立てる。1億か。これは日本政府からだな。二階堂に聞く。

「二階堂さん・・・本当の計画を聞かせてよ」

二階堂が俺の目を見る・・・・顔を寄せて来る。

「知っておいた方がいいでしょうね・・・中本さんが北朝鮮の2か所を壊滅させた後で、海上自衛隊の艦船は、一隻を残して竹島から離れます。残るのは、はやぶさ型のミサイル艇で足の速い艇です。その後、竹島に残っている隊員が男島、女島の両島の高い位置に日章旗を揚げます。当然、韓国船は自衛隊の艦船の呼びかけに反して、竹島に近づいてきます。ここで自衛隊側は島から威嚇射撃をします。自衛隊側の威嚇射撃は海へ。韓国側の威嚇射撃は竹島に当たり、これは攻撃になります。そこで・・・・」

 二階堂が俺を指差す。納得。

「誰の立てた作戦ですか?」

 二階堂は答えない。

「分かりましたが、アメリカの考えそうな作戦ですね。でも今回はアッチの兵器屋さんには利益は無いかな」

 誘いこんで逆襲するパターンだ。

イラクがクウェートに侵攻した時の事を思い出した。

 アメリカは旧式の兵器を大量にイラクに売りつけていた。イラクは対イランの為に兵器を必要としていたからだ。イラクはオイルマネーで成り立っている国だ。最新の石油掘削機も欲しがるがアメリカは売らない。イラクに売るのは旧式の兵器だけだ。しかし、隣国のクウェートには最新の掘削機を売る。クウェートは大量に石油が埋蔵されているイラクとの国境で掘削を始める。その辺りは岩盤が固く、旧式の掘削機では無理な場所だ。鉱脈は地下で繋がっている。イラクの地下の石油までクウェートが吸い上げる。小国クウェートは石油で莫大な金を得る。

 イラクは面白くない。アメリカから買った旧式の兵器でクウェートに侵攻する。小国クウェートはイラクの侵攻を防げない。そこで、正義の名の下に、アメリカが最新兵器の実験を兼ねてイラクを攻撃する。

 モニターを見ながら誘導するミサイルの画像がCNNで流れる。それを見た各国の政府・軍隊がアメリカの兵器産業に注文を出す。まるで兵器のテレビショッピングだった。しかも旧式兵器を賞味期限が切れるまでに使い切れるように、サダムフセインを殺さず逃がす。自己を正当化する為に、油まみれの鳥の映像を何度もテレビで流す。


まあ、今回はアメリカがしゃしゃり出てドンパチやる訳じゃないからいいか。

 俺の報酬もアメリカから出るし。


ヘリのエンジンの音が変化する・・・操縦席でアラーム音が鳴り響く。

 副機長が叫ぶ。

「2番エンジン停止!」

 機長が叫ぶ。

「どうした!」

「分かりません!」

 更に異音。副機長が叫ぶ。

「1番エンジンも停止! 3番も不調!」

「燃料は!」

「十分有りますが、インジェクターの警告ランプが異常点滅!」

「落ちるぞ!」

 ヘリは降下を始める。機は琵琶湖上空に差し掛かるところだ。

 加島を呼ぶ。

「加島!・・・ドアを開けろ!」

加島がロックを外しドアを開ける。MCH-101は頭を下げて墜落の体勢になる。

ドアから飛び出る。飛行服に着替えている暇はない。スーツのジャケットのままだ。

一度ヘリから離れ全体を見る。バランスの中心を見極めてヘリの下側に入り背中を当てる。

エンジンが完全に停止した。高度が下がる。墜落させてたまるか。下腹に力を入れる。

下降の速度が鈍る・・・・止まる。琵琶湖の湖面上10メートル。大型のMCH―101を背負っている。離れて見たら、回転翼が止まっているのにホバリングしているヘリ・・・不思議な状況だろう。そのまま上昇する。琵琶湖の湖面が遠ざかる。


ここから舞鶴の基地までは100キロも無いだろう。このまま飛んで行こう。どうせならヘリより速く飛んでやれ。

機長がスピーカーで方向の指示を出す。舞鶴には予定時刻よりも早く着いた。


ヘリを着陸させる。乗っていた全員が走って来て俺に抱き着く。そして身体を離し敬礼する。何者かによるヘリコプターへの工作だったようだ。内部にスパイが?


加島が俺の横を歩く。デカイこいつが横に来ると自分が本当に小さく感じる。

「せっかく買ったレヴォーグに乗る前に、死なずに済みました」

「それを言うんなら、息子の高校入学前にだろ」

頭を掻く加島。単純で気のいい男だ。


完璧に腹が減っている。


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