第77話 赤いスカートの女
駐車場の奥の売店から女が走って来る。派手な赤のミニスカート。ヴィトンのバック。。
箱根新道下の駐車場で、ジュリアの横に出て伸びをしていた俺に言う。
「乗せて!」
助手席に乗り込む。
俺は運転席のドアを開けて聞く。
「どうしたの」
「いいから早く走って!」
映画の様な出来事・・・面白い。ジュリアに乗り込み走り出す。箱根口のインターチェンジから自動車専用道路に乗る。小田原厚木道路に接続する道路だ。
「どこに行きたいの」
女は後ろを気にしている。
「どこでもいいの・・・逃げられれば」
「逃げる?・・・男?」
「そう・・・嫌な奴」
「俺がもっと嫌な奴だったらどうする?」
女は俺をじっと見る。
「大丈夫」
「どうして分かる?」
「赤だもん・・・車が」
「赤い車には嫌な奴は乗らないのか?」
「アッ・・・来た。速く、もっと速く走って!」
俺の左の太ももを揺する。ジュニアに刺激がくるのに。女のミニスカートの足に目が行く。
綺麗な足だ。触りたい。ミラーを見る。黒の旧型メルセデスSクラス。嫌な予感。
急激に迫って来る。俺の横に並び、窓を開けて止まれと合図している。大声で何か叫んでいるようだが、窓を開ける義理は無い。無視していると幅寄せをしてくる。小田原厚木道路に入っている。ブレーキを掛けて前に行かせると、俺の前に出てブレーキを掛ける。S500のエンブレム。咄嗟に車線を変えてアクセルを踏み込み前に出る。ノーマル・メルセデスのV8・5000ccがジュリアに付いて来られる訳がない。見る間に差が開くが前がつかえて、そうそう逃げ切れる訳では無い。仕方なく大磯のパーキングエリアに入る。ジュリアの横に黒のメルセデスが急ブレーキで止まる。男がメルセデスから飛び出してくる。女の方に行くかと思いきや運転席の俺に向かってくる。ジュリアに傷を付けられるのも嫌なので俺も外に出る。出たとたん襟首を掴まれた。デカイ・・・190センチはある。派手なアップリケの付いたジャージの上下にサンダル。薄茶色のサングラスに角刈り、剃り込み。フル装備のチンピラ。
「お前がユカの男か!・・・ジジイじゃねえか。俺からユカをさらうなんて、いい度胸してるな・・・ジジイ! ビビッて口が効けねえのか?・・・」
俺はつま先立ちになっている。何か言わなきゃ。
「ビビッてって言うより、何て言うか、おかしくて・・・」
チンピラはさらに俺の襟首を強く持ち上げる。
「何がおかしいんだテメエ・・・言ってみろ、こらっ・・・殺すぞ!」
「いや、殺されなくても死ぬほどおかしいんだよね、そのカッコ。剃り込み自分で入れてんの?」
男のオデコの剃り込み部分に触る。男はキレて俺を殴ろうと右手を振りかぶる。
腹も減って無いし殴らせてやろう。左頬にパンチをもらう。
助手席から出てきていた女が悲鳴を上げる。更にもう一発パンチ。2発殴らせればいいだろう。周りに沢山の証人も見ている。男が吠える。
「何とか言え・・・コラッ」
ふざけたくなる。
「ナントカ」
周りの見物人の数人が笑う。男が周囲を威嚇する。
「てめえら、見せもんじゃねんだよ・・・殴られてえか?」
オバサン3人組が警察を呼んでと叫ぶ。警察も嫌だな。男が俺の胸倉から手を放し、髪の毛を掴もうとする。それはダメだ。薄くなってきている大事な髪の毛だ。
男の手を掴んで引っ張る。一廻り振り回して、男のメルセデスの方に投げ飛ばした。
フロントガラスに落ちる。ガラスに大きなヒビ。男は引っ込みがつかない。俺の方に走ってきながらパンチ。頭を低くして避けてボディに素早くパンチ1発。俺が頭を上げると男のアゴに当たる。そのまま、男は後ろに倒れる。
周りから見れば、俺が男のパンチを避けて頭を上げた所で、偶然、頭が男のアゴにあたりノックアウトだ。ボディへの素早い俺のパンチは見えない。
路上に寝ている男を、メルセデスの後席に運ぶ。女が男のセカンドバックから財布を取り出し、入っていた金を全部抜き取る。免許証を路上に捨て、クレジットカードを折り曲げる。男の携帯と鍵束を自分のバックに入れる。 免許証を拾った。俺が持っておこう。もしもの為に。
パーキングエリアを出て厚木方面に走る。厚木のインターチェンジに来ると、ここで降りて欲しいと女が言うので従う。女の指示する先は立ち並ぶラブホテルの一軒。
棚からぼた餅、箱根から女・・・・サービスがいい。プロなみ。
終わってから聞いて驚いた。18歳だと言う。見た目は20代の半ば。名前はユカ。
15歳の時に男と知り合いキャバクラ勤め。男はヤクザなヒモ。良く有りそうな話だが、実際に遭遇すると結構面白い話だ・・・いや、許せない話だ。
16の時から客を取らされ、今では週に3回は仕事後に客の所へ行く。稼いだ金は全部男に。男にとっては金蔓な訳だ。手放すわけにはいかない。
箱根新道のパーキングで逃げ出せたのは、男が腹を下しての突然のトイレで、ユカの携帯やバックをトランクに閉じ込める余裕が無かったのだ。
俺をラブホテルに連れてきたのは、男から逃がしてくれたお礼だと言う。ユカは中野坂上に、男と住んでいるらしい。部屋の荷物を持ち出すチャンスは今しかないと言う。
「お願いします。少ないけど、手間賃で2万円払います。付き合って下さい」
「中野坂上からどこに行くの」
スケベ心が出て来る。
「分からないけど、逃げないと」
「俺、スケベだよ・・・」
「もう、分かってます」
ははは、分かるよね。俺の手は彼女の太ももに置いている。
まあ、いいか。付き合ってやろう。
中野坂上に向かうジュリアの中でも俺の手はユカの太ももの上にあった。
そう言えばジュリアの乗り心地が変わってきている。道路の細かい凸凹で振動が伝わっていたのが無くなっている。箱根でハードに走ったことも有って、アタリがついたのだろうか。しなやかな感じに変わっている。E63よりも乗り心地が良い。
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