第56話 ゴールデン・レトリーバー
午後9時
ニューオータニを出て銀座に向かう。車は西銀座駐車場だ。
店に入るとママの京子が大げさな仕草で迎える。
アンが俺の隣りに座る。ごく普通の様子で話し、飲む。
店を開ける事は、ママにはまだ知られたくないとアンが言う。あと2か月の間、働きにくくなるのは嫌だろう。店長候補には話を付けているようだ。他の店からの引き抜きだ。
12時になる。閉店の時間だ。他の客がまだ居座っているが、着替えたアンと俺は店を出る。
タクシーで帝国ホテルに向かう。
ホテルの部屋。ルームサービスのステーキサンドイッチとサラダを食べながら、2人でテレビニュースを見る。ソファーの上、バスローブ姿のアンが身体を寄せて来る。
話題と言えば、竹島・トランプ・徴用工・慰安婦像・拉致被害者。その内、もう既に3つに関わっている。あと一つに関わるのも近い。
5月31日
帝国ホテルのベットで目を覚ます。隣にはアン。
寝ていても美人だ。この顔とスタイル、しゃれた会話で客を惹きつける。
各方面に客を持っている。有名商社の部長クラスや中小企業の社長。銀行や証券マン。医者、弁護士、警察官、評論家・・・何人かはベッドを共にしているだろう。どれだけの客を自分の店に来させるか。
店を出してやったら寝る相手は自分だけになるだろう・・・等と考えるほど、俺はメデタク無い。ただのスポンサーなのは自分が一番分かっている。
11時。アンが目を覚ます。ソファーでテレビニュースを見ている俺にキスする。
「おはよう」
笑顔を残してシャワー室に消えた。
西銀座駐車場からG63を出し、自宅マンションへ向かう。駐車料金は自宅から銀座に来るタクシー代よりも高かった。
「オジサーン?」
玄関を開けると綾香の声。何か落ち着く。
12時半。昼飯はまだのようだ。築地まで寿司を食べに行く。
すしざんまいだ。カウンターに座り、お好みで次々に注文する。娘達は大トロを好むが、俺は大トロは2貫で十分だ。胸やけがする。中トロか本マグロの赤身がいい。シマアジや穴子も旨い。 30分で腹いっぱいになり店を出る。18000円也。
自宅へ戻ろうとG63を走らせる。勝鬨橋を渡っている時に、突然マキが海を見たいと言う。すぐ先が東京湾だと言うが、砂浜のある海に行きたいと・・・綾香も賛成する。
天気も良いのでドライブもいいか。
そのまま直進し、首都高速10号晴海線から湾岸道路に出る。
E63で走ったことを思い出す。時速80km位から200kmまではほんの数秒で、そのままアクセルを踏み続けると、すぐに250kmに到達した。
G63はどうだ。前は空いている。アクセルを深々と踏み込む。86,7キロのトルクは伊達じゃない。背中がシートに押し付けられる。娘達が歓声を上げる。200kmには訳なく到達したが、E63のような鋭い加速ではなかった。重い。しかし、車体が重いと言うのも良い方向に働くこともあり、乗り心地はE63を上回る。スピードを90kmに合わせて車任せに走っていると、どこまでも、何時間でも走って居られる気がする。ハンドルに手を乗せているだけで、車線の真ん中を、設定した速度で走る。娘達は賑やかだ。
湾岸道路から宮野木ジャンクションを経由して穴川方面に向かう。千葉東ジャンクションで東金道路にのり、外房の海を目指す。東金インターで高速を降り、国道126号線を走る。綾香が『フライドポテト』を食べたいと言う。
しばらく走るとマクドナルドが見えてくる。ドライブスルーでフライドポテトLサイズを2個と、アイスコーヒーとマックシェイクのバニラ味を2個買う。食べている時は静かだ。
片貝海岸の少し北。本須賀海水浴場をナビに設定して向かう。
広い駐車場が整備されているが、止まっている車は、まばらだ。殆どがサーファーだ。車から降り海岸に出る。目の前いっぱいに海岸が広がる。九十九里の海岸だ。
左右どちらを見ても、海岸がどこまであるのか分からないほど広大だ。
綾香が俺を振り向いて言う。
「日本の海もなかなかじゃん」
生意気な・・・・はい、そうですか。
娘達は波打ち際に走って行った。広い砂浜なので海まで300メートルはゆうに有る。
俺は駐車場と砂浜の間の、舗装してある遊歩道の端に腰を下ろした。砂浜を走り回る娘達を眺める。
散歩中のゴールデンレトリーバーが飼い主を引っ張って歩いて来る。まっすぐに俺を見る。
笑った・・・ゴールデンレトリーバーが俺に笑った・・・ように見えた。
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