第55話 ニューオータニ

5月30日

朝10時、メルセデスベンツの営業、佐伯が来る。俺が居なかった為、2日遅れの納車だ。

娘達と駐車場に降りる。俺のスペースに黒のG63が停まっている。

第一印象は『デカイ』。長さは隣りに停まっているクラウンよりも短いが、幅が広い。1985ミリだ。前のE63も幅が広かったが、さらに10センチ以上幅広い。

1975ミリの全高に対して1985ミリの幅で、真後ろから見ても安定感が有る。

ドアを開ける。内装は『マキアートベージュ×エスプレッソブラウン』だと佐伯が説明する。明るい色だ。AMGレザーエクスクルーシブパッケージというオプション装備らしい。

娘達を後ろに乗せて走り出す。佐伯が助手席に乗り、E63とは異なる装備の説明をする。

車高が高いので娘達は喜んでいたが、シートの座り心地はイマイチで、前のE63の方がいいと言う。空いている道に出たところでアクセルを踏み込んでみる。E63と殆ど同様の585馬力、86、7kgのトルクだが、E63程のワープするような加速はしない。

しかし、室内の解放感がいい。明るい内装色と見晴らしの良さが何よりだ。

15分ほど、機能の確認をしながら走り回り、元の駐車場に戻った。書類にサインして引き渡し終了だ。メルセデスの小型、Aクラスの中で待っていた相棒と佐伯は帰って行った。

娘達は、早くもこの車でどこに行こうかと盛り上がっている。

横浜・渋谷・六本木・・・Gクラスなんて全く必要の無い場所ばかりが出てくる。聞かない振りをして車から降りる。


昼食は冷凍スパゲティで済ます。冷凍庫には5種類ほどの冷凍スパゲティが入っていた。それぞれ好みの味を選んでレンジで温める。生パスタを使っていて旨い。


午後3時。ジェーンからの電話。

箱の設計図が出来たので見て欲しいと言う。G63で赤坂に向かう。

部屋にはジェーンだけで二階堂の姿は見えない。

ジェーンがパソコンの前に座り何度かマウスをクリックすると箱の設計図が現れた。

全方向から箱を立体的にチェックできる。モニターの中の箱を回転させて見る。

長さ270cm幅200cm高さ60cm。ほぼ俺のアイデア通りだが、足元に酸素ボンベを置くスペースの為に少し長くなっている。俺が背負う底面の反対側のほぼ中央に150cm×50cmの出入り口のドアが付く。足元になる部分には酸素ボンベ用の120cm×50cmの横長のドア。4Lの酸素ボンベなので楽に交換作業が出来る。

内部の設計図に移る。 足元から60cmはボンベ用のスペースだ。横になって床になる部分はウレタンスポンジでカバーし、4人分の安全ベルトが付く。両肩から下りるベルトとウエスト部分を固定する4点式ベルトだ。1人当たりの幅が50cmの設計だが、シートベルトのアンカーが、一番端以外は左右に5cm動かせる。

背面の設計をチェックする。箱のほぼ真ん中に俺が背負うベルトだ。箱を立てた時に俺の背の高さで楽に背負える位置だと言う。シュルダーベルトとウェストベルトはケブラー製でベルト自体は5トンの引っ張り強度らしい。箱を背負った状態で手が届く操作盤が右側にある。2個の計器が並ぶ。ボンベの圧力計と酸素の流量計だ。流量調整ボタンが並ぶ。

非常時の小さな通気口は操作盤の反対側、俺の左上だ。右上にはオーバープレッシャーバルブが付く。内部の気圧が1気圧以上になると余分な空気が出て行く。

この設計で3日後に完成予定だと言う。何というスピードだ。実物を見るのが楽しみだ。

6月2日を試験飛行の日に定める。


ジェーンが拉致被害者のリストを並べる。住所はスマホの様な端末に入れてあるようだ。

住まいの場所よりも、居なくなっても騒ぎにならない順番で移送しなければならない。リストの1人は役所勤めだが、注意のマークがついている。政府関係者になっていると言うことだ。この人は最後と決める。

ジェーンの真剣な顔が美しい。

膝上のタイトスカートが俺を誘っている・・・ように見えた。

後ろからジェーンに抱き着く。ずるい考えが頭に浮かぶ。仕事に絡めれば拒めないだろう。

「絶対に成功させよう・・・君と俺との信頼関係が何よりも必要だ・・・」

耳元で囁いた。腰を後ろから密着させている。

「わかってます。トオルさん。そう呼んでもいいですか?」

「いいよ。君はジェーン」

ブラの上からオッパイを掴む。ジェーンが俺の手を押さえて言う。

「ここじゃ嫌。もっと落ち着いて知り合いましょう」

上手く行き過ぎだ。前回のエージェントの、水野ユリにも手を出しているので、二階堂に何か言い含められているのかも知れない。

いつも通り、『まあ、いいか』だ。なるようになる。 


ホテル・ニューオータニの一室。ベットの上。

 引き締まったジェーンの身体が数秒に一度、弓なりに反る。大きな喘ぎ声が洩れる。シャワーの時に使ったバスタオルが枕元に丸まっている。


 ジェーンはベットにうつ伏せのまま動かない。


1人でニューオータニを出た。清算も済ませてあるし、赤坂も近い。ジェーンは寝かせておいてやる。

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