第53話 日焼けした肌

翌日、5月28日

有名な白砂の続くビーチに出かけた。昼前だ。

ビーチはとても綺麗でフィリピンに居るとは思えないほどだ。

ショートパンツを脱いだ2人は、かなり際どいビキニだ。


去年、ドゥテルテ大統領の一声で、ボラカイ島は約6か月間、観光客の受け入れを禁止された。水質汚染が、あまりにも酷かったのだ。ビーチで海に浸かり、夜になって皮膚に発疹が出る観光客が続出したために汚染が発覚した。

ホテルやレストランに汚水の処理をさせるのと同時に、ビーチでの喫煙、飲酒も禁止となった。ボラカイの楽しみであった、ビーチでのパーティーも出来なくなった。

そのお蔭で綺麗なビーチを楽しめる。


ボートステーションと言われる場所が3か所ある。ビーチの一番北側が1で南が3だ。

昔は整備された港が無く、小さなボートを砂浜に打ち上げるように上陸していた。桟橋はすぐに壊れるのだ。

ボートステーション1と2の間を入っていくと、まるで東京の原宿のようだ。

アクセサリー屋、クレープ屋、ネイルサロン、お土産屋・・・

娘達の気が済むのを待つ間、海沿いのバーでビールを4本空けて、いい気分だ。

5本目のビールを片手に、話し相手をしてくれていたバーのウェイトレスと踊り出す。

そこに娘達が帰って来た。

綾香が飽きれて言う。

「もう、酔っぱらってるの?」

「まだ、酔ってない・・・夜は長い」

マキが言う。

「まだ昼だって」

2人は俺の両腕を支えて椅子に座らせる。

勢いよく寄り掛かったら、そのまま後ろにひっくり返った。

手に持っている瓶からビールが顔にかかる。勿体ないのでそのままの姿勢で飲んだ。



目が覚める・・・ここは何処だ?

見廻すと自分のホテルの一室、ベットの上だ。

娘達の声が外のプールから聞こえる。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲む。

空腹で飲むと碌なことが無い。

外のプライベートプールに歩く。マキの声。

「オジサン。起きたの?・・・大丈夫?」

綾香が言う。

「まったく・・ホテルの人に迎えに来てもらったんだから」

どうやら、さっきのバーで潰れたらしい。プールサイドを歩く。

「あんまり気分がいいからな。ちょっとハイペースで飲み過ぎた」

「ウェイトレスの人、美人だったからでしょ」

ズバリ。その通り! だが認めない。

「そうだったか?覚えてないな。いつも美人が一緒だから意識しないんだな」

マキが叫ぶ。俺の後ろを指差している。

「あっ、さっきのウェイトレスの人!」

降り返りざま、足を滑らせてプールに落ちた。カッコ悪い。

もちろん、ウェイトレスの彼女は居なかった。

昼飯を食べていない・・・何か食べないと、只のジジイだ。


ホテル内のレストランで遅い昼食だ。昨日の夕食もホテル内の違うレストランで食べた。

他の街にあるシャングリラよりは、幾分味が落ちる。島なので仕方ない。スタッフの笑顔でのサービスは良い。スタッフ教育が行き届いている。

フィリピンでは、コンビニや普通のデパートで買い物しても『サンキュー』と言われる事が100回に1回あればいい方だ。大抵は無言で釣りを渡される。高級店に行けばブティックでもレストランでも『サンキューサー』と言ってくれる。


午後3時。娘達が出かけたいと言う。島の北の端に『プカ・シェル』と言うビーチが有り、とても綺麗な貝細工のアクセサリーの店が沢山あると言う情報をネットで得ていた。

ホテル内のワイファイは強力でスピードも速い。


トライシクルで来た。プカシェルビーチから見る海はエネルギーを感じさせる。

右前方に『カラバオ島』が遠くに見える。カラバオとはフィリピン語で『水牛』の事だ。荷馬車を引いているのは殆どがカラバオだ。俺の立っているビーチとカラバオ島の間が海峡になっており、左から右への潮の流れが肉眼で分かる。

娘達は何軒も立ち並ぶアクセサリー屋に夢中だ。


前方にバンカーボートから飛び込むダイバー達の姿が見える。

海流に乗って地形や魚を見るドリフトダイビングだ。

右の方へ流れながら潜行していくのだ。想像すると身体中の血が沸き上がる。

もう、止まらない。止める者も近くに居ない。

海に飛び込み、少し沖に向かう。下を見ると、すぐに水深は20メートル程になる。

オメガのベゼルの0を長針に合わせる。深呼吸をして息を一杯に吸い込む・・・潜る。

水底は25メートルあった。軽く岩に捕まりながらさらに深い方に移動する。

水深30メートルの水底を進むと、先が落ち込み見えなくなっている。

ドロップオフと呼ばれる地形だ。30メートルの棚の先が60メートル、場所によっては数百メートルもの深さに落ち込んでいる。

30メートルの岩棚の角に掴まって、ドロップオフの下を見る。壁沿いに小魚が沢山見える。透明度はそれ程良くない。20メートルがいいところだ。

右の少し下から、俺とほぼ同じ水深で魚の影が近づく。流れに逆らって泳いでくる。

15メートルまで近づく、影でマグロだと分かる。体長1メートル・・・実際は80cm位。10kg弱か。

水中では光の屈折のせいで物が大きく見える。

光の玉は水中でも使えるのか・・・・意識を集中し、放つ・・・ダメだ。届かない。

途中で光が無くなってしまう。 光の玉に驚いたマグロは逃げてしまう。

岩に掴まって待つ。オメガを見ると3分が経過している。

再び右方向から影・・・大きい。マグロだ。丸々と太っている。体長は軽く120cmを超えている。50キロクラスだ。

念力・・・目を見開きマグロの目を見る。

ふと思う。水中でマスクが無くても普通に見える。水陸両用の眼になったのか。

集中、念力だ・・・マグロを引き寄せる・・・逆らって潮の下流に向きを変えようとする。

向きを変えさせない。俺の方を向かせる。

引き寄せる・・・あと5メートル。マグロが口を開け、俺を威嚇する。マグロに威嚇されたのはもちろん初めて。いつもはカウンターで握りになっている。

あと3メートル、2メートル、1メートル・・・俺の横に引き寄せる、暴れるマグロ。目の後ろ側に俺の手を当てる。光の玉を撃つ。

さすがに水中でも接触していれば光の玉は有効だ。マグロは動きを止める。

オメガを見る。潜り始めて6分が経過している。全く苦しくない。

陸の方に水底を伝わって戻る。多少右方向に向かう。流された分の修正だ。

マグロを持ってビーチに上がる。殆ど元の場所だ。


ホテル内の眺めの良い『シレナレストラン』でのディナー。テーブル上にはマグロの刺身、まぐろステーキ、キニラウ(まぐろを酢と塩で和えて野菜と混ぜたフィリピン料理)が並ぶ。他の席の人達にもまぐろの刺身が振舞われた。


夜10時。娘達はプライベートプールで遊んでいる。

俺はスマホでニュースを見る。


日本・韓国・中国。三つ巴で大変な騒ぎになっている。

韓国・中国共に、日本の強気な態度を理解できないようだ。


娘達が濡れた体でリビングを走り抜ける。

身体が冷えたのだろう。今度はバスルームから笑い声が聞こえる。

明日は日本まで帰らなくは。

裸になり、娘達の浸かっているバスタブに入った。

彼女らの日焼けした水着の痕がセクシーだ。

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