第52話 ボラカイ島シャングリラホテル
昼食をファミレスのデリバリーで済ます。ステーキを食べたかったが、ファミレスのステーキは信じられなかったので、娘達に従ってチーズハンバーグにした。意外と旨かった。
娘達は旅行の準備ではしゃいでいる。
成田に向けて午後2時半に出発する予定だ。日曜日なので渋滞の場所は限られているが余裕を持った時間計算をした。タクシーを予約してある。
荷物はバックパックひとつだけを許可した。飛行を考えての事だ。
途中、事故渋滞に引っかかったが4時半に成田空港第2ターミナルに到着する。
ATMの様な機械にパスポートを乗せると搭乗券が出てくる。
預ける荷物は無い予定だったが、娘達のバックにはシャンプー等の液体類も入っていた為にカウンターでバックを預ける事になり、ついでに俺のバックパックも預ける。貴重品を入れてあるウェストバックだけを手に持つ。
イミグレーション。マキがパスポートを出しす。 緊張・・・何事もなく係員はマキにパスポートを返し、次の俺を見た。
ビジネスクラスのチケットなので、空港ラウンジが使える。
飲み物も食べ物も全部無料だ。機内食も出るので食べ過ぎるなと注意した。2人はご機嫌でケーキを食べた。
搭乗時間が近くなり、俺たちの便のアナウンスが有る。
搭乗口へと歩く。左側に階段を下りて搭乗口だ。エコノミークラスの長い列が出来ているが俺たちはビジネスクラス。
大勢が待っている中を余裕で搭乗ゲートを抜けて飛行機へと歩く。
マキにとっては初めての飛行機だ。
離陸の時にはひじ掛けを握りしめる。
俺はヘッドセットを着けて映画を選ぶ。2人も俺にならって画面を見る。14インチ以上は有りそうな液晶画面が快適だ。
すぐに機内食のサービスが始まる。エコノミークラスと違って、プラスチックのカップや皿ではない。ファミレスの味よりも格段に旨い。
マニラ空港に着陸してすぐにマキが俺に言う。
「オジサンに運んでもらうより快適だね。オジサンも疲れないでしょ」
黙っていた。綾香の顔を見た。マキが続ける。
「綾香は何も言ってないよ。でもさ、この前は変な中国人みたいな服着てベランダから入って来たでしょ。その後ですぐに『謎の中国人が』って大ニュースでしょ。私だって分かるよ。この前だって、あんなボートに隠れてる間にセブに行けるなんて普通じゃないでしょ」
ほぼ定刻通り。現地時間で午後9時30分。
ターミナルに着いて、イミグレーションを過ぎて荷物を受け取ったら10時だ。
パンパシフィックホテルからは迎えのリムジンが来ている。
ホテルの部屋はスイートだ。キングサイズベットの寝室と会議でも出来そうなリビングルーム。俺たちのバックをベルボーイが運び、バトラーが部屋の説明をする。
ベットルームにもソファーがある。
リビングには大きなソファーセットと長いダイニングテーブル。
簡単なキッチンもついている。マニラ湾の眺めがいい。夕方なら綺麗な夕日が見えるだろう。
娘達に何がしたいかを聞くと、プールで泳ぎたいと言う。もう10時半だ。確かプールは11時までの筈だった。バトラーに電話する。多少は時間が過ぎても大丈夫だと言う。
プールサイドのジャクジーに3人で浸かっている。さすがにこの時間になってプールに入っていると10分で身体が冷える。ジャクジーの水は暖かい。
KTVのエリと、ここでこうやっていたのが遥か昔に感じる。
部屋に戻る。バスタブに湯を貯める。5分も掛からずに十分な量が貯まる。
3人で水着のままで入ったが、すぐに裸になった。
触りあいをしてふざけるが、一線は超えない。
何気ない顔を見せているが、触り方によってはヤバイ瞬間が有り、腰を引いて逃げる。
バスルームから出てリラックス。備え付けのバスローブを着てビールだ。
明日はボラカイへ飛ぶ準備をしなくてはならない。
5月27日
目が覚める。キングサイズのベットの真ん中。両側には半裸の若い女・・・いい気分だ。
時計を見る。9時。現地時間に合わせてある。
ルームサービスの朝食がダイニングテーブルに並ぶ。スタッフ6人で運んでくる。
フルーツの色どりが綺麗だ。娘達が起きてきて写真を撮る。
シェフ姿のスタッフが簡易キッチンで好みの卵料理を作ってくれる。娘達はチーズオムレツ。俺はマッシュルームオムレツ。肉料理と魚料理も並んでいた。パンが4種類とごはん。サラダ。飲み物の種類も多い。ジュースが3種類と牛乳。コーヒーと紅茶。
1時間を掛けて満腹になる。テーブルに並べた食材の1割も食べていない気がするが、無駄遣いを楽しんでみた。
バトラーを呼ぶ。
娘達に合うフルフェイスヘルメットを買ってきてくれと注文した。マキのバックパックも貧弱だったので、しっかりとした大きめの物を頼む。ヘルメットはフィリピン製の1000ペソ位の物で十分だが、バックパックは大きめのいい物をと言い、10000ペソをバトラーに渡した。
バトラーは1時間で戻って来た。ヘルメットのサイズが2人には大きかったが、無いよりはマシだ。バックパックは有名ブランドでは無いが、しっかりとした作りの物だ。バトラーはレシートと釣りの1400ペソを出したが、チップとして渡す。
ヘルメットが有る方が確実にスピードを出せる・・・頭や顔にゴミが当たらないので怪我の心配が無いし、呼吸も楽だ。
昼まで部屋の中で、フルーツを食べながらゴロゴロする。俺のマンションよりも広い空調の効いた部屋だ。快適この上ない。1時に出発の予定だ。
ボラカイまでは300km位だ。高度1500メートルから1600メートルで気温の低下が約10度。地上の気温が30度位なので上空でも20度前後で凍える事は無い。気圧がその高度で15%以上が低くなるので時速300kmでも問題ないだろう。1時間で到着できる。
昼の12時を過ぎたところで、ルームサービスでステーキとご飯を注文する。自分用だ。娘達はフルーツで十分だと言う。
昼食を食べ終え、バトラーにチェックアウトを伝える。
他のスタッフが部屋をチェックしに来る。備品を確かめ冷蔵庫の中身を数える。
寝室の電話からフロントに連絡したのだろう。バトラーが滞在中の食事などの内容と請求金額を俺に伝える。合計で17000ペソだ。バトラーに3000ペソ。20000ペソを現金で渡した。ペソの残金が14万ペソになった。
バトラーがベルボーイを呼ぼうとしたが止める。3人ともトイレを済ましてから部屋を出るので、先にロビーで車を呼んでおいてくれと言って、更に1000ペソを渡す。
3人で飛行の身支度を整える。スニーカーの紐を結び直し、Tシャツの上に長袖のスウェットシャツを着る。ジーパンはデザインの穴が開いて無い物を持って来させていた。綾香の荷物は、バックごとマキの新しいバックパックに収まってしまった。重くなったとマキは膨れるが『18歳のお姉さんだろ』と言うと、首を傾げて舌を出し、素直に背負った。
ヘルメットを被らせ顎ヒモを締める。透明のシールドのスナップをロックして、ベランダに出る。
2人を両脇に抱える。俺のバックパックを、バランスを取るために綾香に背負わせる。
マキが不安そうだ。
「ここから飛ぶの」
マキが言うのと同時に飛び立った。2人の歓声がヘルメットから漏れる。
1000メートルまで上昇し、時速200km位で南南西に飛ぶ。娘達は大喜びだ。
綾香もスピードを出して飛行するのは初めてだ。
左手に見えたマカティのビル群はすぐに遠ざかり、大きな湖を左下に見て飛ぶ。高度を1500m程に上げてスピードも上げる。スピードが300kmを超えると娘達は声も出なくなる。300kmに抑えておこう。
左側の大きな湖を過ぎると右下にも湖。真ん中に山がある。『タール湖』だ。
この辺りは、タガイタイと言う地名の高原で避暑地になっている。金持ちの別荘が多い。タール湖はあっという間に過ぎ、すぐに海に出る。海峡だ。すぐに大きな島が見える。ミンドロ島だ。
ミンドロ島の海岸線を右下に見てしばらく飛ぶと、はるか前方にパナイ島が見える。パナイ島の手前に浮かんで見えるのがボラカイ島だ。
1km位先に小型飛行機が見える。機体の下にフロートが付いている。水上で離着陸できる飛行機だ。あれをチャーターしてボラカイか・・・納得。
少しだけ進路を変え、時速200キロ位で飛ぶ小型機を追い抜く。
追い抜く際、娘達をしっかりと抱え直し、ほんの数分だけ高度を2000メートルまで上げ、スピードも時速400キロほどで飛んだ。
通常、ボラカイに行くのは大変だ。
マニラからカティクランに飛行機で到着し、トライシクルで港へ、ボートでボラカイに渡り、ホテルまでトライシクル。それも旅の楽しみというのならいいが、今回、ボラカイへはたった2泊の弾丸旅行だ。
ボラカイ島上空に差し掛かり、スピードと高度を落とす。綾香に俺のスマホのグーグルマップを開かせる。ホテルの場所にマークしてあるので楽だ。さらに高度を落とす。
道路からホテルのエントランスへの途中に着陸したい。人が居なくなるのを見計らって着陸し、ヘルメットを脱がせる。
ロビーに入ると別世界が広がっていた。
チェックインはクレジットカードを見せ、簡単に終わった。
娘達は写真撮影で忙しい。
スタッフがバックパック2個とヘルメット2個を部屋に運んでくれる。
部屋の説明だけで15分掛かった。広い・・・広すぎる部屋。
部屋の広さは200平米以上でプライベートプールは24時間泳げると言われる。
更にホテルのプライベートビーチが2か所あり、夕食をビーチで楽しむことも出来る。
ルームサービスの内容も豊富だ。
2泊しか滞在しないのが勿体ない。
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