第44話 銀座のパパ

娘達は今日は渋谷に行くという。

朝食のホットケーキを食べながら渋谷の話しで盛り上がっている。

ガラの悪い連中が多いのは聞いていたので不安になるが、夜7時までには帰ってくると約束した。小遣い1人3万円。ちょっと多いが、服を買いたいと言うので気前よく渡した。

大喜びだ。


娘達が出かけた11時半。何をするか。

取りあえずスケベにはしる。

ノーネクタイのスーツ。

AMGで吉原へ。高級店を回るが、早い時間は出勤者が少ないのか、いい感触が無い。

総額4万円の、ほどほどの店に入り写真を見る。3人可愛い子がいる。

取りあえず車を駐車場に入れ、店に戻る。

写真を見直す。どの子にするか・・・決まらない。

店員の一言。

「2人でも大丈夫ですよ」

えっ!って事は3人で?

「じゃあさ、3人でもいいの?」


現金で払った。

個室に女の子3人と俺。

何でも3人掛かりだ。王様になった気分。

訳が分からないうちに120分が過ぎた。

良かったかと言えば・・・良かったのかな。

でも相手は1人の方がジックリと楽しめる。


ちょっと反省しながら車に戻る。

午後3時。アンに電話する。今日は同伴は無いらしい。

何が食べたいかを聞くと、和食という返事。

帝国ホテル『なだ万』で6時に待ち合わせ。アンに予約を頼む。

懐石のおまかせコースを指定した。

1人33000円で料亭の味を堪能できる。


マンションに戻ってシャワーを浴び直す。

ソープのシャワーのままで、アンに会うのも気が引けるのだ。

俺は変な所に細かい。分かれた女房にも言われた。

それに口うるさいとも。

娘達が家に来て、最初の指導が『食べる時に音を立てるな』だった。

クチャクチャと音を立てられると、こっちの食欲が無くなる。

子供の頃、食べる時に音を立てると母親に耳を引っ張られた。家の中でも外でも。

次の指導は『食べた後は、すぐに食器を洗え』だ。

キッチンのシンクに汚れた皿などがあると我慢できない。

最初の頃、娘達は『オジサンうるさい』と言っていたが、今では当たり前にやる。

俺は、自分一人でいる時にもそうしていた。


午後6時少し前。帝国ホテル正面入り口にタクシーで着く。

地下1階の『なだ万』では、テーブル席でお茶を飲みながらアンが俺を待っていた。

いつ見ても引き込まれる笑顔。


懐石料理を楽しむ。『おまかせ』コースは一番高い懐石コースだ。

初めはビール。続けて焼酎にした。芋焼酎『魔王』。1合の徳利を2本空ける。

アンは最初のビールだけで、食事を楽しんでいた。

懐石料理のマナーも完璧だ。

銀座の一流クラブで5年も揉まれれば、どこに出しても恥ずかしくない作法を身に着けるのが普通だ。二十歳の時からの銀座修行だ。

今では新人の教育係りも任されている。箸の持ち方から教えないといけない・・・と、嘆いていたこともある。


食事が終わってお茶を飲みながら、瞬間、アンが小さなため息をついたのを見逃さなかった。

「何かあったのか?」

「別に・・・何で?」

「誤魔化したってわかるよ」

「トオルには隠し事できないね・・・何かね、疲れちゃった」

「仕事がか。やめて俺に囲われるか?・・・ハハハ」

冗談めかして言ったが、ちょっと本気だ。

「仕事は楽しいんだけどね・・・」

「ママか・・・強引だからな。ママの商売のやり方は」

「ヤッパリそう思ってた? 私のお客さんも言ってた。来てくれる回数も減ってるし」

「どうしたいんだ?」

「店を移ろうかと思ってるの。今の私のお客さんの7割は引っ張れると思うから」

「全部じゃないのか?」

「それは無理。私のお客さんって言っても、店に付いる人も結構いるから」

「そうか。どこに移る?」

「それが難しいの。どこもいい点と嫌な点があるから」

「自分でやればいいじゃないか」

つい、言ってしまった。

「何言ってるの?そんなお金無いし」

黙ってた。銀座のパパさんをするのか・・・俺は。

「トオルが出してくれるの?」

じっと見つめられる。

「いくら掛かるんだ?」

「店の大きさによって違うけど、前の店で一緒に働いてた子が去年店を出したの。客席が全部で20席位の小さな店だけど・・・そこで1200万円だって言ってた。内装もしてある店で全部リースって感じで」

「回転資金も入れて2000万円か」

「そう、確かそんな事言ってた。パパさんに2000万円出して貰ったって。そのパパさん、可哀そうに開店してから1ヶ月で奥さんにバレて、店に行けなくなったんだって・・・これは余計だよね」

考える。アンに店をやらせる。俺の女の店・・・いいな。

「店舗探しなよ。俺とアンの店」

アンの目に涙が光る。

「私の夢だったの・・・」


食事と同伴出勤に付き合う積りが、銀座のパパさんに。

まあ、いいか。 俺はいつもそうだ『まあ、いいか』

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