第21話 フィリピン マニラ

午後5時。

今夜は綾香とステーキを、食べに行く約束だ。

ジョンとの話が終わって直ぐに、金庫屋に電話した。鍵屋でもある。

その金庫屋がじきに来る。


ソファーに寝転がっている綾香の尻を見ているとチャイムが鳴った。

インターフォンの画面には金庫屋の顔。

マンション入り口のドアを開ける。

40階の俺の部屋に来るまでに3分は掛かる。トイレに行って出てくると、丁度玄関のチャイムが鳴った。


金庫屋を招き入れ、金庫の場所に案内する。泥棒に開けられた金庫を恐縮しながら運び出す。

明日の夕方には、新型の金庫を持ってくる。

鍵屋でも開けられないと評判の金庫をだと言う。玄関の鍵も最新の物に変える。

両方で380万円だ。


どうせ今晩のうちに22000万円が入ってくる。何も心配ない。

俺に仕事をさせる為に金を盗んだのかな・・・田村の奴。


綾香が気楽な店がいいだろうと、お台場アクアシティに入っている、TGIフライデイに連れていった。

ステーキやスペアリブを注文し、取り分けて食べる。

テラス席からはレインボーブリッジや夜景が見え、綾香はおお喜びだ。


マンションに戻ると、宅配ボックスに荷物が届いていた。


ずっしりと重い段ボール箱を抱えて部屋に上がる。ベッドルームで箱の中身を確認する。間違いなく22000万円だ。


綾香がシャワーを終えて出てくる。

入れ替わりにシャワーを浴びた。


缶ビールの栓を開け、綾香に明後日からフィリピンに仕事に行くと告げる。

「なんで!オジサンずるい。わたしも連れてって」

「無理だよ。おれの仕事分かってるだろ。今回は2週間掛かる面倒な仕事なんだ」

「ここに友達呼んでもいい?」

「女の子ならいいぞ」

「男呼んだら嫉妬する?」

「バーカ。来てくれる男がいるのか?」

俺はそっちの心配をしてるのかな・・・

「私が声かけたら・・」

「とにかく男はダメだ。若い男は汚いからな」

我ながら訳のわからん理屈だ。



翌日、リモアの中型のスーツケースを買った。とりあえず5日分の着替えと革スーツ、ブーツを入れる。レーサーがヘルメットの下に装着する耐火仕様のフェイスマスクも買ってあるので持っていく。目の部分だけに穴が開いている物だ。


金庫屋は午後4時に来て、玄関の鍵の交換と金庫を設置していった。設置と説明に2時間掛かった。

200kgの金庫を床に打ち付けたフレームに固定してある。仮に200kgを持ち上げられる者でも移動する事は出来ない。

解錠には、暗証番号6桁と鍵、そして俺の指紋が必要だ。


明日の朝の成田までのタクシーを予約する。


夕食は築地で寿司だ。

マニラにも寿司屋は有るが、多くは期待出来ない。


☆☆☆☆☆


jALのビジネスクラスは快適だった。

シートをリクライニングさせて、ゆっくりと寛げる。


ゆうべは久々に綾香と遊覧飛行をした。

スカイツリーのてっぺんに座り、東京の街を見下ろしながらソフトクリームを食べた。


マニラで宿泊しているダイヤモンドホテルの部屋の窓から外を見る。

マニラ湾に夕陽が沈むまで、あと3時間位だ。水着に着替えてブールに行く。

フィリピン人の母親と子供がいるだけだった。

親子を脅かさない距離を取ってクロールで10分泳ぐ。

機内食をしっかりと食べたので力が余っている。

泳いだ後は、デッキチェアに横になり日光浴だ。ウェイターを呼びマンゴーシェイクを注文する。

1時間ほどで部屋に戻りシャワーを浴びる。

ベッドに横になり、フィリピンでの連絡係を待つ。


少し眠ったようだ。部屋の電話で起こされる。女性の綺麗な英語が聞こえてくる。

「アー ユー ア タイガー?」

「ソーリー アイム ア キャット」

スバイ映画に出てくるような合言葉。

窓の外を見るとマニラ湾に沈む夕陽が見える。誰かが世界一の夕陽だと言ったらしい。


ロビーに降りる。

名前は「イザベル」

連絡係が女だとは思わなかった。

ヒールを履いている彼女の背丈は俺と殆ど同じ。浅黒い肌のフィリピン美人。漆黒の髪の毛が綺麗だ。25歳前後と見た。


仕事の手順を、聞かなくてはならない。

ロビーの横に有る喫茶を指さしたが、部屋でと言われた。


おれの部屋に上がる。

エレベーターの中で俺の姿を見られる。


値踏みされているようだ。

チノパンとポロシャツ。

確かに59歳の、只のオッサンだからな。

こっちも負けずに身体中を舐めるように見てやった。身体にフィットしたワンピースの腰が細い。

いいカラダだ、イザベル!


部屋に入りドアを閉じる。







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