第20話 CIA

大きなため息をひとつ。

誰が金庫の中身89760万円を盗んで行ったのか。

陸上自衛隊幕僚長の田村の顔が浮かぶ。

全く確証がない。

あの連中だったら証拠を残すようなヘマはしないだろう。

重量にすると約90kgにもなる札束だ。


銀行口座には、まだ40万円程があった筈だ。  

財布の中身は・・・114000円。ウーン。

家賃などの月末の支払いを済ましたら残らない。


ただの泥棒でないのなら、何か動きが有ることだろう。


金はまた稼げばいいか・・・

自分を慰め納得させる。


メールをチェックする。

憂国の志からのメールだ。


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中本透様


仕事のお願いです。

詳しくは、こちらの係と、内容と報酬額の打ち合わせをして下さい。

先方は中本様の顔見知りです。


場所は浅草橋浅草寺。雷門の大提灯付近で明日の午後1時に。

        

       「憂国の志」


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笑える。

俺宛に来ている。

こっちも開きなおるか。

顔見知りっていうのはだれだろう。

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明日の件、承知しました。

        「虎」


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失って怖い物が無いのがこっちの強みだ。


メールを送り終わったところで、綾香が帰ってきた。

楽しんで来たようだ。

お土産に、たこ焼きを買ってきてくれた。



翌日。12時半。

浅草寺裏手の浅草寺病院のコインパーキングにAMGを停め、仲見世に向かう。

仲見世で人形焼きを買い、食べながら歩く。

外国人観光客が、本当に多い。


雷門の提灯をくぐり右側によって待つ。

雷おこし屋に人が群がっている。

日本人の、団体観光客のようだ。


背の高い白人に肩を叩かれる。

振り返り驚く。

ジョンだ。エルニド事件で一緒だったジョンがそこに立っていた。


俺達は神谷バーに腰を落ち着けた。

俺の事は田村から聞いているのだろう。

ジョンは自分の事も正直に話す。

彼には中国軍の基地での行いを実際に見られているので俺自信の事は隠すこともない。

しかし、自分の能力の全てを話す事はしない。

ジョンはCIAのエージェントで、俺に会うために日本に来たと言う。


店が混みあってきた。すぐ、隣の席にまで客が座ったので、俺達は店を出た。

隅田川公園から隅田川のほとりに降り、川沿いの遊歩道を歩きながら話を聞く。

俺の事を「トール」と呼ぶようになっていた。


竹島の件を知った時に、ジョンは直ぐに俺に結び付けたらしい。日本の諜報機関に問い合わせると、すぐに詳細を知ることが出来たと言う。


アメリカのCIA に相当する機関が日本にも有りJapan Intelligence Agency の頭文字を取って、諜報機関の間では「JIA 」と呼ばれている。内閣総理大臣直属の機関で、総理大臣になって始めてその存在を知らされる程の秘密組織で、その他、数人の高級官僚にも存在が知られている。アメリカのCIA との関係は密接だ。


肝心の仕事の内容を聞く。


日本政府は竹島の問題の火消しに必死になっている。証拠こそ無いものの、日本の仕業としか考えなれないので当然だ。

その火消し役にアメリカ政府が出てくる。


見返りとして、日本側はフィリピンに散らばっているCIA のエージェントを手助けする。

中国軍の基地破壊にアメリカ人のジョンが関わっていた事から、フィリピンの水面下で、アメリカと中国の関係が最悪の状態なのだ。

エージェント同士の殺し合いまで始まっている。


フィリピン・スービックの元米海軍基地にも中国が入り込もうとしている。現地の韓国資本の造船会社が、フィリピンで最大と言われる程の負債を抱えて倒産し、そこに中国資本が入ろうとしている。

アメリカにしてみれば面白くない。

アジアの拠点としてのスービックを明け渡した後で中国が入ってくるのは許せない。

しかし、マークされているCIA エージェントの動ける範囲は限られている。


日本政府にとってもおもしろくない。

2018年9月に海上自衛隊の護衛艦「かが」が、スービックに入港した際、フィリピン大統領ドゥテルテ氏が乗船し「緊密な関係を」と約束した。

中国の基地にでもなってしまったら、特に海上自衛隊の面目は丸潰れだ。


海上自衛隊、海将の河野の顔が目に浮かぶ。


要は、フィリピンに潜伏しているCIA エージェントの手助けをすればよいと言うことだ。


期間は明後日より2週間。報酬は基本的に300万ドル。約33000万円。

準備費用として100万ドル。2週間の契約終了時に残金200万ドル。


ジョンが上目遣いでおれを見ている。

「ジョン・・・もっと割りのいい仕事が沢山あるよ。金には困ってないし」

はったり・・・

「トールはビジネスマンだね。いくらならOKする?」

「タイムス トゥー だな。準備金で200万ドル。残金が400万ドル・・・俺にはその価値がないか?」

「・・・分かった。だけどインセンティブは無しだ」

「何のインセンティブだ?」

「敵を何人ヒットしても追加の報酬は出ない」

「俺はヒットマンじゃないよ。どうしようもない場合以外は人殺しは嫌だね」

「そういう状況にならなければいいけど。覚悟はしておいて欲しい」

「分かった。報酬は円建てで頼む」

「日本まで来た甲斐があったよ」


ジョンと握手をして別れた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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