第18話 顔合わせ
エレベーターは地下3階に向かっている筈だが、地下1階までの高低差がかなりあるようだ。動き出してから階数表示のライトがB1に移動するまでの時間が長い。
B1を過ぎるとB2、B3はすぐだった。
地下3階でエレベーターを降りると、10メートル程の廊下が真っ直ぐにのびている。
左右にはドアが2つづつ並んでいる。
男は正面、突き当たりのドアをノックする。
「虎のつかいの方です」
ドアが横にスライドした。
ただの引き戸の様に見えたが自動ドアだ。
男に促され、部屋に入る。
部屋の調度品は自衛隊から予想されるような事務的な物ではなく、北欧調でまとまっていた。金が掛かっている。イケアに有るような安物でないのは俺が見ても分かる。
部屋の右側には大臣が使うような事務机があり、左側のソファーには、銀座で会った自衛隊幹部と、綾香にハゲ頭を叩かれていた外務省が並んで座っている。
自衛隊が大きな声で話し出す。
「わざわざ来ていただいて恐縮です、さあさあ」
手で招かれ、ソファーの2人の向かいの席に座る。2人はウィスキーを飲んでいるようだ。
何を飲むかと聞かれ、水を貰った。
外務省が口を開く。
「中本さん、でしたね。腕っぷしがお強いと聞きましたよ」
目付きが気に入らない。
官僚がそれほど偉いと思っているのか。
この前会った時とは印象が、かなり違う。
「なかなか、変わった招待の仕方でしたね」
自衛隊が身を乗り出す。
「まあまあ、そう言わずに。これはお詫びと言うことで」
100万円の束が三つ、テーブルに置かれた。300万円がポンと出てくるか・・・
「俺の事は、もう調べがついてるんてしょうね」
自衛隊が、俺の顔を正面から見る。
「・・・嘘を言っても仕方ないですね。中本透さん。家族、経歴から、今までの交通違反まで全部分かっています」
「流石ですね」
テーブルの300万円を手に取り、ジャケットのポケットに入れる。
どうにでもなれ。
脇の下に汗が滲む。
綾香と銀座のアンの事が気に掛かる。
家にいる綾香が、エルニド事件の生き残りだと分かってしまうと、南沙諸島・中国軍の基地破壊と俺を結びつけられてしまう。
「俺の方からの自己紹介は要らないと・・・」
「これは失礼。私は陸上自衛隊幕僚長、田村。こちらは外務省、樹本さんだ」
紹介された樹本が身を起こして言う。
「もう1人も紹介しましょう。後ろにいるのが・・・」
後ろを振り返ると、いつの間にかスーツ姿の男がたっている。浅黒い肌に鋭い目付き。細身でシャープな印象だ。
樹本が続ける。
「海上自衛隊海将、河野さんだ」
河野が俺の隣に座り、俺に向かう。
「竹島の件、お見事でした。そちらにも被害は出ましたか?」
この3人が竹島の件の依頼者と言うことか。
「よくは知りませんが、あの程度の事だと被害はないでしょう」
あっさりと、とぼけた。
「それは凄い・・・今、日本の周辺でいろいろな面倒な事があります。しかし、我々が表だって動けない事が多い。動くにしても手続きに時間が掛かりすぎるんです」
田村が話を継ぐ。
「反対意見もありますしな。そういう時に中本さん。あなたの力を、また貸してほしい。この河野さんは今は海将で、次期海上幕僚長になる人だ。今の幕僚長は眠たくていかん。河野さんは官房長官と・・・」
俺が話をさえぎる
「待って下さい。(虎)は、政治的な事には興味がないでしょう。仕事を受けるかどうかは内容と報酬だと思います。何かあったら問い合わせてみて下さい。私はあくまでも紹介しただけなので」
数分後には自分の車に戻っていた。
車にGPS発信器が付けられている恐れがあるが、どうせ住まいも知られているだろう。
車を調べるのは明日にする。
綾香は起きていた。
玄関ドアを開けると、リビングから走ってきて俺に抱きつく。
「おいおい、起きてたのか?」
おれの胸に顔を埋める。
「中に入ろう。ちょっと腹が減った」
「このまま・・・10秒だけ」
子犬の様に顔を押し付ける。
股間が反応してしまう・・・ダメダメ。
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