第14話 竹島2
「憂国の志」からの返事はすぐに来た。
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報酬額は承知しました。
前金は本日でも結構です。
支払いは手渡しと言うことですが、場所と時間をお知らせください。
「憂国の志」
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前回と違う人間が書いているのか・・・・・
今晩、前金を貰ってしまおう。
俺は虎なのだ。
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銀座リクルートビル 正面玄関前で今夜9時。
現金はボストンバックにて用意して下さい。。
ボストンバックの取っ手に目印で赤いハンカチを付けること。
「虎」
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リクルートビル正面玄関 21時。
了解しました。
「憂国の志」
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午後9時までには時間がある。今は午後2時。
透視のトレーニングを開始する。
バックに本などを詰め込み、真中あたりに金属製のライターを入れる。
リビングの端にバックを置き、反対側の壁側から、バックを透視する。
マニュアルフォーカスのカメラでフォーカスを合わせるように、透視の加減をする。 約3秒でライターが見つかった。
再度、ライターの位置と自分の立ち位置を変えて試みる。
今度は2秒掛からずにライターを発見した。
夜8時半。リクルートビルの地下に位置する、西銀座駐車場の新橋寄りに愛車のAMGを停めた。階段を上がるとリクルートビルだ。さすがに銀座の駐車場だ。メルセデスAMGを停めても全く目立たない。
シートを少し倒し、甘い缶コーヒーを飲みドーナツを一つ食べる。
血糖値を上げるためだ。
空腹はいけないが、満腹でも警戒心が鈍る。
午後9時
車から降りる。
階段をゆっくりと昇る。
階段を登り切り振り返ると、赤いハンカチを取っ手に付けたボストンバックを持った男が背中を向けていた。
10秒間観察する。ボストンバックを透視。
バックの底部には金属製の小さな物が入っている。
取りあえずは一人のようだ。180cm。肩幅が異様に広い。
近寄り声を掛ける。
「憂国の志」の方ですね。
男はビクっとして振り返った。
「はい・・・これを」
バックを受け取った。
地下に降りる階段の囲いの上にバックを置き、ジッパーを開ける。
中には一万円札の束が詰まっている。
札束を避けてバックの奥に手を入れて探ると、4cm四方位の箱が見つかった。
取り出して見る。どうやらGPS発信機のようだ。
男にそれを渡す。
「これはオマケですか? それでは作業終了後に。又」
地下には降りずに、並木通りに向かって歩く。
ゆっくりと歩く。尾行者の気配がある。
並木通りを銀座4丁目方向に尾行者を引き連れて15分程ゆっくりと歩く。
尾行者は2人。来た道を超高速で引き返す。彼らには見えないだろう。
すれ違いざまに尾行者の顔を確認した。何れも若い体格のしっかりした男だった。
銀座8丁目まで戻る。ポルシェビル。
午後9時半。店内は7割がたの入りだ。
ボーイに案内されボックス席に座る。ボストンバックを横に置く。
目印の赤いハンカチは尾行者の胸ポケットにすれ違いざまに差し込んでおいた。
ボーイが俺のキープボトルを持ってきた。サントリー「響17年」
サントリーで原酒が足りなくなり、入手困難なウィスキーだ。
水割りを作ろうとするボーイを手で制する。
すぐにアンが来た。
「トオルさんたら、連絡くれないんだから・・・」
2人だけの時は俺を下の名前で呼ぶ「透」
鼻にかかった甘えた声が下半身をくすぐる。
「今日は何かあったの?いつもと雰囲気違うね・・・」
「今日はお祝いだよ。新規に仕事を受けたんだ」
「取材?」
ジャーナリストという事になっている。
「まあ、そんなもんだな」
「お祝いならシュワシュワの飲み物だよね?」
「いいよ。好きなので」
「クリュグ・・・・色は何色が好きですか?」
「あとで付き合うか?」
「いいわよ」
「好きな色にすればいいよ」
嬌声を上げてボーイを呼ぶ。
すぐにクリュグのピンクが運ばれ、ボーイが慣れた手つきで栓を抜く。
シャンパンの栓がボトルから完全に抜かれる手前でガスが抜ける音をさせる。
「シュー・・・・・」
天使のため息と言われている。
数か月前に行っていたキャバクラでは、一本8000円のシャンパンもどきのスパークリングワインを盛大な音を立てて開栓して喜んでいた。
銀座で一本開けると、20万円は下らないクリュグのピンクから聞こえる音は、まさに「天使のため息だ」
ママとヘルプの女の子2人が来た。
5人で乾杯だ。
12時少し前になり、アンは着替えに下がった。
銀座のまともなクラブは基本的に12時閉店だ。
午後8時開店、12時閉店。4時間で荒稼ぎする。
アンが着替えている間、ヘルプの子が俺の相手をする。
ママの京子は客を送り出すので大忙しだ。
エレベーターで下まで降り、客がタクシーに乗ってからも、遠ざかるまでは通りに立って見送る。歩きの客は見えなくなるまで見送る。
ほどなくアンが着替えて出てくる。
支払いは済ませてある。
クリュグのピンクと響17年のニューボトル。
その他いろいろで38万円。
アンは白のワンピースに紺のジャケット。店のドレスよりも色気が漂う。
週3回のジム通いで、贅肉の一切無い裸体を思い浮かべる。
送ろうとするママを制してアンと二人だけでエレベーターに乗る。
途中の階で酔客二人と見送りの女2人が乗ってくる。
アンの耳元で囁く。
「何か食うか?」
「ホテルで軽くがいいな」
「どこ行く?」
「今日はお祝いでしょ・・・インペリアル!」
同じ箱に乗っている酔った2人が羨ましそうに見ている。
女2人は面白くなさそうな顔だ。
タクシーを拾い帝国ホテルに向かった。
アンがシャワーを浴びている間にルームサービスのサンドイッチが届く。
2時間近くアンの身体を堪能しシャワーを浴びる。
服を着ているときにアンが目を覚ました。
「帰るの?」
「朝が早いんだ」
「寂しいな・・・」
「今度、温泉にでも行こう」
「絶対だよ・・・私、ここで寝てく」
ベット上の裸のままのアンに軽くキスして、バックを持って部屋を出た。
西銀座駐車場まで歩く。深夜の風が気持ちいい。
数か月前までは、アンのような女を抱けるなどとは思っていなかった。
金の力だけではない・・・・と思いたい。
顔には還暦間近のシワが目立つが、身体には20代の頃以上の活力に溢れている。
駐車場に着き、AMGのドアを開け、ボストンバックを助手席に放り込む。
エンジンをスタートし、アクセルを軽くあおる。
見た目とは裏腹な、野獣の咆哮のような音が駐車場に響く。
竹島攻略を考え、身震いする。
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