第7話人民軍の襲撃

ホテルに戻り、昂った感情のままにリサと抱き合った後、シャワーを浴びていた。


いやな予感がした直後、数時間前に聞いた95アサルトライフルの連射音が響き渡った。少なくても3丁から撃たれている。

慌ててシャワー室から出た時にはリサは血まみれでベッドに横たわっていた。アイランドホッピングの島で買ってやった、安物のブレスレットを握りしめている。


じぶんの血が身体の中で沸騰していくのが分かる。

廊下に飛び出し、連中が逃げたと思われる方向に走る。

ビーチの方か。

その時、100メートル程先のビーチからヘリコプターが舞い上がった。


間違いなくあいつらだ。

逃げられてしまう・・・と、思った時には身体が浮いていた。

安定しないが、一応思った方に飛んで行ける。


何とかヘリコプターにしがみつき、ドアをこじ開け、パイロット以外のマシンガンを持っていた4人を外に放り出した。

既に高度200メートル近くになっていたので、海に落ちたとしても無事に済むわけがない。

この間に数発撃たれたが、気にもならない。シャツに穴が開くだけだ。


パイロットに、このまま南沙の基地に戻るように指示した。


いきなり俺の右腹に銃弾があたった。

横を見ると僅か30メートル横にヘリコプターが並んでいる。

1機だけではなかったのだ。


そのヘリコプターの連中は、バンカーボートの乗客で、生還したアメリカ人カップルと日本人ファミリーを襲撃した後だった。

アメリカ人女性と日本人の母親と息子が犠牲になっていた。ジョンと日本人の娘の15歳の綾香だけが生き残っていたのだった。


頭に血が上り手を握りしめると、掌中が燃えるように熱くなる。両手がオレンジ色に光っている。

両手を横を飛ぶヘリコプターに向けて手をつき出すと、光の玉が俺の手から発射された。機関銃弾より速く、その光の玉はヘリコプターに吸い込まれ、直後大爆発を起こした。


バラバラになったヘリコプターの残骸は海面へと落下していった。


俺が乗っているヘリコプターのパイロットは半泣きになりながら操縦を続けた。


基地の島が見えてきた。

上空から光の玉をお見舞いする。

戦闘機、格納庫を粉砕し、滑走路は使えないように穴だらけにする。


二つ目の島では対空砲火をくらい、ヘリコプターは撃墜されたが、墜落の前にヘリコプターから飛び出た俺は、自分で飛行を続けながら攻撃を続け、残る一つの基地も完全に粉砕した。


数え切れないほどの光の玉を放った両手が熱を帯びていた。


「仇は討ったぜ、リサ」

炎と煙に包まれた基地を見下ろしながら呟いた。


エルニドに戻る途中で急に力が無くなってきた。

空腹だ。半日近く何も口にしていない。

高度が下がってくる。

とうとう、着水だ。遠くにエルニドの街が見えているのに。


幸い、100メートル位左手に小さな島があった。泳いでなんとかたどり着く。

波打ち際で横になっていると、近くに民家があるようで、テレビの音がかすかに聞こえてくる。


よろよろとした足取りで民家にたどり着いた。

タガログ語で確か、ごめん下さいは

「タオポー」

だったなと思いだし、声を掛ける。何度目かの呼び掛けで人が出てきた。

男が大きな刃物を振り上げている。

年齢不詳。

こんな深夜に人が来ることなどはないだろうから仕方ない。


英語でまくしたてた。

英語は殆ど理解出来ないようだが

「ハングリー」という言葉に反応してくれた。

俺のずぶ濡れの体にも目を止める。


まあ入れ、というように一歩下がってくれた。

室内を見渡すが何も無い。

テレビの音だと思っていたのはラジオの音で、それが唯一の電気製品だ。

  

「ハングリー?」

男が俺に聞いた

「イェス、アイム ソー ハングリー。ドゥ ユウ ハヴ サムスィン トゥ イーッ?」

ポケットを探った。しめた、金を多少は持っていた。500ペソ札一枚。

男に500ペソを渡す。

ニカッと笑顔を見せる。前歯が一本しかないのがご愛嬌だ。

男は空き缶の中に500ペソを仕舞うと、裏口から出ていった。

戻ってきた彼の手には魚の干物があった。

俺に干物を見せる。俺は頷いた。

「ワン アワァ」

と言うと、再び外に出ていった。


1時間後には薪で炊いたご飯と干物で満腹になった。

魚の干物は塩の塊のように塩辛かった。


泊まっていけと言う男に礼をいって夜の浜に出た。


腹が満ちればエルニドはひとっ飛びだ。


ホテル入口には二人の警官が立っていた。現場検証は終わったのだろう。

フロントにあるセーフティボックスに預けてあったパスポートと財布を受けとる。アルバイトらしきフロントスタッフは、俺が銃撃のあった部屋の宿泊客だとは気づかずにいてくれた。


誰もいないビーチから飛び立ち、プエルトプリンセサに向かった。






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