第6話これって拿捕?
中国船の、船首には二人の男が立っている。波に揺られる船にも慣れているのが見て取れる。二人の手には機関銃。
アメリカ男が小さな声で言う。
中国人民軍だ。95式アサルトライフルをもっている。
アメリカ海軍の軍人であることは雑談の中で聞いていた。
銃で追いたてられるように、私たち乗客10人とフィリピン人スタッフ3人が中国船に移動させられた。
中国人の二人の乗客は船内に入れられたが、残りの乗客8人とスタッフ3人は後部甲板に座らせられる。
マシンガンの2人が睨みをきかせる。
その後、中国船は波の上を飛ぶように西へと向かった。
数時間の苦痛の末、ボートのスピードが落ちた。進行方向を見ると港が見える。
エルニドではない・・・・
船を係留したあと、手錠を掛けられ、またしても銃で追いたてられ陸に上がる。
私達11人はトラックの荷台に乗せられた。銃を持った人民軍の1人が荷台に同乗する。
トラックが走り出して分かったが、ここは恐ろしく平坦な島だ。
道路は綺麗に舗装してある。パラワンの道路とは大違いだ。
遠くに高い建物が見える。
少し走ると長い直線道路に出た。
間違いなく滑走路だ。
南沙諸島。
フィリピンと領有権で揉めている地域だ。アメリカ政府も黙っていられない一件だ。
中国は自分の領土だと主張して、勝手に埋め立て、基地を作っている。
大型飛行機の離着陸も出来る規模の滑走路を、既に3つの島に作っているらしい。
その内の一つの島がここらしい。
俺達はハンガーと呼ばれている格納庫に連れていかれた。
多分、尋問されるのだろうとアメリカ男が言った。
トラックから下ろされた俺達は横一列に並ばされた。
兵士の1人が英語で言う。
国籍
名前
年齢
以上を順番に言え!
フィリピン人スタッフの二人はガタガタ震えているが、一番若い(巣潜りで助けた)ボンの目が異常な光を宿している。
余計な事をしなければいいが・・・
俺達の向かい側には中国人兵士が3人。2人がマシンガンを持ち、俺達に話している正面の1人は腰のホルスターに拳銃を下げている。
俺達を乗せてきたトラックが走り去ろうとした時に兵士達の注意がそれた。
その瞬間にボンが正面にの男に掴み掛かりホルスターから銃を奪った。
その銃で持ち主の顔を殴り付ける。
そして3人を撃ち殺して・・・
そんな上手くはいかなかった。
ボンは銃の使い方を知らなかったのだ。
あっと言う間に逆点され、ボンだけでなく他の男性6人も殴られる。
そしてマシンガンを持った2人にフィリピン人スタッフ3人が撃ち殺された。
日本人ファミリーの15歳の娘と母親。
アメリカ人女性。
リサ。
4人が、新たに来た兵士2人に何処かに連れていかれようとした時に日本人の父親が追いかけようとした。
その直後にマシンガンの餌食になってしまった。
俺のすぐ近くでだ。
思わず両腕に力が入る。
「パシッ!」
手錠の鎖で繋がれていた両腕が自由になる。鎖が切れたのだ。
それに気がついた拳銃の男が、俺の眉間に銃をむける。
「偶然切れちゃっただけだから。反抗しないし!」
眉間に向いていた銃が下に下がる、
助かったと思った次の瞬間、太ももを撃たれた。
本当なら倒れる所なんだけど痛くない。
えーい、イチかバチかだ。
目の前の男をつかみ上げ、マシンガンの2人に向かって投げつけた。
3人ひとまとめになって50メートル程先までぶっ飛んで昏倒した。
重さは感じなかった。プラスチックの椅子を投げているようだ。
女性達の方に向かうと兵士2人はマシンガンを撃ってきた。
身体に何かが当たっている感覚はあるが痛みも無ければ血も出ない。
3秒も経たずに銃撃は終わった。弾装の弾を撃ち尽くしたのだ。
下を見ると変形した弾頭が俺の周りに落ちている。
俺のTシャツは穴だらけだ。
兵士2人はマシンガンを放り出して逃げていった。
女性達が駆け寄ってくる。
父親を失った日本人ファミリーは見るに耐えない。
アメリカ男が俺に言う。
「あんた何? スーパーマンとかハンコックとか、そういうの?」
「俺にも分からないんだ」
「とにかく、ここから逃げ出さないとヤバイぜ」
「どうやって?」
「あんたの力でどうにかならないか?」
「あんたこそ軍人だろ。飛行機の操縦は出来ないか?」
「やってみるか」
1時間後、俺達は中国軍の爆撃機の中だった。7人が乗れる飛行機となると難しいのだ。スピードの出る戦闘機も有ったが二人しか乗れない。
離陸後、管制塔と格納庫に爆弾を投下した。
滑走路に並んでいた J-11戦闘機にも投下する。
俺達が奪った飛行機のコックピットにはアメリカ男(名前はジョン、ありふれた名前だ)と日本人ファミリーの息子の健二が座っている。彼は飛行機マニアで、シミュレーションゲームで鍛え上げた腕を活かせると言った。
爆撃終了後、30分も掛からずにパラワン島が見えてくる。
ジョンが無線で管制とやり取りをしている。やっとのことでエルニド空港への着陸が認められたようだ。
エルニド空港には警察や役人らしき人達が大挙して待ち構えていたが、皆の許しを得て、俺とリサは、どさくさに紛れて空港から逃げ出した。
他の人達への口止めも忘れなかった。
全員が俺に感謝してくれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます