第3刻:荒木%《アラキパーセント》の戦略なり
持ち物検査のあった日のとある10分休み。
綾黒が諦めてくれる作戦のために、俺は向かいの席に(勝手に)座る悪友に切り出した。
「女を紹介してくれ」
「はぁ!?」
「お前なら女友達くらいたくさんいるだろ? 荒木」
目の前に居座るその悪友、名を
基本的にフレンドリーでハイテンション。帰宅部に所属し、多くの友達に囲まれその日その日を徹底的に楽しもうとする。
そこに美少女がいればアピールを忘れず、そこにブサイクがいれば陰口罵倒を忘れず、そんな最低ナンパ野郎でもある。
そんなナンパ野郎のはずの荒木が俺の台詞に目をむいている、こと自体はこいつとの悪友関係も一年となる俺には違和感を感じられなかった。
ナンパ野郎の実態は大抵、最低野郎呼ばわりされるのだが、荒木のナンパにははっきり目的がある。それはあくまで交遊関係となること、それだけである。結果的に荒木は俺のナンパまがいの台詞に目をむくこととなる。
それをバカ騒ぎなどすれば、実態を知ってる女子とかはこいつにナンパされても嫌な気分にならず、交遊関係をもってゆくこととなる。
既に、学校近くのカラオケ店で20人近くの集団でどんちゃん騒ぎを起こしていたと苦情が届いているほどなので、女友達くらいいるだろうと踏んでのことだ。それも美少女が。
「いや、何でなのかって驚いてるんだけど………」
「ああね、それはな…………」
「…………おぅ」
俺がマジの雰囲気を出すと、つられて荒木ものせられる。ごくりと唾を飲み込み、俺は数秒だけ間を置くと、新たな決意をもって、真剣に相手を見据えて切り出した。
「彼女がほしいから」
「綾黒と付き合ってろ」
俺の決意を即否定。何とも酷い選択を強いる最低な悪友である。
「いや、俺的には綾黒は嫌なんだよ」
綾黒の本性を明かすわけにはいかないし、プライバシーの問題がなくとも信用してくれないだろう。
「変わってるな、お前」
「………………」
「まぁ、いいか。勝算がないから今まで諦めてはいたが、紅智の意思で綾黒と紅智を引き剥がせると思えば願ったり叶ったりだしな!」
「ありがとう、荒木。お互い
一瞬、らしくもない真剣な瞳で俺を見る荒木だったが、その視線を緩めるとあまり事情も聞いてない現状で俺の意見を汲んでくれた。
例え私情がそこにまみれてたとしても、相手が悪友だったにせよ、これは素晴らしいと言わざるを得ない友情の証だ。
俺たちは腕を組み、それを再確認する。
「おう!」
荒木の声量は、本人に対してクラスのほとんど全員から『あ~、騒がしいと思ったら、また荒木か。じゃあしょうがない』という視線が向けられることとなったのだが、荒木はそのことを知らない。
***
荒木から提案されたのは合コンという手段だった。選りすぐりのメンバーを集めてくれるらしいので、俺の仕事は合コンに呼びたい奴を総当たりすることだ。
荒木からはしきりに綾黒を誘うように言われた。正直、綾黒には声をかけるのも嫌だが、素晴らしい悪友のためなら我慢することにした。
――という訳で。
「おい、綾黒」
「………! 何?
俺が声をかけた瞬間に目を輝かせてこちらを向いてくる。前々から思ってたことだけどこいつ恋愛感情隠すの下手か。
ついでに周囲の女子から好奇の目を向けられる。
「あのさ………」
「うん!」
しかもさりげなく徐々に距離を詰めてくる。
さすがに俺もこれは引く。そのせいなのか、話題が出しづらい。が、ここは場を整えてくれた悪友のためにも我慢する。
「明日の放課後に合コンするんだけどさ、良ければ参加してくれないか?」
「え?」
綾黒は『合コン』という単語を聞いた瞬間にその場で固まる。
ちなみに合コンが明日なのは準備に時間が必要だかららしい。
それにしても、綾黒ずっと考え込んでるな。流石に違和感が湧いたので、声をかけてみることにする。
「綾黒? どうかしたか?」
「……………」
いつも(俺に対してはやけに)グイグイくるはずの綾黒が黙ってしまう。新鮮な感じではあれど、それと気まずくなったこととは話が別となる。
俺は何とか気まずい雰囲気を緩和しようと何か思い当たったことでも口にしてみることにする。
「あ、綾黒ってそういうの行かないタイプだったよな」
「……………。」
いくら、本性がヤバくても建前で取り繕えるくらいだし、『合コン』なんかすれば築き上げてきたイメージが崩れかねないからな。
と、ここで綾黒は考え込むのを中断して顔を上げてきたのだが、その表情に疑問を抱くことになる。
「?」
「いや、そこで何で? って顔をされても…………」
「だって合コンくらい行ったことあるからさ………」
「はぁ!?」
表向きは完璧才女として振る舞っていて、本性だって一途な
しかも『合コンくらい』と言うほどに慣れていると
本当にイメージと違いすぎて胸が落ち着かない。
「………………何回くらい?」
「…………んとね、三回くらいかな」
「………………っ!!」
綾黒は顎に指を当てて可愛らしさを演出するような(俺にはあざとい行いに見えた)考える仕草をしながら答える。
こいつ、慣れてやがる!
「何か私がいれば合コンでお目当ての人を呼びやすいとか何とか…………」
「……………へ? つまり、自分から合コンに行きたいとかではないと……………」
「うん。そりゃあね」
何だ、そういうことか。意外な事実の連発で拍子抜けした。
何はともあれ、ほっとした。呆気に取られたままため息を吐く。
「ため息…………私、何かした?」
「いんや、何も」
「そっか」
「で、合コンの件については?」
「そもそも京に行って欲しくないんだけど………………」
この台詞を聞いた時点で悪寒がしたのだが、恐る恐る綾黒の顔を見てみると、いつになく真剣な表情で俺を見ていた。
綾黒が本音を言ってるのは分かりきってるけども、今回は
「………………」
そのせいで、意外そうに目を見張る余裕しかなかった俺は言葉を失った。
綾黒はそんな俺の様子に表情一つを変えることなく視線をさらに細めて口にした。
「まぁ、行くよ。ただし、一つ心掛けといてね」
「? 何が?」
「多分、京は合コン、つまらなかったって思うよ」
「………………」
俺を見つめる綾黒の果てしなく黒い瞳孔が何か深刻な事態を指し示しているような気がして。
もちろんそんなのは大袈裟な話で、深刻な事態などというシリアステンションなことは起こらないと後で知るのだが、その時は綾黒の警告があながち間違っていないことを知らなかった俺でもあった。
***
昼休み。
さてと、綾黒は誘ったし、あとの人員はどうするかな。
教室を見渡してみ――ようとすると、背後から声をかけられた。
「なぁ、紅智」
「ん? 何?」
声の正体は荒木だった。なんか心なしかしおらしいような。
「悪いけど、合コン今日にしてくれ」
「…………、はぁ!?」
「いや、誘ったらとある子が明日はバイトで今日なら合コン行けるって言うから………」
「…………」
「きっとその子お前も気に入るはずだからさ!」
「…………分かったよ」
今日は生徒会や美術部の用事もないし、荒木に不都合がないなら今日でも構わなかった。
こうして、合コンは今日行われることとなる。綾黒に説明はしたし、納得だってしてもらえたが、さすがに放課後、呼び出されてただけあって気まずい雰囲気だった。
取り敢えずは合コン後、またはその最中に呼び出すということにしたが、ここで当面の問題が解決していないことに途方に暮れるのであった。
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