神さまの扱い
ある町に、古びた社があった。
「おじいちゃん、ここには神さまがいるってホント?」
「ええそうですよ。数百年前までは、此処の神さまへの祭りがあったそうですがねぇ。今ではすっかり廃れてしまって……この、社が残るのみです」
「えぇ、でも神さまってひとりしか居ないんじゃないの?」
「あはは、それは
それに数え方が違いますよ、神さまは1人ではなく1柱です、と老人は言う。
孫はふぅん、と返した。
「なんですって!? 社の土地を開発する計画があると!?」
老人に向かって語りかけてきたのは、さる巨大コングロマリット、Dグループの役員だった。
「まあ落ち着きなさい。計画は前に案として「あった」だけですわい」
「? それは……如何いうことなのでしょう」
「今の世の中じゃ昔よりその手のことも批判されがちでしてな。文化的視点でもよろしくないとか……我々としてもその手の業務は乗り気でないんですわ。それにこの景気じゃ無理に潰したところであまり利点もありませんでな」
その上バチでも当たるんじゃないかといった罪悪感まであるのですから、こりゃ誰もやりたがりませんで……と、いう事らしい。
「はあ……それは理解しましたが、では何故私に、かのDグループの方が」
「いえいえ。何でもこの地には数百年ほど前に奇祭があったそうじゃぁないですか。今こそ、それを復活させたいのです」
「なんと」
「まあこれは小手調べ……テストケースですがね、こういった地域に密着したビジネスこそ今の世に適応していると言えるでしょう? 町おこしにもなりますぞ」
「いやはや、そういう事でしたら是非ご協力いたしましょう。この寂れた社を代々護ってきた鎮守の家としては、全面的に協力する所存です」
そうして終わったはずの祭りをDグループと鎮守の一家は復活させた。街の皆は広場のような開けた土地に集まる。社は中心にあるものの、でんと寂れたままであった。
「いやぁーここは私有地だから入ったことないけど、スシ詰めだな」
「なんでもここの神さまを模したキャラクターまで作ったそうじゃないか、はは面白い」
などとわいわい野次馬のような街の住民が騒いでいる。
街のポスターにはポップなノリの女の子や怪物の絵があった。鎮守の一家はよく知らなかったが、何らかのアニメとタイアップしているようだ。
「なんだか変な感じだね、おじいちゃん」
「えぇ……ですが、これで良いのでしょう」
傍には近所の住民やタイアップしたアニメの記念グッズを目的に集まったファンの人々、面白いからと休日を利用して来た人などが雑多に居た。
そして小さな祭りのメインイベントとして、神さまに捧げるという酒を老人がとん、と社に置こうとしたその時。
神が出でた。
「お、おぉ……」
老人は跪いた。
周りに居る雑多な人々は驚きと、何やら重たい存在感に硬直する。
社の前方、虚空から突如出現した神は、目のない金属製の鳥のような――或いは頭をすっぽりと覆う奇怪な兜とでも表現すべきか、そのような頭を持ち、老いたヒトのような体を持っていた。
神は、音もなく老人に近寄り、何処からともなく声を響かせ。
【うるせぇ! 507年も寝かせておいて今更変なことして騒ぐなうっとおしい!】
そういって老人と、少し遠巻きに見ていたDグループの役員を軽くはたいた。
いたっ、と思わず頭を押さえる役員と老人の2人を尻目に、ぷんぷんと怒りながら偉大なる神は消えた。
「おじいちゃん……日本の神さまって、本当に色々だねェ……」
と、こぶをさする老人に向かって孫は言った。
老人は――――いえ。きっと、色々変わっていたのは私達のほうです。そう答えた。
こぶは腫れたが、祭りも終わって数日すると滞りなく治ったそうな。
奇祭を続けるべきか否か彼らは判断に迷ったと言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます