番外編

「ではその記録を私が見つけたら取り引きを元に戻して貰えますか?」


言ってる内容はひたすら「え〜〜っ?!」なのに水嶋のサラリとした口調にスルスル話が進んでいく。



発端は取引先から掛かってきた電話で始まった。


定年退職の挨拶だったが「これからも我が社を頼む」って内容に付け加えて、三年前に製造中止になった商品を復刻するからよろしくって事だった。


当時無くした大量発注は結構な巨額。当然水嶋は飛びついたが新しい担当者はいい加減且つやる気が無い。


魚みたいな顔をした担当者は魚人と名付けた。


その魚人は「発注データが残ってない」とか、「去年に紙ベースの記録は全部倉庫にしまったから探せない」とか、しのごの言い訳ばっかりしてもう別の業者に新たな発注をする気満々。


水嶋が「そうですか」って引き下がる訳も無く、他所の会社

どこに何がしまってあるかもわからない

どんだけ量があるかもわからない

どんな形状かもわからない


それなのに探してくると豪語した。


奥田製薬に記録はあるのに、担当者に見せているのに、魚人はライバル会社から接待でも受けて靡いてる。(それはきっと麩)


もし書類を見つけても誤魔化されて逃げられるかもしれないのに最悪。


魚人はどこまでもいい加減で社内機密が詰まっているはずなのに薄暗い地下倉庫の鍵を渡して来た。


「勝手に入って勝手にやれって……俺達が古い人事ファイルでも持ち出したらどうする気なんでしょうね」

「文句を言うな、それは信頼されてるって証だろう、夕方までに終わらすぞ」


ジャケットを脱いで腕を捲った水嶋はやる気満々、「今二時ですけど」って言葉は飲み込んだ。


倉庫はビルの地下にある。

エレベーターで降りると洒落た社風だった上とは打って変わり組織犯罪のロケ現場になりそうな薄暗い廊下が伸びていた。


コンクリート剥き出し壁には何かのパイプ、倉庫と書かれたドアは鉄で関係者以外立ち入り禁止って書いてある。


鍵を開けて中に入ると目を疑った。


何となくだが「大きな棚一個分」って思ってたら想像の棚が図書館みたいに並んでる。


「嘘だ……」


「この会社は事業が手広いし古いからな、こんなもんだろ、取り敢えず端から年代を探していくぞ」


ここは潔く腹が痛いと言うべきか、祖父母のどっちかに死んでもらうか……逃げる算段は頭を駆け巡ったが……。


水嶋は一人でもやる。

明日になってもやってる。


引き際は今度教えるとして今はやるしかない。渋々と検索に加わった。


探してみると。

昭和は飛ばして平成を見ていた筈なのにバラバラ、協力する気はゼロ。手書きと印字が混ざってる。しかもそこにあるのは発注書とか領収書だけじゃ無い。


「水嶋さん!こいつら真面目に並んでません」


「じゃあ一個一個見てけばいいだろ、ファイルはバラバラでも中身はそうでも無い」

「荒らす奴がいるんですね」

「そりゃ取っとくって事は必要だからだろ、最近は便利な分怖いからな」


うん、それは情報通信課で勉強した時に知った。

今時、それこそ三年前なら間違いなくパソコンに入っていそうだが、幾らセキュリティに気を配っても上には上がいる。


特許や特殊な技術を多く持つ企業は意外と紙ベースのままな所が多い。


奥田製薬も一年毎にオンラインから外している。


だからと言っても何らかの方法で電子化しているのだろう、近年になる程台帳はいい加減で書類のまま段ボールに入ってたりする。



一個一個確かめていくしか無い。


無言の捜索。


もう外は汗ばむ陽気なのに地下は寒い。


黙々、黙々。


こんな時の水嶋は集中力が凄くてひたすら紙を捲ってる。


結構探したがまだブツの片鱗すら見つからない。


立ったり座ったり腰が痛くなってきた。


「水嶋さん、お腹が空きませんか?」


「………」


「飲み物買ってきましょうか」


「………」


ポツーンと言葉が浮いて返事は無い。


仕方ないから続けていると時間が分からなくなる。携帯を取り出して信じられない事に気が付いた。


電波がない。

そう言えばいつもうるさい水嶋への電話が皆無。

時間は予告した「夕方」をとっくに過ぎていた。


これはさすが何とかしなければならない。社内機密を抱え込んだこの場所で他社の人間が好き勝手放置されたままなんて何かあったら奥田のせきにんになる。


あの魚人が周知しているとは思えず、もし警備員が見に来たら通報されるかもしれない。


ってか魚人!一回くらい様子を見に来るとか差し入れ持ってくるとかしろ!



「水嶋さん、五時過ぎてるんでこの後どうしたらいいか聞きに行った方がいいんじゃ無いですか?」

「……もうそんな時間か…………そうだな……」



…………そうだな、の続きは?


また書類探しに戻るな。


勇気を出して最善の提案をしてみた。


「出直しますか?」


「終わったら鍵を……」


むにゃむにゃと終わる。


つまり価値がゼロかもしれないお宝を見つけるまで探すんですね?

鍵をどこの誰に返したらいいか聞いて来いって事ですね?


それでは行ってきます。

煙草吸ってきます。

これは労働法に乗っ取ってるだけでサボる訳じゃありません。


集中を切らさない水嶋を置いて上に上がると仕事終わりの和やかな雰囲気に包まれていた。


空気がオレンジ色。


「定時」がある会社っていいなーと羨ましく思っていると……何と魚人は既に帰っていなかった。


スポーツクラブだと?

他社の人間が倉庫にいるのに?


「水が恋しいんだな」


なんたって魚人だからね。


煙草を吸って深呼吸。

気を落ち着けてから嫌だけど地下に戻った。


「水嶋さん、飲み物を買ってきました、鍵は守衛に返したらいいそうです」


どこにいるのか姿は見えない。


「水嶋さん?あれ?どこだ?」


まさかばったりいってるんじゃないかとドキッとした。


「水嶋さん!無事ですか?」


一回り大きな呼びかけにやっと気付いてくれたのか下の方から唸り声と一緒にくぐもった返事が聞こえた。


「江越か?」


「違います」


「お前ふざけてるとどつき回すぞ、いいからちょっと引っ張ってくれ」


「はいはい」

「はいは……」

「はい!」


どこにいるのかと思えば、棚が二つ重なった場所から四つん這いになった水嶋の下半身が突き出ていた。


ビックリさせるなよ。

アレで意識を無くしてるのかと慌てさせられた。

お返しに足でつついたらもぞもぞ動く。


「何してるんですか?」

「奥にダンボールが突っ込んであるんだ、重いから出るの大変なんだ、引っ張ってくれ」


「いいですけど」


水嶋の腰を抱えるとくすぐったいから触るなとか言う。


仕方ないから足。引っ張り出すと段ボールを抱えてズルズルと出て来た。


中身を見ると平成27年の発注書が詰まってる。


「惜しい。他にもあるからもう一回頼む」

「いいけど……あの……」


いつもですけどね、シャツが透けてるんです。

ここは鍵が掛かってないけどドアは金属製で煩いしほぼ密室なんです。その前に誰も来ないんです。


ゴソゴソと棚の奥に潜っていく水嶋のお尻が揺れてる。


棚の奥に隠れて上半身は見えない。


引っ張れと言われて両脇に手を掛けると「ひゃっ」とか変な声を出す。



…………ムラムラさせるの上手。


「おい、何してんだ、早く引っ張れ」

「それは後で……いいですか?」


「何?……」


何って手付きでわかるでしょう?

脇腹を撫でて腹に手を回すとビクッと体が跳ねた。うん、わかったみたい。


シャツのボタンを外しつつズボンの隙間に指を入れて下腹を探る。ベルトを外すのは自分と向きが同じだから簡単。


「江越?!」

「はっきり言えば水嶋さんが悪いです」


「お前………ここをどこだと……」

「二人っきりには違いない、あなたは油断しすぎなんですよ」

「だからって……ちょ……あ……」


下半身を包むと逃げるようにモジモジ腰を振る。

煽っているとしか思えないんだけど……あんたも男だろ、その格好と動きがマズイとわからない方が不思議だ。


「おい……やめろ……」


「気持ちよくなってきた?」

「アホ……そんな場合か……」


………水嶋さん。

他所の会社の倉庫で、より、まだ書類が見つかってないだろ、が、先に立つのか?


それにしても水嶋は反応が早いって言うか敏感って言うか、手を揺らすと刺激に弱いそこはすぐに熱を持ってきた。


ヘタっと床に落ちた上半身のせいで益々お尻が突き出てますけどわかってないのかな。

チャックが開いただけの下半身に手を突っ込むって興奮する。


グッと体を引き寄せて股の間の奥深くに指を沈めた。


「ん………あ……」

「声は……控え目にお願いします」

「ふざけるな……あっ……ぅんん」


前から回した手首に触れるそれがムンと熱い。


多分水嶋はもう抵抗できないからズルズルと引っ張り出すと息の早い火照った顔が出て来た。


もう甘美な刺激にひれ伏してるのに段ボールを引き出す事は忘れてない。


さすが水嶋。



それにしても……これは男子が一度は夢見るシュチュエーションといえる。

人気ひとけの無いオフィスで(すぐ近くに他の社員がいるってのがポイント)声を殺して隠れエッチ。相手はいつも厳しい先輩。


でも……その夢は通常なら美人でデカパイでエロいキャリアウーマンだよね。


「惜しいな……」


「何言ってる……ハァ……あ……あっ…」


擦り上げていた中と前がビクッと揺れて水嶋が息を詰めた。ここでイクって困る、慌てて前の根元を締めた。


ヒクヒク痙攣した背中がもう堪らない。

細い腰からウエストを引き下げると男のケツなのに何ともエロい。


「辛いですか?すいません、ここで何回もイカれるとさすがに困るでしょう?」


フルフルと首を振るだけの水嶋は固く閉じている。目と口から滲んだ水分が頬を擦り付けたコンクリートの床にシミを作った。


「もうちょっとだけ耐えて……」


膨らんでギチギチになってる下半身はもう充電済み。薄暗い粗末な電灯の中でもそこはよく見える。根元まで埋めた指は抜くのが惜しいくらい中の扇動を捉えていた。


でも選手交代。


ズブズブとめり込んで行く自分をこんなに繁々と見つめるのは人生初だった。


グリっと抉ったのは「そこ」

自ら塞いだ口から叫び声が漏れ出て思いっきり締め付ける。


「ふ……あ………も……もうイキたい……手を離せ」

「無理」


してはいけない事って盛り上がる。


腰を使うと呼吸が連動する。


乞うように上がった腰は体がピッタリと密着して芯の果てまで中に行けた。


「はっ…あっ…」


グリグリと掻き回すと背中が撓んで手の中の水嶋がヒクヒク動く。

塞き止めてるのに自由を求める汁が漏れ出てヌチャヌチャと粘った。


バックって素敵。



寒かった地下は今暑い。

水嶋は頬が床に擦れるのを防ぐように腕を立ててる。水嶋の髪を伝って落ちる汗の音、皮膚を打つ音四角い無機質な天井に反響して妙に鮮明だ。


水嶋は必死で声を抑えてる。



「熱い……水嶋さんの中……凄く熱い」


水嶋の前を締めてる手に手が重なって藻搔いてる。こっちももうそろそろ限界。

腰を引き寄せ打ち付けた。


「あっ!…あっ!…ああ!もう…駄目で駄目だったら……江越!…あ…ぁ…」

「イッて…俺も」

「あっ……」


ブワッと頭を支配する甘美な感覚。

それと共に抜けていく圧迫感。


水嶋の背中に落ちるとそのまま二人でベチャッと潰れた。



「……ぁ……う……暑い…」


「飲み物……ありますよ」


「顔に…かけて」


「いいんですか?」


今更だろうって肩で息をしながら笑う。


言われた通りペットボトルの蓋を開けて閉じたままの目。


汗に濡れた額。


官能の余韻に浸り気持ちよさそうに濡れている水嶋を見てるとまたムラッとする。


最後にペットボトルから中身を口に含んで口移し。


コクンと飲み込んだ水嶋は……一拍置いて飛び起きた。


「アクエリアス?!」


「ポカリスエットです」


「どっちでもいい!水じゃ無いのか?!」

「飲めば誰でもわかるように……」

「アホ!」



……歯が折れたかと思った。


グウで顔を殴られたのは生まれて初めて。


駄目な場所で駄目な事をするよりポカリを掛けた事を怒るなんてぼんやりさん。


「顔に掛けろって言ったくせに」

「状況を判断するスキルを身につけろ」


もう一回ボカっ。


濡れたシャツがスケスケになってる。

乳首をぽっちりして三度みたびボカ。


ズボンを直して立ち上がった水嶋の足元には平成29年度の文字が見える。


喧嘩を忘れて齧り付くと奥田製薬の文字が入った数枚出て来た。



終わり
































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