短編№2『裁判』

@ais-akountine

短編№2『裁判』

 「お待ちください、お待ちください、私に罪はありませぬ」

証言台に立ち、男は必死な様子で言った。しかし、長である大司教は顔をしかめて答えた。

「玉はお前の真実を映しておる。お前は有罪なのだ」

「あれはでたらめだ!」

男が叫び演台を叩くと、観衆はどっと沸き立ち、大司教は顔を赤くして言った。

「何だと、無礼な奴め、ではもう一度、ここでやり直そうではないか、お前の罪は決して変化することはないのだ……この異端者め!」

観衆は怒鳴り立て、男は演台に拳を置いてうつむいていた。大司教は付き人に命じた。やがて、件の石が運び込まれ、大司教の前に置かれた。それは透明な水晶のように見えた。

「では、術を始める。これで玉が赤く染まれば男は有罪である。かの男は悪魔に魂を売った。それを確かめようではないか」

観衆は全く興奮してしまって、どよめきは長く続いた。男は願うように手を組んだ。大司教がぼそぼそと呪文を唱え、手を玉にかざし、撫でまわした。

 人々にとっては長い時間が経ったように思えた。

 魔法的なくぐもったガラスの砕けた音が一回した。男は目をつぶり、手を壇上で組み、その音で目を開けた。玉は赤かった。

 男は膝を落とし、観衆は半狂乱になった。婦人が卒倒するのを司教の私兵が支えた。大司教は自信たっぷりに命じた。

「その男を十字架に!」

男は良く暴れたが、兵たちに押さえられて、十字架に括りつけられた。その十字架は五人がかりで立てられ、地に穿たれた。兵の一人がトライデントを持ち上げたとき、大司教を乗せた馬車は出発した。車内で、裁判を見ていた西の官吏が尋ねた。

「どんな術を使ったんですか。あなたは随分立派な魔法使いですな」

「いや、これは神のお告げ……まあ、特別にお教えしましょう、あなたも術が使えるようだから……。なあに、簡単なことです。じきにできるようになりますよ」

大司教は彼にそれを教えた。簡単とはいうものの、官吏には難しすぎた。彼は分かったように頷いて、黙ってしまった。


 マンションの一室、キッチンで母親が洗い物をしていると男の子が出てきた。彼はファンタジー小説のような物を持っていた。男の子は言った。

「母さん、この本怖いよ、怖い魔法が出てくるよ」

「心配しないで、この世の中に魔法なんかないですからね」

母親は手を止めて、男の子の頭を撫でてやった。男の子は言った。

「ボクおなかすいちゃった、何か食べてもいい?」

「カップラーメンがあるわよ、それを食べなさい」

母親は言って、また皿洗いに戻った。

 ファストフードの危険性を訴えるニュースが終わり、入社式の映像が流れだした。有名企業であった。母親は子供に言った。

「ねえ、nちゃん、いっぱいお勉強していい企業を目指すのよ。イマは理系……さんすうとかりかとかがとっても重要ですからね。もう来年小学校受験なんだから、本ばかり読んでないで、勉強するのよ」

「だって……」

男の子は口ごもったが、仕方なくといった具合で塾のプリントを取り出した。彼は理科の勉強を始めた。しかし、彼はよく分からなかったので、結局やめてしまった。

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