第34話 偽コラボヒーロー

「うーーーむ」


「瞳子さん、どうかしたんですか?」


「請求書の金額があり得ない額だったとか?」


「弘樹君、うちがそんな大金使えるわけがないじゃない」


「アリエマセンヨ」


「それもそうだな」






 今日も宇宙自然保護同盟との戦闘はなかったが、弘樹たちはなんとなく司令本部に集まってお茶を飲んでいた。

 どうせ金にはならないが、こうやって集まってお茶を飲み、お菓子を食べながら取り留めのない話をするのも楽しいというわけだ。

 お茶代やお菓子代がかかるが、普段からよく予算がないと言っている瞳子も、この手の出費にはなにも言わないので、弘樹たちは放課後によくこの司令本部に集まるようになった。


 彩実は、司令本部の掃除、瞳子の衣服の洗濯、食事の支度などでほぼ毎日仕事はあったが。

 それが戦隊ヒーロー基地の司令要員の仕事かと言われると厳しいところだが、彩実がそれをやらないと、この司令本部は腐海の海に沈んでしまうので仕方がない面もあった。


 瞳子がちゃんと家事をするようになる確率など、ファーマーマンが五人揃う確率よりも低いと常々言われていたのだから。


「抗議の手紙がきただけだ」


「抗議の手紙ですか?」


「ああ、なんでもうちはこの手紙の主のパクリだそうだ」


 事情を説明しながら、瞳子はその手紙を彩実にも読ませた。


「ええと……『豊穣戦隊ファーマーマンは、我ら北条戦隊ゴダイジャーの真似をしており、即刻豊穣戦隊の名を変えるように要請する』ですか……。意味がわかりませんね」


「ああ、豊穣戦隊と北条戦隊。読み方は一緒だな。だから、我々が北条戦隊の真似をしているので、それを変えてくれという手紙のわけだ」


 瞳子も、あまりに突拍子もない話で少し困っているようだ。


「言いがかりにもほどがありますね」


「近年、なかなかない酷い因縁のつけ方だな」


「『ホウジョウ』と『ホウジョウ』。ニホンゴムズカシイデス」


 健司、弘樹、ジョーも、意味がわからないといった表情を浮かべた。


「法的根拠も薄いですしね。北条戦隊が商標登録してあったとしても、うちは漢字が違いますからね。認められませんよ」


「だから、こうやって直接手紙を出して脅してきたのであろう。こちらがビビると思ったわけだ」


「そんなわけないですけどね」


 健司も瞳子も、脅しにしてもあまりにレベルが低いと飽きれたような表情を浮かべていた。


「それでどうするんだ?」


「こんなのは無視だ」


「相手にすると、かえってムキになりそうな連中ですからね」


「そうなるとまた面倒だからな。向こうの出方を待つことにする」


 まさか、わざわざこんな用件でこの村まで直接来ないだろうと瞳子はタカを括っていたが、事態は予想を遥かに超えてしまった。

 

「『こちらの要請を無視するとは許すまじ! 直接そちらに出向いて、我らの正しさを伝えるのみ。顔を洗って待っているがいい』か。気が短いのかね?」


「カルシウム足りてないのかな?」


「ニホンジン、キガミジカイヨ」


「ここに文句を言いに来ても、彼らの主張なんて認められるわけがないのにね」


 最初の手紙に返事を出さず無視していたら、数日後に直接この村に来て抗議すると二通目に手紙が届いた。

 弘樹も、彩実も、健司も、ジョーも。

 彼らのしつこさに呆れるしかなかった。

 どうやら行動力があるバカのようだなと、瞳子などはかなり失礼なことを考えていたりもする。


「来るというのであれば相手してやろう。どうせ暇だからな」


「暇って……ぶっちゃけるよなぁ……」


 健司は、もう少しオブラートに包んで言えばいいのにと思ってしまった。

 彼女が暇だという件に関しては、当然ファーマーマンを運営していると司令である瞳子にはそれなりに仕事もあるのだが、東大法学部主席卒業で、キャパだけは将来の事務次官と言われた彼女にかかれば、その程度の仕事などすぐに終わってしまう。

 その残り時間で家事を一切せず、ただダラダラとしながら酒を飲み、彩実が作ったり、近所のお婆ちゃんが持参した料理やツマミを食べているだけだから、弘樹たちは彼女の能力を訝しんでいるわけだ。


 ただ瞳子本人からすれば、今の境遇にはとても満足していた。

 能力はあっても、彼女に出世欲など微塵もないからだ。


「とにかく明日ですね」


「こんな連中に歓迎など必要ないだろう。すぐに帰るだろうしな」


「バスの時間もありますからね」


 他の田舎や過疎地と同じく、北見村から出ているバスは一時間に一本であり、夕方四時が最終なので、北条戦隊の連中は長居しないはずだと瞳子は予想していた。


「明日連中が来てからだな」


 そう締めくくると、瞳子は弘樹たちに今日はもう解散だと宣言した。

 そして翌日の放課後。

 手紙どおりに、彼らが姿を見せた。





「早雲レッド!」


「氏綱ブルー!」


「氏康イエロー!」


「氏政グリーン!」


「氏直ピンク!」


「「「「「五人揃って! 北条戦隊ゴダイジャー!」」」」」




「「「「……」」」」


 弘樹たちは困惑していた。

 なぜなら、今日来る予定だと聞いた奇妙な戦隊ヒーローに会うため司令本部へと向かうと、彼らを出迎えるために外にいた瞳子と共に、彼らの自己紹介とポージングを見せられたからだ。

 『北条戦隊ゴダイジャー』。 

 まるで、〇HKの大河ドラマ放送でも狙っていそうな面々であった。

 スーツやメットにも戦国時代の甲冑風の飾りがついており、つまりそういう狙いのヒーローなのであろう。


「ご当地ヒーロー?」


「も狙っているのだ。ヒーロー業界は不安定で、なかなか収入も安定しない。そこで、戦国大名北条氏の地元、小田原市などとも連携を取り、支援などもいただいて活動していくことを計画している」


 別にそこまで求めていないのに、ペラペラと詳しい説明を始める、自称早雲レッドの若い男性。

 顔立ちは整っているが、どこか胡散臭い印象を感じさせる人物であった。

 北条戦隊ゴダイジャーはこれから活発的に活動して、どうにか小田原市に公認してもらい、収入を安定させる作戦のようだ。

 成功するかは、まさに神のみぞ知るであったが。


「ご当地ヒーローって、宣伝だけじゃないんですね」


 彩実が知るご当地ヒーローとは、別に本物のヒーローではなく、観光地や特産品の宣伝のため、テレビで放映しているようなオリジナルヒーローを誕生させ、宣伝活動をやらせているものであった。

 怪人と戦うヒーローで、そういうコラボを狙うヒーローは初めて来たと彩実は思った。


「いなくはないんだ。バブル崩壊前には、企業とコラボしたヒーローとかな」


 バブル崩壊前、金余りの大企業などが独自にヒーローを抱えたり、支援したりはよくあった。

 宣伝用の偽ヒーローとは違って金がかかるのだが、それに金を出せることが企業としてのステータスだという論調になり、大企業は次々とヒーローを誕生させた。

 ところが、バブル崩壊とその後の大不況で次々と解散、支援停止となったのは歴史が示すとおりである。


 警察や自衛隊でもあるまいし、金がかかる本物のヒーローを支援する必要など、地方自治体や民間企業にはないというわけだ。

 まったくいないわけでもないが。


 瞳子は、彩実たちに詳しく事情を説明した。


「ということは、この人たちが成功すれば初の事案ってことですか?」


「今はまだデフレ不況で、金がないヒーローも多い。地方自治体や企業も丸抱えは無理だが、少額の支援とかはできる。そういう支援を受けているヒーローも多いな」


 少額でも支援がないよりはマシで、もしそのヒーローが大人気になれば支援も増やせるし、一緒にやっていくことも可能だ。

 駄目ならちょっと金を出して終わり。

 この支援方法による成功者はいなくもないが、やはり有名なヒーローは強い怪人と戦って連勝しているナイトフィーバーみたいな人たちが多い。


 そう簡単に上手くはいかないと、瞳子は説明を終えた。


「そんなに美味い話はないか」


「支援してもらうと、怪人と戦う以外にその地方自治体のイベントとかに参加しなければいけないんだが、強いヒーローはそんな無駄な時間があれば戦う。ましてや、非公認で勝手にデビューして、あとから公認を勝ち取れるとは思わないな」


 瞳子は、北条戦隊ゴダイジャーに醒めた視線を送った。


「とにかくだ! 豊穣戦隊ファーマーマン。豊穣の部分を変えてもらうからな!」


「できないな。読み方は同じだが、漢字が全然違う。大方欲の皮でも突っ張らせて商標でも取ったのだろうが、うちの商標権侵害など認められるはずがない。なんなら裁判でもするか?」


 弁護士ではないが、東大法学部主席卒業は伊達ではなかった。

 瞳子は、北条戦隊ゴダイジャーの要求を法的根拠なしと突っぱねた。


「ならば、ここはヒーローらしく勝負で決めようではないか」


「いいぜ。最近、体が鈍っていたからな」


 早雲レッドは、それならどちらが強いかで決めようと言い始めた。

 完全な脳筋発言であったが、余裕で勝てると踏んだ弘樹は大歓迎だと準備運動を開始する。

 弘樹は北条戦隊ゴダイジャーを観察し続けていたが、どう見ても彼らが強そうには見えなかったのだ。


「俺一人でもいいぜ」


「僕も戦うよ、弘樹君」


「じゃあ、二対五な。数ではそっちが有利だから、まさか断らないよな?」


 指をパキパキと鳴らしながら、弘樹はいつでも準備万端だと、彼らを挑発し始めた。

 今日はがジョーがいなかったが、それでも余裕であろうと弘樹は思っていた。


「待て!」


「どうした?」


「ヒーロー同士の決闘は禁止だぞ。日本ヒーロー協会の規則にも書いてある」


「そうなのか? 瞳子さん」


「それは事実だな」


 ヒーロー同士の死闘も私闘も禁止だと、日本ヒーローが書いた冊子には書かれていると、瞳子は答えた。

 なお、弘樹はそんな細かいの文字で書かれた規則なんて見ていないのは想像の範疇内である。


「我々が戦うのは、ファーマーマンがいつも戦っている宇宙自然保護同盟の方だ。それならルールに触れないし、ヒーローは怪人と戦うものだからな」


「随分と面倒なことをするんだね。模擬戦闘扱いなら違法じゃないけどね」


 どうも北条戦隊ゴダイジャーのやり口が引っかかるようで、健司は別に自分たちが戦っても問題ないと、早雲レッドに揺さぶりをかけた。


「勝負が白熱しすぎる危険があるからな。ヒーロー対悪の組織の方が自然だ。早速、宇宙自然保護同盟に伝えてきてくれないか」


「それは私から連絡しておこう」


「瞳子さん、いいのか?」


「宇宙自然保護同盟とて、ヒーローと戦うのが仕事なのだ。断るはずがない」


 こうして、北条戦隊ゴダイジャーVS宇宙自然保護同盟との、どちらが『ほうじょうせんたい』を名乗るかを賭けた戦いが始まるのであった。

 肝心の当事者であるファーマーマンは戦わないけど。






「ふふふっ、上手くいったな」


「どこが上手く行ったんだ? 早雲レッド」




 瞳子からの連絡により、急遽北条戦隊ゴダイジャーと宇宙自然保護同盟との戦いが行われることとなった。

 宇宙自然保護同盟の怪人たちが来る前に、決戦の場である山中において北条戦隊ゴダイジャーは打ち合わせと称して世間話をしていた。


「氏綱ブルーよ。私は常に情報を重視している」


 そう言って早雲レッドが右上を上げると、そこに一羽の鷹が止まった。


「『風魔』を使っていたのか」


 風魔とは、北条戦隊ゴダイジャーが連絡、偵察などに使用している鷹の名前であった。

 北条戦隊なので、目と耳になる鷹に風魔と名付けたわけだ。


「事前に、ファーマーマンと宇宙自然保護同盟との戦いは偵察してあるのだ」


 早雲レッドは、どうしてファーマーマンではなく、宇宙自然保護同盟との戦いを望んだのか? それも、どうとでも解釈できる日本ヒーロー協会のルールに従ってまで。

 その理由を仲間に語り始めた。


「我々では、ファーマーマンに勝てないからさ。あいつら、一人でも二人でも鬼のように強い」


 これまで、宇宙自然保護同盟との戦いで負け知らずであり、そんなヒーローに自分たちが挑んでも勝てない。

 そこで、彼らによく負けている宇宙自然保護同盟との戦いを望んだのだと、早雲レッドは理由を語った。


「そんなに強いのか? あのガキ」


「日本ヒーロー協会は秘密にしているが、ファーマーマンの赤い方は、あのファイナルマンの孫だからな」


「それは強くて当然だな」


 ヒーロー業界にいて、ファイナルマンの名を知らない者などいない。

 そのファイナルマンの孫と戦うなんて、そんな無謀はしないのだと、早雲レッドが語った。


「どうせ戦うのなら、勝てる相手とやらないとな。どんな一勝でも一勝だ」


「正論ね」


 早雲レッドの考えに、氏直ピンクも賛成した。 

 彼女も、自分はそんなに強くないと自覚していたからだ。


「勝てる相手だけと戦って戦績を挙げつつ、上手く北条五代で小田原市と協力関係に持っていきたい」

 

 ヒーローだから戦うのみではなく、その辺の副業も上手くやっていこうというのが早雲レッドの考えであった。


「戦いしかしないヒーローなんて、私に言わせれば泥臭い。いくらヒーローでも、体は徐々に老いて動かなくなる。上手く副業にシフトしていけば、我々は将来安泰。違うかな?」


「それが賢いかもな」


「そのために、まずは豊穣戦隊の名を奪うところからですか」


 氏康イエローと氏政グリーンも、早雲レッドの意見に賛成した。

 そんなものを奪ってどうなるという意見は……言わないのが大人であろう。


「というわけで、宇宙自然保護同盟の連中には我々の踏み台になってもらいましょう。雁首揃えて二人しかいないファーマーマンに連敗する悪の組織。倒すのは容易というわけだ。ファーマーマンと戦うよりも楽で、ヒーローは怪人と戦うものなのだから」


「それもそうね」


「同じ結果を得られるのなら、無理をする必要なんてないだ。バカにはそれがわからないが、我々は違う。我々の未来は明るいな」


 早雲レッドの頭の中では、すでに勝利した自分たちの姿しか思い浮かばない状態となっていた。







「早雲レッド!」


「氏綱ブルー!」


「氏康イエロー!」


「氏政グリーン!」


「氏直ピンク!」


「「「「「五人揃って! 北条戦隊ゴダイジャー!」」」」」





「おおっ! 本当に五人いるぞ!」


「これは、特別対決を受け入れてよかったですね」


「あの栗原司令も、稀にいいことをするんだね」


「くーみん、本当にちゃんと五人いるよ」


「クマッ!」


「『すげぇ! としか言えない』って、まあ、そうだよね」





 当初の約束どおり、北条戦隊ゴダイジャーと宇宙自然保護同盟との特別対決が行われることとなった。

 決まりの名乗りとポーズを見せた彼ら北条戦隊ゴダイジャーに対し、宇宙自然保護同盟四天王の次席猪マックス・新太郎は、ただ喜びにうち震えていた。

 この北見村で活動するようになってからというもの、唯一の対戦相手であるファーマーマンは最初は一人という有様で、今も四名(象も含めてだが……)しかおらず、彼としては大きな不満を抱えていたからだ。


 つき合いが長くなるにつれ、予算不足でメンバーが揃えられないファーマーマンの事情を知ってしまうと、それを現場仕事のみで権限がない弘樹に言うわけにもいかず、猪マックス・新太郎はモヤモヤとしたものを抱えていたのだ。


 同じ思いは、四天王筆頭であるニホン鹿ダッシュ・走太や、他の四天王鴨フライ・翼丸、熊野真美も持っており、彼らは五人揃っている北条戦隊ゴダイジャーを見て同じく感動していた。


「五名の戦隊ヒーローと戦う。これぞ、悪の組織の怪人の本懐ですね」


「そうだね。やっぱり五人いると見た目が全然違うよ」


「ボリュームがあっていいよね。いつもは四人で、四人揃わないことも多いし」


 宇宙自然保護同盟の怪人たちは、それぞれに楽しそうに話を続けていた。


「(見ただろう? みんな。宇宙自然保護同盟の怪人たちは惰弱だ。ファーマーマンを相手にするよりも楽で、デビュー前に悪の組織に対し一勝しておくのは悪くない)」


 早雲レッドは宇宙自然保護同盟の怪人たちを見て、さらに自分たちの勝利を確信した。

 こんな連中に負けるはずがないと、早雲レッドは確信を持ったのだ。


「(確かに弱そうな連中だな)」


「(簡単に勝てそうでいいじゃないか)」


「(幸先良いよな)」


「(ここはサクっと倒して、本格的なデビューに花を添えましょうよ)」


 北条戦隊ゴダイジャーの他のメンバーも、全員が勝利を確信した。


「それで、集団戦でいいのか?」


「ええ、それで構いませんよ」


「では、対決開始だ!」


 ここに、北条戦隊ゴダイジャーと宇宙自然保護同盟による総力戦が幕を開けたのであった。






「あいつら、弱すぎて話にならなかったんだよ。ねえ、くーみん」


「クマ」


「『自分は戦わないから、五対四で向こうが有利だったのにあの有様。あれで本当にヒーローデビューできるのか?』だって」


「ふーーーん、そうだったんだ」





 北条戦隊ゴダイジャーと宇宙自然保護同盟との決戦が行われてから一時間後、司令本部を真美とくーみんが訪ね、戦闘の詳細を報告した。

 対戦は、最初から宇宙自然保護同盟を弱いと舐めてかかった北条戦隊ゴダイジャー側が一方的に叩きのめされ、彼らはまったくいいところがなく敗北。


 その結果をファーマーマン側に報告するのが恥ずかしかったようで、彼らは村から出る最後のバスで逃げるように村を去ってしまったそうだ。


「じゃあ、豊穣戦隊の名はそのままか。よかったじゃないか。改名しないで済んで」


「弘樹君にとって、豊穣戦隊ファーマーマンの名は大した価値もないんだね」


「当然だろう」


 勝手にお役人が決めてしまったし、装備も貧弱で、人数も揃わず、待遇もイマイチなのだから。

 弘樹からすれば、他の戦隊ヒーローが好条件で誘ってくれたら速攻でファーマーマンを辞めてもいいと思っていた。


 今は高校生なので、卒業までは仕方がないかくらいの気持ちだったのだ。


「豊穣戦隊ファーマーマンの名が大切だったら、彼らみたいに商標登録すればいいんですよ」


 そうしておけば、他者の不適切な使用や、名前を奪われることを防げると、健司は瞳子に意見した。


「そんな金はない」


「結局、そこに辿り着きますね」


「嘘をついても仕方がないのでな。豊穣戦隊ファーマーマンが不都合なら、他の名前にすればいいだけだ」


「くーみん! 栗原司令が一番ファーマーマンに愛着がないよ!」


「クマ!」


「『さすがは、日本のお役人!』だって」


 真美もくーみんも、自分が司令なのに、瞳子が豊穣戦隊ファーマーマンの名前にまったく愛着を持っていない事実に驚きを隠せなかった。

 同時に、自分たちはこんないい加減な戦隊ヒーローに勝てないのだ、少し落胆もしてしまう。


「大体、あの連中の言っていた商標登録な。あれは嘘だぞ」


「本当に?」


「ああ、これを見ろ」


 瞳子は、弘樹たちのとあるタウン誌を見せた。

 それは神奈川県の観光案内用の無料雑誌で、そこには『小田原市とコラボ! 目指せ大河ドラマ北条五代とそれを応援する北条戦隊ゴダイジャー』と書かれていた。


「あれ? あいつらと違わなくね?」


「違うな。あの連中、いかにも自分たちが一番最初に思いついたように言っていたが、この手の観光政策とのコラボなど昔からよくある話だ。なお、ここに出ている北条戦隊ゴダイジャーは観光ピーアール用のヒーローで、戦闘はしないからな」


「なんだ。あいつら、フカシだったのか」


 宇宙自然保護同盟に敗れ、まるで逃げ出すように北見村を出ていった北条戦隊ゴダイジャー。

 彼らがどこに行ったのかは、誰にもわからなかった。

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