第33話 対決を妨害するもの

「みんな、昨日行った地理の小テストを返すぞーーー」




 何度も言うが、弘樹たちが通う北見高校は、この北見村に唯一ある公立高校である。

 偏差値は……あってないようなもの。

 この村の子供たちが高校に通えるように作られたので、生徒個人個人の学力は千差万別であった。


「瀬戸内と、白木と、くーみんは百点だ」


「すげえな」


 元々超進学校であるお嬢様私立女子高校から転校して来た薫子と、素で東大に余裕で行ける学力がある健司(ただし体は弱い)。

 そして、突然変異で体は大きくならないが、頭はいいくーみんからすれば、この北見高校のテストならケアレスミスがなければ常に百点を取れた。


「くーみん! よくやったね!」


「クマ」


「次も頑張ろうね、くーみん。君は本当に素晴らしい教え子だよ!」


 地理の教師……北見高校は生徒数も少ないので、やはり担任の佐藤が兼任していたが、彼は正規の生徒ではないが、真面目に勉強をして成果を出すくーみんを心から愛していた。

 勿論、佐藤に特殊な性癖はないので、あくまでも可愛い教え子として愛していたのだが。


 見た目が可愛らしく、学業成績も優秀で、静かに授業を聞いてノートも綺麗に取る。

 熊でなければ、完璧な生徒であろう。

 熊でなくても、完璧な生徒とも言えた。 


「ジョーは、九十点だ。まだ日本語でわからないところがあるのかな?」


「マダチョット、ワカラナイニホンゴアリマス。カンジムズカシイデス」


「それも時間の問題のようだから、これまでどおり学習に励んでくれ」


「ワカリマシタ」


 ジョーはいいところのお坊ちゃまで、幼い頃から家庭教師がついており、学力も非常に高かった。

 ただ、まだ日本語が完ぺきではないせいで、テストの設問で理解できない部分があり、点数を落としてしまったようだ。

 それでも九十点なのはさすがというべきか。


「次は……」


 ジョーに答案を返すと、途端に佐藤のテンションは下がった。

 正規の生徒ではないくーみんや、留学生でまだ完璧に日本語をマスターしていないジョーが頑張って勉強して高得点を取ったのに、他のやる気がない生徒たちに呆れていたのだ。


「確かに、この高校から進学する者は少ないと思うが、せめてもうちょっと勉強してくれよ。このクラスは一応普通科なんだから」


 北見高校には農業科と普通科があるが、実はカリキュラムにそこまでの差はない。

 現実問題として、普通科の生徒も学校が所有する田畑の面倒を見ないと回らないからであった。

 普通科なのに農作業があるため、進学を希望しない生徒たちは学業がおざなりになりやすいのだ。


 それでも、テストのレベルが低いのでさすがに赤点を取る生徒は……残念ながら今回は出てしまった。


「赤川、二十六点で赤点だ」


「残念!」


「残念じゃない! 明日の放課後追試だからな!」


「わかりましたよ」


 明日は出撃もないことだしと、弘樹は呆気なく追試という現実を受け入れた。


「やーーーい、弘樹君のおバカ」


 弘樹が赤点を取った事実を知ると、真美が彼をからかい始めた。

 真美は必要がなければ勉強しないが、別に地頭が悪いわけはない。

 なにしろ、一般受験で薫子が入学した超お嬢様進学校に合格してしまったのだから。


 ただ、北見高校の学力レベルを知ってしまい、今はまったく勉強をやる気がない状態になってしまっただけだ。


「熊野、人のことを言えるのか? お前も明日追試だ! 二十八点!」


「えーーーっ! ギリギリ回避できると思ったのにぃーーー!」


 真美にとっては青天の霹靂だったようで、まさかの追試宣言に彼女はまるで『モンクの叫び』のようなポーズを取っていた。

 得点計算をしくじったというわけだ。


「以上、追試は二人。簡単な問題ばかりなんだから、次はちゃんと赤点を回避してくれよ」


「「わかりました」」


「本当、頼むから一日くらい勉強してくれ。明日の追試でまた赤点なら、今度の土日は補習だからな」


 ちょっと勉強すれば、どんなバカでも赤点を回避できるレベルなのにと。

 弘樹と真美は佐藤から叱られてしまい、仕方なしに勉強することを決意するのであった。





「というわけでだ。明日の追試で再び赤点だと、明後日の対決に響くわけで、今日は諦めて勉強するかなと思ったわけだ」


「なるほどな。確かに、明後日の対決が補習や追試で中止になるのは避けたいな」


「うちの場合、僕の突然の体調不良がありますしね」


「ワタシモ、タマニヨウジアリマス」


「それもあるから、ヒロ君はちゃんと勉強しないとね」






 その日の放課後、弘樹、彩実、健司、ジョーの四人は、司令本部にいた。

 弘樹の場合、自室だと勉強をサボる可能性が高いので、彩実がみんなで監視できるよう、ここで勉強させるつもりなのだ。


 そんな事情を聞きながら、瞳子は彩実が淹れたお茶を飲み、煎餅を齧っていた。


「ここだと、東大卒の瞳子さんもいますしね」


「この程度の問題、わざわざ勉強する必要があるのかというレベルだな。一回読めば覚えるだろう」


「ソンナノ、シレイダケデスヨ」


 瞳子は、弘樹が目を通している地理の教科書を見て素直な感想を述べた。

 現役で東大に合格した彼女からすれば、とても簡単な内容だったからだ。

 一度見れば、完璧に覚えられてしまうと。

 そんなのはあなただけだと、空かさずジョーがツッコミを入れていたが。

 

「現時点で、弘樹は赤点からマイナス四点、熊野もマイナス二点と聞く。ちょっと勉強すれば追試は大丈夫なはずだ」


「頑張るぜ。そうだな、とりあえず目標は三十二点かな」


 残念ながら、勉学に対する興味は異常なまでに低い弘樹であった。


「弘樹君、ちゃんと勉強してる?」


「クマ」


「お邪魔しますわ」


 とそこに、真美、くーみん、薫子が姿を見せた。

 悪の組織のトップと幹部が、ヒーローの司令本部に遠慮なく入るのもどうかと思わないでもないが、どうせ見られて困る機密もないというのが現実であった。


「あれ? 瀬戸内さんたちも呼んだのですか?」


「ああそうだ。今度の土曜日、大きな対決があるのでな」


 瞳子は、彩実の質問に対し簡潔に答えた。


「へえそうなんですか」


「彩実さん、土曜日はお昼から、宇宙自然保護同盟四天王バーサスファーマーマンの特別対決が計画されておりましてよ」


 いつもは放課後の対決ばかりなので慌ただしい面もあったが、今度の決戦は学校がお休みの土曜日に行われる。

 お昼から、どちらも全力で激しく戦おうという趣向だと、薫子が説明した。


「そういえば、これまでは土曜日の戦いってないよね」


「基本、お休みですから」


 宇宙自然保護同盟は、怪人たちが気持ちよく戦ってヒーローを倒せるよう、労働法規の順守や福利厚生の充実を謳っている。

 そのため完全週休二日が決まりで、土日はほぼお休みであった。

 

 特に、猪マックス・新太郎は妻帯者であり、たまには家族サービスを行う必要もあるので、ちゃんと休めるようにしていたのだ。


「そこを特別に、休日出勤手当の割り増しや代休の手続きなども済ませて、いよいよ明後日の土曜日に対決が行なわれるわけです。そういうことなので、真美もここで一緒に勉強させて追試を突破していただきませんと」


 せっかく手間暇かけて用意した大決戦なのですからと、薫子は説明した。

 

「宇宙自然保護同盟っていい組織だね(怪人さんに、休日割り増し手当てがちゃんと出るから)」


 彩実はまったく家事ができない瞳子の世話をしているので土日になると時給が割り増しになるが、弘樹と健司は土日に働かせると経費が増えるという理由で、これまで土曜日に戦いは行われていなかった。

 その前に、休日手当てや振り替え休日の概念がファーマーマンにあるのかどうかすら、彩実からすれば怪しいところなのだから。


「瞳子さん、土曜日の活動だから時給は割り増しですよね?」


「普通は五十円アップとか、百円アップとかだね」


「それは楽しみだな」


 弘樹と健司が喜ぶ様を見て、瞳子は言いようのない罪悪感に襲われていた。

 なぜなら、二人が土曜日に対決をしても時給が上がらないからであった。

 実は、彩実の土日労働の時給割り増しは許可書類と予算確保がちゃんとなされていたのだが、弘樹と健司の分は綺麗さっぱり忘れていたからだ。


 自分の生活を優先した、物臭な瞳子による痛恨のミスであった。


「実はだな。割り増し時給はない」


「えーーーっ! 彩実の休日割り増しはあるのに不公平じゃん」


「そうですよね。いくらなんでも、自分の生活を優先するなんて」


「ヒドイデス! ニホン、ブラックキギョウノクニ!」


 これには、弘樹はおろか、さすがに健司とジョーも抗議の声をあげた。

 彩実は、名目上は司令基地要員であるが、実際にはこの古民家の掃除、整頓、洗濯、食事の支度、その他雑務が彼女の仕事で、実質瞳子のハウスキーパーみたいなもの。

 自分の面倒を見てくれる彩実の休日手当てはちゃんと出るが、最前線で戦っている弘樹と健司の休日手当ては出ない。

 これでは、三人が怒って当然であった。


「どんな組織も、補給や後方支援は重要なのだ」


「俺たちにじゃなくて、全部瞳子さんへの補給や支援ですよね?」


「タイショウ、チガイマス。タマニハジブンデ、ソウジクライシテクダサイ」


 健司とジョーから、後方支援は前線で戦っている自分たちが優先でなければおかしいと突っ込まれ、瞳子は答えに窮してしまった。


「あーーーあ、やる気なくした」


「私も」


「こら! 真美は関係ないではないですか!」


「あっ! ゲーム見っけ。誰のかな?」


「瞳子さんのだよ。俺もやる!」


「弘樹君、勝負だ!」


「おう、受けて立つぜ!」


 やる気をなくした弘樹と、それに釣られた真美は、近くにあったゲーム機に電源を入れて遊び始めてしまった。

 これでは、追試に向けての勉強どころの話ではない。


「ヒロ君! ちゃんと勉強しないと」


「熊野さんもだよ」


 彩実と健司が注意するが、二人は聞く耳持たずにゲームに夢中になってしまう。

 

「こうなっては仕方がありませんわね」


「瀬戸内さん、なにか策でも?」


「暫く遊ばせて、あとはうちの専属料理人千堂手作りのケーキを持参したので、それを食べて落ち着かせましょう」


「それしかないかな。お茶淹れるね」


 その後はみんなで、彩実が淹れたお茶と薫子が持参した高級手作りケーキに舌鼓を討ち、いつの間にかみんなでゲームを楽しみ始め、気がつけば弘樹と真美はまったく勉強しないまま夕方にまってしまった。


「ヤバイですわ! こうなったら、夜に家で勉強させますわ!」


「えーーーっ、私は早寝・遅起きの性分なんだよ」


「それって、ただの怠け者じゃないか」


「失礼だな、弘樹君は。私は熊の怪人なんだけど、冬眠できないから、常人よりちょっと睡眠時間を長く取らないといけないんだよ」


 真美は、それが熊型怪人の唯一の弱点だと語った。

 冬眠ができないこともないのだが、それをすると一般生活に支障をきたしてしまうため、毎日長めに寝て睡眠不足を解消しているのだと。


「クマ」


「くーみんも同じだね。くーみんも、人間の生活に順応しているから冬眠しないんだ」


「それはわかったけど、寝る前にちょっとやれば二回目の赤点は避けられるから。ヒロ君もだよ」


「わかってるよ。三十分も教科書見れば三十二点くらいは取れるだろう」


「普通は、もっと取れるんだけどね……」


 でも、見なければ取れないわけで、くれぐれもちゃんと教科書を開いてねと、健司も弘樹に頼んだ。

 休日割り増しの件には不満があるが、せっかくの大規模決戦なので参加はしたいと思っていたからだ。


「任せとけって」


「大丈夫だよ、私に任せてね」


 そして、翌日に追試が行われ、さらに次の日の土曜日。

 いよいよファーマーマン対宇宙自然保護同盟四天王による大決戦の幕が切って落とされ……なかった。






「なあ、トマレッドは?」


「はははっ……弘樹君、今日は補習なので」


「ツイシ、二十テンデシタ」


「簡単な追試で、三十点が取れないバカがいるってわけか! しかも、前に聞いた点数よりも下がってるじゃないか!」


「サトウセンセイ、アタマカカエテタ」


「だろうな!」


 土曜日のお昼、せっかくの休日に行われる予定であったファーマーマンバーサス宇宙自然保護同盟四天王による大決戦は、トマレッド弘樹が追試で補習になったため不参加となっていた。

 元々四人しかいないファーマーマンなのに、今日はリーダーが欠席。

 前代未聞の事態で、存在感のある象のウィラチョンの参加がありがたいくらいだ。


 それを知った猪マックス・新太郎は、怒髪天を突く勢いで怒っていた。

 どこの世に、補習で対決を欠席するヒーローがいるのだと。


「あのな! 本当は今日は、娘が動物園に行きたいっていうのを、俺様は今日のために泣く泣く断ってここにいるんだよ! 娘はな! まだ小さいのに『お父さんのお仕事の方が大切だから』って、俺に気を使ってさ! それなのに、あのバカはなぜ追試でまた赤点なんだ? あいつの頭の中には、カニミソでも詰まっているのか?」


「はははっ……」


「リーダーガスイマセン」


 健司もジョーも、昨日の追試で赤点を取ってしまった弘樹を心の中で呪っていた。

 頭がいい健司とジョーのみならず、まず普通の頭をしていたらあの追試で赤点を取る事自体あり得ないと思っていたからだ。

 そのくらい簡単な試験であり、実際補習なんて弘樹と真美しか受けていなかった。

 

「ですが、熊野さんも補習じゃないですか」


「それは……」


 健司の逆襲に、今度は猪マックス・新太郎がたじろいでしまった。

 弘樹と同じく、よほどのバカでなければ赤点なんて取れない追試で、再び赤点を取って補習になったのは真美も同じであったからだ。

 現に、宇宙自然保護同盟四天王も、真美が欠席で四人……レディーバタフライのおかげで、欠員には見えないけど。こういう時、四天王が五人でよかったと怪人たちは心から思っていた……しかいなかった。


 なお、くーみんは真美につき合って一緒に補習に参加している。

 週末の補習という現実に対し、怒り心頭な佐藤の鎮静剤代わりでもあったからだ。


「……俺様たちが言い争うなんて不毛だよな」


「ですよねぇ……」


「セイサンテキジャナイデス」


「元々はといえば、トマレッドと真美が悪い」


「一昨日、あれほど寝る前に教科書を開けと言ったんですけどね。どうしてあんな簡単な問題で赤点を取れるかな?」


 さすがの健司も、今回の件では弘樹に対し怒っていた。

 本当に、寝る前に三十分教科書を開けば誰でも赤点を避けられる試験だったからだ。


「真美の答案を見た。俺様も決して頭はよくないが、あのレベルの試験で三十点取れないのはヤバくないか?」

 

 そのくらい簡単な試験だったと、猪マックス・新太郎も続けて語った。


「真美の奴、頭は悪くないんだから少しは勉強すればいいものを……」


「熊野さん、怪人に学歴は必要ないと思っているのでは?」


「それは正しくもあり、間違いでもあるな」


「どういう意味でしょうか?」


 健司は、猪マックス新太郎の発言の真意を問い質した。


「これはヒーローも同じなんだが、若いうちは必要ないかもしれない。だが、次第に年を取って体力が落ちれば、戦いよりも組織の運営に重点を置く必要があるのさ。会社とそれほど変わらん」

 

 そんな時に、やはり学歴があった方がどちらの組織でも重宝されるというわけだ。

 あとは、事務・経理能力などもである。


「数字に強い、経理ができる奴も残りやすいな。悪の組織も、世界征服に成功しなければ税金を支払わねばならないからな」

 

 どうにか世界征服に成功して、納税の義務から逃れたいと思っている悪の組織は多いと、猪マックス・新太郎は語った。


「そんなわけで、学歴はあっても邪魔にはならないかな。俺は高卒で苦労した方だけど、鴨はあれでも結構いい大学を出ていてな」


「そうなんですか」


「元々は、僕も普通に就職したからね。でも、怪人の夢を諦めきれなくて転職したってわけ」

 

 ここで、鴨フライ・翼丸も話に加わってきた。

 どうせもう今日は対戦も中止だろうから、わざわざ上空で待機し続ける必要はないと判断したのだ。


「ああ見えてニホン鹿も、経理の専門学校を出ているからな。簿記の資格とかも持っている」


「怪人は、いつまでも若い頃の力を保てないからな。年を取った時に備えておかないと。夢がないと言う奴も多いが、現実問題として、年を取って力が落ちたら使い物にならなくなったと言われて組織を追い出される怪人も多い。ヒーローも同じだと聞く。もし君が、将来ヒーローとして身を立てたいのであれば、その辺のことも考えておいた方がいい」


「そうですよね」


 健司はまだ将来をどうするか考えていないが、家の事業を継ぐにしても、ヒーローになるにしても、ちゃんと勉強はしなければなと思うのであった。


「まあ、ダイホワイトは心配ないだろう。頭がいいと真美が言っていたから」


「ジョー君もそうだね」


 ジョーは、タイの大財閥の跡取りなのでもっと心配なかった。

 鴨フライ・翼丸は、そんな彼を羨ましいと思ってしまうのだ。


「問題は、弘樹君と熊野さんですよね」


「あのバカども! 少しは勉強しろ!」


「ですよねぇ……」


 彼らは一通り、まったく勉強しない弘樹と真美に文句を言ってから、それぞれ解散してしまう。

 北見村で初めて行われる予定だった大決戦は、双方の主力が補習を受けるためという、壮絶にくだらない理由で中止となったのであった。








「おーーーほっほ! 先週は駄目でしたが、今週こそは土曜日の大決戦を行いましょう」


「ですが、ビューティー総統閣下」


「どうかなさいましたか? 猪さん」


「今週、また小テストだと真美から聞きました……。一度あることは二度あるかなと思う次第です」







 中止になった土曜日大決戦を翌週に行おうとする薫子であったが、ここで猪マックス・新太郎が新たな懸念を口にした。

 彼は真美から、また小テストがあると聞いていたのだ。

 それも教科は古文であり、かなり赤点の確率が高かった。


「真美も、同じミスを繰り返すとは思えませんわ」


「そうでしょうが、この場合、トマレッドの方が問題でしょう」


 勉強すればできる真美とは違って、弘樹は本物のバカなのだからと、猪マックス・新太郎はかなり失礼なことを言った。


「わかりましたわ。追試になった時は、今度こそちゃんと二人を勉強させますので」


 案の定というか、予想どおりというか。

 やはり、古文の小テストで弘樹と真美は赤点を取って翌日に追試となってしまった。

 真美に関しては、もうやる気がないのであろう。

 それでもここで再び赤点になると、またも週末は補習で潰れてしまう。


 今度こそはさせてなるかと、薫子は真美とくーみんを連れて司令本部で勉強をしているはずの弘樹を訪ねた。

 再び、薫子の専属料理人である千堂自家製の特製ケーキを持ってだ。






「真美! またゲームばかりして! 弘樹さんもですわ!」


「もう一回」


「もう一回だよ、薫子ちゃん」


「しょうがないですわね。ケーキを食べたらちゃんと勉強するのですよ」


 ところが、またも夕方まで弘樹と真美は勉強をまったくせず、そのまま翌日の追試も赤点となり、週末は補習で潰れてしまうのであった。






「ビューティー総統閣下、こうなったら夏休みなどの長期休暇に日程を変更すべきでは?」


「ですが、ニホン鹿さん。長期のお休みは、定期試験の補習で潰れるかもしれませんわよ」


「否定できませんな……」


 それでもなんとか日程をやり繰りして、夏休みにようやく土曜日の大決戦を行うことができたが、やはり弘樹と真美は補習からは逃れられなかった。

 結局北見高校を卒業するまで、弘樹と真美はおバカなままであった。

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