第31話 男性アイドルヒーロー

「キラレッド!」


「キラブルー!」


「キライエロー!」


「キラグリーン!」


「キラピンク!」


「「「「「アイドル戦隊! キラキラファイブ!」」」」」





「瞳子さん、今日の助っ人たちはえらくイケメンだな」


「ちょっとしたツテで呼んだのだ。キラキラファイブは、アイドル活動もしていて、現在女性たちに大人気な戦隊ヒーローでな。今日の戦いは盛り上がるだろう」




 

 今日も弘樹たちが司令本部に顔を出すと、そこには新たな助っ人ヒーローたちがいた。

 司令本部の庭で、登場時に行うポージングの練習をしている。

 全員がイケメン男子で、ヒーローと兼業でアイドル活動もしている『キラキラファイブ』の面々とのことであった。

 

 彼らのように、アイドル、タレント、モデル、芸人、俳優などと兼業しているヒーロー、怪人はかなり存在していた。

 その多くがヒーロー業のみでは食べられないので、兼業で芸能活動もしているというわけだ。

 芸能活動により知名度を上げ、ヒーロー、怪人として大成するのが最大の目的。

 というのが、彼らアイドルヒーローたちの活動理由であった。


「事実は、アイドル活動もしているというか、戦隊ヒーローもしているなんだがな」


「はい?」


「大人の事情というやつだ」


 瞳子は、今回彼らを助っ人ヒーローとして呼んだ理由を説明する。

 キラキラファイブは、全員がアイドルグループでもある。

 というか、本来そちらの方がメインであった。


 彼らはヒーロー体質ではあるのだが、かなり弱いので、ヒーローになるのはやめてアイドルへの道に進んだ。

 ところがアイドルの世界も競争が激しく、彼らはなかなか売れなかった。

 そこで、彼らの所属する芸能プロダクションがキラキラファイブをヒーロー兼業アイドルとして売り出し、それが見事に当たったというわけだ。


「それって大丈夫なのか? 瞳子さん」


「そこで、弘樹たちが共闘名目でフォローするわけだ」


「ドウシテ、ソコマデスルノデスカ?」


 ジョーが、本来対等の立場で一緒に戦う助っ人ヒーローを自分たちがフォローしなければいけない理由を瞳子に問い質した。

 共闘でお互いにフォローし合うことは普通だが、ファーマーマンが一方的にキラキラファイブをフォローするのであれば、それは共闘とは呼ばない。


 それなら、助っ人ヒーローなどいらないではないかという話になるからだ。


「ワタシタチバカリタスケルノデアレバ、フタンガオオキク、スケットノイミヲナシマセン」


「ジョーの言うとおりだよね」


 ジョーと同じく、健司も彼の意見に同調し、ちゃんと事情を聞かなければ今日の戦いには参加したくないという態度を取った。

 どうして助っ人を断って単独で戦わないのかと。


「予算不足だからだ」


「またそれかよ」


「うちの宿命だね」


「オカネ、タイセツデスケド。アマリカネカネイウノヨクナイデス」


「今回の助っ人ヒーロー受け入れにより、うちの財政は改善するのだ。ファーマーマン存続のためには、今回の助っ人を受け入れてもらわなければ困る」


 とはいえ、ただ司令から命令するだけでは弘樹たちの反発は大きい。

 そこで瞳子は、今回の共闘の裏事情を説明した。


「キラキラファイブは、正直に言えばとても弱い」


「そんなんでよくヒーローを続けるよな」


 実力不足のヒーローなど……怪人も同じだが……いつ怪我をするか、最悪死ぬかもしれない。

 弱ければ次第に出撃もなくなるので、まず食えなくなってしまう。

 例えヒーロー特性があっても、その才能は個人個人で大きな開きがあり、バブル期でもあるまいし、弱いヒーロー・怪人は、早めに見切りをつけて第二の人生を歩んだ方がいい。

 弘樹は子供の頃、祖父であるファイナルマンからそのように聞いていた。


「ところが、キラキラファイブのケースでは逆なんだ」


「ヒーローに向かないからアイドルになったけど、他のアイドルとの差別化を図ってヒーロー活動をしているのでやめられないんですね」


 ちょうどそこに彩実がお茶持ってきて、瞳子のセリフを繋いだ。


「兼業でヒーローもやっているアイドルなので、ヒーローをやめればその最大の特徴がなくなってしまう。ゆえに、キラキラファイブがヒーローをやめるわけにはいかないのだ」


「でも、弱いんですよね? 戦績を聞いたところ、とてもいいですけど」


 健司は、急ぎスマホを取り出してキラキラファイブのことを調べ始めたが、その勝率の高さは、とても弱いヒーローのそれとは思えなかった。


「ゲタハカセデスカ?」


「ジョー、難しい言葉を知っているね」


「そんなところだ」


 とにかくキラキラファイブは弱いので、有名な悪の組織に所属する怪人と戦わせると確実に負けてしまう。

 アイドルという商売をしているので、顔に傷がつく、激しい負傷などもしないよう活動しなければならない。

 下手に怪我をされると、アイドルとしての仕事に差し障りがあるからだ。


「それってヤラセですよね?」


「健司、ヤラセではない。双方が事情をくみ取り忖度しただけの話だ」


「それをヤラセって言うんですけど……要はキラキラファイブが勝利できれば、ファーマーマンにも利益があると?」


「キラキラファイブは弱いが、今日本はおろかアジア圏でも大人気のアイドルだ。金の融通が利く」


「あーーーっ、理解できました」


 ファーマーマンが適切にキラキラファイブが勝利するため補佐を行えば、彼らの所属する芸能プロダクションから寄付金、協賛金……名称はなんでもいいがファーマーマン側にお金が入る仕組みなのだと、健司は気がついた。


「でも、僕らのできることって限界がありませんか? だって、ただ勝利すればいいってもんじゃないでしょうに」


「ほほう。よくわかるな」


「容易に想像できますよ」


 ただキラキラファイブが勝利するだけなら、要はファーマーマンだけで戦って勝利したのち、その戦績を譲ってしまえば済む問題だ。

 ところが、キラキラファイブには多くのファンの目がある。

 たとえ、この過疎化が深刻な北見村で戦うにしても、熱心なファンが来ている可能性は高い。

 ヒーロー兼業アイドルならば、戦いの様子をあとで映像などで見せることも多いであろう。


 つまり、ちゃんとキラキラファイブが戦って勝利する絵面が必要というわけだ。


「デキテ、サリゲナクフォロースルノガゲンカイネ」


「それはするとしてだ。俺たちよりも、まずは宇宙自然保護同盟側に言わないと駄目なんじゃねえ?」


 いくら弘樹たちが上手くフォローしたとしても、怪人を出す宇宙自然保護同盟側が助っ人ヒーローが来るのだからと本気で戦ってしまえば、キラキラファイブは負けてしまうであろう。

 その辺の対策はどうなっているのだと、弘樹は瞳子に尋ねた。


 彼が瞳子から、キラキラファイブが大活躍して勝てるようにしてくれと言われた件については、以前薫子のデビュー戦においてわざと負けたこともあるので、それはあまり気にしていなかった。


 特に今回は、ヒーロー側の勝利というシナリオなのだから。


「当然、宇宙自然保護同盟側にも話は行っている。向こうもちゃんと対処するはずだ。」


「ちゃんとって……わざと負ける悪の組織がちゃんとってのも変な話だけどな」


「しょうがないのかな?」 


「オトナノタイオウデスネ」


 ファーマーマンの司令である瞳子がそう決めたのだから、弘樹たちも逆らうわけにいかず、さてどうやってキラキラファイブを上手くフォローするか、それが最大の問題となるのであった。






「えっ? 今日は私が単独で出撃ですか?」


「ええ。今日の対決は、穴熊さんが一番相応しいかと」


「必ずや、ビューティー総統の期待に応えてみせましょう!」




 

 一方、キラキラファイブと戦う側である宇宙自然保護であったが、総統である薫子は珍しく助っ人ヒーローたちと戦う怪人を直接指名した。

 本来、助っ人ヒーロー戦においては乱戦になるので、あまり誰が誰を倒す、誰と戦うなどの指名は難しいのだが、薫子はあえて穴熊スコップ・大地を指名したのだ。


 穴熊スコップ・大地は、初めて薫子から直接命令を受けて感動していたが、そんな彼を尻目に薫子と他の怪人たちによる相談は続いていた。


「(総統閣下、いくらなんでも助っ人ヒーローたち相手に、穴熊一人では厳しいのではないかなと……)」


 猪マックス・新太郎は、助っ人ヒーローたち相手に穴熊スコップ・大地一人では大分厳しいのではと指摘した。

 彼はそれほど歴史は長くない宇宙自然保護同盟でもニホン鹿ダッシュ・走太に次ぐ古参であったが、四天王には入れてもらえなかった。

 つまり弱い怪人であり、そんな彼に助っ人ヒーローたちの相手は難しいと判断したのだ。


「(単独のヒーローならともかく、相手は戦隊ヒーローですからね)」


 珍しく、ニホン鹿ダッシュ・走太も猪マックス・新太郎の考えに同調した。

 たとえ彼が自分に次ぐ古参であり、将来的に四天王に等しい地位に就いてもらいたいとは思っているが、今回の任務は荷が重いと思っていたのだ。


「(そうですよね。僕でも荷が重いですよ)」


 いくら四天王でも、一人で戦隊ヒーロー五人に当たるとなれば非常に厳しい。

 鴨フライ・翼丸も、薫子の作戦に異を唱えた。

 それが可能なのは猪マックス・新太郎と真美くらいで、他のメンバーは共闘するのが前提であったからだ。


「(薫子ちゃん、なにか他に目的でもあるの? って、くーみんが言っているよ)」


「(クマクマ)」


「(くーみんにはわかってしまいましたか。実は今回の対決ですが、敗北が前提なので)」


「(つまり、負けてくれないと困るから穴熊さんなのですか?)」


「(そういうことになりますわね)」


 レディーの問いに、薫子は一人大役を与えられたと喜んでいる穴熊スコップ・大地に聞こえないよう、小声で答えた。


「(大人の事情というやつですわ)」


 薫子は、今回の対決の裏事情を穴熊スコップ・大地以外に説明し始めた。


「(今回の助っ人ヒーローですが、キラキラファイブなので)」


「(ああ、そういうことですか……)」


「(あいつらか。もの凄く弱いらしいですね……)」


 ニホン鹿ダッシュ・走太は宇宙自然保護同盟の運営にも関わってるので、当然キラキラファイブのことは知っていた。

 猪マックス・新太郎もこの業界は長いので、当然彼らのことは知っている。


 とにかく弱いヒーローであることをだ。


「(あれでもB級ヒーローと聞いて驚いたがな)」


「(猪、B級ヒーローと怪人になるのはそう難しくないだろうが)」


 ニホン鹿ダッシュ・走太の言うとおりで、実はB級ヒーローと怪人になるのに、強さは必要なかった。

 戦績が悪くても、ある一定年数ヒーローや怪人をやっていれば、簡単な筆記試験と面接で昇級してしまうからだ。


 とはいえ、弱いヒーローと怪人は本業で稼げない。

 生活できる副業を持っているか、弱くてもそれなりの組織で裏方に徹している、などの条件がなければ、昇級できる年数業界に居続けるのは難しかった。


「(戦績に関係なく、B級に上がるには十年は必要だ。弱いヒーローや怪人が十年残るのは難しいぞ。それに、キラキラファイブのヒーロー歴は二年弱くらいだ)」


 弱いヒーローがわずか二年でB級に昇格するなど、まずあり得ないというのが業界の常識であった。


「(彼らは、とにかく対戦数が多いのよ)」


 同じく業界歴が長いレディーバタフライが、知り合いなどから聞いたキラキラファイブの裏事情を話し始める。


「(怪人として籍はあるけど、本業で活躍できないので籍だけ置いている怪人とか。若い頃は有名だった怪人でも、現在は老齢でほぼ引退状態にある怪人とか。そんなのとばかり戦っているのよ」


「(それって、露骨な勝率稼ぎ……)」


「(真美ちゃんの指摘どおりね。もう業界に未練もない怪人ばかりで、キラキラファイブは芸能活動で稼いでいるから貰えるギャラはとてもいいと聞くわ。だから対決を引き受けるし、負けても問題ないってわけ)」


「(それだと、ヒーロー業としては赤字だよね?)」


「(そこは、稼いでいる芸能活動のための宣伝と割り切ってるんでしょう。経費で落とせるから)」


 キラキラファイブは、アイドル業ではかなり稼いでいる。

 ヒーロー業はそのアイドル稼業を支える宣伝であり、多少赤字でも……宣伝費用と割り切れば……逆に節税になるので歓迎されているというのが真相であった。


「(そんなキラキラファイブさんたちは、あと二年以内にA級ヒーローを目指してるそうで、今は一つでも多く勝利を欲しているわけです)」


「(あの連中がA級って……)」


 実務年数があればなりやすいB級とは違って、A級はヒーローでも怪人でも昇級はかなり困難である。

 筆記試験はなく面接のみであったが、対戦成績がかなりよくなければ申請を出してもすぐに却下されてしまうのを猪マックス・新太郎は知っていた。


 A級になれれば、よほど運が悪くなければ専業で生活できるほどなのだから。

 

「(それが、勝利数さえ稼げば、キラキラファイブがA級になることは可能だそうです)」


「(そうなのですか?)」


「(同じく大人の事情というわけです)」


 日本ヒーロー協会としては、キラキラファイブが弱かったとしても、彼らの存在がヒーロー業界への宣伝になれば、A級にしても差し支えないと判断していた。

 どうせ彼らが強い怪人と戦うことなどなく、A級になってしまえば、あとは宣伝目的の対決やイベントへの参加が精々だと知っていたからだ。


「(ヒーロー界全体の利益のためですか……)」


 とはいえ、猪マックス・新太郎は日本ヒーロー協会を批判する気にならなかった。

 なぜなら、日本怪人協会でも同じようなことをやりそうだからだ。

 

「(事情はわかりましたが、どうして宇宙自然保護同盟はキラキラファイブの要請を受け入れたのですか?)」


 宇宙自然保護同盟は、薫子の実家瀬戸内コーポレーションのグループ組織である。

 本体である瀬戸内コーポレーションは資金が豊富なので、キラキラファイブ側の要請を受け入れる必要などないと、ニホン鹿ダッシュ・走太は思っていたのだ。


 いつもお金がないファーマーマン側とは違って。


「(実は、瀬戸内コーポレーションの子会社や関連企業などのCMや宣伝をキラキラファイブが担当しておりまして。宇宙自然保護同盟が瀬戸内コーポレーションの節税組織と考えますと、この要請を受け入れないわけにいかないのです)」


「(やっぱりお金の問題なんですね)」


「(鴨さん、宇宙自然保護同盟の福利厚生は瀬戸内コーポレーションの力あってこそです。なので、ここは素直に受け入れてもらいたいですわね)」


「(我々も子供ではないので、その辺の事情は汲み入れますよ)」


「(ご理解いただけてよかったですわ。実は、穴熊さんを指名したのは、四天王のみなさんの経歴を汚すのはどうかと思いまして……)」


 薫子は、さらに小声でニホン鹿ダッシュ・走太たちに説明を続けた。


「(まあ、穴熊は……)」


 ニホン鹿ダッシュ・走太も、穴熊スコップ・大地の強さについては微妙だと思っている。

 それでも自分に次ぐ古参で、彼は彼なりに宇宙自然保護同盟のために頑張ってきた。

 できれば四天王に……無理でも、それなりの地位に就けたいと願っていたのだ。


 そんな彼の考えを、外様の猪マックス・新太郎たちは依怙贔屓・忖度だと批判しているのだが。


「(私としましても、今回の敗戦で穴熊さんにペナルティーを与えるつもりはありません)」


「(むしろ負けてくれないと困るからね)」


「(クマクマ)」


「(くーみんが、『万が一にもキラキラファイブに勝利してしまうと、逆に問題なんじゃないか?』って)」


 ちゃんと、今回の対決がプロレスであることを穴熊スコップ・大地に伝えたのか?

 真美は、くーみんが感じた疑問を薫子に伝えた。


「(最初に教えてしまうと、わざとらしい動きになるかもしれませんので)」


「(穴熊は、あまり器用な奴ではありませんからねぇ)」


 穴熊スコップ・大地とは親しいニホン鹿ダッシュ・走太も、今回の勝負、わざと負けてほしいなどと事前に伝えると、それほど器用ではない彼が別のしくじりをやらかすかもしれないと、薫子に疑念を呈した。


「(伝えなくていいのかな?)」


「(真美、いくらキラキラファイブが弱いとはいえ、相手は五人。それに穴熊さんの実力も……おほんっ! なので、大丈夫だと思います。それに……今の彼にそれを伝えるのは酷でしょうし……)」


 薫子の視線が、穴熊スコップ・大地の方へと向く。


「このチャンスを生かし、私も宇宙自然保護同盟における幹部としての地位を確立するのだ! 今日は頑張るぞぉーーー!」


「(というわけでして、ちょっと言いにくですわ)」


「「「「「「(……確かに)(クマクマ)」」」」」」


 薫子は、一人大役を任された嬉しさで一杯の穴熊スコップ・大地をとても申し訳なさそうに見ながら、今さら真実は伝えられないと真美たちに語るのであった。






「もうすぐみたいよ」


「楽しみね」


「勇也君くぅーーーん! 頑張ってぇーーー!」


「友邦様ぁーーー!」


「新伍くぅーーーん! こっち見てぇーーー!」


「流星さぁーーーん!」


「晶ちゃーーーん! 今日も可愛い!」


「……この数十名の女性たちは?」


「あっ、私たちのファンなんです」




 

 いよいよもう少しで対決が始まるというその時、北見村でも特に人がいないはずの北見山の山奥に、なぜか村の住民ではない女性たちが多数詰めかけていた。

 全員『赤丸勇也(あかまる ゆうや)』、『青木友邦(あおき ともくに)』、『黄味川新伍(きみかわ しんご)』、『緑山流星(みどりやま りゅうせい)』、『桃野晶(ももの あきら)』の文字が入ったウチワなどを持ち、それぞれに戦う準備をしているキラキラファイブのメンバーに声援を送っていた。


 そんな彼女たちは何者なのか……聞かなくてもわかるのだが、念のため健司がキラキラファイブのリーダー赤丸勇也に尋ねていた。


 彼はリーダー役に相応しい正統派イケメンで、見た目もかなり好青年ぽかったので聞きやすかったというのもあった。


「我々の対決は原則非公開なんですよ。あとでコンサートの時に映像を見せますけど」


 ファンに対決を見せないようにするのは、もしキラキラファイブが怪人に破れてしまった時に備えてであろう。

 同時に、あとで映像を見せるのなら編集も可能わけで……健司は芸能界の闇を見たような気がした。


「では、あのファンの方々は?」


「対決は秘密にしているんですけど、どういうわけかファンの人たちが事前に待っていることが多くて……」


「そうなのですか……(怖っ!)」


 スケジュールを非公開にしているのに、なぜかキラキラファイブが戦う場所を知っている。

 一日にバスが何本かしかない北見村の、さらに人がいないこの場所に、事前に待ち構えている。


 健司は、ファン心理の凄さと恐怖を同時に感じてしまった。


「戦いを始めてしまえば、それも気にならなくなりますから。じゃあ、始めましょうか」


 双方準備も終わったということで、ついに対決は始まった……のだが……。


「トマレッド!」


「引っ込めぇーーー! 邪魔なのよ! あんたらは!」


「勇也君を出せぇーーー!」


 いつものように、まずは主役であるファーマーマンが登場して自己紹介を始めた途端、キラキラファイブのファンたちから『邪魔だ!』と罵声を浴びてしまった。

  

「面倒だからいいや」


 どうせ戦わないしと、弘樹たちは自己紹介をやめてしまう。


「じゃあ、キラキラファイブどうぞ」


「キラレッド!」


「キラブルー!」


「キライエロー!」


「キラグリーン!」


「キラピンク!」


「「「「「アイドル戦隊! キラキラファイブ!」」」」」


「「「「「「「「「「きゃぁーーー! キラキラファイブ! 頑張ってぇーーー!」」」」」」」」」」


 続けて、助っ人ヒーローであるキラキラファイブが登場して自己紹介を始めると、ファンたちから黄色い歓声があがり続けた。


「マルデ、アイドルノコンサートデスネ」


「まんまアイドルだからな」


 弘樹は、ジョーにそう答えた。


「んで、怪人側は……俺ら、こんな状態でもまだマシなんだな……」


「こらっ! 痛っ! 物を投げるな!」


 続けて、宇宙自然保護同盟の怪人たちが登場したのだが、彼らにはいきなり女性ファンたちからゴミが投げつけられるというアクシデントに見舞われていた。

 今までこんなことはなかったが、悪役なので仕方がない……とは言えない悲惨さであった。


「ええいっ! 俺様たちは戦わないのだ! 端で見学だ! 見学!」


 もう今日の仕事は終わったとばかり、猪マックス・新太郎たちも完全に観戦モードになってしまった。

 代わりに、穴熊スコップ・大地が颯爽と現れ、自己紹介を始める。


「宇宙自然保護同盟の殺し屋! 穴熊スコップ・大地だ!」


「殺し屋?」


「トマレッド、そこは突っ込んでやるな」


 初めての大任で気合が入っている証拠であり、さらにその方がキラキラファイブ側も喜ぶのだからと、猪マックス・新太郎は語った。


「そうなんだろうけど……気合入れすぎて穴熊が勝つと困るじゃないか」


「いくら気合を入れても一対五だぞ。穴熊も、そんなに強い怪人ではないから問題なかろう」


 ところが、そんな猪マックス・新太郎の予想は大きく裏切られることとなる。


「はぁーーーはっは! 穴熊アタック!」


「うわぁーーー!」

 

「この攻撃は……」


「レッド! ブルー! 大丈夫か?」


「見た目以上のパワーがあるとは……」


「レッド、どうしようか?」


 ただ丸まって突進しただけの攻撃で、キラキラファイブはダメージを受けて地面に倒れ伏してしまった。

 まさかの事態に、弘樹たちも、猪マックス・新太郎たちも声すら出ない状況だ。

 まさか、ここまでキラキラファイブが弱かったとは……。


「あり得ないくらい弱っ!」


「彩実、しぃーーー!」


 様子を見に来ていた彩実は、キラキラファイブのあまりの弱さに、思わず本音を口に出してしまう。

 そしてそれを、慌てて弘樹が止めた。


「ニホン鹿さん、思っていた以上の弱さですね」


「うーーーむ。これでよくヒーローなんてやってられるな」


「アイドルトシテウレルタメニヤッテイルカラデスネ」


 この戦力比ならキラキラファイブの圧勝だと思っていたのに、まさかの穴熊無双にニホン鹿ダッシュ・走太は呆れるしかできない状態であった。

 健司とジョーも、彼とまったく同じ感想を抱いている。


「事前に勝っちゃ駄目って伝えておけばよかったのに」


「クマクマ!」


「『ニホン鹿のミス』だって」


「その批判は甘受するが、まさかここまでキラキラファイブが弱いとは思わなかったんだ」


「それでどうしますか? 助けに入りましょうか?」


「レディーバタフライ。我々が助けに入ったら、余計穴熊が有利になってしまうではないか」


 むしろそれは、ファーマーマン側の仕事だろうと、ニホン鹿ダッシュ・走太はレディーバタフライに語った。


「俺たち?」


「そうだ。なにしろ、キラキラファイブはヒーローなのだからな」


 ヒーローが勝つため、ヒーローが助っ人に入る。

 それが筋であろうと。

 自分たちだと穴熊スコップ・大地を妨害する形になってしまい、それは不自然だし、今後の人間関係が悪くなってしまう。

 そのようなことはゴメンだと、ニホン鹿ダッシュ・走太は言い放った。


「俺たちかぁ……」


「でも、難しいですよ」


「ヘタニシャシャリデルトキケンデス」


 もし弘樹たちが参戦して勝利したとしても、キラキラファイブが大活躍して勝利したとは決して言えない。

 それは、瞳子からの命令を無視した形にもなってしまうからだ。


「もし穴熊が空気読まないで勝利しても、それは宇宙自然保護同盟の責任だしな」


「こらぁ! そういう言い方をするか! トマレッド!」


「だって、乱入しただけで石とか投げられそうだし」


「キラキラファイブを救う仲間にか?」


「ニホン鹿さん、あの手の連中にそういう理屈なんて通用しませんよ」


 大活躍するはずだったキラキラファイブの邪魔をしたヒーローたち。

 という罪状で糾弾されかねず、そんなのはゴメンだと健司は語った。


「ジゼンニ、チャントウチアワセシナカッタノガワルイデス」


「うっ! 言い返せない……こうなれば……」


 穴熊スコップ・大地に嫌われるのを覚悟して、彼の足を引っ張る戦法に出るか?

 今後の動き方を決めかねていたニホン鹿ダッシュ・走太であったが、その前に穴熊スコップ・大地が動き始めてしまった。

 いまだ倒れ伏しているキラキラファイブに対し、トドメを刺そうと大技の準備を始めたのだ。


「この穴熊スコップ・大地の必殺技、高く飛び上がり、丸まってヒーロー目掛けて落下する。体中の骨が砕けて死ぬがいい! 食らえ! 『穴熊・ラストフォール!』」


 もうすぐ単独で戦隊ヒーローを倒したという戦績が自分のものに。

 穴熊スコップ・大地は、ある種の高揚感を感じながら飛びあがり、すぐに丸まってから、キラレッド目掛けて落下を始めた。


「猪! ニホン鹿! どうするよ?」


「どうって……」


「ああっーーー! 言っておけばよかった!」


 このまま穴熊スコップ・大地の勝利が決まってしまうかと思われたその時、援軍が予想外……いや、容易に予想できるところから現れた。

 

「はははっ! 死ねぇーーーうごげぁ!」


 穴熊スコップ・大地がキラレッドの体を砕く寸前、いきなり横から巨石が飛んできて彼の体を直撃した。


「なっ! 大丈夫か? 穴熊!」


 いくら穴熊スコップ・大地が怪人とはいえ、自分の体の大きさほどの巨石を食らって無事なわけがない。

 さらに運の悪いことに、彼は巨石の下敷きになってしまった。

 突然の大ダメージのため意識も失っているので、対決は穴熊スコップ・大地の負けということになってしまった。


「変態怪人! よくも勇也君を!」


「いい気味だわ!」


「天罰よ! 悪は滅びるのよ!」


 巨石を投げたのは、なんとキラキラファイブのファンたちであった。

 彼女たちは普通の人間なのに、どういうわけか、あのような巨石を恐ろしい速度で投げて穴熊スコップ・大地を倒してしまったのだ。


 火事場のクソ力。

 ピンチだったキラキラファイブを救おうとする一途なファン真理。

 過剰な愛。


 なんでもよかったが、今回の勝負もキラキラファイブの勝利に終わった。

 

「だから編集するのか……」


 どうして対決の様子をあとで流すのか。

 それはいかようにも編集できるからなのだと、健司は改めてその理由に納得することになる。

 

「ちょっと酷すぎないか?」


「ビューティー総統閣下に言っておこう。二度と、キラキラファイブからの仕事は受けない方がいいと」


「えへへ……戦隊ヒーローを倒したぞ……」


 弘樹とニホン鹿ダッシュ・走太が、キラキラファイブのファンたちの行動に素で引いていたちょうどその時、意識を失った穴熊スコップ・大地は夢の中で勝利の余韻に浸っていたのであった。

 

 なお、さすがに悪いと思ったようで、薫子は無条件で穴熊スコップ・大地の労災を認めた。

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