第29話 奴らが再び

 今日も今日とて、ファーマーマンは北見村の平和のために活動していた。

 とはいえ、今日は北見村を自然に戻そうとする宇宙自然保護同盟との戦闘もなく、司令本部(古民家)において、司令である栗原瞳子と、これからの活動について相談していたのだ。





「助っ人ヒーローを呼ぼうと思う」


 『ずずっ』っと、お茶を啜りながら瞳子は集まった弘樹たちにそう提案した。

 そのあと、ちょっと未練がましい表情でお茶を淹れてくれた彩実の方を見るのだが、彼女は何食わぬ顔でお茶を継ぎ足している。

 

 今日は内勤で……元々瞳子はほとんど外出しないのだが……これから外出する予定もなく、定時まであと一時間ほど。

 瞳子は酒を飲みたかったのだが、最近彼女の飼育担当だと評される彩実が、彼女が酒瓶に手を出そうとすると牽制するようになったのだ。


 瞳子は、仕方なしにお茶と一緒に出された煎餅を齧り始めた。

 これも、原料は同じ米だと思いながら。


「助っ人は、先日のチタニウムマンさんを見るに、向こうもいい顔しないと思いますよ。昨日の今日ではないですか」


 こうも頻繁に助っ人ヒーローを呼んでも、向こうがいい顔をしないのでは?

 健司が自分の考えを述べた。


 結局チタニウムマンは、北見村でアイデアに詰まり、締め切りに追われていた小説の原稿を数万字書いただけで、ほとんど戦わなかった。

 対決に参加できなかったという向こう側の瑕疵があったので日当は発生しなかったが、残念なことにチタニウムマンこと糠みそ先生は、ライトノベル界では売れっ子でかなり稼いでおり、まったく気にしていないどころか、原稿が進んだので一人喜んでいたくらいだ。


 弘樹たちからすれば一体なんなのだと思わずにいられず、そのせいで助っ人ヒーローは暫くゴメンという雰囲気だったのだ。


「しかしだな。今度は最初から無料で来てくれるのだ。しかも、宇宙自然保護同盟側もだ。向こうはいざ知らず、うちの財政状況を考えるに、この話は引き受けた方が得だろう」


「ヒトミコサン、ソレアヤシクナイデスカ?」


 無料ほど怖いものはない。

 タイ人ではあるが、日本語を勉強中であるジョーは、無料で来てくれるという助っ人ヒーローを怪しいと思っているようだ。

 賛成とは言わなかった。


「実績はあるぞ。勝率も非常に高い。実績はある連中だ」


「なあ、瞳子さん。それって……」


 『まさか、あの連中では?』と、弘樹の顔が一瞬で疑惑に満ちたものになった。

 確かに『彼ら』は強いが、色々と問題がありすぎるからだ。

 その問題のせいで助っ人の代金が無料なのであろうが、それ以上にリスクがあるような気がしてならないのだ。


「よくわかったな。弘樹」


「瞳子さん、あいつらはやめとこうぜ」


「しかし、連中は無料だ」


「そこだけが重要なんだ……」


 助っ人ヒーローが無料で呼べる。

 それがなによりも大切という態度を見せる瞳子を見て、健司も『そこだけで判断するのはどうなんだろう?』という表情を浮かべた。


「このところ、対決の頻度の多さ。メンバー増員による固定費の増大など。色々とあって、うちも大変なのだ」


 そのため、助っ人ヒーローの経費は安く済ませたい。

 それに戦績も悪くないのだから、彼らを使わない理由がないと、瞳子は強く主張した。


「経費の増大って……うち、結構寄付しましたよね?」


 健司の実家である白木家は金持ちであり、彼の加入に際し、白木家からファーマーマンに結構な額の寄付をしている。

 ス-ツや装備も自前なので、高価な専用マシンなどを購入していないファーマーマンには金があるはず。


 健司は、その点を瞳子に強く問い質した。

 資金難は、暫く普通に活動していればあり得ないと。


「ウチモ、キフシマシタ。ウィラチョンノケイヒモウチモチヨ」


 健司に補足するかのように、ジョーもファーマーマンの資金難はおかしいと指摘した。


 ジョーの実家はタイでも有数の大金持ちであり、彼のファーマーマン加入に際し、その実家は多額の寄付をしていた。

 当然装備も自前で、搭乗しているウィラチョンの餌代などもジョーの負担なので、ファーマーマンがそこまで財政的に苦しくないのを知っていたのだ。


「瞳子さん、酒代にでもしたのか?」


「あっ、それはあるかも……」


「そういう風に疑うのは嫌ですけど」


「イマノウチニツミヲコクハクスレバ、カミハアナタヲユルシマス」


 弘樹たちの疑惑の視線が、一斉に瞳子へと向かう。

 これまでの彼女の生活を見るに、予算を酒代に流用したとしてもなんらおかしいとは思わなかったからだ。


「そんなわけがあるか。あと二人新しいメンバーがほしいところだし、マシンも考えてはいるのだ。そのため、予算をすべて使い切るような戦い方はできない。いいではないか。全裸マンと丸出しマンで」


「あのさぁ……」


 弘樹もヒーローなので、野郎の全裸を見たところで動揺するほど初心ではないが、彼らが派手に動くと、その分自分がまったく目立たないリスクがあるのだと、瞳子に事情を説明した。


「健司は前回いなかったから知らないかもしれないが、あいつらが出ると、うちと宇宙自然保護同盟との対決とかどうでもよくなるんだよな」


 全裸マンと丸出しマンが出てくれば、きっと怪人側のゼンラーとマルダシーも姿を見せるであろう。

 というか、瞳子はそれを前提に話をしている。

 戦績をあげる度に仕事先が減っていく彼らなので、仕事があるとわかれば北見村に集まってくるからだ。


 四人の全裸たちによる共演のせいで、自分もそうだが、怪人側も目立たなくなってしうし、そういえばビューティー総統こと薫子は全裸マンのせいでトラウマを負った。


 再び彼らを呼ぶのはどうかと思うのだ。


「あっ、私は明日忙しいかも」


 彩実は、絶対に対決を見に行かないことを宣言した。

 なぜなら、恋心を抱きながら健気に弘樹を世話する幼馴染キャラのイメージを失いたくないからだ。

 つまり、汚れキャラは嫌というわけだ。

 元々彼女はヒーローではないので、対決の場にいないとしても全然問題ないという事情もあったりする。


「ゼンラマン? ドンナヒーローデスカ?」


「そのまんまだけど」


「オッーーー! クレイジー! ヨクケイサツニツカマラナイネ!」


「よく捕まっているようだけどな」


 他にも、都市部での活動を事実上禁止された件など。

 全裸マンたちの武勇伝を、ジョーに説明する弘樹であった。


「レディー、サンカデキナイネ」


「むしろ参加しない方がいいな」


 前回の惨劇を思い出すに、女性は参加しない方がいいだろうなと、弘樹はジョーに自分の意見を語った。


「ヨク、ソンナノヨブネ」


「金がないからな。うちは」


 無料で助っ人ヒーローが来る。

 どうせ自分は戦いの場に出ないのだし。

 弘樹は、瞳子の考えが容易にわかってしまうことが悲しかった。

 そして、自分の立場の弱さもだ。


「とにかくだ。全裸マンと丸出しマンは呼ぶ! 向こうにも、ゼンラーとマルダシーが来るだろうから、前回のような無効試合にはならないだろう」


 そう言うと、瞳子は湯呑に残っていたお茶を啜った。

 確かに、先日のような無効試合にはならないと思うが、それ以上に別の問題が発生するかもしれないというのに……。


 とはいえ、弘樹には瞳子の決定を覆す権限などなく、こうして二度目の全裸決戦が行われることが確定したのであった。







「……、トマレッド。あの象は?」


「いると思うか? 今日の対決に?」


「いや、思わないな」


「そちらこそ、熊野とレディーバタフライがいないじゃないか」


「そんなことはないと思うが、今日の勝負で女性怪人を出すと、それはセクハラだとか言われそうな気がするからな。宇宙自然保護同盟は、瀬戸内コーポレーションが出資している。その辺のコンプライアンスには注意しているというわけだ」


「悪の組織で、コンプライアンスって変ですけどね」


「世界征服が成功するまでは、悪の組織とて、ある程度法は守らればならないからな」


「レディー、ソウトウサンハイルネ」


「瀬戸内、よく出て来たな」


「勿論嫌ですけど、押しかけとはいえ助っ人怪人として来た以上、今後の対策も含めて見届ける必要があるのです」


「他の助っ人怪人の時は来ないじゃないか」


「必要ありませんから。普通の助っ人怪人さんを、私が監視する意味あると思いますか?」


「いいや、思わないな」


「そういうことですわ」






 翌日の放課後、人気のない北見山山中において、ファーマーマン、宇宙自然保護同盟の戦いが始まろうとしていた。

 とはいえ、今日はファーマーマン、宇宙自然保護同盟自体は戦闘を行わない予定だ。

 助っ人ヒーロー、全裸マン、丸出しマン対助っ人怪人ゼンラー、マルダシーによる二対二の戦いのみという予定になっている。


 どうせこの面子に混じって戦っても、全然目立たないので意味がないと、双方が判断した結果だ。

 無駄なことをはしたくないという本音もある。

 なお、対決の場が普段無人の山中になったのは、いくら田舎である北見村でも、住民たちに全裸を見せるわけにいかないからであった。


 万が一にも、警察に通報されたら面倒だからだ。


「あっはっはっ! 心配しないでくれたまえ。弘樹君」


「心配もなにもなぁ……」


 まだ登場前なので、姿を見せず声だけ発している全裸マンこと金山太郎太であったが、弘樹からすれば心配無用と言われても、その根拠は非常に乏しいとか思えなかった。


「あの宇宙怪人を倒した直後、なにしろ宇宙怪人を倒せるヒーローは少ない。色々と呼ばれたんだけどね」


 仕事先すべてで勝利を収めたが、その中には勝敗が着く前に警察に通報され、拘束、留置場へと移送というケースも多々あり、戦績の割に全裸マンたちの評価は上がらなかったらしい。

 挙句に、『学校から近い場所での活動を禁止する』、『公共施設から近い場所での活動も禁止する』などの通達が警察からなされ、今ではほとんど仕事がないそうだ。


「地方にも、学校や公共施設はあるからね。地方巡業を実質中止されたのは痛かった」


 同じヒーローである丸出しマンのみならず、怪人であるゼンラーとマルダシーも、その活動を制限されてしまったそうだ。


「当たり前ですわよね……」


 全裸マンからの話を聞いた薫子であったが、彼女はまったく同情することなく、それは彼らの自業自得だと言い放った。

 やはり、あのチョンマゲの件で彼らを深く恨んでいたからだ。


「そこで我らは、考えを改めることにした。スーツを着ることにしたのだ」


「それって、大丈夫なのか?」


 弘樹の記憶によれば、全裸マンたちが全裸なのは、この世界に存在するカネヤマ粒子なるエネルギーを吸収、利用するため、大気中に素肌晒す必要があるからのはず。

 スーツを着てしまえば、その分『カネヤマ粒子の吸収を阻害して弱くなってしまうのでは?』という疑問があったのだ。


「弘樹君、そこをちゃんと解決してのスーツというわけさ。ちなみに、他の兄弟たちも同様にスーツを装着しているから安心してくれ」


「それは嬉しい誤算ですわね」


 薫子からすれば、例え助っ人怪人でも、戦う相手であるヒーローでも、全裸などゴメン被るというわけだ。

 以前ほど強くなくても真面目に戦ってくれれば、定期的に助っ人として呼ぶことになんの抵抗もないと、薫子は思っていた。


「ならいいかな」


「そういうわけなので、早速登場しようではないか。トゥーーー!」


 ちゃんとスーツを用意したので準備万端。

 あとは登場するだけと、全裸マンは掛け声と共に弘樹たちの前に姿を現した。


「『この世の悪をさらけだす! すべてを如実にさらけ出す! 覆い隠すはみなの敵! いかなる覆いも許さない!』 ニュー全裸マン! 見参!」


 逆光の中、その身体能力を生かし、華麗なアクロバットジャンプと共に姿を現す全裸マン。

 よく見ると、確かに彼はその特徴であった全裸ではなく、体にぴっちりと吸い付くスーツを着ていた。

 着ていたのだが……。


「一体! なにを考えていますの?」


 今日はスーツを着ていると聞いていたから安心していたのに。

 そんな薫子の希望を、またも全裸マンは裏切ってしまった。

 確かに彼はスーツ姿なのだが、そのスーツは完全に透明なスーツで、まったく〇ンコが隠れていなかったのだ。

 薫子は、またも慌てて両手で目を塞ぐことになってしまった。


「スーツはちゃんと着ているぞ! 宇宙自然保護同盟の首領よ」


「着ればいいってものではありませんわ!」


「以前、裸は駄目だと言ったのはお前ではないか。ああ言えばこう言うで、偉い人は我儘で困るな」


「そんな問題ではありませんわよ!」


 薫子は、両手で目を塞ぎながら全裸マンに強く抗議した。


「どうしてスーツが透明なんです?」


「君がダイホワイトの健司君だったかな、よろしく! 我々のエネルギー源であるカネヤマ粒子なんだが、以前は素肌でなければ吸収できないとされてきたが、実はこのように透明な物質なら素通りして素肌に吸収できることがわかったのだ」


 全裸マンは、今日初めて出会う健司にさわやかな笑顔で挨拶をしながら、どうして透明スーツなのかを説明した。

 要するに、透明ならばスーツを着ても問題ないと判明したわけだ。


「そこで、私はこの透明スーツを発明したわけだ。これなら、スーツを着ていても以前の戦闘力を維持できるというわけさ。いいアイデアなのにな、彼女はなにが不満なのか……」


 全裸マンは薫子に、面倒な奴だなという風な視線を送った。

 薫子のみならず、彼以外の人間からすれば、いくらスーツを着ていても、そのスーツが透明で〇ンコが見えてしまえば同じなのだが、残念ながら彼にはそれが伝わらなかった。

 伝わっていれば、初めから全裸でヒーローをやろうなんて思わないのであろうが。


「もしかして……猪さん?」


「あっはい……うちの助っ人怪人のゼンラーも、多分似たようなものかと……」


「失礼な! 僕は兄さんよりもちゃんとしているからね!」


 またも、どこかから聞こえる若い男性の声。

 その声の主は、押しかけで助っ人怪人となった、全裸マンの弟怪人ゼンラーであった。

 彼も、このままでは仕事がなくなるので自分なりに改善をしたのだと、自信あり気に弘樹たちに伝えた。

 自分は、兄よりもちゃんと改善していると。


「そこまで言うのであれば……頼むぞ、ゼンラー」


「任せてください! 猪マックスさん! では行くぞ! トゥーーー!」


 再び掛け声と共に、もう一人の男が現れた。


「兄さん! いや、全裸マン! 新しく生まれ変わったこのゼンラーが、お前を血祭りにあげてやろう。カネヤマ粒子の存在は、僕が実証する! 兄さんは草葉の陰で見ているんだね! ゼンラー参上!」


「「「「……」」」」


 助っ人ヒーロー全裸マンに対抗すべく、助っ人怪人ゼンラーも装いを新たに登場した。

 だが、やはり予想どおりというか、この兄弟はどこかズレているのであろう。

 そのあまりの出で立ちに、弘樹たちはなにも言えず絶句してしまう。


 なお、薫子は最初からゼンラーの言うことなど信じていないので、顔を両手で覆ったままであった。


「スーツ姿になってしまったけど、僕は兄さんみたいに透明丸見えスーツで、スーツを着ている意味がないなんて、間抜けなことはしないからね」


「いや、見えているって……」


「そうかな? ちゃんと半透明スーツにしたんだけどなぁ……」


 最初散々偉そうに言っていたゼンラーであったが、その結果はとても残念なものであった。

 まず、彼は怪人なのにスーツ姿で、しかもそのスーツは少し見えにくくしただけの半透明スーツだったからだ。


 完全に透明なスーツよりはマシだが、やはり〇ンコはほぼ見えてしまっていた。

 その格好で町中を歩いていたら、確実に通報されるであろう。


「そんなに変わらないじゃないか」


 味方であるはずの猪マックス・新太郎も、ゼンラーにツッコミを入れていた。


「これ以上、色をつけるとカネヤマ粒子の吸収率が落ちてしまうので。これでもギリギリまで努力したんですよ」


「いや、普通に見えているから……」


 やっぱりこうなったかと、猪マックス・新太郎はガクっと肩を落としてしまった。

 今日の勝負も下手をすれば戦闘無効となる可能性が高く、今日も参加して損したなぁ……と思ってしまったのだ。

 それでも、他のメンバーがみんな欠席してしまったので、参加せざるを得なかったのは、管理職の悲哀というやつであろうか。


「スーツが透明か、半透明かしか差がないな。というか、ゼンラーは怪人なんだろう? なんでヒーローのスーツを着ているんだよ?」


 怪人用の衣装を半透明にすればいいじゃないかと、弘樹はゼンラーに苦言を呈した。


「これが一番コストが安かったのさ。最近、財政的に厳しくてね」


 全裸マンもゼンラーも戦績はいいが、都心部で活動する有名なヒーロー、悪の組織はリスクを恐れて彼らを呼ばなかった。

 特にPTAリスクが大きいので、彼らの起用に二の足を踏むことが多かったのだ。

 戦績を稼ぐため。報酬をかなり安く押さえるなどもしており、正直なところ彼らの懐事情はあまりよくなかったのだ。


「ゴテゴテと怪人らしい装備にすると金がかかるからね」


「それはわかったが、その〇ンコの上にあるボタンはなんだよ?」


 ゼンラーの半透明スーツの〇ンコの上に部分には、なぜかボタンがついていた。

 それに気がついた弘樹は、気になってその用途を尋ねたのだ。


「これはパチンと外すと、〇ンコを覆っている部分が外れて丸出しになる仕組みだ。さすれば、自由になった〇ンコと〇ンタマを振り回し、フルイグニッションスタイルでさらなるパワーアップを図れるというわけさ。このようにね」


 次の瞬間、ゼンラーは目にも留まらぬ速さで全裸マンに一撃を加えた。

 彼は、十数メートルほど一気に吹き飛ばされてしまう。


「フルイグニッションスタイル……丸出しマンの真似か……」


「いいアイデアは真似するに限る。兄さんのスーツには〇ンコを出すボタンがないね。設計ミスかな?」


「クソォーーー!」


 いや、曲がりなりにもヒーローのスーツにそんなものをつけたら終わりなのでは?

 ゼンラーと全裸マン以外の全員が一斉にそう思ってしまったが、その声が彼らに届くわけないので意味がなかった。 


「半透明とか。ゴミ袋でもあるまいし! 大体、半透明にして妥協しているところがみみっちいではないか」


「いや、それならお前も全裸のままでいないと駄目だろう」


 全裸をやめて透明のスーツを着るのも、半透明のスーツを着るもの。

 双方そんなに変わらないじゃないかと、弘樹は全裸マンにツッコミを入れた。

 まさに五十歩百歩ではないかと。

 

「こんなすぐに抗議がくる時代なので仕方がないさ。カネヤマ粒子の存在を世間に認めさせるため、私は時に周囲からの助言を聞き入れることを躊躇しない」


 助言というよりは、ただの抗議だけどな。

 弘樹たちは心の中で同時にそう思った。


「まあ、兄さんがなにを言おうとも。スーツのせいで〇ンコを振り回せない全裸マンに勝機はないけどね」


 ゼンラーは得意気に〇ンコを振り回しながら、全裸マンに対し挑発的な態度に出た。

 透明スーツが〇ンコを締め付け、フルイグニッションスタイルができない全裸マンに勝ち目はないと。


「残念だったね、兄さん。そろそろトドメといこうかな。カネヤマ粒子の存在は、僕が実証して見せるから」


 今度こそトドメだと、ゼンラーが〇ンコを振り回し、全裸マンにトドメの一撃を入れようとしたその時、ついに彼は動いた。


「ふっ、この私が弟に敗れるなどあり得ない。それに、〇ンコを出す穴がなければ、新たに開ければいいじゃない! ふんっ! 復活! フルイグニッションスタイル!」


 全裸マンは、透明スーツの〇ンコの部分を手で引き千切り、そこから〇ンコを取り出したあと、全力で振り回してフルイグニッションスタイルに入った。

 全裸マンの体が金色に光り輝き、弘樹たちも彼がパワーアップしたことに気がつく。


「ヘンタイダケド、スゴイチカラデス!」


「強くはあるんだよなぁ……」


 その代わり変態だけど……と、ジョーと弘樹は小さな声で呟いた。


「コンナヘンタイ、タイノマチナカナラツカマリマス」


「ジョー、日本の名誉のために言っておくけど、日本でも普通に捕まるからな」


 ここは人里離れた山の中で、通報する奴がいないから全裸マンとゼンラーは縦横無尽に振る舞っているのだと、弘樹はジョーに説明した。


「またも互角になってしまったようだね、兄さん」


「違うぞ、ゼンラーよ! 私はこれでも兄なのでな」


「四つ子に兄弟の差なんてないね! 兄さん! 覚悟!」


「やれるものならな!」


 全裸マンとゼンラーは、〇ンコを高速で振り回しながら一対一で戦闘を始めた。

 全裸マンが攻めると、ゼンラーは守りに入る。

 またその逆も行われたが、双方の実力が互角のため、戦闘は完全に膠着状態となっていた。

 

「瀬戸内、見なくていいのか?」


「見ませんわよ!」


 そんな助っ人ヒーローと怪人の戦いを、薫子は目を覆ったまま見ていなかった。

 なぜなら、戦っている二人の〇ンコなんて見たくないからだ。


「にしても、また同じ結果になったな……」


「ええ、それは認めますわ」


 弘樹たちが見守る……薫子は別としてだが……なか、二人は壮絶な死闘を続けていた。

 一見すると実力派のヒーローと怪人の戦いそのものなのだが、よく見ると〇ンコが丸出しである。

 いくら実力があっても、これでは都市部で仕事が減って当たり前だと弘樹たちは思った。


「今はいない残り二人も合わせて、こいつらは普通の格好をして戦えないのか?」


「無理なんじゃないの?」


 彼ら自身の申告によると、彼らはカネヤマ粒子を肌に吸収して戦うからこそ強いわけで、しかも体で一番カネヤマ粒子を吸着する部分が〇ンコである以上そこを晒さずには戦えない。

 それに、全裸マンは全裸だからこそ全裸マンなわけで。


 弘樹は、自分の考えを猪マックス・新太郎に語った。


「こいつらに改善を求めるくらいなら、別の助っ人に頼んだ方がいいって」


「そうだよな。こいつらが戦うと、俺様たちはさっぱり目立たないのが困る」


 本来、共闘などで戦いを盛り上げるための助っ人なのに、全裸マンたちが戦うと弘樹たちも宇宙自然保護同盟側も完全に無視して戦いが繰り広げられるのも、お互いに困ってしまう点であった。


「今度こそは、瞳子さんにちゃんと言わないとな」


「そうしてくれ」


「瀬戸内、俺らもう帰るわ」


「私たちも、もう撤収しますわ」


 全裸マンとゼンラーを助っ人にして行われた今日の対決であったが、その結果は引き分けということになった。

 なお、今日は弘樹たちも宇宙自然保護同盟側もまったく戦っていない。


 前回に続き、助っ人ヒーローと怪人の存在意義を問われる戦いであった。

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