第26話 英雄の参戦

「ヒロキ、ケンジ、アヤミ、キョウハホウカゴ、ウチニアソビニキマセンカ?」


「ジョーの家か。楽しそうだな」


「喜んで招待を受けさせてもらうよ」


「私も。お土産はなにがいいかな?」


「はいはい! 私も行く!」


「クマッ!」


「マミトクーミンモキカスカ。カンゲイシマス」





 豊穣戦隊ファーマーマン、ナスパープルことジョーが北見村に来てから二週間ほどの時が流れた。

 最初は日本の農村での生活に戸惑うこともあったが、今ではすっかり慣れ、彼は弘樹たちに家に遊びに来ないかと誘ってきた。


 弘樹たちは楽しそうだとそれを受け入れ、これに真美とくーみんも参加すると声をあげ、ジョーも快くそれを許可した。


「真美、私たちは悪の組織の人間なのですよ。ヒーローであるジョーさんの家に遊びに行くのはどうかと思いますけど」


「カオルコ、ソンナコマカオコトキニシナイ。マイペライネ」


「瀬戸内だって、宇宙怪人に本部アジトを占拠された時、うちの司令本部に来てたじゃないか。そんなの今さらだろう」


 悪の組織のトップなのに、対立しているヒーローの司令本部に逃げ込んだ奴が言うことかと、弘樹は薫子に指摘した。


「それはそうですけど……」


「薫子ちゃんだって、家の方にはよく彩実ちゃんを呼ぶよね」


 家が近所同士ということもあって、薫子と真美は彩実を自宅に招待することが多かった。

 この辺ズブズブなのも、ローカルヒーローと悪の組織らしい部分だと言えなくもない。


「それは、公とプライベートは別だからですわ」


 公では、彩実もファーマーマン司令本部の基地要員……瞳子の飼育係と噂されることもあったが……なので、私生活での友人関係とは明確に区別している。

 というほど、彼女も公私の区別ができている自覚はなかったが、ファーマーマンではまったく問題になっていなかった。


 宇宙自然保護同盟も同様で、どうせそこまで厳密にやっても意味がないというか、一部のトップレベルにある有名ヒーローと悪の組織との大きな差と言えよう。


「ショウブノトキ、チャントヤレバ『マイペライ』ネ」


「敵情視察だと思えばいいじゃないか」


 悪の組織側の人間が、情報収集のためにヒーローの家に上がり込む。

 よくある話じゃないかと、弘樹は薫子に言った。

 そういう時には、正体がバレないようにするのが普通だが、残念ながら北見村でローカルに活動する宇宙自然保護同盟に、面の割れていないメンバーは一人もいなかった。

 そういう人間が北見村にいると、不審者という扱いで村人たちからいい顔をされない。


 いくら悪の組織とはいえ、地元の慣習には気を使わねばらないというわけだ。


 顔見知りなら怪人でもいいのかという疑問はあるが、それを気にしては負けだと弘樹たちは思っていた。


「薫子ちゃんも一緒に行こうよ」


「そこまで仰っていただいたのに、招待を断るというのも無粋ですわね」


 薫子もジョーの招待を受け、弘樹たちは彼の家へと向かった。

 ジョーの家は、少し村外れにあるかなり古いが豪華な作りのお屋敷であった。

 よく見ると、ジョーが住むためにあちこち手を入れてあるのが確認できた。


「さすがは、お金持ちだな」


 弘樹は、長年空き家になっていたとはいえ、これだけ豪華な屋敷を借りてしまうジョーの実家の財力に感心していた。


「ヤチン、ヤスイヨ。ダレモカリナイカラッテ」


「そういえば、このお屋敷も随分と空き家状態が続いていたものね」


 彩実が祖父から聞いたところによると、この屋敷はすでに持ち主が亡くなっており、その子供たちが相続していたが、彼らは都会住まいなので長年誰も住んでいないそうだ。


「田舎は空き家が増えているからね」


「ダカラ、ヤチンヤスカッタヨ。チョットスミヤクスルタメニナオシタケド。ニワモヒロイデス。ダカラ、『ウィラチョン』モイッショデス」


「「「「「ウィラチョン?」」」」」


「ウィラチョンハ、ワタシノオトウトデス」


「ジョーさん、弟さんなんていたのですか?」


「チノツナガッタオトウトジャナイケド、ワタシノオトウトミタイナモノデス」


 ジョーの案内で庭の方に回ると、そこは鉄製の丈夫な柵に囲われており、その中には一頭の象がいた。


「「「「「象!」」」」」


 動物園などない、あるわけがない北見村に象がいる。

 弘樹たちは、実際に象を見て驚きを隠せなかった。


「ウィラチョン、ワタシヨリミッカオクレテウマレマシタ。ワタシノオトウトネ。オカエリ、ウィラチョン」


「パォーーーン!」


 まるでジョーの言葉がわかるかのように、象は彼の呼びかけに鳴き声で答えた。


「ウィラチョン、トテモカシコイヨ」


「やっぱり金持ちは違うな」


 ちょっと変わったペットどころじゃないと、弘樹はジョーの金持ちぶりに感心していた。

 留学するため他国に引っ越したのに、象まで連れて来てしまうのだから。


「ジョーさん、象は一応猛獣の類です。日本で飼う場合には飼育の許可が必要ですわよ」


「ソレ、モウトッタ。ガンジョウナオリモタテタ。ウィラチョン、カシコイカラダイジョウブデスケド。ミンナ、ノッテミマスカ?」


「乗る乗る! 楽しみだね。くーみん」


「クマクマ」


 象に乗れると聞き、特に真美とくーみんは大喜びであった。

 そのはしゃぎように、弘樹は『子供か!』と思ってしまったが、実は彼も生まれて初めて象に乗るのでとても楽しみだったりする。

 

「ウィラチョン、よろしくね」


「クマクマ」


「パォーーーン!」


「ウィラチョン、マミトクーミンノコトキニイッタミタイデス」


 その後、みんなで順番に象に乗せてもらった。

 ジョーの言うとおりウィラチョンはとても大人しく賢い象で、順番に庭を一周してくれた。

 

「タイに観光で出かけて、象に乗った時のことを思い出しますわね」


 最初はジョーの家に行くことに難色を示していた薫子も、象に乗せてもらった途端、とても上機嫌となっていた。

 なんだかんだで彼女も女子高生、友達と遊ぶのは好きであった。


「ウィラチョン、ありがとう」


「クマクマ」


「パォーーーン!」


 象に乗せてもらったあとは、庭にある縁側でオヤツとなった。

 ジョーの世話をするため同居している使用人が、お茶とお菓子を出してくれた。

 ウィラチョンも、使用人から貰った野菜や果物を美味しそうに食べている。


「お茶、青いな」


「バタフライピーデス。オハナノハーブティー、メニイイヨ」


「そう言われると、ブルーベリーに似ているな」


「レモンカジュウヲタラスト、イロガムラサキイロニナリマス。タンサンスイデワッテモオイシイヨ。オカシモアルヨ」


 さすがは金持ちというか、お茶菓子も色々と出され、弘樹たちはオヤツの時間を堪能した。


「弟分の象も一緒に留学かぁ」


「ウィラチョン、ワタシノオトウト。イツモイッショヨ。ネエ、ウィラチョン?」


「パォーーーン!」


 本当に象はジョーの言葉がわかっているようで、彼の問いに鳴き声で答えた。


「ジョー、ウィラチョンってどういう意味?」


「ニホンゴデ『英雄』ッテイミデス。ウィラチョン、フツウノゾウヨリモ、オオキクテ、カシコクテ、ツヨイデス」


 真美の問いに対し、ジョーは自慢気に答えた。

 ジョーからすれば、ウィラチョンは自慢の弟というわけだ。


「ウィラチョン、強そうで格好いいものね。対決に出ればいいのに。そうしたら盛り上がるよね」


「マミ、ワタシモソレヲカンガエテイマシタ」


 真美の思いつきによる、ウィラチョンの参戦であったが、実はジョーも同じことを考えていたのだ。


「ヒーローハ、ノリモノニノッテアラワレルコトガオオイデス」


「うちは、色々と問題があって駄目だけどね」


 以前、免許の問題と、バイクに乗る高校生は不良、そんなことに金は出せないと実家に反対されてしまい、さらに田舎独特の常識により乗り物の導入ができなかった健司からすれば、出現時にマシンに乗って登場するのは夢でもあった。


 できれば、実現したいと思ってはいたのだ。


「俺は大丈夫だけど、自転車で登場するヒーローってのは駄目だよな」


「弘樹君、それならマシンに乗らない方がいいよ」


 せめて動力がないと格好つかないと、健司は弘樹に念のため釘を刺した。

 もし弘樹が自転車で登場したら、ちょっと格好悪いと思ったからだ。


「でも、その自転車ですら自前だものね。ママチャリだし」


「一応、赤く塗ったんだぞ」


 この前、死蔵している専用武器である妖刀の塗装に使おうとした赤いスプレーが余ったので、一応自転車を赤く塗装してみた弘樹であった。

 残念ながら、元がママチャリなのでまったくヒーローのマシンには適していなかったが。


「ダカラ、ウィラチョンデトウジョウシマス」


「象に乗って現れるヒーローか」


「個性的で格好いいかもね」


「ウィラチョン、大きくて格好いいからね。パワーもあるから、楽しい戦いができるかも。ねえ、くーみん」


「クマクマ」


 ジョーのみならず、弘樹も、健司も、真美も、くーみんも。

 ウィラチョンの参戦には大賛成であった。

 自分たちローカルヒーローと悪の組織との戦いにおいて、これまでのマンネリを打破する新しい風が吹くと思ったからだ。


「宇宙自然保護同盟の首領たる瀬戸内的にはどうなんだ?」


 弘樹は、薫子にもウィラチョン参戦の是非を問い質した。

 ここで反対されてしまうと、話がまったく進まないからだ。


「そうですわね。ヒーローのマシンと言いますと、動力がついた乗り物ばかり。たまには、象に乗って現れる戦隊ヒーローがいても、それは個性的で面白いと思いますわ」


「なら、早速次の戦いからウィラチョンはデビューだな」


「楽しみだね。ウィラチョンも頑張ってね」


「パォーーーン!」


「ウィラチョン、マカセロッテ」


 こうして、いまだ五人揃わない豊穣戦隊ファーマーマンであったが、助っ人外人ジョーに加え、彼の弟分にして強力無比な戦闘力を兼ね備えた仲間、象のウィラチョンも参戦することになり、両者の戦いは激しさを増すはずであった。




「駄目だ! 駄目だ! 象なんて認めないぞ!」


 はずであったが、残念ながら今回も反対意見が出てしまった。

 早速ジョーがウィラチョンに乗って登場したら、それに強く抗議した者がいたのだ。

 誰であろう、宇宙自然保護同盟四天王次席にして、ベテラン怪人の入り口に入りつつある猪マックス・新太郎その人であった。


「駄目って、お前……。普段はうちが人数が足りないとか、マシンもないのか! とか言いたい放題で、どうにか盛り上げようとしたら、それにも反対なわけ?」


「猪さん、ウィラチョンの参戦は、そちらのトップも認めたことなんですよ」


「そうだよ。薫子ちゃんも、個性的で面白いって言ってたし。ねえ? くーみん」


「クマーーー」


 弘樹、健司、真美、くーみんの四人は、さすがに頭が固すぎるだろうと、猪マックス・新太郎に対し強く抗議した。


「普通、ヒーローのマシンは動力がついているものだ。象は駄目だろう。そもそも、生物に乗って現れるヒーローはおかしいだろう」


 例外としては、ストーリーの流れ上、ヒーローが変身する前に馬に乗っていた。

 そのくらいだと、猪マックス・新太郎は語った。

 変身したヒーローが動物に乗るのは常識外れ。

 絶対に認められないと、彼は強く断言する。


「オカシイデスヨ、ソレ」


「とにかく、その象から降りろ! その象は撤収だ!」


 猪マックス・新太郎は、ウィラチョンの上に座っているジョーに対し、早く撤収するようにと命令した。

 実は彼にそんな権限はないのだが、ベテラン怪人である彼は、ヒーロー対悪の組織における戦いにおいて、若い人たちに常識を教えるのが義務だと思っている節があったのだ。


 それが正しいか、正しくないかは別としてだ。


「アナタニ、ソンナケンゲンナイデス! ウィラチョン、ワタシノオトウト。ワタシガヒーローナラバ、イッショニカツヤクスルケンリアリマス!」


「お前は金持ちだって聞いたぞ! ちゃんとバイクなり車なり用意しろ!」


「イヤデス! ヒーローガ、ゾウニノッテハイケナイナンテキマリナイデス!」


 せっかくの、弟分のデビュー戦を邪魔されたジョーは、猪マックス・新太郎の命令に強く反発した。

 大切な弟を否定された彼の怒りは大きく、とことん議論する腹積もりであった。


「ヒーローに象は似合わない!」


「ソンナノ、アナタノカッテナイイブンデス! ミンナ、サンセイシテクレタ! ネエ? ミンナ」


 ジョーは、もう一度弘樹たちにウィラチョン参戦の是非を問い質した。


「いいじゃないか。個性的で。なあ? 健司」


「象に乗っているメンバーがいる戦隊ヒーローなんてうちくらいで、目立っていいと思いますよ。うちが目立てば、ライバル関係にあるそっちも目立っていいじゃないですか」


「健司君の言うとおりだよ。戦いも盛り上がるもの。ねえ? くーみん」


「クマクマ」


「ほら、くーみんも賛成している」


「ううっ!」


 自分と同意見の人が一人もいないという事実に、猪マックス・新太郎は動揺を隠せなかった。

 どうしてみんな、自分の言い分をわかってくれないのだと。


「ヒーローは、颯爽とマシンに乗って登場するものなんだ! 象はおかしいだろうが! タイの観光地じゃないんだぞ!」


「猪さん、確かに今までは象に乗ったヒーローはいなかったかもしれません。ですが、これからの新しいヒーローならいいのでは?」


「健司の言うとおりだと思うな。昔から一辺倒でマシンだけってのも、これからのヒーローと悪の組織のことを考えるとよくないだろう。マンネリは将来の衰退の要因になるし」


 確かに一定の決まりは必要だが、それに拘りすぎてマンネリの後に飽きられてしまえば、将来この業界は消滅してしまう。

 新しい試みは必要なのではないかと、健司と弘樹は反論した。


「こういう言い方はどうだと思うけど、うちは零細だからこそ、メジャーなところに対抗するため、新しい試みが必要だと思うぞ」


「ココデウケタラ、タイデモ、ゾウニノルヒーローッテコトデ、スゴクニンキデルカモシレマセン。イマノジダイ、カイガイテンカイモカンガエルジダイデスヨ」


 日本のヒーローと悪の組織でも、将来は海外で展開する可能性がなくもない。

 海外の人たちにも評価されるような新しい試みも必要だと、ジョーは猪マックス・新太郎に対し強く主張した。


「ジダイハ、オオキクカワリツツアリマス。ソレニタイオウデキナケレバ、ヒーロートアクノソシキモ、スイタイシテシマウノデス!」


 若いジョーは、今からでも、自分たちだけでも、まずは実際に変えてみないと駄目だと強く主張した。

 そしてそれこそが、ヒーローと悪の組織を未来永劫存続させることになるのだと。


 ちなみに、ここでヒーローと悪の組織はお互いにお互いを滅ぼすのが最終目的だとか、そういう固いことを言ってはいけない。


「とにかく! 駄目だ!」


 ところが、肝心の猪マックス・新太郎は頑なだった。

 絶対に、象に乗るヒーローなんて認められないと言い放つ。


「なあ、猪」


「なんだ? トマレッド」


「お前さ。普段は古い怪人は融通が利かないとか、時代に合わせて変革していくつもりもないとか、それでいて既得権益ばかり確保して若い怪人たちを搾取しているとか批判しているくせに、お前は若いヒーローがやろうとしている改革を否定するわけ? おかしくねえ?」


 それでは、お前も老害と呼ばれることが多い古いヒーローや怪人と同じではないかと。

 弘樹は、そう猪マックス・新太郎に指摘した。


「猪は、ダブスタすぎるだろう。新人ヒーローのジョーが象に乗って戦うことを『試してみればいい』って言うのが筋なんじゃないか?」


「弘樹君の言うとおりですね。それでは、あなたが普段批判している古いヒーローや怪人連中と一緒ではないですか」


「ダブスタ、ヨクナイデスヨ」


 弘樹、健司、ジョーの三人は、猪マックス・新太郎のダブルスタンダードぶりを強く批判した。


「そうだよね。人にはそれができないって批判しておいて、自分もそれをできないんじゃあ、人を批判する権利がないと思うな。ねえ?、くーみん」


「クマクマッ!」


「くーみんも、『そんなのズルイ』って言ってるよ」


 味方であるはずの真美とくーみんにまで批判されてしまい、猪マックス・新太郎は完全に孤立してしまった。


「でも、こういう人多いですよ」


「そうなの? 健司君」


「若い下っ端の頃は、自分はこの組織を業界を会社をこんな風に変革したいって、夢を持って働いているけど、いざ自分がその偉い人になってしまうと、若い人の意見を封殺してしまうって。それなりの地位になったので失うものが大きいから保守的になるのはわかすんですけどね。どこの会社とかでもよくあるっていうか」


「そうなんだ」


「猪さんも、叩き上げで苦労した口でしょう? そういうこともあるのかなって」


 猪マックス・新太郎は、怪人として独り立ちするために苦労してきた。

 自分と同時期に入った怪人たちの多くが途中でその道を諦め、もしくは今も若い新人の怪人たちと一緒に苦労しているなか、いくつもの組織を渡り歩き、時には古い怪人たちから理不尽な扱いを受けたこともあったが、ようやく宇宙自然保護同盟において幹部の地位を得ることができた。


 そのためであろう。

 よく弘樹たちに戦隊ヒーローとは、と説くことも多かったのだが、いつしか自分も若い頃に批判していたベテラン怪人たちと同じような言動を取っているのに気がついていなかったというわけだ。


 よくある話ではある。


「悲しい話だな」


「でも、猪さん格好悪い。ねえ? くーみん」


「クマッ!」


 健司に図星を突かれ、さらにみんなの批判的な視線が集中する最中、遂に猪マックス・新太郎はキレてしまった。


「うるさい! とにかく、象は駄目だ! 大体だな! いくら象が強くても、所詮は普通の野生動物! 怪人体質を持つ俺の敵ではない! 動物愛護の観点からもだな」


「それは、あまりにも無理やり過ぎないか?」


「動物愛護って……。いかにもっぽい理由ですけど、自分は野生の猪を戦わせているくせに……」


「それは、この地を自然に戻すためだからいいんだ!」


 野生の猪たちの動員は、この地を自然に戻すために力を貸してもらっているため。

 飼育している象を戦わせるのと事情が違うのだと、健司に強く言い返した。

 残念ながら、弘樹たちにはただのダブスタとしか思えなかったが、追い詰められた猪マックス・新太郎としてもそう言い返すしかなかったとも言える。


 なぜなら、やはり彼も己の古さを認めたくなかったからだ。


「とにかく! 可哀想だが、まずはその象を戦闘不能にしてやる! 可哀想にな! こんなところに出て来ずに動物園で草でも食んでいれば、この俺様の突進で大怪我をすることもなかったというのに。俺様による渾身の一撃を食らえ! ってぇーーー!」


 ただの象ごときが、怪人である自分の突進を止めたり避けたりはできまいと、猪マックス・新太郎は全力で突進したが、その結果は彼の予想外のものとなってしまった。

 なぜなら、ウィラチョンは素早くその鼻で猪マックス・新太郎を絡め取り、そのまま空中へ持ち上げてしまったからだ。


「バカな! 降ろせぇーーー!」


「すげえ、ウィラチョン。やるじゃん」


「凄いパワーですね。ジョーと組んで全然問題ないですよ」


 弘樹と健司は、猪マックス・新太郎を上回るパワーを見せたウィラチョンに感心していた。

 これなら彼を戦いに参加させても、まったく問題ないと判断したからだ。


「ウィラチョン、凄いね」


「クマクマ」


「こらぁーーー! 真美! くーみん! 俺は味方だぞぉーーー!」


 猪マックス・新太郎は、その鼻で自分を持ち上げたウィラチョンを褒める真美とくーみんに対し大声で非難の声をあげた。


「だって、私とくーみんはウィラチョンの参戦に賛成だもの。薫子ちゃんだって賛成って言ってるのに、猪さんがおかしいんだよ」


「クマクマ!」


「『反対しているのはお前だけだ!』って、くーみんも言ってるよ」


「とにかく、今は戦いの最中なんだ! 俺を降ろせ……どわぁーーー!」


 どうやら、象にしては異常に賢いウィラチョンも、ここで猪マックス・新太郎を降ろしたところでなんら事態は解決しないと思ったようだ。

 そのまま彼を、畑横の柔らない土の斜面に叩きつけてしまった。

 猪マックス・新太郎は、そこから足だけを生やして『〇墓村』状態になってしまう。

 

 これにて、猪マックス・新太郎の今日の戦闘は終了した。


「まあ、猪がいると面倒だからな」


 斜面から足だけ生えているのを見ながら、弘樹は致し方なしと思った。

 これも、頭が固すぎる猪マックス・新太郎が悪いのだと。


「頑なすぎだよね? 弘樹君」


「ベテランの域に片足突っ込んで、頭も固くなっているんだろう。熊野、これで四対二で不利だがどうする?」


 このまま勝負を続けてもいいが、もし撤退するのならそれも有りだと、弘樹は真美に問い質す。


「まさか! せっかくお友達になったウィラチョンのデビュー戦だものね。私も全力を出すよ」


「クマクマ!」


「くーみんも、知恵で手助けするって」


 せっかく友達になったウィラチョンのデビュー戦なのだからと、真美とくーみんは戦いを盛り上げるために全力で戦うと誓った。

 勿論、仲間である猪マックス・新太郎の暴言に対する謝罪の意味も込めてであったが。


「パォーーーン!」


「ウィラチョンガ、マミトクーミンハイイヒトタチダッテ」


 そんな真美とくーみんに対し、それがわかるウィラチョンは感謝の言葉を述べ、それをジョーが翻訳してくれた。


「えへへっ、じゃあ頑張らないとね」


「クマクマ!」


「おーーーいっ! 僕も加わるから!」


「猪……いきなり退場か……ビューティ総統閣下の命を受け、急ぎ助っ人に来てよかった」


 とここで、鴨フライ・翼丸とニホン鹿ダッシュ・走太が助っ人として急遽参戦し、これ四対四となった。

 

「僕たちも、ちゃんとファーマーマンに対する戦術は立てているからね。今日は負けないよ」


「そちらに新メンバーが加入してパワーアップしたように、我らも強くなるための努力は怠っていない。今日こそが、ファーマーマン最期の日というわけだ」


「モリアガッテキタネ」


 こうして、ファーマン隊宇宙自然保護同盟による熾烈な死闘が展開され、ジョーの専用象としてデビューしたウィラチョンの初戦は大いに盛り上がったのであった。







「今回も惜しいところで負けてしまったが、次こそは必ずファーマーマンを倒してみせるぞ」


「残念、今日は向こうの新入りの顔を立てるか」


「じゃあね、ウィラチョン」


「クマクマ」


「パォーーーン!」


 今日の戦いも宇宙自然保護同盟の負けであったが、それでも四対四での集団戦闘では大いに盛り上がり、ファーマーマンの戦力強化、宇宙自然保護同盟の方も対ファーマーマン対策の方向性が間違っていないことを確認でき、双方満足の行く戦闘結果となった。


 お互い、満足しながら戦いの場から去っていく。

 真美とくーみんがウィラチョンに別れの挨拶をすると、彼は鼻を大きく上げながらそれに答えていた。


「いやあ、盛り上がったな。やっぱり、ジョーとウィラチョンがいると全然違うな」


「向こうも負けじと対策を強化してくれるから、緊迫したいい戦いだったよね」


「ウィラチョン、ヨクヤリマシタ」


「パォーーーン!」


「キョウハ、ウィラチョンノデビューセイコウヲキネンシテ、ウチデパーティーヤリマス。ヒロキモ、ケンジモ、ショウタイシマス。アヤミト、カオルコト、マミト、クーミンモショウタイシマス」


「それは悪いな」


「ウィラチョンノデビューセイコウヲ、セイダイニオイワイシマショウ」


 ジョーの発案により、彼の家でウィラチョンのデビュー成功記念パーティが行われることとなり、弘樹たちは大喜びで一旦司令本部へと戻っていく。

 だが、彼らはある大切なことを忘れていた。


 それは、今も畑横の斜面に頭が突き刺さったままの、猪マックス・新太郎のことであった。

 実は、仲間であるはずの宇宙自然保護同盟の人たちが彼の救助を忘れている事の方が問題だと思うのだが、そこはあえて突っ込んではいけない。


「ううっ……象は駄目なんだ……」


 意識を失っても、夢の中でベテラン怪人として新人戦隊ヒーローの常識を説く猪マックス・新太郎。

 そんな彼が目を覚ましたのは、明日の朝になってからであった。

 なおその間に、土に頭を突っ込んだままの彼を助けた者は一人もおらず、彼は自分の組織の怪人たちと、この村の住民の冷たさに涙しながら、一人本部アジトへと戻って行くのであった。


 なお、彼が気絶していた間の残業代は、薫子に散々嫌味を言われながらも認められ、それだけはよかったと思う彼であった。

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