第25話 見えない助っ人ヒーロー

「あら、弘樹さんは今日も司令本部に行くのですか? 今日は戦いもないというのに」


「瞳子さんに呼ばれたんだよなぁ。どんな用事かは知らないけど……」





 放課後、弘樹たちが司令本部に向かおうとすると、薫子から声をかけられた。

 今日は対決もないというのに、どんな用事で弘樹たちが司令本部に向かうのか彼女は気になったのだ。


「助っ人ヒーローでも来るんじゃないかな?」


 雑務というか、ダメ女瞳子のお世話は彩実の仕事なので、また新しい助っ人ヒーローの紹介かもしれないと健司が言う。


「健司、うちにそんな予算あるのか?」


「安くても来てくれる、お得な助っ人ヒーローじゃないの」


「あの方々は勘弁ですけど……」


「さすがにないだろう。あいつらが来ると、俺が動けないからな」


 全裸マンたちは強いが、個性も強すぎるため、呼んだファーマーマンがまったく目立たなくなってしまうという大きな欠点があるのだ。

 そうなると、なんのために助っ人ヒーローを呼んだのかという話になってしまう。

 さすがにもう呼ばれないだろうと、弘樹は思っていた。

 もし再び全裸マンたちが呼ばれることになっても、なんの権限もない弘樹にはどうしようもないという現実もあったが。


「薫子ちゃん、またファーマーマンに助っ人ヒーローが来るんだって?」


「クマ」


「かもしれないというお話ですわ」


「スケットヒーローデスカ。イイデスネ」


 三人の会話に真美とくーみんとジョーも加わり、みんなでワイワイと喋りながら学校を出たが、ここで薫子と真美は北見山にある宇宙自然保護同盟の本部基地へと向かうため弘樹たちと別れた。

 悪の組織も戦いばかりしているわけにいかず、色々と雑務があるというわけだ。


「そっちも、助っ人怪人でも用意しているんじゃないのか?」


「照会は常にしていますけど、条件面で折り合いがつかなかったりと、そう簡単には呼べませんわよ」


 そう簡単に来てくれるのは、思い出したくもないゼンラー、マルダシーくらいなのだと、薫子は語った。

 人を雇うというのは、相応に手間がかかるのだと。


 勿論、全裸マンたちを除いての話であったが。


「あの人たち、むしろ田舎の方が自由に活動できるって事実に気がついちゃったから」


「クマ」


「『都会だと、警察に通報されて拘留される可能性が高い。その点、誰もいない田舎は安心だ』だって」


「私がいますわよ……」


 薫子としては、二度とヒーローだろうが怪人だろうが全裸の男性なんて見たくないというのが正直な気持ちであった。

 それと、別に田舎だから全裸になっていいって話ではない。

 人口密度が低い北見村では、ただ単に人に見つかって通報される可能性が極端に低いというだけなのだ。

 

「暫くは前線視察もないので、構わないといえば構わないのですが……それでは]


「バイバイ、みんな」


「クマ」


 薫子たちと別れて司令本部への道を歩いていると、近くの畑で一人の老婆が農作業をしていた。


「富山のばっちゃん、こんちにわ」


「こんにちわ」


「コンニチワ」


「今日も、ヒーローの仕事かい?」


「戦いはないみたいだけど」


「そうなのかい」


 富山という名の老婆と挨拶をしてから司令本部がある古民家に入ると、瞳子は彩実が淹れたお茶を飲みながらボーーーッとしていた。

 特にやることがない時、彼女は司令本部内でずっとこうしているのだ。

 完全な駄目人間だと弘樹たちは思わなくもないが、彼女がいないとバイト代が入らないのであえて口にすることもなかった。


「実は、助っ人ヒーローが来る」


 一言だけそう言うと、瞳子は彩実が淹れたお茶を啜った。


「どんな人かな? 瞳子さん」


「デビュー以来、負けなしの凄いヒーローだ」


「それは凄いな」


「本当だね。よくうちに来てくれますね」


「ツヨイヒーロー、イイネ」


 まだここに来て日が浅いジョーは素直に喜んでいたが、健司はそんな実績を持つヒーローがわざわざ北見村に来てくれるのか、少し疑っていた。

 弘樹は、また全裸マンなんじゃないかと、かなり疑っている。

 全裸マンも勝率は非常に高いヒーローであったからだ。

 戦いの途中で警察に捕まって無効試合になった分をカウントしないで、という条件はつくが。


「いや、まったく違うヒーローだ。彼らの名前は……「栗原司令! 自己紹介は自分でやろうと思う」」


「えっ? どこかから声がするけど……幽霊?」


「どこだ?」


「全然わからない」


「ケハイ、ヨメマセン」


 どこかから声はするが、声の主がどこにいるのかわからない。

 弘樹たちは、大いに警戒した。


「驚かせてすまないが、まずは自己紹介をさせてくれ。話はそれからだ」


「わかった」


 ヒーローは、自己紹介をするのが決まり。

 弘樹は、謎の声に自己紹介する時間を与えた。


「おほん……では。半蔵レッド!」


「才蔵ブラック!」


「丹波イエロー!」


「段蔵グリーン!」


「千代女ピンク!」


「「「「「五人揃って、忍者戦隊シノビンジャー!」」」」」


「「「「……」」」」


「ズズズッ」


 どこかからする声は、五人となって戦隊ヒーローとしての名乗りを挙げたが、相変わらず姿は見えず。

 弘樹たちは彼らの気配すらつかめず、ただ困惑するのみであった。


 瞳子は特に動揺もせず、一人でお茶を啜っている。


「ええと、説明してくれないかな?」


 このままだと話が進まないので、代表して健司が忍者戦隊シノビンジャーを名乗る彼らに対し説明を求めた。


「我々は、元々忍者なのだ」


 半蔵レッドを名乗る声の男性が事情を説明する。

 彼らは古より、その時の権力者たちから諜報や破壊工作などを命じられ、担当していた忍者と呼ばれる人たちであった。


「ところが、私たちには忍者としての仕事がなくてね。幼少の頃から厳しい鍛錬をしていたといいうのに、忍者になれなかったのは大きなショックだった」


 ところが、ではカタギの仕事に就くというのも自分たちには難しかった。

 忍者、それも優秀な忍者はヒーロー体質みたいなものなので、ならばヒーローに転職してしまえばいいと彼らは思った。

 かくして、忍者戦隊シノビンジャーは誕生したというわけだ。


「ヒーローになったんだから、顔を出せばいいのに」


 忍者をやめたのなら、別に姿を隠す必要はないのではと彩実は尋ねた。


「それはわかっているのだが、基本的に忍者とは忍ぶ生き物。幼い頃からなるべく人に姿を見せるなと言われ、教育を受けてきたので、なかなかその癖が治らなくてな」


「戦う時も隠れているのですか?」


「そうだな。どうしても姿を見せることに抵抗があるのだ。無意識に姿を消したまま戦ってしまう。デビュー以来全戦全勝ではあるのだ」


 とても強いヒーローだが、絶対に姿は見せない。

 怪人は、姿が見えないヒーローたちに倒されてしまう。

 半分ホラーだなと、彩実は思ってしまった。


「そこは、せっかくヒーローになったのだから治しましょうよ」


「だから、今は消え癖を治そうと、とにかく戦いを沢山しているのだ。多少ギャラが安いのにも目を瞑ってな」


「「「「……」」」」


「ズズッーーー」」」


 なるほど。

 ギャラが安いから彼らを雇えたのかと、弘樹たちの視線は一斉に瞳子へと向かった。

 肝心の彼女は、我関せずとお茶を啜っている。


「そんなわけで、明日はよろしく頼む。私はリーダーの半蔵レッドだ」


「ということは、スーツも赤いのですか?」


「勿論、レッド専用の武器である忍者刀も赤いぞ」


 ただし、それを確認する術は健司たちにはなかった。

 変に疑っても時間の無駄なので、次のメンバーの情報を聞くことにする。


「才蔵ブラックだ。よろしく」


 声は半蔵レッドと違えど、やはり姿を確認できない。

 弘樹たちは、実は忍者戦隊シノビンジャーは一人しかおらず、残りは事前に録音していた声でも流しているのではと、半ば疑ってしまった。 

 なにしろ、あまりにも気配を感じられないので、自分たちを見ている五人がいるとは到底思えなかったからだ。


「我々は隠密の技に長けているからな。俺は丹波イエロー。怪力の持ち主だ」


 またもそうだが、それを確認する術は弘樹たちにはない。


「段蔵グリーン、変装の名人だ」


 四人目は、あまり喋らない人であった。

 変装の名人だと自己紹介したが、やはり確認する術は……と思ったが。


「実は、栗原司令に化けている状態だ」


「「「「なんですとぉーーー(ナンデストーーー)」」」」


 突然、瞳子がニヤリと笑いながら段蔵グリーンと同じ声で話しかけてきたので、弘樹たちは驚いてしまった。


「ちなみに、君たちが先ほど挨拶した富山の婆っちゃん。彼女にも化けていた」


 それは凄いなと四人が思うのと同時に、実際には変装したとされる姿しか見ていないので、やはり段蔵グリーンの素顔は確認できず、心のどこかでそれを疑っている自分たちがいるのも確かであったが。


「というわけでだ」


 タネ明かしも終わりということで、ここで本物の瞳子が部屋に入ってきた。

 これで瞳子は二人。

 弘樹たちは、段蔵グリーンの変装術は本物なのだと確信した。


「では、これで」


 あっという間に段蔵グリーンは姿を消し、あとには本物の瞳子だけが残った。

 姿を消した段蔵グリーンについても気配すら感じられず、弘樹たちは忍者戦隊の隠密能力にただ驚くばかりであった。


「ヒーローなのに目立たないけどね」


「見えないヒーローってのは問題だよな」


「タイナラ、クジョウデマス」


「ジョー、日本でも苦情はあると思うよ」


 戦闘能力は凄いが、他者に気配すら感じさせない戦隊ヒーロー。

 それは戦隊ヒーローとしては致命的ではないかと、彩実は思ってしまうのだ。

 なぜなら、ヒーローは目立ってナンボな面もあるからだ。


「そこをなんとか改善しようと努力しているのですが、何分、生まれた頃からずっとそういう生活を送ってきたので」


 なかなか治るものでもなく、苦労していると半蔵レッドは語った。

 どこかから。


「アスタタカエレバ、モンダイナイヨ」


「猪あたりがどう言うかだが、あいつは元々うるさいから仕方がないか」


「そうだね、現状打つ手がないのもね。なるようになるでしょう」


 弘樹たちは、深く考えるのをやめた。

 自分たちの助っ人ヒーローに問題があるのは今に始まったことではないし、彼らを呼んだのは司令である瞳子で、弘樹たちにはそれを拒否する権限もないからだ。

 文句があるなら瞳子に言え、自分たちには責任はない、というわけだ。

 

「というわけで、明日はファーマーマンとシノビンジャーによる共闘が行われるわけだ。向こうも四天王は勢揃いだろうな」


 それは盛り上がる……のかどうかはわからないが、とりあえず明日は大きな戦いがあることだけは理解した弘樹たちであった。





「また現れましたね。ファーマーマン」


「四天王筆頭のニホン鹿じゃねえか。随分と久しぶりな気がするぜ」


「私も、あなた方と戦っているだけで済む立場ではありませんので」


「ふんっ、怪人はヒーローと戦って倒すのが一番大切な仕事だろう?」


「そうでしたね。我々もこれまで遊んでいたわけではなく、あなた方を倒すために特訓などを重ねていたのですよ。四天王揃い踏みで、今日こそはファーマーマンを地獄に送ってさしあげましょう」


「残念だったな! トマレッド! 俺様の突進の餌食になるがいいわ!」


「空からの攻撃に注意するんだね」


「以前にも増した、熊譲りの怪力の前にひれ伏すがいい! ……これでいいんだよね? くーみん」


「クマ」


「なんか、乗ってきたな」


「こういうのいいですね」


「モリアガッテイキマショウ」




 翌日、これまでのマンネリを打破すべく、宇宙自然保護同盟、ファーマーマン共に気合を入れて戦いを始めようとしていた。

 打倒ファーマーマンを目指して密かに特訓を重ねた宇宙自然保護同盟の四天王と、それに負けじと放課後などに特訓を重ねてきたファーマンの三人。

 なお、特訓の時間は時給ナシなのは、零細ヒーローあるあるであった。


 お互いの意地と意地がぶつかり合おうかというその瞬間、どこからともなくあの声が聞こえてきた。

 そう、瞳子が呼んでしまった助っ人ヒーロー、忍者戦隊シノビンジャーの声が。


「ファーマーマン、今日は私たちが助っ人に入ろう! 宇宙自然保護同盟の怪人ども! 今日がお前らの最期だ! 半蔵レッド!」


「才蔵ブラック!」


「丹波イエロー!」


「段蔵グリーン!」


「千代女ピンク!」


「「「「「五人揃って、忍者戦隊シノビンジャー!」」」」」


 やはり、昨日と同じく声のみが聞こえ、助っ人ヒーロー忍者戦隊シノビンジャーの姿はどこにも見えなかった。

 同時に気配すら察知できず、そしてそれは宇宙自然保護同盟側も同じだった。


「紹介の声は聞こえたけど、肝心の助っ人ヒーローはいない。これってどういうこと?」


「気配すら感じないね、くーみん」


「クマ」


 鴨フライ・翼丸は空から、真美も声の主たちの気配をくーみんと探るが、彼らがどこにいるのかまったくわからなかった。

 声は聞こえど姿は見えずという状況に、宇宙自然保護同盟四天王の面々は困惑してしまった。


「そういえば、どうしよう」


「ヒロキ、ナニカシンパイゴトデスカ?」


「あのさ、姿が見えない連中とどうやって共闘するんだ?」


「ソウイワレルト、コマリマシタネ」


 弘樹の懸念を聞き、ジョーもその深刻さに今気がついた。

 ファーマーマンは助っ人ヒーローと共闘しなければいけないのだが、見えない味方とどう共闘すればいいのか皆目見当がつかなかったからだ。


「最悪、同士討ちになるかも」


「その心配もあるな」


 勝手に動くと彼らの行動の邪魔をしてしまうかもしれず、最悪敗北の要因となってしまうかもしれない。

 健司の懸念事項を聞いた弘樹とジョーは、その場から動けなくなってしまった。

 まさか、助っ人ヒーローが足手纏いになるとは、弘樹たちも予想できなかったのだ。


 一方、弘樹たちと一番戦っている猪マックス・新太郎は、つき合いが長いゆえに別の可能性を考えていた。

 彼は目に涙を浮かべながら、弘樹たちに対し同情の視線を向ける。


「えっーーー! どういうことだよ? 猪」


 弘樹は、目に涙を浮かべる猪マックス・新太郎を初めて見てしまったので、驚きのあまり急ぎその理由を訪ねていた。


「お前ら、無理するなよ」


「別に、無理ってことは……」


 予算不足に喘ぐファーマーマンは、敵対する悪の組織が宇宙自然保護同盟のみのため、そこまで頻繁に出動しているわけでもなかった。

 そんなに無理はしていないと、弘樹のみならず他の二人も思ったのだ。


「猪さん、どういうことです?」


「お前ら、事前に通知した助っ人ヒーローが揃えられないからって、そんな録音した声を流して、姿が見えないヒーローだとか誤魔化して。わざわざそんなことしなくても、お前らだけで戦えばいいじゃないか」


「本当に、シノビンジャーはいるんだって!」


 弘樹は、猪マックス・新太郎が忍者戦隊シノビンジャーをイマジナリーヒーローだと思っているようだという事実に気がつき、慌ててそれを否定した。

 本当に、シノビンジャーは存在するのだと。


「では聞くが、どういう連中なんだ?」


「半蔵が赤で、才蔵が黒で……」


 弘樹は、昨日半蔵たちに聞いたことをなるべく詳しく猪マックス・新太郎に説明した。

 

「戦隊ヒーローで、自ら名乗っているんだからスーツの色なんて言われてもな。スーツの特徴とか、必殺技とか、彼らの本名とかは知らないのか?」


「ええと……」


 ここで弘樹は、そういえばシノビンジャーの詳しい情報を一切知らないことに気がついた。

 昨日、司令本部に宿泊した時に聞こうと思っていたのだが、彼らは自分たちは忍者でもあるので、睡眠も食事も他人には見せないのだと、いずこかに姿を消してしまったのだ。


 今日ですら現地集合であり、弘樹はシノビンジャーの詳細な情報を知るよしもなかった。

 当然、健司とジョーも同じである。


「すまなかった」


「「「えっ(エッ)?」」」


 弘樹たちは、当然猪マックス・新太郎が頭を下げたので驚いてしまった。

 今、初めて彼のそういうところを見てしまったからだ。


「俺様が厳しく言いすぎたようだな。戦隊ヒーローなのに人数が足りないとか、スーツの色と武器がおかしいとか。他にも細かくな。まさか、架空の助っ人ヒーローが実在すると言ってしまうまで、お前たちが精神的に追い込まれてしまうとは……」


 あくまでも、自分は弘樹たちにちゃんと戦隊ヒーローをやってもらおうとしただけなのに、結果的に追い込んでしまってすまない。

 完全に猪マックス・新太郎の勘違いであったが、傍から見ていると彼が間違ったことを言っていないように思えるから不思議である。


「本当に、シノビンジャーはいるんだって!」


「ベツオンセイ、ジャナイヨ」


「彼らには特別な事情があって、それで姿を見せないだけで」


「なあ、ダイホワイト」


 猪マックス・新太郎は、まるで教え諭すように健司に話しかけた。


「お前は頭いいんだってな。ビューティー総統閣下と真美から聞いている。だからこそ、お前がトマレッドが精神的に疲れている時には手を貸すとかできなかったのか?」


「まっとうなことを言われているけど、完全な勘違いだ!」


 別に、弘樹はイマジナリーヒーローを出すほど追い込まれてもいないし、シノビンジャーを呼んだのは瞳子だと健司は言い続けた。

 とにかく、イマジナリーヒーローの誤解を解かねばと思ったのだ。


「我々は実在しないと思われているのか?」


「トマレッド、もう別音声はいいから」


「本物だって!」


 いい加減に信じてくれと、弘樹は今にも叫び出したい気持ちに襲われてしまった。


「どうも我々は疑われているようだな」


「半蔵レッド、ここは俺、才蔵ブラックに任せてくれないか?」


「わかった、才蔵に任せる」


「我々は本物の戦隊ヒーローなのだ。その証拠に、あの巨木の上を見るがいい!」


 弘樹たちが、才蔵が言った巨木の上を見ると、高い枝の部分になにか人のようなものが引っかかっていた。

 よく見るとそれは、気絶した宇宙自然保護同盟の怪人穴熊スコップ・大地であった。


「あーーーっ! 今日は戦力外ってことで置いてきた穴熊がぁーーー!」


 言うに事欠いて、同じ組織の怪人に対し戦力外は酷いと、弘樹たちは猪マックス・新太郎に非難の視線を送った。

 実際彼が、宇宙自然保護同盟最弱の怪人であるという認識に対しては、双方相違はなかったが。


「いくら事実でも、もっと言い方があるだろうが! 『永遠に出場機会がない秘密兵器』とかよ」


「お前も大概酷いわ! どこの野球部の補欠だよ!」


 お前には言われたくないと、猪マックス・新太郎は弘樹に言い返した。


「ううむ……見えないヒーローの話は事実だったのか……」


「どういうことだ? ニホン鹿」


 猪マックス・新太郎は、突然呟くようにいったニホン鹿ダッシュ・走太にどういうことなのかと尋ねた。


「先日、私は悪の組織同士の会合に出ただろう?」


「そんなこともあったな」


 悪の組織にも横の繋がりがあるケースも多く、宇宙自然保護同盟は佐城県で活動する悪の組織が結成した業界団体に加入していた。

 そこでの定時会合で、ニホン鹿ダッシュ・走太は他の悪の組織から『姿が見えない戦隊ヒーロー』の話を聞いていたのだ。


「見えない戦隊ヒーローに倒されてしまう。そんな事実を認めたくない悪の組織も多いだろうし、それでも実際に負けてしまう悪の組織もあったというわけだ。定時会合のあとの懇親会で噂話程度に聞いた話なので、そういう与太話も酒の席では出て当然という空気もあって、あまり信じていなかったのだが……」


「本当にいたってわけか」


 最初、イマジナリーヒーロー扱いしてしまい、弘樹に悪かったかなと思う猪マックス・新太郎であったが、同時に危機感も抱いていた。

 もし自分が消えるヒーローに攻撃された場合、果たして対応できるのかと……。


「姿が見えないとなると、対処が非常に難しいではないか……って! ニホン鹿ぁーーー!」


 猪マックス・新太郎がニホン鹿ダッシュ・走太からほんのわずか視線を外した直後、彼の姿は忽然と消えてしまった。

 ほんのコンマ一秒ほどの間に、素早さには定評があるニホン鹿ダッシュ・走太を連れ去ってしまう姿の見えないヒーローに対し、猪マックス・新太郎は戦慄を覚えつつあった。


「鴨、見えたか?」


「えっ? どうして上空から見張っていて気がつかなかったんだろう?」


「もしかして地中か? 鴨ぉーーー!」


 猪マックス・新太郎は、もしかするとシノビンジャーは普段地中に隠れているのではという予想を立てたのだが、またもちょっと目を離した隙に、上空で待機していた鴨フライ・翼丸までもが姿を消してしまったことに戦慄を覚えた。

 このままでは、本当にホラー映画のように全員がいなくなってしまうと。


「鴨さん、上空にいたんだよ。こんなのおかしいよ!」


「真美! 気をつけるんだ!」


「わかった! くーみんも……くーみん! どこに行ったの?」


 猪マックス・新太郎は真美にも注意を促したが、彼女が相棒のくーみんに声をかけようとしたところ、彼も忽然と姿を消してしまい、二人の間にさらに戦慄が走ることとなる。

 次は、自分の番かと。

 二人は警戒感を露にした。


「せめて倒されるところくらいは見えるようにしてよ!」


「戦隊ヒーローじゃなくて暗殺者じゃないか! 反則というか、こんな戦隊ヒーロー成立せんわ!」


 派手に戦うシーンを第三者どころか、当事者たちすら見られないなんて、そんな対決あり得るかと、猪マックス・新太郎と真美は非難の声をあげた。


「そうだよ! 第一本当に忍者戦隊シノビンジャーって実在するの? 瞳子さんが、危ない連中にやらせているんじゃないの?」


「そこに戻ったか……おい、もう姿を見せろよ」


「うーーーん、やはり決意できない。忍者の頃の癖とは怖いものだ」


「だぁーーー! お前ら強いから大丈夫だって!」


「長年の習慣とは怖い物だ。いざとなると足が動かない」


「ダメダコリャデス」


 結局今日の対戦は、宇宙自然保護同盟の怪人たちが壊滅的な被害を受けてしまったため、ファーマーマン側の勝利となった。

 だがそれと同時に、今後二度と助っ人ヒーローとしてシノビンジャーを使うのはまかりならんと、ビューティー総統こと薫子から、ファーマーマン司令瞳子に通達が届くことになる。


 忍者戦隊シノビンジャーは、デビュー以来勝率100パーセントを誇るヒーローであったが、絶対に自分たちの姿を見せない戦闘スタイルによる勝負の盛り上がらなさと、突然攫われて始末されてしまう怪人側からの苦情により、段々とその活動の場を狭めていくことになるのであった。

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