第23話 ナイトフィーバー事情

「今日の訓練はこれで終わりだ」


「そうだな。あまりやりすぎても、明日の出撃に差し支える」


「もっと鍛錬する時間がほしいものだが」


「仕方あるまい。我々には普段の仕事もあるのだから」


「そうね。できることからコツコツとよ」





 とある日の夜、日本どころか世界で一番との呼び声高い戦隊ヒーローナイトフィーバーは、かなり苛酷な戦闘訓練を終えて一息ついていた。

 現状、少なくとも日本一の戦隊ヒーローと称される彼らが、これほどまでに苛酷な訓練を続けるのには理由がある。


 それは、先日飛来した宇宙怪人との戦闘で、自分たちは手も足も出ず、さらに現地にいる新人C級ヒーローがその宇宙怪人を倒してしまったからだ。 

 さらに宇宙怪人討伐の功績は、日本ヒーロー協会上層部の意向でナイトフィーバーのものとされてしまったのだ。


 彼らとて、死ぬ気で努力し、血反吐を吐きながら苦労しつつ、日本はおろか世界でもナンバー1ヒーローだという評価を受けてきた。

 その自負とプライドは高く、いくらその新人C級ヒーローの少年があのファイナルマンの孫だとしても、功績を譲ってもらうなど心中穏やかではない、なんてものではない。


 まさかその怒りを新人C級ヒーローの少年にぶつけるわけにもいかず……というか、こうなった原因は日本ヒーロー協会上層部にあるので言えるわけがない……今できることをするしかなく、それはいつか五人であの宇宙怪人に対抗できるよう日々努力するのみであった。


 そのため、彼らは時間が空けばこうやって厳しい鍛練に励んでいたのだ。


「我々も大分強くなったと思うが、まだ足りないな」


「そうだな。彼の強さは、血筋に由来する才能と、子供の頃に受けたファイナルマンからの特訓の成果だと聞いた」


 勇人と話をしつつ、隼人はまだまだ努力しなければなと思った。

 普段は斜に構えた彼であったが、ちゃんと特訓に参加している点なども含めると、ヒーローとしては真面目な部類に入る人間なのだ。


「このまま特訓を続けるとして、俺から提案があるんだ」


「提案か? 太」


 イエローである太からの提案に、勇人は大いに興味を持った。 

 それでナイトフィーバーが強くなるのであれば、たとえ隼人あたりが反対しても受け入れるべきだと考えていたからだ。


「俺たちの特訓はこのまま続けるとして、あのファーマーマンのトマレッド。彼を高校卒業後にナイトフィーバーに入れるという案を提案したい。彼は確実にエースとなる」


「それは実は僕も考えていた」


「珍しく意見が同じだな。俺もだ」


「そうだな。彼を入れれば、ナイトフィーバーはもっと強くなる」


「そうね、検討に値する意見だわ」

 

 太の提案に、他の四人は賛成の意を示した。


「ただ、彼が加わると六人になる。六人のヒーローっておかしくないか? だからこそ、我らナイトフィーバーも含めて五名で活動しているのだから」


 つまり、もし数年後にファーマーマントマレッドが加入した場合、誰かが抜ける必要がある。

 隼人の的を得た発言は、的を得ていたからこそ彼らの間に緊迫感を生んだ。

 もし将来弘樹が加入するとして、その時に誰がナイトフィーバーを脱退するのか?


 彼らは、そのまま黙り込んでしまった。

 時おり他者に視線を送りながらなので、まるで誰が脱退すればいいか品定めしているようにも見えて、段々と彼の間に緊張感が走っていく。


「(誰が抜けるのか……僕は勇人と言う名の通り、戦隊ヒーローでは勇敢でリーダー格でもある赤を担当している。その実力も十分に兼ね備えているし、もし弘樹君が高校卒業後にナイトフィーバーに加盟するにしても、それは約三年後。まだ二十代なので引退には早い。弘樹君はかなり醒めている部分もあるから、実は赤には向かないかもしれない。青……青なら! 隼人はよく僕と衝突して、それが活動に影響することもなくはないし……いや、その程度の理由で隼人を脱退させるなんて僕はなんて狭量な! いやしかし、こう考えてはどうか? 弘樹君は勢いある新人先手として、最初に怪人にアタックする先鋒役としての青。次にパワーのある太、ベテランで彼らを的確にサポートするグリーンの和利さん。紅一点の桃子君は外せないし、弘樹君にピンクをやらせるわけにいかない。そうだな。ナイトフィーバーのリーダーとして冷静に考えた意見だ。決して隼人がウザイからとか、そういう私利私欲で出た意見ではない! 弘樹君はブルーで!)


 無意識ではあったが、勇人は隼人に視線を送ってしまった。

 それに気がついた隼人も心の中で考えを纏め始める。


「(勇人の奴、俺を脱退させる機会を狙っていやがるな! どうせ綺麗事好きの勇人のことだ。現実的な俺と意見の対立が激しいという本当の理由を隠し、今懸命に俺を脱退させるオフィシャルな理由を探しているのであろう。いいさ、俺も考えてやる。勇人が気に入らないから脱退では、俺も大人げないからな。こう言ってはなんだが、ナイトフィーバーはマンネリ気味という意見もある。その原因から、リーダーである勇人は逃れられないはずだ。では、どうすればナイトフィーバーを新しく強くリニューアルできるのか? それはリーダーの交代だ! 若く実力のある弘樹をレッドでリーダーに据えればいい。奴はすでに赤なのだから問題ない。リーダーという重責にしてもだ。ベテランの俺たちで支えれば済む話だ。となると、やはりいらないのは融通が利かないで赤しかできない勇人だな。太、和利さん、桃子は変えようがない。俺も典型的なブルーキャラなので、これも外せない。残念だな。勇人)」


 隼人は逆に、勇人を優越感溢れる笑顔を浮かべながら見つめ始めた。

 そして、イエロー太であるが……。


「(俺は黄色だ。戦隊ヒーローだとちょっと三枚目キャラ扱いで、俺も実際にそんな感じで、勇人と隼人のようにファンに大人気でファンレターが沢山きたり……俺もよくお婆さんからとかくるけど……バレンタインチョコがトラック一台分とかこないけど……去年は小さな女の子がチョコ贈ってくれたな。つたない字で『がんばってください』とか書いてあって。数は問題じゃないよな。あと、お婆ちゃんが和菓子とか贈ってくれたし……つまりだ。俺のこの黄色としての立ち位置は特殊で、新人の弘樹君に任せるのは難しいというわけだ。桃子さんのピンクも性別の壁があって無理。緑の和利さんの位置も難しい。となると、やはりリーダーか隼人だな)」


 太は、極めて冷静に理論的に結論を出したと、涼しげな表情で勇人と隼人を見つめた。

 そんな様子を観察しているのは、ナイトフィーバーの兄貴分、縁の下の力持ち的な存在である和利であった。


「(新人を入れて一人脱退させる。極めてデリケートな話題なんだがなぁ。太も、勇人も、隼人ももうちょっと配慮してくれよ。トマレッドである弘樹君がナイトフィーバーに加入するのであれば、やはり赤か……しかし、ナイトフィーバーにおいて勇人の人気は絶大なものがある。弘樹君を青に回す……しかし、考えてみたらクールキャラである隼人も勇人と同じくらい人気があるな。となると、イエロー太か? 私のポジションは経験を積まないと替えが利かないが、太のポジなら新人が移動手段である『フィーバータンク』を運転しても不思議ではない。なんなら、免許取得費用をこちらが出せば問題ないのだから。桃子ばかりは替えが利かないから、やはり太だな)」


 この中で一番年上である和利は、太に対して『ごめんな』といった感じの表情を向けた。

 ちょっとわかりにくいのと、太本人はあまり細かいことを気にしない性格なので、よくわかっていないようであったが。


 最後に、ナイトフィーバーの紅一点である桃子は余裕のある態度を見せた。

 自分の立ち位置から、まず自分が脱退させられる可能性は低いと思っていたからだ。


「(やっぱり、リーダーか隼人が交代すべきよね。キャラ被るから。もしくは、隼人のベテランへの成長に期待して和利さん? 年齢的にちょっと若いけど、ナイトフィーバーの実績を利用して日本ヒーロー協会の理事に推薦する手もあるわ。でも楽しみね。あの若くて強い弘樹君が入ってくるんだから。ここはさり気なくフォローして年上の綺麗なお姉さんキャラから、上手く交際から結婚まで行けば……私もいつまでも戦隊ヒーローの紅一点キャラで続けられるわけないし。ナイトフィーバーは実質世界ナンバー1ヒーローで実入りもいい。私もかなり貯金ができたから、あとは専業主婦でもいけるはず。子供は二人で、犬を飼って、年に一回は海外旅行に行けるくらいの生活はできる。そういえば、弘樹君には幼馴染の女がついていたわね……。でも、私はヒーローだから見かけよりも若く見られるし、あの娘よりも胸も大きいし、男性って大きな胸が好きって聞くもの。リーダーか隼人か和利さん。状況をよく見て、どちらを切るか意見の多い多数派に参加しないとね)」


 さすがは、計算高い女性ヒーロー。

 頭の中で色々と考えていた。

 なお彼女は、とても年下の男性が好きだった。


 だが、彼女は男性陣四人のもう一つの考えには気がつかなかった。


「「「「(弘樹(君)のことは別として、桃子の代わりに若いピンクを入れる手もあるな)」」」」


 それそれが、心の中でどうすれば他者からあまり悪く言われず、上手く自分の利益となるか懸命に考えているため、彼らは静かなままであった。

 いかに人格者揃いであるナイトフィーバーにおいても、本音と建て前は存在していたのだ。


 そして、最初に沈黙を解いたのはリーダーである勇人であった。


「そんな先の話をしてもな。弘樹君もまだ高校に入ったばかりだし」


「確かにな。その前に、俺たちももっと鍛えないと」


「それが一番」


「そうだな。もし彼が入ってくれたにしても、私たちが弱ければ愛想を尽かされてしまう」


「そうよ。今は自分たちが強くなるのが先ね(弘樹君に嫌われないように、ダイエットしておこう)」


 五人の結束は再び強まった。

 現在、日本はおろか世界でもナンバー1と称される戦隊ヒーローナイトフィーバー。

 表向き彼らは表向き良好な関係を築いていたが、その内面では徐々に矛盾が生じつつあった。

 暫くは影響ないと思われるが、数年後にはわからない。


 みなさん、現在ナイトフィーバーはとても仲良しですよ!

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