第22話 臨時編成ファーマーマン(生き恥)VS宇宙怪人

「聞いてくれ、少年よ。ワシは狙われているのじゃ」


「狙われている? 一体誰にです?」


「宇宙怪人にじゃ!」


「それはわかったけど、爺さん誰だよ?」




 悪夢の四つ巴決戦の翌日、今日も弘樹が司令本部に顔を出すと、そこには彩実から淹れてもらったお茶を飲む一人の老人がいた。

 しかも彼は、自分が宇宙怪人に狙われているのだと弘樹に説明する。


「どうして滅多に来ない宇宙怪人に、この爺さんが狙われてるんだ?」


「それはね、弘樹君!」


「こいつが俺たちの父である金山博士で、宇宙怪人はこいつが作ったカネヤマ粒子ジェネレーターを狙っているからだ」


 弘樹の問いに答えるように、続けて太郎太と三郎太も姿を見せた。

 今は変身前なので服を着ており、弘樹も彩実も安堵した表情を浮かべた。

 

「この爺さんがねぇ……」


 ここ数日間の諸悪の根源。

 露出狂なのかヒーローなのか怪人なのかよくわからない金山四兄弟の父で、謎のエネルギーカネヤマ粒子の発見者。

 そして、体内にカネヤマ粒子を蓄えることができる装置、カネヤマ粒子ジェネレーターを開発した張本人。

 その金山博士がなぜか、この司令本部に助けを求めてきたというわけだ。

 実の息子である太郎太と三郎太を頼ってのことだろうと思うが、正直なところ弘樹も彩実も彼らに興味を持ちたくない気持ちで一杯だった。


「生きていたんだな。金山博士って」


「弘樹君、私は父が亡くなったなんて一言も言っていないよ。学会からは追放されたけど」


 そういえば、過去の太郎太の発言を思い出してみると、金山博士が死んでいるなんて一言も言っていなかったなと思う弘樹であった。

 同時に、学会が金山博士を追放した気持ちも理解できる。

 科学の進歩と品性に相関性はないが、自分が学界にいたとしても、金山博士は追放していたであろうと。


「カネヤマ粒子は理論上、限界がないエネルギー源ということが判明している」


「でも、爺さんは学会から詐欺師扱いされて追放されたと聞いたけどな」


 弘樹は、ここであえて金山博士を疑う発言をした。

 このところ彼の息子たちのせいで酷い目に遭っているので、その意趣返しというわけだ。


「それは学会の連中が狭量なだけだ。実際、太郎太たちは活躍しておる。カネヤマ粒子は実在するのだ」


 全裸なので警察の世話になったり、女性ヒーローと女性怪人から総スカン状態の全裸マンたちであったが、戦闘力に関していえば弘樹とそう見劣りしない。

 パワーをためると実際に体が光るので、カネヤマ粒子は存在する……もしかしたらインチキかもしれないが……あるということにしようと弘樹も彩実も思った。


 早く話を進めて、一刻も早く関わりを断ちたかったからだ。


「まだ地球上では、カネヤマ粒子はカネヤマ粒子ジェネレーターを体内に埋め込まなければ利用できないが……」


 もう一つ、カネヤマ粒子を利用するためには直接肌を晒す。

 一番カネヤマ粒子を吸収できる場所が〇ンコと〇ンタマという、これを言わなければ問題だろうというものもあった。


「しかしながら、実は宇宙空間なら、直接肌を晒さなくてもカネヤマ粒子ジェネレーターを埋め込んでいれば問題なくカネヤマ粒子を利用できる」


 宇宙空間に出る機会もそうそうないので関係ないなと、弘樹と彩実は思った。

 カネヤマ粒子ジェネレーターなる怪しげな装置を体に埋め込みたくないというのが、二人の一番素直な感想であったが。


「そんなわけで、宇宙怪人がこのワシとカネヤマ粒子ジェネレーターを狙っているというわけじゃ」


 宇宙怪人の中には、真空である宇宙空間で活動可能な者もいると、弘樹は以前祖父から聞いたことがあった。

 そんな連中が、パワーアップアイテムとしてカネヤマ粒子ジェネレーターを狙っているわけだ。


「というわけで、ワシは太郎太と三郎太を頼って……二郎太と四郎太はどうした?」


「あいつらは怪人だからなぁ」


 北見山にある宇宙自然保護同盟の本部アジトじゃないのかと、弘樹は答えた。


「なんだとぉーーー! 相手は宇宙怪人! ここで仲間割れをしている場合ではない!」


「元々意見の相違があるから、仕方ないだろう」

 

 それでも、共に全裸で戦い、留置所の常連になるという生き恥を晒しながら、父親のために戦ってきたのだ。

 『いい息子たちなんじゃないの? 少なくともあんたにとっては』と思う弘樹であった。


「安心してくれ、父さん! 今、二人を呼んだから」


「それはありがたい。だが……」


 まだ懸案事項があるようで、金山博士の表情は優れなかった。


「四人でも戦力不足なのか? 親父」


「宇宙怪人は強いのでな。四人だけだと厳しいかもしれないな」


「全裸マン! ファイナルバーンスタイルでもですか?」


「丸出しマン! フルイグニッションスタイルでもか?」


 名前は大仰でも、実はただの全裸なのは言うまでもない。

 肌を晒した面積が大きい方がカネヤマ粒子の吸収効率がいいため、仕方がないと言われればそれまであったが。


「ゼンラーの、ファイナルファイティングスタイルが加わってもですか?」


「マルダシーの、最終戦闘形態でもか?」


 四人がフルパワーになればと宇宙怪人にも勝てるのではないかと、太郎太と二郎太が続けて質問するが、それも金山博士は否定してしまった。


「残念だが、今の四人ではフルパワーでも勝てない可能性が高い」


「それは本当ですか? 父さん!」


「本当でござるか? 父上」


 突然、司令本部作戦室という名の居間に、転がり込むようにゼンラー二郎太とマルダシー四郎太が入ってきた。

 相手は怪人なので弘樹は咄嗟に身構えてしまうが、彼らの後ろの瞳子がいたので、それは無駄になってしまった。


「瞳子さん、どうして怪人さんと一緒なのですか?」


「今回の宇宙怪人だが、さっきパロマ天文台でも観測されたと連絡が入ってな」


「本当に来たんですね」


 あと、パロマ天文台って凄いなって、彩実は思った。

 もっとも、職員たちは怪人よりも星の観察の方に集中したいのが本音であったが。


「短い間隔での宇宙怪人の来襲に上は大騒ぎだが、ヒーロー協会は及び腰のようだな」


「どうしてですか?」


「前回、ナイトフィーバーが負けたからだ」


 それも、一方的に宇宙怪人によって撃破されてしまった。

 もし今回もナイトフィーバーを派遣して敗れでもしたら、という不安から送り出すヒーローの選定に迷っているというわけだ。


「それなら、ヒロ君でいいんじゃあ……」


「また弘樹が宇宙怪人を倒してしまうと、さすがに今度はそれを公表せざるを得ない。すると、弘樹がファイナルマンの孫ということが判明してしまう。首筋が寒い幹部もいるからな」


 いつ、ファイナルマンに日本ヒーロー協会の幹部職を奪われてしまうか。

 気が気でないのであろうと、瞳子が解説した。


「爺ちゃん、そんなものに興味ないのに」


 弘樹の知る祖父は、名誉や役職に一切欲がない人物であった。

 そうでなければ、今も強さを求めてインドになんて修行に行かないであろう。


「お偉いさんの妄想じゃないの?」


「だろうな。それでも不安な連中は、姑息な手を思いついたわけだ。つまり、宇宙怪人を退治するヒーローをコラボにしてしまえばいいと」


 複数の合同ヒーローによる功績なら、弘樹の手柄も薄めることができるというわけだ。

 宇宙怪人の飛来まであと少し、今から他のヒーローを派遣するよりは早いと判断したようだと、瞳子が説明した。


「姑息な連中だな。まあ、いいけど」


 このところまったく戦っていないので、それでも構うまいと弘樹は思った。

 

「ヒロ君、でもコラボだから……」


「しまった! そうだった!」


 彩実の視線の先には、やる気満々な態度を隠さない四人がいた。

 自分と、金山四兄弟が合わさって宇宙怪人と対決する。

 今度はどのような悪夢が訪れるのかと、弘樹は顔を引きつらせた。


「弘樹君、臨時編成とはいえこれで五人だよ」


 はつらつとした笑顔を浮かべながら、嬉しそうに太郎太が弘樹の肩に手を置いた。


「俺はファーマーマンで、お前らはそれぞれ別だろうが」


 臨時編成とはいえ、この四人がファーマーマンに加わるのはなしだと弘樹は思った。

 というかこの四人が加わるのなら、一人のまま戦った方が遥かにマシだからだ。

 ところがそんな彼の希望を、瞳子が粉砕してしまった。


「弘樹、お前が単独で出撃することは容認できないのだ。日本ヒーロー協会がうるさいのでな」


 弘樹の祖父ファイナルマンの影響力が増大し、今のトップが幹部職を追われるかもしれない恐怖心。

 ゆえに弘樹の単独出撃は認められない。

 被害妄想の類だが、上からの命令なので仕方がないと瞳子は言う。


 そういう処世術に忠実なところは、さすが瞳子も役人というわけだ。

 同時に、こんな楽な仕事を手放せるかという、個人の欲望が丸出しでもあったのだが。


「それに、怪人が二人いる。その辺の面倒さをすぐに解決するには、ファーマーマンに臨時編入してしまう方がいい。諦めて、臨時編成ファーマーマンで戦え」


 異論は許さないと、瞳子は弘樹に宣言する。


「とほほ……臨時とはいえ、ようやくメンバーが揃ったと思ったら……」


「よろしく、弘樹君」


「よろしくお願いします」


「よろしく!」


「よろしくお願いするでござる」


「そんなぁーーー! 健司ぃーーー!……は、今日も体調不良でお休みじゃないか!」 


 今日も都合よく体調不良でお休みの親友健司に対し、弘樹は初めて殺意を覚えた。


「安心してくれ、ダイホワイト健司君以上に活躍してあげよう」


「任せてくれていいよ」


「大船に乗ったつもりでいな」


「なんだったら、このまま正式にファーマーマンになってもいいでござる」


「いえ……それはいいです……」


 やる気の欠片ない弘樹と、やる気は有り余っているその他四人。

 一見、宇宙怪人に狙われた特殊な技術を持つ博士を守るという崇高な任務ではあるが、悲惨な結末というか内容になるのは、誰が見ても容易に想像できる事態であった。





「甘いわね、逃げても無駄よ。金山博士」




 わずかなブランクののち、再び宇宙より飛来した宇宙怪人。

 その名は、レイーコβ。

 今年三十二歳になる、既婚者にして一児の母でもある。

 独身時代から類稀なる戦闘力と精神力の強さでその名を挙げ、結婚後も産休のあと仕事に戻っている。

 以前はとある星間規模の悪の組織に入っていたが、今は家族との時間を大切にするため、単発の仕事をたまに受ける生活に落ち着いていた。

 その程度の仕事量でも、やはりその業界では高名な宇宙怪人である夫の稼ぎと合わせれば、十分人並み以上の生活を送れるからだ。

 

 そんなレイーコβの今日の依頼は、これまで利用が困難であった『永久粒子』を人間のパワーアップに初めて利用することに成功した、地球の科学者金山博士の拉致であった。

 もし『永遠粒子』がその悪の組織でも利用できるようになれば、所属する宇宙怪人たちのパワーアップも容易になる。

 将来的には、全銀河系征服も夢ではないというわけだ。


 それなら自分のところの宇宙怪人で行けよと、レイーコβも思わなくもないのだが、その悪の組織の宇宙怪人で相応の実力がある者は他の仕事で忙しいらしい。

 そこで急遽、実力者であるフリーの宇宙怪人レイーコβに白羽の矢が立ったというわけだ。


「この仕事、実入りがいいからいいけど……。金山博士は……随分と山奥なのね……」


 金山博士拉致に必要な、彼の居場所に対する情報であったが、それは悪の組織側が地球にいる虫の形をした発信機を取り付けたそうで、事前に渡されている小型受信機を見れば一目瞭然であった。

 地形図も詳細に表示されており、随分な田舎のようだがそれは問題ないであろう。

 どうせすぐに終わる仕事、早く仕事を終わらせて夫と子供のいる家に帰ろうとレイーコβは思っていた。


「地球のヒーローが邪魔をするかもしれないけど、こんな銀河系の辺境にある惑星のヒーローなんて雑魚揃いのはず。問題ないわね」


 レイーコβは己の任務の成功を確信しつつ、地球を降下していく。

 目標は、日本列島にある佐城県北見村にある一軒の古民家で、ファーマーマンの司令本部がある場所でもあった。




「ここね……ローカルすぎないかしら? とにかく金山博士の確保が最優先……「待てぃ!」」




 単独での大気圏突入もものとせず、レイーコβがフワリとファーマーマン司令本部である古民家の数十メートル手前に着地した。

 ここが金山博士の家なのかと誤解しつつ……まさか、レイーコβもこんな古民家がヒーローの司令本部だとは思わなかったのだ……中にいる金山博士を強引に拉致しようと歩き始めたが、そんな彼女を止める声が聞こえた。


「何者かしら?」


「宇宙怪人め! 我々は、お前の企みになどとっくに気がついているぞ! 金山博士は攫わせない!」


「ふっ、そう……邪魔をするのね。戦隊ヒーローが。いいわ、戦う前に名乗らせてあげる」


 それは、どこのヒーローを戦う時でもルール、常識だからねと、レイーコβは余裕の表情を浮かべながらその足を止めた。


「ならば名乗らせてもらおう! トマレッド!」


 これまで、一人でレイーコβと対峙していた弘樹が名乗りをあげた。

 そしてここから悪夢が始まる。

 出番があるまで隠れていた全裸マンたちがこれから登場するからだ。

 弘樹は宇宙怪人が女性であることを知り、彼女に心の中で同情した。


「この世の悪をさらけだす! すべてを如実にさらけ出す! 覆い隠すはみなの敵! いかなる覆いも許さない! 全裸マン! ブルー」


「ゼンラー! イエロー!」


「建前ばかりの世の中で! それでもこれはというものを! 隠すことなく晒します! これを隠すは許さない! 丸出しマン! グリーン!」


「マルダシー、ピンク! 参上でござる!」


「「「「五人揃って! 豊穣戦隊ファーマーマン!」」」」」


 次々と隠れていた司令本部の屋根から飛び降り、自己紹介を始める全裸の男性たち。

 彼らは今だけ所属をファーマーマンに移し、そのため後ろに色をつけて自己紹介していた。

 それでも色付きのスーツを着るわけにいかないので、青で『全裸マン』、黄色で『ゼンラー』、緑『丸出しマン』、ピンク『マルダシー』と胸に書いてあった。

 あとは、最初からフルパワーで戦うために全裸である。

 これを戦隊ヒーローと言っていいのか?

 色々と疑問はあるが、考え出すとキリがないので話を進めることにする。


「ねえ、少しいいかしら?」


 レイーコβが、真ん中でポーズを決める弘樹に尋ねた。

 どうやら、唯一の常識枠だと思われたようだ。


「これは、あなたへの罰ゲームかなにかなの?」


 これまで数多のヒーローたちと戦ってきたレイーコβでも、一人が赤いスーツとヘルメット姿なのに、残り四人は全裸で胸の素肌にマジック書きなんて戦隊ヒーローは見たことがなかった。

 もしかして、唯一まともな格好をしている弘樹に対するイジメ? なにか罰ゲームなのかもしれないとレイーコβが思っても、不思議ではないというわけだ。


「今指摘されたら、もしかしたらそうじゃないかって思えてきた」


「そうよね……普通に考えたら」


 対戦相手である宇宙怪人から、半ば同情的な視線で見られてしまう自分。

 弘樹は、実は自分って瞳子から嫌われているんじゃないかと思い始めてしまった。


「私、宇宙怪人歴が十四年ほどあるけど、前代未聞ね」


 こんな酷い戦隊ヒーロー、今まで見たことがないと、レイーコβは強く断言した。


「そうだろうなって俺も思えるけど、これも上司の命令だから……」


「私も、以前にいた悪の組織で理不尽な命令ばかり出す嫌な上司がいたからわかるわ」


 レイーコβは思った。

 ブラックな組織は、ヒーロー側にも悪の組織側にもあるのだと。


「でもね、そういうところに所属しないってのも人生の知恵だから、あえて言わせてもらうわ。戦隊ヒーローを組むなら、仲間は選んだ方がいいわよ」


「……」


 『そんなこと、言われんでも……』と言いたい弘樹であったが、ファーマーマンに所属する選択をしたのは彼本人でもある。

 彼は、レイーコβになにも言い返せなかった。


「あんた、女なのに目を覆ったり、悲鳴をあげたりしないんだな」


 後ろの四人は全裸なのに、堂々としたレイーコβに対し弘樹は驚きを隠せなかった。


「私は妻帯者で子供もいるから。それに、それなりの宇宙怪人として活躍してきた私からすれば、敵が全裸で〇ンコ丸出しくらいで動揺しないわ。それに……」


「それになんだ?」


「粗末な代物ね。旦那と比べると……」


 既婚者であるレイーコβの正直な感想であった。


「ううっ……私は標準だ!」


「なんてはしたない女性なんだ!」


「膨張率で判断しやがれ! このアマ!」


「ここまで言われたら、もうお前は女子ではないでござる! ただの宇宙怪人でござる!」


 弘樹の後ろで四人は血の涙を流しながら、レイーコβに対し呪詛の言葉を吐いていた。

 〇ンコの大きさをバカにされ、精神的に大きなショックを受けたようだ。

 弘樹は、『なら全裸になるなよ……』と思わずにいられなかったが。


「これだから外人や宇宙人は!」


「自分や自分の国の常識を、全世界、全宇宙の常識だと思っているんだ!」


「膨張率を確認してから言え!」


「はしたないでござる!」


 激怒した四人は、一斉に彼女に攻撃を仕掛けた。

 ところが、さすがは指名多数のフリーの宇宙怪人、四人の攻撃をまるで埃でも払うかのように片手で弾き飛ばしてしまう。

 全裸マンが真後ろにいる弘樹に向かって飛ばされてきたが、彼も片腕で全裸マンをまるでハエでも振り払うかのように弾き飛ばし、彼はそのまま数メートル離れた地面に叩きつけられた。


「弘樹君、酷くないか?」


「すまん、つい。いきなりだったから、半ば防御本能的に?」


 実は弘樹が、全裸である太郎太を抱き抱えたくなかったからなのだが、それは絶対に口にしなかった。


「俺が出ようか?」

 

 そして、全裸マンたちに勝ち目がないのなら自分が戦うと声をかけた。

 ちなみに、彼らと一緒に戦うつもりはない。

 精神衛生的にも、自分の評判のためにもだ。


「いや、我ら四人で十分だよ」


「こうなれば全力で行く!」


「後悔するんだな」


「四人がフルパワーになれば、お前などイチコロでござる!」


 そう言うと、四人はレイーコβに対し横一列に並び、細かく腰を振り回し始めた。

 すると、彼らの〇ンコと〇ンタマがまるで扇風機のように高速で回転し始める。


 四人は前回よりも、圧倒的に速いスピードで回していた。

 

「どうだ! 練習により、〇ンコと〇ンタマだとわからない速度で回せるようになったぞ!」


「これで町中に出ても大丈夫だね」


「(んなわけあるか!)」


 弘樹は、心の中でゼンラーの発言を否定した。


「高速で回せるようになったことで、カネヤマ粒子の吸収スピードも上がったぞ!」


「もうすぐお前の最期でござる」


「あっそう……」


 レイーコβは、あくびをしながら四人の〇ンコ回しを見ていた。

 ヒーローが別体系に移行する時や、パワーアップまでの時間を待つのも、宇宙怪人の常識というか慣習だからであった。

 本当は彼らがあまりに酷いので、とっとと仕事を終わらせて夫と子供の元に戻りたいというのが本音であったが。


「宇宙怪人め! 我らを舐めた報いを受けてもらうぞ! これでフルパワーだ!」


 〇ンコ回しによって限界までカネヤマ粒子を吸収した四人は、全身が光り輝いていた。

 その輝きは、前回よりも強いように弘樹には感じられる。


「パワーも上がったか?」


「わかるか、弘樹には。カネヤマ粒子ジェネレーターはとても小さく、注射器で簡単に体内に入れられるんだ。さっき、親父から追加のカネヤマ粒子ジェネレーターを体内に入れてもらったのさ」


「そうなのか、丸出しマン」


 いつの間にと、弘樹は思わないでもなかったが。

 同時に『それはよかったね』程度にしか思えない彼でもあった。


「四人とも、昨日とは比較にならないほど戦闘力が上がったというわけでござる! さらに、昨日の夜密かに練習していた技もあるでござる!」


「そうなのか!」


 お前ら、意外と兄弟で仲いいし、真面目に技の練習とかするんだなと弘樹は少し感心してしまった。

 いくら兄弟とはいえ、ヒーローと怪人が一緒に技の練習をすることの是非についてはともかくとして。


「宇宙怪人! これでお前も終わりだ! 最終合体奥義!」


「カネヤマ粒子燃焼全開!」


「目標! 宇宙怪人!」


「ぶちかますでござる!」


 輝きが増した四人は、弘樹がこれまでに見たよりも圧倒的に速いスピードでレイーコβに迫った。


「なに! 急に!」


 見下していた敵の突然のパワーアップに、レイーコβは対応が遅れてしまった。

 カネヤマ粒子については依頼主である悪の組織から聞いていたが、彼女自身はその存在に疑問を抱いていたこと。

 これは、全裸マンたちの見た目のせいで余計にそう思ってしまったのもある。

 彼女がフリーの宇宙怪人で、これまでそんなに警戒しないでもヒーローたちに連勝してきた点も大きかった。


 四人の接近を許してしまったレイーコβに対し、無慈悲な合体技が炸裂する。

 マルダシーの予言通り、レイーコβが女性でも一切容赦はされなかった。

 〇ンコが小さいと言われた恨みが九十八パーセントくらい増しだからだ。


「お前の頭にそびえ立つ! チョンマゲアタック!」


 全裸マンは、カネヤマ粒子の力を用いてエビ反り体型で浮かび上がり、レイーコβの頭の上に彼の〇ンコと〇ンタマが載せられた。


「お前の股間に生えてくる! 女なのに、〇ンコあるアタック!」


 ゼンラーはレイーコβの後ろに回り込み、彼女の開いた足の隙間から〇ンコを露出して『女なのに〇ンコある!』状態を作り出した。


「あらっ、そのブレスレットいいですね……残念! 〇ンコでした!」


「同じネタでござる!」


 丸出しマンとマルダシーは、レイーコβの左右の手首の上に〇ンコと〇ンタマを、まるでブレスレットに見せかけるかのように置いた。


「酷いな……」


 完全にセクハラではないかと思わなくもないが、向こうは宇宙怪人だし、四人は彼女を女性扱いしないと断言した。

 まあ、仕方ないのかなと思わなくもない。


 どこかから、抗議が来るかもしれないけど。


「だからなに? 私がそんな攻撃で気を失うとでも思ったの?」


 ところが、全裸マンを直視すらできず、チョンマゲアタックで気絶してしまった薫子とは違って、さすがは宇宙怪人とでも言うべきか。

 レイーコβはまったく動揺していなかった。


「そんな粗末なもの。今すぐ潰して……「「「「カネヤマ粒子スパーク!」」」」


 ここで遂に、全裸マンたちの奥の手が飛び出した。

 そもそも薫子が例外で、頭の上に〇ンコを載せた程度で気絶するヒーローや怪人など存在せず、彼らの技の本命は、カネヤマ粒子を吸収しやすい〇ンコと〇ンタマから逆に電撃に変換したカネヤマ粒子を放出するのが本命だったのだから。


「ぎゃぁーーー!」


 まさかの電撃に、レイーコβは悲鳴をあげるだけでなにもできなかった。

 そして、己の油断をただ悔いるのみだ。

 電撃の威力がこれまで対戦した他のヒーローたちよりも圧倒的に強く、もはや体を動かすことすらできなかったのだから。


「こんな変態どもに負けるなんてぇーーー!」


「それはわかる」


 弘樹は、心から彼女に同情した。

 もし自分がこんな目に遭ったとしたらと、思わずにいられなかったからだ。

 

「気絶したか」


「そうみたいだね」


「俺たちの勝利だ!」


「父上、安心するでござる」


 ついに限界を迎えたレイーコβは意識を失ってその場に崩れ落ち、四人の変態たちは勝利の喜びに浸る。

 父親を宇宙怪人の驚異から守った達成感もあり、彼らは和気あいあいとお互いの健闘を称え合っていた。

 

「つうか……最初の自己紹介以外出番なかったわ……」


 完全に蚊帳の外に置かれてしまった弘樹であったが、あの四人の輪に入るのも嫌だったので、別にこのままでいいかと、半ば悟りの境地を開くのであった。


 こうして再び来襲した宇宙怪人は、臨時編成したファーマーマンによって撃退された。

 とはいえ、その戦闘内容といえば全裸の四兄弟が大活躍したの一言に尽き、トマレッド弘樹の名は日本ヒーロー協会の思惑もあってほとんど世間に知られなかった。


 宇宙怪人を倒したという功績で全裸四兄弟の名は大いに挙がったため、のちに彼らは戦績に苦しむ戦隊ヒーローなどからゲスト出演の依頼が殺到することになるが、当然町中で戦闘をおこなった時は警察に拘束される事態が多発し、『強いが、使いどころが難しい連中』という評価を受ける羽目になってしまうのであった。





「ううっ……」


「大丈夫ですか?」


「ここは……」


「ファーマーマンの司令本部です。一応……」





 全裸四兄弟に破れて意識を失っていたレイーコβが目を覚ますと、どうやら自分は布団に寝せられて介抱されていることに気がつく。

 目を開けると、視線の先には少女の安堵した顔があった。


 宇宙怪人である自分を介抱する。

 レイーコβは、この少女がとても優しいのであろうと思った。


「ファーマーマン……私が破れたヒーローの基地か……」


 周囲を確認するとただの古い民家にしか見えないが、お世話になっているのでそれは言わないことにした。


「大丈夫か?」


「君は……罰ゲームの君か」


「ああ」


 最初は自己紹介とポージングをしていたが、すぐに全裸どもによって蚊帳の外に置かれてしまった赤いヒーローの少年。

 レイーコβは、優しい少女の隣に座る少年を思い出した。


「負けたのはわかる。油断した私が悪いのだが……。それで連中は?」


「もうこの村を出たぞ。あんたが狙っていたカネヤマ博士と一緒に」


 金山博士を狙う宇宙怪人を撃破したため、彼らは状況説明のため都内にある日本ヒーロー協会へと説明に向かったのだと、弘樹はレイーコβに説明した。


「そうか……あとを追うのは難しいな」


「えっ? 追うつもりだったのか?」


 弘樹は、レイーコβのプロ根性に驚くような感心したような表情を浮かべた。


「私はフリーの宇宙怪人だが、フリーだからこそ成果を挙げなければいけない。家族がいる身でもあるから、フリーとはいえ責任を持って仕事をしないといけないのだ」


「立派ですね」


 彩実がレイーコβのプロ精神を褒めるが、彼女も悪い気はしなかった。

 介抱してもらった恩もあるが、彼女はこの少女を見ていると昔の自分を思い出さずにいられなかったからだ。


「とはいえ、ヒーロー密集地帯への単独潜入は危険なので、今回は任務失敗だな。後日、他の仕事で補わなければいけない」


 どこかの悪の組織に所属しているわけではないので、報酬は高いが任務に成功しなければ支払われないし、失敗は自分の評価を下げてしまう。

 これで一歩後退だなと、レイーコβは思ってしまった。


「あの……こういう時にどう言っていいのかわかりませんけど」


「聞こうか」


 この少女の言葉なら、どんなものでも素直に聞けそうな気がするレイーコβであった。


「この数日、あの人たちと少しだけ接してきたんですけど、正直関わらない方が幸せかなって思うんです。ヒロ君もそう思うよね?」


 レイーコβは、少女が今回の戦いで蚊帳の外に置かれた赤いヒーローのことを君つけで呼ぶのを聞いて、心が温かくなる思いであった。

 彼女の声を聞いているとわかる。

 この少女は、赤いヒーローのことが好きなのだと。

 少し立場は違ったが、自分がまだ宇宙怪人になる前、新人宇宙怪人であった夫に対する恋心と重なって見えたからだ。

 レイーコβは敗れたが、心温まる思いであった。


「そうだな」


 少女の問いに、赤いヒーロ―の少年が答えた。


「あいつらがいると、助っ人のはずなのに俺は蚊帳の外でほとんど戦えないし、あんな連中と一緒にいるとそのうち逮捕されそうだし。もう呼んでほしくないかなって」


「私もそう思うわ……」


 その後、短時間で回復したレイーコβは、彩実から北見村の特産品である大根をお土産にもらい、愛する夫と子供の元へと帰るのであった。



 無事に二度目の宇宙怪人を退けたファーマーマンであるが、今度は全裸マンたちの助けがあるとは限らない。

 頑張れ、ファーマーマン!

 戦え、ファーマーマン!


 今度は一人で戦えることを願って。

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