第12話 ファーマーマン最大のピンチ! 宇宙怪人襲来!
「やはり地球に降下するようですね」
「どこに降下するか計算できるか?」
「ええ、また日本のようです」
「あそこは、怪人もヒーローも多いからなぁ……」
アメリカにあるパロマー天文台は天文学に関わる者たちからすれば聖地に等しい存在であったが、ここにはもう一つの顔が存在した。
それは、宇宙より地球に飛来する怪人の類を最初に発見可能なため、ヒーロー業界からも重要視されていたという点であろう。
この日、パロマー天文台の職員たちは、地球に接近するとある存在をキャッチした。
宇宙空間を恐ろしい速度で進む、人型の物体。
言うまでもなく、普通の人間が宇宙船にも乗らず、宇宙服も着ずに宇宙空間を高速で移動できるはずもなく、これは数十年に一度来ると言われている地球への侵略者、俗にいう『宇宙怪人』と呼ばれるもののであった。
そんな宇宙怪人の進路を計算したパロマー天文台の職員は、その宇宙怪人が日本に降下するであろうという分析結果を導き出していた。
日本。
それは、古よりヒーローと怪人が数多の戦いを繰り広げてきた激戦地であり、だからこそ日本を目指す宇宙怪人は定期的に現れる。
実はパロマー天文台は、そういった宇宙怪人の探索任務も密かに請け負っていたのだ。
「また日本か……とはいえ、前回はかなり前だったけどな」
と話す初老の職員、彼がここに就職したばかりの頃、同じように宇宙怪人が地球に接近している様子を捉えていた。
「主任、宇宙怪人とは強いのでしょうか?」
「ああ、強い」
地球にいる並のヒーローでは歯が立たず、世界ヒーロー協会が一番強いであろうヒーローを急ぎ現場に派遣すべく非常態勢に突入するくらいなのだと、初老の職員は若い部下に説明した。
「前回は、どういうヒーローが宇宙怪人を倒したのですか?」
「それがだ。前回は戦隊ヒーローではなく、たった一人のヒーローが倒してしまったのだ」
「一人ですか?」
普通、ヒーローは三名から五名で戦うもの。
一人で活動するヒーローも一定数いるが、やはり数で不利なのか、一人のヒーローが宇宙怪人を倒した例はその一件だけだと、初老の職員は言った。
「それは凄いヒーローなのですね。それで、そのヒーローの名は?」
「唯一特例でSSランクを与えられているという、ファイナルマン。引退したとは聞かないが、このところ活躍した話も聞かないし、さすがに年も年だ。今回、指名されるとは思わないが」
「そうですよね。現役のSランクヒーローが指名されるのと違いますか?」
「SSランクは、ファイナルマンに敬意を表して与えられた名誉称号みたいなもので、Sランクが本来最高位なのさ。Sランクの五人組ヒーローに任せれば、まず宇宙怪人を相手に不覚は取らないと思う」
「Sランクですものね」
ヒーローのランクはCからSまであるが、現時点でSランクの戦隊ヒーローは世界でたった一組のみ。
彼らに任せれば、さすがの宇宙怪人もひとたまりもないであろうと若い職員は語った。
「というわけで、急ぎ日本ヒーロー協会に通報しなければな。宇宙怪人が日本のどこに降下するのか。それをなるべく詳しく教えてやれば、ヒーローを派遣してくれるはずだ」
「わかりました。ええとですね……」
特殊な電子望遠鏡で地球に降下しようとする宇宙怪人を追跡する若い職員は、ある意外な事実に気がついた。
普通、怪人は都市部で活動するケースが多い。
これは、悪事を働く対象である人間が沢山住んでいるからだ。
宇宙怪人はもっとこの傾向が顕著なのに、なぜか今回の宇宙怪人は都市部から離れた山地に降下しようとしているのだから。
「場所はわかるか?」
「日本の地名には詳しくないのですが……サジョウケンという田舎ですね。それも、さらに山の奥にある……ええと……日本語の読み方は難しいな……キタミムラ付近の山奥です」
「わかった。日本のヒーロー協会に通報しておく」
宇宙怪人の大まかな降下地点が判明し、パロマ天文台は日本ヒーロー協会へと詳細な情報を伝えた。
「あんな田舎にヒーローはいないはず。派遣されるであろうヒーローの活躍に期待しよう」
「そうですね。Sランクヒーローならきっとやってくれるはずですよ」
降下した宇宙怪人はすぐに倒されるであろうと話をする二人であったが、彼らは知らなかった。
宇宙怪人が降下した北見村には一人だがヒーローがおり、さらにそのヒーローと戦う悪の組織があることを。
そして悪の組織同士は意外と相性が悪く、Sランクヒーローが到着する前に必ずひと悶着あるであろうこともだ。
今、北見村に最大の危機が訪れようとしていた。
「瀬戸内さん、真美ちゃん、みなさん。お茶でいいですよね?」
「ええ、構いませんわ。彩実さんもあまりお気になさらず」
「私はお茶菓子があるといいな。ねえ、くーみん」
「クマ」
「真美、あまり贅沢を言うものではないぞ」
「そうそう、猪マックスさんの言うとおりだよ。僕たちは今、居候の状態なんだから。でも、お茶菓子はあったら嬉しいかな」
「お前ら、そんなことよりも、我ら宇宙自然保護同盟の本部アジトがだな……」
「今回ばかりはニホン鹿の意見に賛同しておこう。新築の本部アジトを宇宙からとはいえ、同業者に奪われるなんて我ら四天王の大失態ではないか」
「誰もあの宇宙怪人に敵わなかったんだから仕方がないよ。ねえ、くーみん」
「クマ」
「やれやれ、いつまでこの避難生活が続くかだね。彩実さん、僕にもお茶ください」
「お前ら……今、自分たちがもの凄くおかしなことをしている自覚はあるか?」
とある日の放課後、ファーマーマン司令本部基地(古い空き家を借りたもの)の一室に、宇宙自然保護同盟の面々が勢揃いしていた。
なぜこんなことになっているのかというと、今からほんの一時間ほど前、宇宙から飛来した宇宙怪人によって完成したばかりの本部アジトを奪われ、こんな田舎なので他に避難するところもなく、司令である瞳子の好意でここに厄介になっている状態であったからだ。
困った時は助け合う。
これが田舎の常識であった。
ヒーローと悪の組織に、その法則を当てはめていいのかどうかは別として。
「弘樹、心広く持て。こういう時はお互い様だ」
「なんだろう? 人間としては間違っていないと思うけど、ヒーローと悪の組織だとおかしく感じるんだけど」
「とにかくだ。この北見村に一つずつしかないヒーローと悪の組織なのだ。困った時は助け合った方がいい」
「百歩譲って助け合うにしても、ここは一応ファーマーマンの司令本部だから、機密の問題とかさぁ……」
中に入れた宇宙自然保護同盟の連中が、なにかスパイ行為を働くかもしれない。
そんな風に心配する弘樹であったが……考えてみたら、もしここを宇宙自然保護同盟の連中に探られたとして、別に困るような機密なんてないんだよな、実は、という事実に気がついてしまった。
「盗まれるようなものもないからな」
「悲しい現実ですね、瞳子さん」
「なにもかも、予算がないのが悪い」
ファーマーマンは戦隊ヒーローなのに、予算不足でバイクすら購入できないのだ。
この司令本部にロボットなんて置いてあるはずもなく、内部の書類を読んでもファーマーマンが予算不足である事実が判明するのみ。
それにファーマーマンが予算不足なのは、宇宙自然保護同盟どころか、北見村の全員が知っている事実であり、隠す意味もない。
そんなわけで瞳子は、そのまま宇宙自然保護同盟の面々を司令本部の中に入れてしまったのだ。
ただの民家なので、知り合いを家にあげたようにしか見えないが。
「(瞳子さん、みんなをあげるのはいいけど、それなら普段から掃除くらいはしてほしいな)」
宇宙怪人にアジトを追われてしまった宇宙自然保護同盟の面々を匿うのはいいとして、それならせめてその前に少しでも片づけくらいはしてほしいと願う彩実であった。
なにしろ突然の話だったので、彩実は急いで部屋を掃除する羽目になったのだから。
司令本部の清掃も彼女の仕事の内とはいえ、自分より年上で、しかも東大まで卒業した才女が片づけられない女だなんて、色々と幻滅してしまうのだ。
もしファーマーマンに機密事項があるとすれば、それは司令である瞳子が『家事が一切できない、片づけられない女である』という事実であろう。
「それにしても、雁首揃えて怪人一人に惨敗かよ」
「そうは言うがな。奴はやはり宇宙怪人だぞ」
数十年に一度現れる、レジェンドクラスの強さを誇る宇宙怪人はとても強く、四天王全員で戦ったにも関わらずまったく歯が立たなかったのだと、猪マックス・新太郎は弘樹に語った。
「トマレッド、お前だって勝てないと思うぞ」
「そんなの、やってみなきゃわからないじゃないか」
猪マックス・新太郎の言いように、弘樹は反論した。
勝負なんて水物で、実際に戦ってみなければわからないと。
「それで、いつ本部アジト奪還作戦をやるんだ?」
「今の戦力では難しいですわね。ここは怪人さんを増やして対応するしか」
「おいおい、それまでここに居据わるのかよ」
あくまでも一時的に匿っただけなのに、薫子が助っ人怪人を集めるまでここに居据わられては堪らないと、弘樹は文句を言った。
そうでなくてもここは狭いし、瞳子もちょっと放置すると部屋を散らかしてしまうからだ。
ヒーローのプライドとして、司令が片づけられない女である事実を悪の組織側に知られるわけにいかなかったのだ。
正直、とても恥ずかしいし。
「普段、瀬戸内と熊野が住んでいる家でいいじゃないか」
「弘樹さんはなにを仰るのかと思えば……私、仕事とプライベートは明確に区別するタイプですから」
「そうだよね、薫子ちゃん」
「「……」」
薫子と真美の言い分を聞いた弘樹と彩実は思った。
二人が引っ越してきてから、そこまで明確に仕事とプライベートを分けているような印象をまったく感じないと。
「とはいえ、今日はお世話になっているのですから、千堂と坪内に頼んで、ここにオヤツを運んでもらいますわ」
「オヤツ? どんなものが出るんだろう」
千堂とは、薫子の個人的な執事で、坪内はやはり彼女の個人的な料理人であった。
お金持ちである薫子の専属料理人が用意するオヤツに、彩実は期待してしまった。
きっと都会っぽい豪華なお菓子が出てくるのだと。
「坪内は、東京の有名洋菓子店でも修行をしていたこともあるのでお菓子作りも上手ですわ。特にミニケーキを作るのが得意で、今日はそれを作らせました」
「楽しみだなぁ」
「期待してくださいな」
「楽しみだね、くーみん」
「クマ」
女性陣、プラス熊のくーみんは、じきに千堂と坪内が持参するであろうミニケーキを楽しみに待っていた。
「楽しみだな」
「えっ? 瞳子さんも?」
いつも酒ばかり飲んでいる印象がある瞳子が、普通の女性と同じく甘い物を楽しみにしている。
その事実に、弘樹は驚きを隠せなかった。
酒好きなので、甘い物は苦手だと思っていたからだ。
「弘樹、私も普通の女性と同じく甘い物は好きだぞ。ただ、酒の方が好きなだけだ。あと、この村に洋菓子店なんてないだろうが」
「確かに……」
北見村において、お菓子とはそれぞれの家庭で手作りされるものであった。
しかも洋菓子などという洒落たものではなく、基本的には和菓子であり、女性陣はミニケーキを心待ちにしているわけだ。
「宇宙怪人が来ているのに、こんなんでいいのかな?」
「当然、日本ヒーロー協会としては対策を打っているぞ。東京からSランクの戦隊ヒーロー『ナイトフィーバー』が応援に来るからな」
「Sランクかぁ。強いんだろうな」
「まあ、強いな」
都内でも怪人として活動経験がある猪マックス・新太郎は、ナイトフィーバーのことを知っていた。
「戦った経験があるのか?」
「まさか、俺様もそこそこ実績がある怪人だが、現在、日本のトップSランクヒーローであるナイトフィーバーとなんて戦えないさ」
どのヒーローと怪人が戦うのかは、ランクに依存している。
Sランクヒーローであるナイトフィーバーと戦えるのは、最低でもAランク怪人でなければ戦わせてもらえないのだと、猪マックス・新太郎は弘樹に説明した。
「面倒なのな」
「俺様ももうすぐAランクの受験が可能になるが、現状がBランクだからな。戦わせてもらえないのさ。俺様の先輩でもの凄く強いAランク怪人がいるが、軽く一蹴されてしまったな」
ナイトフィーバーは伊達にSランクヒーローではないのだと、猪マックス・新太郎は説明を続けた。
「そいつらが来れば大丈夫そうだな」
「だろうな。悪の組織としては、本部アジトを奪った宇宙怪人の始末をヒーローに任せるのもどうかと思うが……」
「猪さん、私が総統に就任したばかりの新しい宇宙自然保護同盟はまだ新しい組織なのです。世界征服のためには、時には辛抱も必要ですわ」
「それもそうですね、ビューティー総統閣下」
「……」
確かに間違ってはいないのだが、悪の組織には全然似合わないなと、弘樹は思ってしまった。
慎重で長期的な視野に立つ悪の組織ってどうなんだろうと思ってしまうのだ。
「そういうわけで、S級であるナイトフィーバーが来るわけだが、宇宙自然保護同盟の面々と顔を合わせるのもどうかという話でな。宇宙怪人よりも先に戦わせるわけにもいかない。下手にナイトフィーバーが消耗して宇宙怪人に負けでもしたら本末転倒だ。そこで、彼らにはここで待機してもらうことになったのだ」
「ナイトフィーバーは、この司令本部に来ないのかな?」
「彩実、向こうはSランクヒーローだからな。こんなボロいところにはあがらないだろう」
「瞳子さん、一応ここは司令本部なんですけど……」
ぶっちゃけすぎだと、彩実は瞳子に意見してしまった。
「彼らに相応しい場所とは言えないのでな。ほら、来たぞ」
司令本部という古民家の外から、かなり大きなエンジン音と振動が響いてきた。
瞳子、弘樹、彩実が外を確認すると、かなり大型のトレーラー……ではなく、ナイトフィーバーが操るロボット『フィーバーロボ』の両足部分になる、主に黄色で着色された『フィーバータンク』が司令本部の前に止まった。
そして運転席から、筋肉の鎧で包まれたかのような大男が姿を降りてくる。
「ファーマーマンの方々ですか? 俺はフィーバーイエローの大文字太(だいもんじふとし)と申します。今日はよろしくお願いします」
二十代半ばに見えるまるで重量級格闘家のような逞しい体をした青年は、自らをフィーバーイエローと名乗った。
決してイケメンではないが、とても礼儀正しい青年で瞳子も彩実も彼に好印象を持った。
戦隊ヒーローではよくある、パワーが長所、三枚目系の黄色というわけだが、日本どころか世界でもトップを争うヒーローなのに、傲慢であったり威張るところがないのも素晴らしいと、二人は感じたのだ。
弘樹は、単純に彼の実力を値踏みしていた。
「こちらこそ、本当ならば我々が倒すべきなのですが、ファーマーマンは一人なので」
「相手は宇宙怪人なので、一人では難しかろうと思います。あっ、リーダーを紹介します」
太は、続けてトレーラーから降りてきた四人のメンバーを紹介した。
「彼が、ナイトフィーバーのリーダー、フィーバーレッドの昴勇人(すばるゆうと)です」
「よろしくお願いします。今日は我々にお任せください」
フィーバーレッドこと昴勇人は、イケメンなのは当然として、朗らかで明るく、とても礼儀正しい人物であった。
「例のアジトまで案内してくれるのは……」
「彼です」
瞳子は、弘樹を勇人に紹介した。
本当は宇宙自然保護同盟の本部アジトなので、怪人の誰かが案内するべきなのであろうが、やはりヒーローと怪人。
宇宙怪人との決戦の前に戦いになってはと、瞳子が弘樹を案内役の指名したのだ。
幸い弘樹は地元の人間であるし、以前攫われた彩実を救出に行ったので、本部アジトの場所をよく知っていた。
「ふーーーん、お前がね。足を引っ張るなよ、少年」
「隼人! 失礼だぞ!」
ナイトフィーバー三人目の青年は少し斜に構えた人物であり、突然弘樹に対し自分たちの足を引っ張るなよと忠告した。
それを失礼だと感じた勇人が、慌てて彼に注意する。
「(いかにも、青って感じだな)」
「(そうですね)」
隼人と言う名の青年に対し、瞳子と彩実は彼がフィーバーブルーだと予想した。
それは当たっており、勇人よりも背が高く痩せ型であるが、まるで隙がなさそうに見える青年こそ、フィーバーブルー流隼人(ながれはやと)であった。
「聞けば、まだ新人でC級ヒーローと聞く。相手は宇宙怪人だ。少しばかり荷が重いと感じたんだ」
「隼人、彼も新人とはいえヒーローなんだ。例え案内役でも覚悟はできているし、戦うのは我々だ。勝てば問題ない」
「世の中に絶対なんてないんだぜ」
フィーバーブルーこと隼人は、彼なりに新人ヒーローである弘樹に案内役なんてさせたら危険なのではないかと心配しているのだが、いつも勇人に誤解されて言い争いになるケースが多かった。
「まあまあ、彼には案内だけしてもらって、戦いになったら退いてもらえばいいじゃないか。相手は宇宙怪人だ。彼の恥にはならないさ」
四人目は、見た目も体つきも普通で、あまりヒーローには見えない人物であった。
話し方から、かなり飄々とした人物であることが想像できる。
彼は、フィーバーグリーン久保田和利(くぼたかずとし)であった。
年齢は二十七歳で、彼は対立しがちな勇人と隼人の間に上手く割って入れる、お兄さんタイプで縁の下の力持ちタイプの人物であった。
「ここで私たちが言い争っても仕方がないわ。グリーンの言うとおり、彼に案内してもらって宇宙怪人と戦いましょう」
「そうそう、ピンクの言うとおりだって」
唯一の紅一点、かなりの美人で、スタイルも抜群な彼女は、フィーバーピンクこと大原桃子(おおはらももこ)であった。
彼女は、一刻も早く宇宙怪人のいるアジトへ向かうべきだと勇人に意見したのだ。
「そうだな。我々が言い争っても仕方がない。弘樹君、今日は案内を頼むよ」
「はい、よろしくお願いします」
「では、行こうか」
「ですが、このトレーラーは使えませんよ」
宇宙怪人がとりあえずの拠点としている宇宙自然保護同盟のアジトは北見山の奥にあり、とても太が運転するトレーラー『フィーバータンク』では木々が邪魔で入れないと、弘樹は勇人に説明した。
「駄目なのか。道はないのかな?」
「狭い山道はありますけど、舗装もされていないので」
「そうか。では徒歩で?」
「いえ、農協に頼めば軽トラなら借りれるかなと」
荷台部分も利用すれば、一台でアジトに辿り着けるはずだと弘樹は言った。
ヒーローが軽トラで移動するのはどうかと思うが、トレーラーが使えない以上は仕方がないというわけだ。
「そうか。徒歩よりは楽でいいな」
「なんだか、冴えない話だな」
「隼人、格好いいとか悪いとかの問題ではないんだ。今は一秒でも早く宇宙怪人を倒すことこそが重要なのだから」
見た目などどうでもよく、今何よりも一番大切なのは宇宙怪人を一秒でも早く倒すことだ。
勇人の優等生的な発言の後、ナイトフィーバーと弘樹は農協で借りた軽トラに乗り、宇宙怪人がいるアジトへと向かうのであった。
「ふっ、ようやく来たな」
遥か宇宙より飛来し、宇宙自然保護同盟のアジトを奪い取った宇宙怪人スペースマーダー・シビビ01。
彼はアジトの一番奥の部屋、総統室に置かれた豪華な椅子に座ってその時を待っていた。
その時とは、自分を倒すためにヒーロー及び怪人が姿を見せること。
どちらでも来る者たちを順番に倒していけば、本来の目的であるあの男は必ず現れるはずだと、彼は確信していたのだ。
自分の祖父である宇宙怪人、スペースマーダー・ルキル03を倒したヒーローが姿を見せるはずだと。
スペースマーダー・シビビ01がまだ幼少の頃、祖父は自分にとって誇りであった。
彼が数多の惑星のヒーローたちを容赦なく倒し、その悪行は銀河系中に広がっていたからだ。
宇宙怪人にとって、ヒーローを倒し人から怖れられることと、自分の活動を邪魔する者は同じ怪人とて血祭にあげることは、宇宙怪人にとって大きな名誉なのだから。
ところが、三十年前に祖父はこんな銀河系の辺境で、原子密度が薄くて弱いはずのヒーローに倒されてしまう。
子供心に、スペースマーダー・シビビ01は大きなショックを受けてしまった。
それ以降懸命に努力を重ね、戦績では祖父に劣らないという評価を受けるまでに至り、彼は地球に遠征する許可を得たというわけだ。
地球に降下後、配下に加わるようにと命じた地球の悪の組織の面々はアジトを放棄して逃げてしまったが、あんな連中はいてもいなくても変わらない。
ここに来るであろう、ヒーローを倒していけばいいのだと。
そう思いながら待っていると、スペースマーダー・シビビ01は外から人の気配を感じた。
反応は複数あるようで、自分を倒しに来たヒーローであろうと予想しつつ、ようやく出番かと豪華なソファーから立ち上がり、そのままゆっくりとアジトの外に向かって歩き出す。
「お前が宇宙怪人か?」
「いかにも。地球のヒーローか」
「そうだ!」
「まあいい。先に名乗る時間をやろう」
宇宙においても、ヒーローと怪人は戦う前にお互い自己紹介をするのが決まりというか、慣例になっている。
その間に攻撃するのはタブーというわけで、スペースマーダー・シビビ01もそのルールを破るつもりはなかった。
彼は勇人たちに、先に名乗る権利を与えた。
どうせ自分が勝利するのだから、その前に名乗らせてやるくらいの感覚なのだ。
「では行くぞ! フィーバーレッド!」
「フィーバーブルー!」
「フィーバーイエロー!」
「フィーバーグリーン!」
「フィーバーピンク!」
「暗い闇夜も明るく照らす! 悪の暗さを焼き払う! 我ら五人揃って!」
「「「「「ライトニング戦隊! ナイトフィーバー!」」」」」
「おおっ! ヒーロー戦隊だ!」
ナイトフィーバーの名乗りを後ろから見ていた弘樹は思った。
やはり、戦隊ヒーローは五人いなければ格好がつかないのだと。
ただ同時に、今のファーマーマンで五人のメンバーを揃えるのは難しいだろうなとも思っていた。
「終わったか。では、始めようか?」
ナイトフィーバーが名乗る間、静かに待っていたスペースマーダー・シビビ01であったが、もう待つ必要はあるまいと、一気にナイトフィーバーと距離を詰めた。
「速い!」
まるでワープでもしたかのようなスペースマーダー・シビビ01のスピードに、勇人のみならず他の四人も驚きを隠せなかった。
「俺の故郷の惑星は、この地球とかいう星の十倍の重力がある。そんな惑星で生活していれば、低重力の地球で素早く動けても不思議ではあるまい?」
「そうだな!」
スペースマーダー・シビビ01と勇人が話をしている隙を突き、彼に蹴りを入れたのは隼人であった。
彼の上段蹴りは、そのまま吸い寄せられるようにスペースマーダー・シビビ01の側頭部にヒットした。
「隼人! そのタイミングは!」
話をしている最中に攻撃するなど、ヒーローとしてあるまじき卑怯な行為なのでは?
勇人は、隼人に対し批判的な声色をぶつけた。
「いやいや、ナイトフィーバーのリーダー君。君たちの名乗りが終わっている以上、別にこの青君の攻撃は卑怯ではないさ。残念だが、俺には効かないがね」
「隼人?」
「うっ、こいつはどうしてこんなに固いんだ?」
隼人は、スペースマーダー・シビビ01の蹴りを入れた右足を庇いながらその場に座り込んでしまった。
敵怪人のあまりの固さに、隼人の足の骨に皹が入ってしまったからだ。
「重力が常に十倍の惑星なのでね。当然、地球の住む君たちとはちょっと体の原子密度なども違っているのさ。そんなわけで、君たちの攻撃など効かないわけだ」
「そんな……」
いきなりの隼人負傷で、勇人は一気に弱気になってしまった。
ナイトフィーバーは、これまで圧倒的な強さで地球の怪人たちに勝利してきた。
これまで戦いで圧倒的に不利になったことなど一度もなく、いきなりの仲間の負傷で心が動揺してしまったのだ。
「勇人! ここで弱気は駄目だ!」
ここで、勇人の弱気をピントと見たイエロー太が自分の武器『イエローアックス』を大きく振りかぶり、そのままスペースマーダー・シビビ01の頭部に叩きつけた。
これまで幾人もの怪人や戦闘員を倒してきた、怪力を誇るイエロー必殺の一撃だ。
さすがにこれを食らってノーダメージはあり得まいと思う太であったが、その直後、彼も絶望の淵に追いやられることになる。
なぜならスペースマーダー・シビビ01は、太の渾身の一撃を親指と人差し指の二本だけでイエローアックスの刃をつまんで防いでいたからだ。
「二本の指のみで防ぐだと?」
「見た目は黄色君の方が大きく、力もありそうに見えるからね。驚くもの無理はないが、これが現実なのだよ」
とスペースマーダー・シビビ01が言い終わるのと同時に、太の鳩尾に彼のパンチが入り、その一撃で彼は戦闘不能になった。
「青君と黄色君はもう戦えないかな。五人でも勝てないのに三人か。まさか逃げるわけにもいかず、ヒーローとは因果な商売だ。可哀想なので、せめて短時間で終わらせてあげよう」
祖父の仇であるヒーローが来るまでに沢山のヒーローを倒さなければならず、あまり時間をかけるのもどうかと思うからと、スペースマーダー・シビビ01は一気に力を開放して勇人たちに襲いかかる。
すでに心が折れていた勇人たちに、それを防ぐ術は残されていなかった。
「これが、現時点でほぼ世界ナンバーワンヒーローなのか。無理に急いで倒さなくてもよかったかな?」
「畜生……」
「辛うじて君は動けるようにしてあるから、とっとと逃げ帰って私の強さを大いに宣伝してくれたまえ。そうすれば、我が祖父の仇もここに来るだろうからな」
わずか数分の戦闘で、ナイトフィーバーは全員が戦闘不能にされた。
瞬殺されても不思議ではないくらいの実力差であったが、スペースマーダー・シビビ01はわざと手加減をして勇人を動けるままにしていた。
このまま仲間を連れて撤退し、早く自分の祖父の仇であるヒーローを連れて来いというわけだ。
「あの……勇人さん?」
「弘樹君か……君は前に出てはいけない」
「一緒にいた少年か。彼もヒーローなのであろう? 赤君」
「彼は地元のヒーローで案内役をしてくれているだけだ。新人なのでお前とは戦えない」
S級ヒーローである自分たちでもこの様なのだ。
新人でまだCランクの弘樹では、スペースマーダー・シビビ01に殺されてしまうと、優人は親切心から早く弘樹に逃げるようにと忠告した。
そのための時間稼ぎで命を落としたとしても、弘樹がこの宇宙怪人のことを日本ヒーロー協会に報告してくれれば用事は住む。
勇人は、S級ヒーローの誇りとして撤退を潔しとしなかった。
「新人か。しかし、君は似ているな。我が祖父の仇に」
三十年前、地球に侵攻すると言って故郷を出発したスペースマーダー・シビビ01の祖父は消息を絶った。
最初は順調に地球のヒーローたちを撃破していく様子が、彼が所持していた自動戦闘記録装置から送られてきたが、最後にあるヒーローとの決戦を境に映像が送られてこなくなってしまった。
装置は破壊され、彼の祖父スペースマーダー・ルキル03は最後に戦った地球のヒーローに殺されたというのが、故郷の惑星での通説となっていた。
そして、最後の映像に映っていた地球のヒーローファイナルマンを倒すべく、スペースマーダー・シビビ01は地球に侵攻したというわけだ。
「そう、俺はファイナルマンを倒さなければならないのだ!」
「彼は……もう十年以上もヒーローとして活動していない。引退したという噂だ」
「それにしてもだよ、赤君。俺は、ジジイになったファイナルマンとやらをこの場に引きずり出して殺さなければいけないのさ」
「祖父さんをか? やめた方がいいと思うな」
「「知っているのか?」」
ここで出た弘樹の一言を聞いた勇人とスペースマーダー・シビビ01は、同時に彼に問い質してしまった。
祖父の仇であるスペースマーダー・シビビ01は当然として、勇人からしてもファイナルマンは伝説のヒーローだからだ。
新人C級ヒーローが知っているはずがないと思っていたのだから。
「三年ちょっと前までは、この村で一緒に住んでいたんだ。小学校の頃はよく鍛えられてな」
「弘樹君は、あのファイナルマンのお孫さんなのか」
「ほほう、お前と俺は同じような立場にあるというわけだな。これはいい話を聞いた」
スペースマーダー・シビビ01は、完全に意識を失っている他のメンバーとは違って、意識はあるが体がよく動かない勇人を無視し、そのまま弘樹の元に歩いていく。
ここで弘樹も倒してしまえば、さすがのファイナルマンも姿を現すであろうと思ったからだ。
「弘樹君……逃げたまえ。君の実力ではまだ……」
「逃がすと思うかね? この俺が」
せっかくのファイナルマンの親族なのだ。
半殺しにしてその辺につるしておけば、さすがのファイナルマンも顔を出すであろうと、スペースマーダー・シビビ01は考えていた。
「戦うしかないな。これは」
念のため、ちゃんと変身しておいてよかったと弘樹は思った。
相手はあのナイトフィーバーを一蹴してしまった相手だが、自分はそれなりに強いはず。
なにしろ、あの祖父との厳しい修行を生き延びてきたのだから。
などと考えながら身構えた直後、やはり弘樹にもあの速く重たい攻撃がきた。
咄嗟に両腕で体をガードするも、攻撃の強さを見誤っていた弘樹はそのまま十メートルほど後方に吹き飛ばされてしまう。
背中から地面に叩きつけられたが、ちゃんと受け身は取ったのでダメージはないはずだ。
弘樹は再び立ち上がった。
「ほほう。さすが、カエルの子はカエルだな。倒れている五人組よりも強いではないか」
「やはり血筋なのか……弘樹君」
スペースマーダー・シビビ01は、弘樹がこれだけ強いなのなら少し楽しめそうだと思った。
勇人は、弘樹の新人ヒーローとは思えない強さに驚いている。
「ただ、頑丈なだけとも言えるか。経験不足で俺に攻撃を当てられるかどうかだな。さあて、どれだけ保つかな?」
これはいい時間潰しのサンドバックができたと、スペースマーダー・シビビ01は嫌らしい笑顔を弘樹に対して向けるのであった。
「はあ……はあ……」
「弘樹君、もういい。立ち上がるな」
「外野は黙っていてくれないかな。自称ナンバーワン戦隊ヒーローのリーダーさん」
「ぐぐっ」
「俺は、俺の攻撃をこれだけ食らってまだ立ち上がる彼に話しかけているのだ。お前たちのような貧弱なヒーローとはもう口を利く理由すらないのだよ」
スペースマーダー・シビビ01が弘樹に対し最初の攻撃を加えてから十分後。
次々と強烈な攻撃を食らい続けた樹は、荒い呼吸をしながらもいまだ意識を失わず立ち続けていた。
すでにスーツは裂けてその体の一部を晒し、メットは一部が割れて弘樹の右目の部分が見えてしまっている。
勇人なら一撃で死ぬか、その前に気絶しているであろう、スペースマーダー・シビビ01からの攻撃を数百発と受けても、弘樹はいまだ倒れていなかった。
それどころか、いまだその目には精気が籠っていた。
「まだ倒れないか。ならば!」
スペースマーダー・シビビ01は、またも攻撃に転じた。
己のスピードを生かして弘樹と一気に距離を詰め、メットが壊れ、スーツが裂けて晒された部分を集中的に攻撃していく。
手数を増やし、今度こそ半殺しにしてやると、今度は今までよりも長時間連続して攻撃を続けた。
やはり経験不足が祟って弘樹はその攻撃をほとんど避けられず、またも後方に殴り飛ばされ、今度は彼の後方にあった大木の幹にその体が叩きつけられてしまった。
その衝撃で大木の幹が破裂して、弘樹はさらに後方にある大岩に叩きつけられてしまう。
大岩の表面には弘樹を中心としたハチの巣状のひび割れが発生し、その衝撃の強さは相当なものだったのであろう。
弘樹はピクリとも動かなくなってしまった。
「弘樹君!」
勇人は悲鳴に近い声をあげてしまった。
弘樹はまったく動かず、もし自分なら確実に死んでいたであろうダメージであったからだ。
「さすがにこれだけ攻撃を食らえば……もしかして死んだかな? まあ死体でも問題ないだろう。ファイナルマンの慌てふためく様が容易に想像できる」
「それはどうかな?」
「なんだと! まだ立てるのか?」
スペースマーダー・シビビ01の余裕はそこまでだった。
またも弘樹が立ち上がったことに、言いようのない恐怖心を覚えてしまったからだ。
これまで、自分の攻撃をここまで受けて立ちあがったヒーローなど一人も存在しなかったというのに。
今までに感じたことがない未知に恐怖が沸き上がりつつあるのを懸命に抑え込み、スペースマーダー・シビビ01は表面上は冷静さを保ちながら弘樹と対峙を続ける。
「やはり俺はまだ経験不足なんだな。爺さんに言われたとおり、ちゃんと修行を続けないと」
「なぜだ? なぜ動けるのだ?」
「こんなの、爺さんの修行に比べれば全然大したことねえよ。まだ三途の川も見ていないからな」
小学生の頃に弘樹が祖父から修行を受けていた頃、一日に何度も気を失い、日に一回は夢で、六文銭あれば船で向こう岸に渡してくれる川を見ていた。
それに比べれば、スペースマーダー・シビビ01の攻撃など全然大したことないと、弘樹は言い放った。
「さてと、お前もそろそろ攻撃し続けて疲れただろう? お前の弱点は、あまりに強く速いため、いつも勝負がすぐに決着してしまい、勝負が長引いた時への対処に弱い点だ」
今度はこちらからだと、弘樹はスペースマーダー・シビビ01に対し殴りかかった。
「遅い……あれ?」
いつもなら、敵からの攻撃など余裕でかわせるはずなのに、なぜか足が絡んでしまい、スペースマーダー・シビビ01はそのまま弘樹から強烈なパンチをもらってしまった。
加えて、そのパンチの重さも今までに経験したことがないレベルのものであった。
彼はふらつき、その場で地面に膝をついてしまう。
「この俺が、膝をつくとは……この低重力で、原子密度も低い惑星のヒーローが、どうしてこんなに強烈な攻撃を……」
慌てて立ち上がったが、たった一発のパンチを貰っただけで、スペースマーダー・シビビ01は眩暈と足のふらつきで立っているのがやっとの状態になってしまった。
「こんなバカなことが!」
「長時間俺を攻撃しすぎたな」
弘樹がなかなか倒れなかったのもあるが、スペースマーダー・シビビ01はペース配分も忘れて彼を殴り続けた。
調子よく攻撃が当たるので、彼は自分の体が異常に消耗しているのに気がつかなかったというわけだ。
これまで戦ったヒーローとの戦いでは問題にならなかった、スペースマーダー・シビビ01の持久力のなさという弱点が、今初めて公の場で晒されたというわけだ。
「この俺に持久力がないだと! そんなバカな! 新人Cランクヒーローに、この俺が負けるというのか?」
スペースマーダー・シビビ01の故郷でも、怪人とヒーローにはランク制度があった。
実は彼もSランク怪人であり、そんな自分がCランクヒーローに、しかも低重力下で活動する軟弱なヒーローに負けてしまうなど。
これ以上の屈辱はないと思ったのだ。
「メットは流行から外れた古臭いもの。スーツは安物。戦隊ヒーローなのに一人! しかも、お祖父さんと同レベルかそれ以上の才能を持つと言われているこの俺が、ファイナルマンではなく、その孫である若造に敗れるだと! こんなことはあり得ない!」
これまで一度もヒーローに対し苦戦したり、ましてや敗れたことがないスペースマーダー・シビビ01は現実を認められず、一人絶叫していた。
「そういえば、祖父さんが言っていたよ。ちょっと思い出した」
「フィアナルマンが? なにを言ったというのだ!」
「教えてやる。ヒーローとは、着けているメットやスーツの値段や品質。仲間の数や強さ。所持している装備が優れていればいいってものじゃないと。ましてや、誰の子供や孫かなんて、どうでもいい話だってな」
弘樹はさらに話を続ける。
「外野が勝手につけたSだのCだののランクや、何年ヒーローをやっていたかなんてことに、意味なんてないとも言っていたな」
「ガキが粋がって!」
「ヒーローとは、ただ己の心をいかに強く持つかだけで決まる。誰よりも自分がヒーローであろうと思う。そうすれば、自然と強さはついてくるものだって。普段よく、瞳子さんに新しい装備や時給アップを強請ってばかりの俺が言うセリフでもないけどな。いいかよく聞け! 俺は豊穣戦隊ファーマーマンのリーダートマレッド! この北見村の平和は俺が守るしかないんだ! 相手が宇宙怪人だろうと、神だろうと、俺はこの北見村に害を成す存在は許さない!」
そこまで言い切ると、弘樹は最後の一撃だと拳を構えた。
「お前、宇宙怪人だってな。なら、俺がお前の故郷に送ってやるぜ。トマレッドファイナル……」
「待て! 今の俺がそんな一撃を食らってしまったら!」
下手をしたら死んでしまうと、スペースマーダー・シビビ01は悲鳴に近い声をあげた。
「ビックバァーーーン」
「待て! 話し合おう! 頼むからその一撃だけは!」
「知らねえよ! パァーーーンチ!」
「そんなぁーーー! この俺様が、Cランクヒーローなんかにぃーーー!」
弘樹が繰り出した渾身の一撃を食らったスペースマーダー・シビビ01は、まるで弾丸のような速度で地球圏を離脱し、そのまま宇宙の果てへと飛ばされてしまった。
彼が無事故郷に戻れたのか、地球からは確認しようがなく、そもそもあの一撃を食らっては生きていない可能性も高い。
公式の記録では、宇宙怪人スペースマーダー・シビビ01は行方不明という扱いとなり、こうして約三十年ぶりに地球に飛来した宇宙怪人は、一人の新人C級ヒーローによって倒されたのであった。
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