第11話


 まだこの時間なら、病院にいるはずだと僕は思って、病院への道を急いだ。春香さんは午後五時にしか起きない。いくら今まで声が届かなかったからといっても、声をかけ続けないわけがない。

 まして血のつながった姉なのだから。

 市民病院に着いた頃には息が切れていた。でも立ち止まることはしなかった。

「さっき案内された病室はどこだっただろうか……」

 エントランスに入って僕は辺りを見回した。

「詩乃は……どこに……」

 そのときだった。向こうの方から、見慣れた格好の女の子が見える。詩乃だ。

 僕はまた駆けだした。

「詩乃っ!」

 呼びかけが聞こえたのか、僕の姿が見えたのかはわからない。でも、詩乃はこちらを向いた。

 勢いがつきすぎてしまったが……ええい、仕方ない!

 僕はそのまま、詩乃に抱きつく格好になった。

「え!? ちょっと!? 空君!?」

「……ごめん……ごめん、詩乃……」

 いつの間にか僕は泣き出していた。

「疑ってごめん、ひどいこといってごめん……ごめん、ごめんよ……」

 もはや支離滅裂。ただの謝罪を述べているだけで、論理もくそもあったもんじゃない。でも、それでよかった。だってそれで伝わるから、前に進めるから。

「……私もごめん」

 やがて詩乃も話し始めた。

「秘密にしててごめん、何も言わなくてごめん……。本当にごめん……」

 今度は詩乃も泣き出してしまった。全くひどい様だ。

 やがて二人とも崩れ落ちて、お互いに謝り合って、涙し合った。そして落ち着いてからお互いの顔を見合って、「ひでえ顔」と笑い合って、ここが病院のエントランスであることに気づいて恥ずかしがった。ほんとうに、せわしない瞬間だった。でもきっと、この瞬間の僕らは、心のどこか深いところでつながっていたのだと、思う。

 

 お互いに落ち着いて話をしようということで、僕らは近くの公園に出向いて座った。最初の数分は、お互いなんだか気まずくて、というか気恥ずかしくて、お互い黙ってしまった。先手をとったのは僕だった。

「ごめんね、本当に、いろんな意味で」

 詩乃は手をぶんぶんと振る。

「いや、全然、私こそごめん」

「……さっきから、お互い謝ってばかりだ」

 僕は思ったままをつぶやいた。それは独り言であったけれど、詩乃にも聞こえていたらしく、

「本当にそうね」

 と彼女は答えた。そこでまた二人して笑った。

「話したいことがある」

 そう。まだ本題は始まっていない。詩乃との話も大事だが、まだ本題ではないのだ。詩乃が笑みを消して、僕の方を見た。

「春香さんの話だ」

 こんなふうな、奇跡のような仲直りを演出してくれた人が、ただ一人幸せになれないなんてあり得ない。全く違う結末を書き足す必要がある。

 明日になったら、全部上手くいっているといいな、そう思いながら、僕は即興で思いついた計画を、詩乃に話した。

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